広島高等裁判所 昭和54年(う)85号 判決 1980年2月28日
本店の所在地
広島県呉市朝日町八番一七号
法人の名称
東進商事株式会社
代表清算人の住居・氏名
広島県呉市阿賀中央六丁目八番一六号
村本勇
本籍
広島県呉市阿賀中央六丁目三、八三三番地
住居
同県安芸郡坂町三、三四三番地の一一
歯科技工士
村本宏
昭和七年一月一〇日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和五四年五月一七日広島地方裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は検察官大迫勇壮出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人東進商事株式会社を罰金八〇〇万円に、被告人村本宏を判示第一につき懲役五月に、判示第二につき懲役五月に、各処する。
被告人村本宏に対し、この裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予する。
原審の訴訟費用は、被告人東進商事株式会社と被告人村本宏の平等負担とする。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人岡秀明作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は広島高等検察庁検察官検事大迫勇壮作成の答弁書記録のとおりであるから、ここにこれらを引用する。
これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。
控訴趣意第一点について
論旨は要するに、原判決の事実誤認を主張し、原判決は一、その判示第一につき、被告人村本宏の弁解にかかわらず、被告人東進商事株式会社(以下単に被告会社という)の仕入代金公表計七、五〇〇万円のうち、二、八〇〇万円を架空仕入であると認定したのは誤りである、原審において証人久保健太は被告人村本宏の弁解にそう供述をしなかったが、それは同証人が真実を供述すれば自己が預り金を着服した事実が発覚するとか、紀和水産株式会社の脱税の事実を認める結果となるとかのため、虚偽の供述をしたものであり、被告人村本宏の弁解の方がより信用できるものである。二、原判示第二については、大東希見に対する山林売却代金三、〇〇〇万円を被告会社の益金と認定しているが、右大東は実刑の判決を受けながら逃走中のいわゆる遁刑者であって、右売却代金は取立不能であるから、貸倒損失とみるべきであり、これを認めなかったのは誤りである、というにある。
そこで記録を精査し、当審における事実調の結果をも加えて所論の各点につき検討したが、原判決中所論に関する部分につき、所論の事実誤認は認められず、原審の判断に誤りはなかった。
ところで、原判決は、原判示第一、第二の各法人税法違反の事実について、証拠の標目を掲げるのみで、各事業年度の真実の所得金額、法人税額算出の根拠を、各勘定科目毎に明らかにするまでの説明をしていない(もっとも、そのために原判決に理由不備の違法があるとはいえないと解する)けれども、公訴事実のとおり認定しているところから判断すると、検察官の冒頭陳述要旨別紙の「修正損益計算書」及び「ほ脱所得の内容」のとおり各勘定科目毎に金額を明らかにして真実の所得額を積算して確定し、さらに「脱税額計算書」のとおり、脱税額を認定したものと理解され、弁護人の控訴趣意もまた右のような原審の算定方法を当然の前提として論旨を展開しているので、当裁判所も説明の便宣上右各書面に即しながら判断を進めることとする。
所論はまず原判示第一につき、被告会社が京都中央ガレージ株式会社から購入した神戸市兵庫区有馬町字ウツギ谷一、二九五の三所在の宅地三六三坪の仕入代金は、被告会社が公表計上しているとおり七、五〇〇万円であるから、そのうちの二、八〇〇万円につき、これを架空仕入であると認定した(逋脱所得の内容A3<3>関係、記録五五丁以下)のは、事実を誤認していると主張する。