広島高等裁判所 昭和53年(行コ)6号 判決 1980年8月28日
広島市南区松原町五番一六号
控訴人
株式会社 ナショナル会館
右代表者代表取締役
徐彩源
同所同番号
控訴人
徐彩源
控訴人ら訴訟代理人弁護士
阿左美信義
同
相良勝美
同市中区大手町四丁目一番七号
被控訴人
広島東税務署長
福永安二
右指定代理人
有吉一郎
同
三森継男
同
小川儀市
同
広光喜久蔵
同
藤井哲男
右当事者間の法人税額の更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人ら
1 原判決中、第二項以下を次のとおり変更する。
(一) 被控訴人が控訴会社に対し、昭和四二年六月二六日付でした次の各納税告知処分を取消す。
(1) 昭和三七年分の源泉徴収による所得税金四六五万三九〇〇円
(2) 昭和三八年の源泉徴収による所得税金五一八万五八〇〇円
(3) 昭和三九年の源泉徴収による所得税金七〇九万七〇〇円
(二) 被控訴人が控訴人徐に対し、昭和四二年九月一一日付でした次の各処分を取消す。
(1) 昭和三七年分所得税の総所得金額を金一一六四万三八六七円と更正した処分のうち、金一一六万七三六〇円を超える部分
(2) 昭和三八年分所得税の総所得金額を金一四五一万〇五一七円と更正した処分のうち、金二八一万七九一九円を超える部分
(3) 昭和三九年分所得税の総所得金を金一九二五万四九一五円と更正した処分のうち、金四〇四万三〇一九円を超える部分
2 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二主張
当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決該当欄に記載と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人ら
1 国税通則法七〇条一項違反について
国税通則法七〇条一項の更正処分に関する期間制限は、帳簿等の作成が義務づけられていない一般の白色申告納税者に対し、三年分以上の遡及的更正処分を行なわないことを保障することによって、納税者の法的な安定を図る目的にもとづくものと解すべきである。したがって、例外的にいわば制裁として 同条二項四号を適用する場合には、当該納税義務者がした不正行為を具体的に明らかにすべきものである。本件においてはそれがされていないから、控訴人徐に対する更正処分は同条一項による三年の期間制限内の昭和三九年度分に限定される。
2 推計課税の違法について
控訴人徐に対する更正処分及び控訴会社に対する納税告知処分は、控訴会社の帳簿外の所得につき推計方法による算出によっている。しかし、控訴会社は青色申告の承認を受けている(右承認取消処分があった場合も含む)ので、法人税法一二六条一項により義務づけられている帳簿書類以外によって所得金額を算出することは許されない。
二 被控訴人
1 前記1、2の主張は争う。
2 青色申告法人が、帳簿書類に基づかず、推計によった所得に課税されることのない保障は、青色申告に係る法人税の課税標準または欠損金額の更正の場合についてだけであり、源泉徴収すべき所得税についてまでその保障が及ぶものではない(最高裁昭和五一年一〇月一日判決・訟務月報二二巻一〇号一〇九頁)。
第三証拠関係
次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一であるから、これを引用する。
一 控訴人ら
1 甲第三五ないし第三八号証を提出。当審における証人岡本弘志の証言及び控訴会社代表者徐彩源本人尋問の結果を援用。
2 乙第三三、第三四号証の成立を認め、第三五、第三六号証の成立は不知。
二 被控訴人
1 乙第三三ないし第三六号証を提出。
2 甲第三六号証のうち、公証人役場作成名義部分の成立は認めるが、その余の部分及びその余の前記甲号証の成立は不知。
理由
一 控訴会社がぱちんこ遊戯業等を営む会社であり、控訴人徐が控訴会社の代表取締役であること、控訴人徐が昭和三七年度ないし昭和三九年度の各所得を、法定期間内に、原判決添付の別表一五ないし一七の「申告金額」欄のとおり申告したところ、被控訴人はこれを昭和四二年九月一一日付で右各表の「更正後の金額」欄のとおりに更正し、控訴会社に対し、同年六月二二日付で受給者控訴人徐の右各年度の源泉所得税として別表一四記載の金額により同表の「差引追徴税額」欄の金額による各納税告知処分を行ったことは当事者間に争いがない。
二 先ず、控訴人徐に対する所得税更正処分の算定について検討する。
1 本件各年度の所得については給与所得中の賞与分だけが一致しない点である。
2 そこで、先ず、認定賞与について判断する。
