広島高等裁判所 昭和54年(行コ)9号 判決 1981年3月24日
控訴人(原告) 杉本巖
被控訴人(被告) 広島市固定資産評価審査委員会
被控訴人 広島市長
主文
本件控訴を棄却し、控訴人の被控訴人市長に対する訴を却下する。
当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
原判決を取消す。
控訴人の原判決別紙目録(これを引用する)記載一ないし三及び五土地に対する昭和四七年度固定資産課税台帳登録価格についての審査申出について、被控訴人委員会が昭和四七年八月三一日付でした棄却決定を取消す。
被控訴人市長は控訴人に対して八万七〇二八円を支払え。
訴訟費用中第一審分は被控訴人委員会の、第二審分は被控訴人らの各負担とする。
二 被控訴人委員会
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
三 被控訴人市長
本件訴を却下する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二主張及び証拠関係
不当利得返還請求事件について次のとおり述べたほか、原判決該当欄記載のうち選定者杉本恵彦関係部分を除いたものと同一であるから、これを引用する。
一 控訴人の請求原因
1 被控訴人市長は、別紙明細表土地の表示、所在地番欄記載の土地について、昭和四七年一月一日現在の状況を調査したうえ、同表土地の表示、地目及び昭和四七年度評価欄記載のとおり地目及び価格を決定し、原告に固定資産税を納付させた。
2 しかし、右の決定は、換地計画の見とおしすらついていない段階で、右土地につき宅地なみの決定をしたもので、被控訴人市長は、従前の税額との差額八万七〇二八円(計算関係は同明細表のとおりである)を不当に先取りしたことになる。
3 よつて、被控訴人市長に対し、右金員の支払を求める。
二 被控訴人市長の答弁
本訴は、次の理由により、不適法である。
1 行政事件訴訟法一九条一項によると、行政事件訴訟につき取消訴訟が高等裁判所に係属している場合の関連請求の追加的併合には、相手方の同意を要するところ、被控訴人市長は本件追加的併合には同意しない。
2 控訴人の請求は、固定資産税の算出の基礎となる地目認定及び価格の誤りを原因とするものであるが、右地目等は地方税法四三二条一項に規定する固定資産課税台帳に登録された事項に該当し、右事項について不服がある場合には固定資産評価審査委員会に審査の申出ができることとなつており、同法四三四条二項の規定によれば、右審査の申出ができる事項について不服がある場合には、右審査の申出または固定資産評価審査委員会の決定に対する取消訴訟だけによつて争うことが認められる。
三 控訴人の反論
1 本件訴は民事訴訟法二三二条によるものとして許されるべきである。
2 行政事件訴訟法一九条が同意を要求している訴えは、第一審裁判所が高等裁判所であるところの公職選挙法二一七条に規定する訴え等の場合に限られ、本件のように高等裁判所が第二審として管轄する訴訟は含まれない。そうでないとすると、前記一九条の規定は、憲法一七条と矛盾し、不法処分行政庁に対し、損害賠償責任回避の道を開き、損害を受けたものの救済の道を断つことになるから、右憲法法規に違反する。
3 仮に、右主張が認められないとしても、被控訴人市長は昭和五五年五月六日の口頭弁論期日において異議なく応訴したから、同意があつたものと認められる。
4 仮に、右主張が認められないとしても被控訴人市長が請求併合に同意を拒むことは公序良俗に違反した違憲行為として許されない。
5 本件不当利得返還請求訴訟は地方税法四三四条二項に違反しない。若し、同法条が右訴訟を許さないものであれば、同条項は憲法一七条に違反する。
理由
第一行政処分取消請求について
一 被控訴人市長が昭和四七年二月二八日に控訴人所有の本件各土地につき、同年度の地目、価格を控訴人主張のとおり決定し、これら及び右価格を固定資産税標準額として広島市備付けの同年度固定資産課税台帳に登録したこと、控訴人は被控訴人委員会に対し、右登録された価格について審査の申出をしたが、同被控訴人はこれを棄却する旨の決定をして、昭和四七年八月三一日付で控訴人に対してその旨の通知をしたことは、当事者間に争いがない。
二 被控訴人市長が前記決定、登録した経緯についての当裁判所の認定(当事者間に争いがない事実を含む)は、次に訂正するほか、原判決一五枚目表三行から二一枚目裏末行までと同一であるから、これを引用する。
1 一五枚目裏一行の「右価格決定」から四行までを「右価格決定及び右価格を固定資産税標準額として固定資産課税台帳に登録したことが適法であつたか否かについて判断する。」と改める。
2 一六枚目表四行の「同第二一号証の一、二、」、同六行の「第一八、同」を削除する。
3 一九枚目表八行の「土地三」から九行の「土地)」を「土地三中、最高の価格地」と、同裏六行の「接近条件」を「近接状況」と訂正する。
4 一九枚目裏一〇行から二〇枚目表五行まで及び二一枚目表一行から五行までを削除し、二〇枚目表六行の「(七)」以下の括孤内の番号を一番あてくり上げる。
5 二一枚目裏四行の「さらに、」から七行までを「これら及び右価格を固定資産税標準額として固定資産課税台帳に登録した。」と改める。
三 右認定事実によると、被控訴人市長のした前記地目、価格の決定及び右価格を固定資産税標準額として固定資産課税台帳に登録したことは、相当として是認することができる。