しかしながら、被告会社と京都中央ガレージ株式会社との間の右土地の売買契約代金が四、五〇〇万円であったことは、その旨の土地売買契約書(当庁昭和五四年押第一一号の五〇、土地買入契約証書綴中にあり)の存在、右契約書に仲介人として記名押印している新富士建設株式会社不動産部取引主任松森明の大蔵事務官に対する質問てん末書(記録一九一四丁)、被告人村本宏の昭和四九年一一月二一日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二二七八丁)、昭和五〇年七月一九日付検察官に対する供述調書(記録二五〇四丁)によって明らかであり、右代金のうち手付金八〇〇万円を呉農業協同組合提出の保証小切手で支払ったとの点(被告人村本宏の前記質問てん末書、供述調書参照)は、同組合組合長浅沼義人作成の証明書添付書類中に右小切手控(写)が存すること(記録八二九丁)、残代金三、七〇〇万円を昭和四七年五月一日福知山信用金庫本店に送金して支払ったとの点(被告人村本宏の前記質問てん末書参照)は、押収にかかる昭和四七年五月分領収書綴(前同押号の四七)中に、これに相応する住友銀行呉支店作成の当座勘定受入副報告書が存することによって裏付けられており、右残代金支払直後の同年五月四日所有権移転登記がなされたことが大蔵事務官松田憲磨作成の調査事績報告書中の記載(記録一七四五丁)によってうかがわれる(なお、当審において取調べた右土地の登記簿謄本参照)ことからすれば、右三、七〇〇万円の送金支払によって代金が完済されたと判断されるのである。もっとも、前出の土地買入契約証書綴中には、前記土地を紀和水産株式会社が京都中央ガレージ株式会社から代金七、五〇〇万円で買受ける旨の土地売買契約書が存する。しかし、右契約書は、紀和水産株式会社の久保健太、瀬川利治の両名が、右土地を被告会社に転売して利を得るため、取引価格をことさら高額にしたものであることが瀬川利治及び松森明の大蔵事務官に対する各質問てん末書(記録一八八六丁、一九一四丁)によって明白であるから、右契約書が存することをもって被告会社の買入価格が七、五〇〇万円であったと推断するのは相当でないというべきである。また、被告人村本宏の昭和四九年五年二二日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二一九五丁)には、「正当な法人税申告をしている」旨、公表帳簿の記載が正しいことを肯定する供述があり、また、原審における被告人村本宏の供述中にも、被告式会が七、五〇〇万円で買入れた旨の供述がある(記録二六六二丁以下、二六七一丁裏以下)けれども、前者の供述については、翌日である昭和四九年五月二三日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二二一二丁)において直ちに取り消したうえ、以後四、五〇〇万円で買入れた旨を一貫して供述していたことが記録上明白であるし、後者の供述については、その後の原審公判廷において、「思い違いをしているかも知れない」旨供述している(記録二八〇五丁)のであるから、被告人村本宏の供述中、所論にそう部分は到底たやすく信用することができないのであり、前記本件土地の仕入価格は四、五〇〇万円であると認定するのが相当であって、これと同旨の原判決の認定に誤りはない。そして、右土地仕入代金とは別に、被告人村本宏は瀬川利治に対し昭和四六年一一月末ごろ、二回にわたり各二〇〇万円を送金して支払っていることが瀬川利治の昭和五〇年七月二三日付検察官に対する供述調書(記録一八九九丁)、昭和四九年五月二三日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録一八八六丁)、被告人村本宏の昭和五〇年七月一九日付検察官に対する供述調書(記録二五〇四丁)、昭和四九年一一月二一日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二二七八丁)、大蔵事務官今村四郎作成の昭和四九年一〇月一一日付調査事績報告書(記録一九三九丁)によって明白であるところ、これら四〇〇万円は、右各証拠によると、本件宅地を取得するための必要経費であると認められるが、うち二〇〇万円(昭和四六年一一月三〇日送金分)については、押収の昭和四六年一一月分振替伝票綴(前同押号の二四)、総勘定元帳(前同押号の四)に計上して処理されていることが公表されているので、残り二〇〇万円(昭和四六年一一月二〇日送金分)を損金として認容すべきものと判断されるから、結局本件宅地の仕入に伴う架空計上額は二、八〇〇万円であると認定され、これと同一の判断をしている原判決の認定は、正当であって支持できるものである。