(一) 成立に争いのない乙第三、第四号証、原審証人石田金之助の証言とこれによって成立の認められる乙第五号証の二、三、原審証人藤原知義の証言とこれによって成立の認められる乙第六号証の二ないし一五、第八号証の二ないし五、第九号証の二ないし六、原審証人山田義彦の証言を総合すると、広島東税務署の担当職員が控訴会社の昭和三六年度分ないし昭和三八年度分の所得額を調査したところ、控訴会社は日々の売上高、出金高等を示す原始記録であるぱちんこ機械の玉の増減を記録するメモを昭和三六年一二月九日から昭和三七年一月一八日までの分だけ保存していたにすぎず、またこれによって算出される差益金額と控訴会社の帳簿上の差益金額を比較すると、前者の方が一四二万五九五八円多額となることから、担当職員は控訴会社の帳簿には多額の売上除外があると考え、控訴会社の取引金融機関である愛媛相互銀行広島支店、福徳相互銀行広島支店、広島市信用金庫本店について調査したところ、控訴会社名義で、別表一(これを引用する。)のとおり極めて多額の定期積金等が存在しているが、これについて控訴会社の帳簿には記載されていないことも判明し、控訴会社の帳簿は信用し難いものであるとして、控訴会社の所得額は推計方法によるべきものと判断したことが認められる。
(二) (一)認定の事実からする担当職員の判断は相当と認められるところ、被控訴人主張の被控訴人のとった推計方法及びこれが合理性を有していること、右推計方法によると控訴会社の売上除外は別表一〇記載のとおり(昭和三六年度分は一四〇七万一二三四円、昭和三七年度分は一四八二万五〇五一円、昭和三八年度分は八八七万三〇二六円である)となることについては、当裁判所の判断も、原判決二三枚目裏五行から七行の「によると、」まで、二四枚目裏三行の「原告会社」から二六枚目裏八行の「いうべきであり、」まで、二七枚目裏二行から末行までを、次のとおり訂正、付加したものと同一であるから、これを引用する。
(1) 前記「原告会社」の前に「広島国税局協議団は」を加えて前記「によると、」に続け、前記「いうべきであり、」を「いうべきである。」と改める。
(2) 二五枚目表二行の「但し、」を「その根拠は別表六ないし八によるもので、」と、四行の「同表」を「別表六、九」と、二六枚目表一行の「これらの計算の詳細は別表六ないし一〇」を「これによる売上除外額は別表一〇」と改め、同二行の「六、九」を削除する。
(三) 前記藤原、石田両証人の各証言と弁論の全趣旨によると、控訴会社には右売上除外額に相応する資産が留保されていないことが認められる。
(四) 前記(一)の掲記の証拠に前記藤原証言によって成立の認められる乙第七号証の二ないし一九、第一〇号証の二ないし四を総合すると、控訴人徐名義で東邦相互銀行広島支店、福徳相互銀行広島支店、広島市信用金庫本店に、浜野竜三(控訴人徐の日本名)名義で福徳相互銀行広島支店に、浜野尚子(控訴人徐の妻)名義で東邦相互銀行広島支店、朝銀広島信用組合に、浜野生己(控訴人徐の妻の妹婿)名義で東邦相互銀行広島支店に別表二ないし五記載のとおり(但し、表四のNo.1の「計」欄中、「二五六、六〇〇」とあるのを「二五六、五〇〇」と訂正し、これを引用する)、多額の定期積金等があり、原審における控訴人徐本人、当審における控訴会社代表者徐本人の各尋問の結果(以下、代表者分についても控訴人徐本人として記載する)によると、これらはすべて控訴人徐が前記各名義を使用したものであることが認められるが、これら積金は、控訴人徐の前記一の申告による所得額では、到底することができないものである。
(五) 右控訴人徐本人尋問の結果によると、控訴会社は代表者である控訴人徐の個人的色彩の強い法人であって、同控訴人によって資金繰りや経営等一切が掌握されており、また同控訴人は、控訴会社の帳簿に計上されてない控訴会社の金員を自己個人の用途に流用していたことが認められる。
(六) 以上(一)ないし(五)の事実を総合すると、(二)の売上除外金は控訴会社が控訴人徐に対して賞与として支給したものと推認することができ、この認定を覆えすに足りる証拠はない。
3 次に、利益処分による賞与について判断する。
成立に争いのない甲第一八号証と前記藤原証言に弁論の全趣旨を総合すると、控訴会社から控訴人徐に対して、別表一五ないし一七に記載の利益処分による賞与(昭和三七年度分七四万三五〇〇円、昭和三八年度分六七万三〇〇〇円、昭和三九年度分七九万四〇〇〇円である)が支給された事実を認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠はない。
4 そうすると、控訴人徐の総所得金額は、昭和三七年度分が一五九八万二〇九四円、昭和三八年度分が一八三一万五九七〇円、昭和三九年度分が一三七七万〇〇四五円となる。
