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広島高等裁判所 昭和52年(く)34号 決定 1977年12月28日

主文

本件即時抗告を棄却する。

理由

本件即時抗告の趣旨及び理由は、弁護人高村是懿作成名義の「即時抗告の申立」と題する書面に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

所論は要するに、被告人に対する公職選挙法違反被告事件の審判を担当する広島地方裁判所呉支部裁判官原田三郎(以下原田裁判官という)は、被告人ほか一名に対する同法違反被疑事件につき呉簡易裁判所裁判官がした勾留、接見禁止の裁判に対して弁護人が準抗告を申立てた際、裁判長裁判官としてこれに関与し、捜査記録を仔細に検討していて予断を抱いている虞れがある。ことに同裁判官は右準抗告に対する決定の理由中において「本件は、被疑者がその所属する呉商工事業協同組合を背景にして、組織的かつ計画的に行われた犯行である。」「右組合は組織をあげて本件捜査の進展に抵抗している。」「本件犯行は必ずしも軽微な事案であるとは言えない。」などと判断を示し、本件審理手続外において既に予断を抱いていることを示している。また同裁判官は第一回公判期日において、弁護人らが右のような理由をあげて不公平な裁判をする虞れがあることを理由に回避を勧告したにもかかわらず、何ら理由を示すことなく回避を拒否する態度に出た。以上のとおり同裁判官には不公平な裁判をする虞れがある。それにもかかわらず、同裁判官には不公平な裁判をする虞れはないとして、同裁判官に対する忌避申立を却下した原決定は違法不当であるから、これを取消して同裁判官に対する忌避を認めるとの裁判を求めるというにある。

そこで本件抗告事件記録、勾留決定ならびに接見禁止等決定に対する準抗告事件記録及び本案の被告事件記録などを調査して検討するに、被告人に対する公職選挙法違反被告事件の審判を担当する原田裁判官が、所論の準抗告審において、裁判長裁判官として関与し、その決定理由中において所論のとおりの判断を示していることは明らかであるけれども、事件の審判に関与すべき裁判官でも、第一回公判期日までの勾留に関する処分について急速を要する場合又は同一の地にその処分を請求すべき他の裁判所の裁判官がない場合には、自らその処分をなし得ることは刑事訴訟規則じたいも明定しているところであり(刑事訴訟規則第一八七条参照、同規定が起訴前の勾留についても準用されることは刑事訴訟法第二〇七条の趣旨からしても明らかである。)原田裁判官は広島地方裁判所呉支部に右準抗告を審判すべき他の裁判官がいなかったため、やむを得ず合議体の一員として右準抗告審に関与したものと認められるから、これを違法ということはできない。本来起訴された事件については厳格な証明を必要とするものであって、客観的な証拠の価値判断を経て始めて結論に到達するものであり、勾留に関する処分についての審理とは性質を異にする。同裁判官を裁判長とする合議体が所論準抗告に対する決定で所論のような判断を示したとしても、それは勾留の必要性を判断するに際して言及したものであり、同裁判官が本件起訴じたいについて右準抗告の審理において得た心証に拘泥するとは到底考えられない。それゆえ同裁判官が不公平な裁判をする虞れがあるものとはいえない。更に同裁判官が弁護人らの回避の勧告に対して理由を示すことなくこれを拒否したとしても、これは同裁判官が回避すべき理由がないと考えたためであり、これによって直ちに同裁判官が右事件について不公平な裁判をする虞れがあるものということもできない。原決定が援用する判例に対する所論は、畢竟独自の見解であって採るを得ない。それゆえ同裁判官に対する忌避申立を却下した原決定は相当であり、論旨は理由がなく採るを得ない。

よって刑事訴訟法第四二六条第一項後段により本件抗告を棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮脇辰雄 裁判官 野曽原秀尚 岡田勝一郎)

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