ところで被告人村本宏は、昭和四九年一一月二一日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二二七八丁)において、本件宅地を買入れる旨口頭契約をした際、被告会社振出の書面一、三七〇万円及び額面一、二〇〇万円の約束手形二通を、代金支払のため振出し、久保健太に交付したが、そのうち一、三七〇万円の約束手形は、その後、計一、一二五万円を支払って回収したと供述し、昭和五〇年七月一九日付検察官に対する供述調書(記録二五〇四丁)、原審第二八回公判期日における供述(記録二八〇一丁)中でも同旨の供述をしており、右回収のための資金は架空の外注費を計上することによって捻出したという(記録二五一六丁裏)(逋脱所得の内容A、3、<3>及び4、<1>関係、記録五九丁、六一丁)。また、原審第一七回公判期日における供述(記録二七三二丁)中では、一、一二五万円の外注費のうち五五〇万円は現実に物品を仕入れており、五七五万円は久保健太に貸付けたものであるという。しかし、右の被告人村本宏の各供述は、前後矛盾するものであること、原審第二八回公判期日の供述は裁判官の質問を受けて次第にあいまいな、不確実な供述に変っていること(記録二八〇六丁以下)、久保健太とともに右宅地を被告会社に売り渡す交渉をした瀬川利治は、昭和四九年五月二三日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録一八八六丁)において、右の額面一、三七〇万円の手形の交付を受けた事実について全く触れておらずまた昭和五〇年七月二三日付検察官に対する供述調書(記録一八九九丁)においては右手形の交付を受けた事実を明確に否定しており、しかも右各調書において、紀和水産株式会社代表取締役瀬川利治名義の領収証二通(額面合計一、一二五万円の手形二通を受領した旨のもの、記録一九一二丁、一九一三丁)は架空のものであると述べていること、被告人村本宏自身も大蔵事務官に対する昭和四九年一一月一四日付(記録二二三一丁)、昭和五〇年四月一九日付(記録二四四五丁)各質問てん末書及び同年四月二一日付上申書(記録二四五八丁)において、紀和水産株式会社からの架空仕入を計上しそれによって捻出した金員は朴応秀に対する貸付金の一部に充てたと述べていることを総合すると、本件宅地を購入するため振出していた約束手形を回収するのに一、一二五万円を要したとの被告人村本宏の供述は、到底信用することができず、紀和水産株式会社から同額の仕入があった旨架空の外注費を計上し、これによって朴応秀に対する貸付金を捻出したと認めるのが相当であるから、右金一、一二五万円は本件宅地を取得するために要した経費であると認定することはできない。所論はさらに、原審における証人久保健太の証言の信用性を争うが、同人の証言は漠然としたあいまいな供述に終始しているけれども、必ずしも所論のように被告人村本宏の原審公判廷における弁解に反する供述をしているとも思われず、要するに全体として信用性の乏しい証言であるというほかはないと判断されるのであって、その故に原判決も証拠として採用していないのである。右証人がどうであるにしろ、被告人村本宏の原審公判廷の供述中、所論にそう部分がたやすく信用できないことは既に述べたとおりである。原判決に所論の事実誤認はなく論旨は理由がない。
次に所論は、原判示第二につき、大東希見に売却した山林の代金三、〇〇〇万円については、同人が実刑の判決を受けて行方を隠しているため取立てることができないから、貸倒金として損金に認定さるべく、したがって右代金を益金に計上しないことも許されるところ、原判決はこれを認めなかった(逋脱所得の内容B、1、<3>関係、記録七〇丁)のは誤りである、と主張する。
被告人村本宏は、昭和四七年一〇月一三日被告会社所有にかかる広島県豊田郡安浦町大字安登字立石八九九番の一ほか七筆の山林を大東希見に代金三、〇〇〇万円で売り渡し、そのころその旨の所有権移転登記をしながら原判示第二の事業年度の売上中に計上しなかったことは、吉田吉次の昭和四九年五月二一日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録一九六三丁)、村本義明の昭和五〇年七月二二日付検察官に対する供述調書(記録一九六四丁)、被告人村本宏の同年七月二四日付検察官に対する供述調書(記録二五二五丁)、昭和四九年一一月一四日付大蔵事務官に対する質問てん末書(記録二二三一丁)、当該山林八筆の登記簿謄本(記録一八七丁以下)に明白であるから、前記山林の売却によって被告会社の原判示第二の事業年度内に三、〇〇〇万円の売上があったと認定されるのである。所論は、右三、〇〇〇万円は、貸倒金として損金処理がなさるべく、したがって売上金に計上しないことも許されるという。