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広島高等裁判所 昭和52年(う)181号 判決 1978年1月24日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年六月に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右の本刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、広島高等検察庁検察官検事大迫勇壮提出、広島地方検察庁検察官検事親崎定雄作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、弁護人増田義憲作成名義の答弁書に記載されたとおりであるから、これらをここに引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

論旨第一及び第二(事実誤認及び法令適用の誤りの主張)について。

所論は要するに、被害者秋田ミヨの傷害の程度は軽微とはいえず、強盗致傷罪にいう傷害に該当するにもかかわらず、被害者の傷害の程度は極めて軽微であって、強盗致傷罪にいう傷害に該らないとして被告人の本件所為を強盗罪に問擬した原判決は、事実を誤認し、ひいて法令の解釈適用を誤ったものであるというにある。

そこで記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも加えて検討するに、《証拠省略》を総合すれば、被害者秋田ミヨは、被告人から暴行を受けたため顔面、胸部、右肘等に傷害を負ったものの別に身体が痛かったわけではなかったが、警察官から医師の診察を受けた方がよいのではないかと言われて当日早朝林外科医院に行って診察を受けたところ、顔面、胸部、右肘挫傷により全治までに約一週間を要する見込みと診断されたこと、林医師は軽い傷害で別に治療せず放っておいても治癒するとは思ったが、同女が右肘に痛みを訴えていたため、同女に打身の薬と胸部の傷に対する塗り薬と右肘の傷に対する湿布薬を投与したこと、同女が同医院に通院したのはこの一回のみであり、またこれらの傷によって別に仕事に支障は感じなかったが、右肘の傷の痛みがとれないため一週間位患部に湿布したことが認められる。してみるとその傷害の程度は幸いにして軽微であったとはいえ、被害者には傷を受けたことの自覚は十分あり、客観的にも医師の治療を必要とする程度のもので、人の健康状態を不良に変更し、その生活機能をある程度損傷したものであることは明らかであって、吾人の日常生活において一般に看過される程極めて軽微なものであるとは到底いうことができず、これが刑法上の傷害に該ることは明らかである。そして強盗致傷罪は強盗の機会に被害者に傷害を与えることによって成立するものであって、この場合の傷害を他の場合のそれと別異に解すべきものではない。それゆえ本件が強盗致傷罪に該当することは明らかである。被害者の傷害は極めて軽微であって、強盗致傷罪にいう傷害に該らないとして本件を強盗罪に問擬した原判決には事実誤認ないし法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

よって量刑不当の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条、第三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法第四〇〇条但書により当裁判所において更に自ら被告事件について判決する。

罪となるべき事実は、原判示(罪となるべき事実)の末行の「強取し」の次に、「その際前記各暴行により同女に対し加療約一週間を要する顔面、胸部、右肘挫傷の傷害を負わせ」と挿入するほか、原判示罪となるべき事実と同一であるから、これをここに引用する。

証拠の標目《省略》

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第二四〇条前段に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、犯罪の情状憫諒すべきものがあるので、同法第六六条、第七一条、第六八条第三号により酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、同法第二一条により原審における未決勾留日数中三〇日を右の本刑に算入し、原審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 野曽原秀尚 岡田勝一郎 裁判長裁判官宮脇辰雄は転任につき署名押印することができない。裁判官 野曽原秀尚)

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