従って、控訴人徐に対する前記一の所得税更正処分における総所得金額は、昭和三七年度分及び昭和三八年度分については右総所得金額以内であるが、昭和三九年度分は前記金額を超過している。
三 次に、控訴会社に対する納税告知処分の算定について検討する。
1 別表一四に記載の給与総額のうち、「その他の給与額(確定申告による額)」欄の給与については当事者間に争いがなく、他の給与として利益処分による賞与が該当欄の金額だけあったことは前記二、3の認定賞与として、昭和三七年度は一四〇七万一二三四円、昭和三八年度分は一四八万五〇五一円、昭和三九年度分は八八七万三〇二六円が支給されたことは前記二、2のとおりである。
2 そうすると、控訴会社が控訴人徐に支給した給与総額は右1の合計である昭和三七年度分が一五八一万四七三四円、昭和三八年度分が一六六一万六〇五一円、昭和三九年度分が一〇八六万二五二六円となる。
従って、被控訴人が控訴会社に対してなした本件納税告知処分の算定は昭和三七年度分及び昭和三八年度分については、いずれも前記額を下廻るものであるが、昭和三九年度分は前記額を超過している。
3 昭和三七年度、三八年度分の控訴人徐に対する所得税についての控除額及び右両年度分の源泉所得税既納付税額については当事者間に争いがなく(別表一五、一六及び別表一四の関係部分、前者の内訳は成立に争いない甲第四号証の一ないし三により認められる)、右事実と関係法条の適用の結果によると右両年度分の源泉所得税追徴税額が別表一四の該当欄の数額を上廻ることは算数上明白である。
四 控訴人らの所得額算定外の主張について
1 被控訴人は控訴会社に対し、昭和四二年六月二日付で本件青申承認取消処分をしたうえ、同月二六日付で昭和三六年度ないし昭和三八年度分の法人税更正処分をしたが、右各処分はいずれも昭和四九年七月二六日に被控訴人によって取消されたことは当事者間に争いがないところ、控訴人らは、前記控訴人徐に対する所得税更正処分及び控訴会社に対する納税告知処分は、いずれも前記争いのない取消前の各処分を前提としてなされたものであるから、右前提となる処分が取消された以上、無効または取消されるべきである旨主張する。
しかし、右主張の採用できないことは、原判決二八枚表六行の「原告会社」から二九枚目裏九行までのとおりであるから、これを引用する。
2 次に、控訴人らは、控訴会社について青色申告承認の効力が認められる以上、前記推計によって賞与を認定することは許されない旨主張するが、青色申告の承認を受けている法人が、帳簿書類の記載に基づかないで推計によって課税をされることのない保障を受けるのは、右法人の青色申告書にかかる法人税の課税標準または欠損金額の更正の場合についてであり(法人税法一三〇条、一三一条)、源泉徴収すべき所得税についてまでその保障が及ぶものではないから、右主張も採用できない。
3 次に、控訴人らは、国税通則法七〇条一項違反を主張するが、右主張の採用できないことは、次に付加、訂正するほか、原判決三〇枚目表一一行の「原告徐」から三一枚目表六行までのとおりであるから、これを引用する。
(一) 右引用部分の冒頭に、「国税通則法七〇条二項四号にいう「偽りその他不正の行為」のうちには、単なる所得不申告は含まれないが、所得金額をことさらに過少に記載した内容虚偽の所得税確定申告書を税務署長に提出する行為は、右に該当するものと解するのが相当である。本件においては、控訴人徐は前記認定の賞与の支給を受けているにもかかわらず、これを記載しないで過少に申告したものであるから、」を加える。
(二) 原判決三〇枚目表末行の「不正な行為」を、「右の偽りその他不正な行為」と改める。
4 次に、控訴人らは、他事考慮による違法(処分の動機の違法)を主張するが、前掲藤原、石田両証人証言によると、本件各処分は前記過少申告の是正を目的としてなされたものであることが認められる。原審及び当審における控訴人徐の供述中には、控訴人徐が北朝鮮人民共和国を支持する朝鮮総連の主要メンバーであり、そのため従前種々の不当な扱いを受けた旨の部分があるが、仮にそのような事実があったとしても、そのことによって前記認定を覆えすことはできない。
五 以上の次第で、本件更正処分及び納税告知処分のうち昭和三九年度の前記超過部分に関するものは違法で取消を免れないが、その余の処分に関する請求は右処分による総所得金額ないしは追徴税額を下廻る額を前提とするものであるから理由がないものとして棄却すべきところ、原判決はこれと同旨であるので、本件控訴は理由がない。
よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 辻川利正 裁判官 梶本俊明 裁判官 山嵜正清)