一般に債権について現実に弁済が受けられるかどうかは、単に債務者の支払能力の有無等の客観的条件のみによって判断すべきものでなく、債権者及び債務者双方の誠意努力等の主観的条件や、債権者が講じた取立の手段がどうであったかなどを総合して判断すべきものであって税務会計上においてもこれと別異に解すべきものではないが、ただ税務処理にあたっては納税義務者ごとに偏ぱ不公平な取扱をすることを避けながら、適正な課税を実現して徴税の実効を挙げることが強く要請され、債権者が恣意的に貸倒れと認定して処理することを許さないことが必要であるといえる。この見地から見ると、従来法人税の徴収にあたり貸金、売掛金等債権の貸倒れと認められるための一般的な判定基準として、会社更生計画の認可決定・会社整理計画の決定・債権者集会の協議等により切り捨てられた債権者、または債務者につき破産・和議・強制執行等の事態が発生し事業を閉鎖するに至った等のため、もしくは債務超過の状態が相当期間経過し事業再起の見込がない等のため、あるいは天災・事故その他経済事情の急変のため等により回収の見込がない場合などが挙げられているのは、妥当な基準であると是認することができるのであって、特定の債権が貸倒れであると認定されるためには、右のような場合その他少なくともこれらに準ずるような支払困難の客観的事情が存することが必要であると解され、そのような場合には、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金に算入することができるのである。これを本件について見ると、被告人村本宏の昭和四九年一一月一四日付(記録二二三一丁)及び昭和五〇年三月二五日付(記録二四〇二丁)大蔵事務官に対する各質問てん末書、昭和五〇年七月二四日付検察官に対する供述調書(記録二五二五丁)、原審第二五回(記録二六六〇丁)、第二七回(記録二七三一丁)各公判における供述、村本義明の昭和五〇年七月二二日付検察官に対する供述証書(記録一九六四丁)、住友銀行呉支店長森本淳作成の昭和四九年六月四日付証明書(記録一一四七丁)、押収の確認書(前同押号の五一)によると(一)被告人村本宏は、昭和四七年一〇月ごろ、前記山林代金の支払のためとして大東希見から宝石約一、四〇〇個時価合計約三、〇七〇万円相当を受取り、これを売却処分して右山林代金の支払に充当するとの大東の言を信じ、同人と共に村本義明を上京させ、村本義明は宝石の一部を売却して九〇〇万円を入手し、これを昭和四七年一〇月三一日住友銀行呉支店の被告会社の当座預金口座に振込入金したこと(記録一一五五丁、一九六八丁、二二四六丁、二五三四丁、二七四八丁)、(二)被告会社が第三者から買受けていた竹原市新庄町所在の竹原カーテルの土地建物を、前記山林同よう大東希見に代金五、〇〇〇万円で売渡したが、その代金として同人から、昭和四八年二月二六日七〇〇万円、同年四月一九日一、七〇〇万円の各支払を受けていること(記録二五三六丁裏以下)、(三)昭和四八年四月末ころ、愛媛県松山市の平安旅館で、被告人村本宏は山口久夫の立会いで大東希見と話合い、被告会社と大東との間の債権債務について確認書を作成したこと(記録二四一〇丁、二五三六丁押収の確認書)、(四)被告会社の原判示第二の事業年度における所得について確定申告をする当時においては、被告人村本宏としては大東希見から本件山林の売買代金の残代金を回収するについてなお未練があり、もはや回収できないものとまでは思っておらず、最後に大東希見に会った昭和四八年六月七日以降も、電話で連絡をとっていたが、昭和四九年五月に同人の刑事被告事件が上告棄却となり服役しなければならない事態となった以後、同人が消息不明となっていること(記録二五三九丁裏)が認められるのであって、これらの事実を総合して判断すると、前記山林代金三、〇〇〇万円のうち九〇〇万円は支払いを受けているのであるから、代金全額について貸倒金と認定されるべきであるとの所論が失当であることは明らかであり、また昭和四八年五月未ごろ(原判示第二の事業年度末)、大東希見において支払困難な客観的事情が存したとは認め難いし、被告会社としては右代金の回収は可能であると判断していたものと思料され、これに反する証拠は存せず、右事業年度が経過したのちにおいて、右代金を回収することが困難な客観的事情が生じたものと認定するのが相当である。従って、右山林代金について、原判示第二の事業年度に生じた貸倒金であるとすることはできないから、これを理由として売上金に計上しないことは許されず、これと同旨の原判決の認定は正当であるとして支持することができる。原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。