四 控訴人の主張について検討する。
1 控訴人は、本件各土地が、昭和四七年度賦課期日当時は造成工事中で、使用収益が不可能であつたこと及び控訴人が換地後は農地として使用する目的を有しており、事実畑として利用していたこと等を理由に、本件各土地の地目を雑種地と変更したことが違法である旨主張する。
しかし、地方税法三四一条二号に定める地目の判定は、当該賦課期日の土地の現況に重点をおいてすべきであつて、現実にこれを利用し得たか否か、あるいは将来の利用目的や賦課期日後の利用状況によるべきではないから、右主張は採用できない。
2 次に、控訴人は、本件各土地に特有の欠陥があつたことを掲げて、前記決定の価格が不当である旨主張する。
しかし、前記二認定のように、本件賦課期日には、本件土地一帯は宅地造成中で、換地はまだ指定されていないのであるから、本件土地がどの部分を換地とされるか判明しないわけで、かような場合には造成中の全域の土地について一律に評価することが相当であり、控訴人の右主張は採用できない。
3 次に、控訴人は、件外土地一との比較において、前記決定の価格が不当である旨主張する。
しかし、成立に争いのない甲第二一号証の一、二、原審における証人今津俊朗の証言と控訴人本人尋問の結果を総合すると、件外土地一は本件各土地に隣接してはいるが、本件区画整理事業の施行区域外の土地で、広島遊園地の敷地として利用されているものであることが認められるから、本件各土地と比較して論ずることは相当でなく、右控訴人の主張は採用できない。
4 次に、控訴人は、本件区画整理事業が昭和四八年度に完成予定していたことを理由として、前記決定の地目及び価格は評価時点を繰りあげて宅地なみの税金の先取りをすることとなり、違法である旨主張する。
しかし、前記二で認定した事実によると、広島市長の本件決定は、本件各土地を宅地と認定し、宅地としての評価をしたものでないから右主張も採用の限りでない。
5 次に、控訴人は、前記価格決定の過程において、従前地の地積と区画整理後の地積割合を〇・六一四と算定したことが、当初の事業計画書、換地明細書、清算金明細書に記載の割合と相違するので違法である旨主張する。
しかし、前記二で認定したように、当初の事業計画は、本件賦課期日当時には変更されていたのであるから、右当初の事業計画による予測減歩割合を用いなかつたことは当然である。また、換地及び清算の際の減歩割合は造成途上であつた本件賦課期日当時には定つていなかつたこと、前記決定の価格は、前記二で認定したように、単に減歩割合だけによつて定めたものではなく、他の諸般の事情をも総合斟酌して定めたものであること等を考慮すると、本件賦課期日当時に判明していた事業計画の下での減歩割合によつて算定することは止むを得ないところであり、その減歩割合が換地や清算時の減歩割合と控訴人主張どおりの差があつたとしても、未だ前記決定の価格が違法であるとまでは認められない。
五 そうすると、控訴人の、前記固定資産課税台帳の登録事項に関する審査申出を棄却した被控訴人の決定は正当であつて、本訴請求は理由がないので棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。
第二不当利得返還請求の訴えについて
一 本訴提起の経過は、控訴人の被控訴人委員会に対する審査申出棄却決定の取消請求(別訴という)についての一審判決に対する控訴人の控訴申立があつた後控訴人から当裁判所に昭和五五年五月六日付訴変更の申立により本訴請求を提起し、これが別訴に対する追加的申立である旨釈明したが、ついで同年六月一〇日付の本訴の相手方を被控訴人市長に変更する旨の申立書を提出した(昭和五五年(行タ)第一号を付している)。
二 当裁判所は右二申立を一体として控訴人が行政事件訴訟法一九条による請求の追加的併合をしたものとして、右申立書を被控訴人市長に送達した(同年六月一九日到達)ところ、同被控訴人は本訴の併合提起に同意しない等を内容とする同年七月一五日付意見書を提出した。
三 当裁判所の昭和五五年九月一一日第六回口頭弁論期日において当事者は前記申立書及び意見書等を陳述した。
四 高等裁判所に行政事件訴訟に関する取消訴訟が係属している場合に、関連請求に係る訴えを併合して提起するについては行政事件訴訟法一九条一項により相手方の同意を要するものであり、このことは、同条二項の民事訴訟法二三二条の例によるとの規定によつても変更のないものと解するのが相当であり、本件については前記のとおり被控訴人市長はこれにつき同意しない旨を表明している。
五 控訴人は、相手方の同意を要するのは、高等裁判所が第一審として管轄する事件に限る旨主張するが、行政事件訴訟法一六条と一九条の規定を対比すれば、右主張が失当であることは明らかであり、前記同意が必要とされたのは、当事者の審級の利益を考慮したもので、訴えの提起自体を制限したものではないから、同法一九条が憲法一七条に違反する旨の控訴人の主張は採用できないし、被控訴人市長の同意しないことが公序良俗に違反するような事情は認められない。
六 控訴人は被控訴人市長が異議なく本訴に応訴した旨主張するが、前記訴訟の経過から右に当らないことは明らかである。
七 したがつて被控訴人市長に対する訴は不適法ということになる。
第三結論
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正清)
不当利得金明細表<省略>