右のとおり、弁護人の控訴趣意第一点(事実誤認の主張)はすべて理由がないが、なお職権により記録を精査すると、原判決には次のような事実の誤認があり、ひいては原判示各事業年度の事実の所得額の認定を誤っており、そのため逋脱所得額、脱税額の計算も誤る結果となっている。すなわち、原判決は
一 原判示第一において、当該事業年度の期首棚卸高を算定するにあたり、大多田の土地に関する被告会社の公表上の損金を計上しているが(逋脱所得の内容A、2、(注1)、<3>記録五一丁)、そのうち
46.3.5 梅原薫 七八、〇〇〇円
46.7.17 乗本建設 一二、五〇〇円
とある分については、記録及び証拠物中にこれを認めるに足る的確な証拠はない。右二項目のうち前者については、押収の総勘定元帳(前同押号の三)雑費勘定の記載中に
46.3.5. 福原薫、黒瀬団地図面作成代 一〇〇、〇〇〇円
とあり、押収の振替伝票綴(前同押号の一六)中の昭和四六年三月五日付伝票に同ようの記載があることからすると、一〇〇、〇〇〇円と認定するのが相当である。従って、右の差額二二、〇〇〇円だけ期首及び期末棚卸高が増加することとなる。また、後者については、押収の総勘定元帳(前同押号の四)外注加工費勘定の記載中に
46.7.17 乗本建設 一〇〇、〇〇〇円
とあり、押収の振替伝票綴(前同押号の二〇)中の昭和四六年七月一七日付伝票に同ようの記載があることからすると、一〇〇、〇〇〇円と認定するのが相当である。従って、右の差額八七、五〇〇円だけ期末棚卸高が増加することとなる。これらの点について、被告人村本宏は、昭和四九年一一月二八日付上申書(記録二三〇八丁)において、金額は正確ではないが右趣旨の金員を支出したことを供述している(記録二三〇五丁)ことも右認定を支持するものである。
二 原判示第二において、当該事業年度の支払利息を算定するにあたり、「47.12.27に村本宏名義のNo.四七-五四分の坂農協からの借入金の利息として一五六、六九八円を支払いしているので、これを認容する」こととしている(逋脱所得の内容B、10、<10>、(ハ)記録九〇丁)けれども、記録及び証拠物を精査しても右金額を認定するに足りる証拠は存しない。かえって坂町農業協同組合長中村富士登作成の証明書二通(記録八五〇丁、八八四丁)によると、右は一〇七、〇一三円であると認められる(記録八六一丁、九二五丁)から、そのように認定すべきである。従って、その差額四九、六八五円だけ支払利息が減少することとなる。
三 そして、右一のように認定すれば、原判示第一の事業年度の利益金が八七、五〇〇円増加することとなり、それに応じて逋脱所得額、脱税額が増加することにのみならず、原判示第二の事業年度における租税公課算定の基礎にも影響し(逋脱所得の内容B、8、<1>記録八一丁参照)、租税公課が増加して同年度の利益金が減少する結果となる。
右一、二、三によって、原判決が認定した原判示第一、第二の各事業年度における被告会社の真実の所得額、逋脱所得額、脱税額に事実誤認があることが明らかであるところ、右の誤認は判決に影響を及ぼすものであるから、この点において原判決は全部破棄を免れないものである。
さらに職権により調査すると、被告人村本宏の前科調書(記録二五五五丁)、昭和四七年一〇月二六日付判決謄本(記録二五六九丁)及び同被告人の昭和五〇年七月一八日付検察官に対する供述調書(記録二四九五丁)によれば、被告人村本宏は、昭和四七年一〇月二六日広島地方裁判所呉支部において、贈賄罪により懲役八月三年間執行猶予の判決を受け、同判決は同年一一月一〇日確定していることを認めることができ、原判示第一の事実は右判決確定前のものであり、同第二の事実は同確定後のものであることが明らかである。そして、原判決が言い渡された昭和五四年五月一七日には、右確定判決の刑の言い渡しは執行猶予期間の経過によりその効力を失っていることも明らかであるが、なお刑の言渡を受けたという既往の事実そのものまでなくなるわけではないから、刑法四五条後段にある確定裁判があった以上、その執行猶予期間が経過したのちでも、なお同法条にいわゆる「或罪ニ付キ禁錮以上の刑ニ処スル確定裁判アリタルトキ」に該当するものといわなければならない。そうすると、被告人村本宏の関係では、原判示第一、第二の各事実は刑法四五条前段の併合罪とはならず、前記確定裁判により二分され、右判決前の原判示第一の事実と判決後の第二の事実についてそれぞれ別個の刑を言い渡すべきである。しかるに原判決は右両事実を併合罪と認め被告人村本宏に対し一個の刑を科しているから、結局原判決は刑法二七条及び四五条の解釈適用を誤ったが、前示確定裁判の存することを看過して刑法四五条後段を適用しなかった違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。よって原判決中被告人村本宏に関する部分は、この点においても破棄を免れない。なお、被告会社の刑事責任は、従業者である被告人村本宏の違反行為を前提としてそれとの関連において問われるものではあるが、業務主として従業者の選任、監督その他違反行為を防止するに必要な注意を尽くさなかった過失があることが推定されるため従業者とは個別に処罰されるものであると解されるから、被告会社については、被告人村本宏の罪数とはかかわりなく、併合罪として一個の刑を科すべきものである。
そこで、弁護人のその余の論旨(量刑不当)に対する判断は自判にあたり示すこととして、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条、三八二条により原判決全部を破棄するが、既に指摘したとおり検察官の本位的訴因をそのまま認めることはできないけれども、当審において検察官は予備的訴因を主張しているので、同法四〇〇条但書に則り、当裁判所において直ちに次のとおり判決する。
(当裁判所が認定した罪となるべき事実)
一 原判示第一の事実中
1 所得金額が「六、八一二万四、九四六円」とあるのを「六、八二一万二、四四六円」に(原判決書二枚目表一〇行目)
2 法人税額が「二、四七〇万九、八〇〇円」とあるのを「二、四七四万二、一〇〇円」に(同一一行目)
3 逋脱額が「二、三三六万二、三〇〇円」とあるのを「二、三三九万四、六〇〇円」に(同二枚目裏七行目)
二 原判示第二の事実中
1 所得金額が「七、二六七万五、三六〇円」とあるのを「七、二六〇万五、〇六五円」に(同一〇行目)
2 法人税額が「二、六四四万五、五〇〇円」とあるのを「二、六四一万九、八〇〇円」に(前同一一行目)
3 逋脱額が「二、六四四万五、五〇〇円」とあるのを「二、六四一万九、八〇〇円」に(同三枚目表六行目)
と訂正するほかは原判示罪となるべき事実の記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(証拠の標目)
原判決掲記のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(ただし、原判決書六枚目表末行に「被告人作成の」とあるのは「被告人村本宏作成の」と訂正する)
なお、当裁判所が判示所得金額を認定するについては、検察官の冒頭陳述要旨別紙の「逋脱所得の内容」のとおり(ただし、当裁判所の昭和五四年九月二一日付求釈明書にもとづき検察官が同年一〇月二七日付釈明書により訂正補足したもの及び原判示第二の事業年度の租税公課につき当裁判所が別紙1のとおり算定し直したもの)各勘定科目ごとの金額を確定し、別紙2の修正損益計算書のとおり整理して所得金額を算定し、別紙3のとおり税額を計算したものである。
(被告人村本宏につき、確定裁判の存在)
被告人村本宏には、職権調査によって認定したとおりの確定裁判が存する。
(法令の適用)
法律に照らすと、被告人村本宏の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するが、同被告人には前記の確定裁判があり、これと判示第一の罪とは刑法四五条後段の併合罪の関係にあるので、同法五〇条により末だ裁判を経ていない判示第一の罪につきさらに処断することとし、判示第一、第二につき所定刑中各懲役刑を選択する。被告会社については、その従業者が被告会社の業務に関し右のとおり各違反行為をしたのであるから、法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑を科することとするが、右は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により所定の罰金の合算額内において処断すべきものである。そこで量刑について案ずるに、本件は、判事のとおり二事業年度にわたる多額の所得について、真実の所得を隠ぺいし、著しく少ない所得を申告して巨額の脱税を実行したものであり、ずさんな会計処理をしていたため真実の所得額を捕そくすることを著しく困難にしていたことも認められ、犯情は悪質であるというべく、しかも現在に至るも納税義務を完全に履行していないことを考慮すると、その刑責は到底軽視することができないのであるが、原判決後において相当額の納税をしたことは有利に斟酌すべき事情といえる。そこで前記の刑期及び金額の範囲内において、被告会社を罰金八〇〇万円に、被告人村本宏を判示第一につき懲役五月に、同第二につき懲役五月に、各処し、被告人村本宏に対し刑法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予することとし、原審の訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により被告会社と被告人村本宏の平等負担とする。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹村尋 裁判官 谷口貞 裁判官 堀内信明)
別紙1
昭和47年6月1日から同48年5月31日に至る事業年度における事業税の算定(逋脱所得の内容B、8、<1>記録81丁)
当初調査額 68,158,696円…………1
職権調査による加算額 87,500円…………2
修正申告所得額 6,175,951円…………3
1+2-3 62,070,245円…………課税標準額
事業税(地方税法20条の4の2、1項により1,000円未満切捨て)の算出
<省略>……………4
当初調査事業税 7,437,920円……………5
差引増加額(4-5) 10,480円
検察官は、昭和54年12月11日付上申書において、10,440円と主張しているが、それは2の千円未満切捨て額に単純に税率を乗じた額と思われ、誤りである。
上記のように検察官主張額より40円増加するが、同額だけ利益金が減少することとなり、訴因の範囲内で所得額が認定可能である。
また税額算定に当っては、国税通則法118条1項により千円未満を切捨てるため、検察官主張の逋脱税額と最終的には同額となる。
別紙2.
修正損益計算書
自昭和46年6月1日
至昭和47年5月31日
<省略>
<省略>
修正損益計算書
自昭和47年6月1日
至昭和48年5月31日
<省略>
<省略>
別紙3
税額の計算
<省略>
(イ) 千円末満切捨てる
(ロ) 百円末満切捨てる
○ 昭和五四年(う)第八五号
控訴趣意書
被告人 東進商事株式会社
被告人 村本宏
右被告人両名に対する法人税法違反被告事件につき、被告人両名が控訴を申立てた趣意は左記のとおりである。
昭和五四年七月一九日
被告人両名代理人 岡秀明
広島高等裁判所
第四部 御中
記
原審裁判所は公訴事実をそのまま認め被告人東進商事株式会社に対し罰金一、〇〇〇万円被告人村本に対し懲役一年三年間執行猶予の判決の言渡しをしたが、右判決は左記のとおり判決に影響を及ぼす事実の誤認があり仮りに事実誤認がないとしても刑の量定が著しく重きに失するものであるから、原判決を破棄の上適切なる判決を求めるため本申立に及んだものである。
即ち、
第一 (事実誤認)
一、 (第一事実)
証人久保健太は必ずしも被告人の弁解にそう事実の供述を原審法廷でしなかったが、右は事実の供述をすれば証人自身の預り金の着服事実が発覚するとか紀和水産の脱税事実を法廷で認める結果となるため自己等に有利な虚偽事実を供述したものであることが容易に推測出来るものであり被告人村本ないし同東進商事株式会社と久保又は紀和水産株式会社との従前からの関係及び久保証人の証言の全体から被告人の供述の方が信用出来るものである。
しかるに
(一) (第一事実)
原判決は被告人の弁解にかゝわらず仕入代金公表七、五〇〇万円のうち二、八〇〇万円を架空仕人れとして認定したが、右事実に誤認があるものである。
(二) (第二事実)
大東希見は実刑の判決を受けながら逃走中のいわゆる遁刑者であり、従って同人に売却した山林売却代金三、〇〇〇万円は取立不能であり、貸倒損失として認めるべきであるが、これを認めなかった原判決には事実の誤認がある。
第二 (量刑不当)
一、 仮りに有罪であるとしても東進商事株式会社は久保健太、大東希見、朴応秀らから金員を詐収され、それが税法上損益として認められないとしても現実には被害を受け、現在にいたるも回収が困難であるため、利益として計上しなかったものであり、税の申告に当って応々あるケースであり又人情的にも理解できないものではなく、又検察官主張のように計画的悪性のものとは言えない。
二、 ほ脱税額に見あう不動産を担保提供しており実害はないばかりか、現在おいおい納付中である。
三、 よって東進商事株式会社に対する罰金一、〇〇〇万円の判決及び被告人村本に対する懲役一年、執行猶予三年の判決は重きに失するものである。