大判例

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広島高等裁判所 昭和55年(ネ)346号 判決 1981年9月17日

控訴人(原告)

澤田輝男

ほか三名

被控訴人(被告)

谷口健三

ほか三名

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人らは、「原判決を次のとおり変更する。被控訴人らは各自、控訴人輝男に対し一九二三万六九〇二円及び内金一七二三万六九〇二円に対する昭和四九年一月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員(請求減縮)を、控訴人ハツエに対し金三〇〇万円、控訴人眞知子、控訴人美和子に対し各金一五〇万円及び各金員に対する前同日から支払ずみまで前同率の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人らは主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一である(但し、原判決四枚目裏四行の「被害者」を「被害車」と一〇行の「転到」を「転倒」と各訂正し、六枚目裏一行の「その後」の次に「昭和五一年一二月一七日」を加え、七枚目裏末行の「右認定の」を削り、九枚目表二行及び末行の「輝男」を「控訴人輝男」と、一一枚目表九行の「右側方」を「左側方」と各訂正する。)から、これを引用する。

(主張)

一  控訴人四名

1  被控訴人梶には次の過失がある。

(一) 被控訴人梶は乙車前方左側(以下左右は、特に説明しない限り、関係車両の進行方向に従つていう)に三台の車両が停止していたため、控訴人は控訴人自転車前方左側に甲車が停車していたため、いずれも道路中央部分を進行せざるを得ない状態で、双方がそのまま進行を続ければ、甲車、乙車、控訴人自転車、前記停車中の自動車が殆んど横一線に並び、乙車と控訴人自転車の間隔は極めて僅かとなることが予想された。

(二) 右のような状態で離合するとすれば、控訴人自転車が甲車を避けるため、もしくは甲車と接触等のため、ふらついて道路中央付近まで進出するおそれがあり、被控訴人梶は、これに対処できるような速度と方法で乙車を運転すべき義務があるのに、同被控訴人はこれを怠つた。

2  控訴人輝男は昭和五六年五月に至つても、輸血のため発生した慢性肝炎の治療のため、三日に二日または二日に一日の割合で通院を余儀なくされておる。

3  後記二の支払いの事実は認める(従つて控訴人輝男の請求は従前の額からこれを控除した前記申立額に減縮する)。

二  被控訴人谷口、同大田

控訴人輝男は、その自認する受領分外に、自賠責保険から六一六万一〇九八円の支払いを受けた。

三  被控訴人梶

被控訴人バルコム主張の抗弁(原判決事実欄第二、三、(二))を援用する。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  被控訴人谷口、同大田との間では請求原因(一)(事故の態様を含めた本件事故の発生)及び(二)(責任原因)は当事者間に争いがない。

二  被控訴人バルコム、同梶との間では請求原因(一)については、5(事故の態様)を除き、争いがない。

三  そこで、被控訴人バルコム、同梶との間で、本件事故の態様及び右被控訴人らの責任、控訴人輝男の過失の有無について検討する。

1  成立に争いのない乙第二号証の一、二、第三、第四号証、丙第一号証、原審における被控訴人梶本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められ、原審における被控訴人大田の供述中この認定に反する部分は信用できず、他にこの認定を覆えすに足る証拠はない。

(一)  本件事故現場の道路は、南北に通ずるアスフアルト舗装の平たんな市道で、見通しは良く、通行車両について時速四〇キロメートルの規制がされている。

(二)  車道の幅員は七・八メートルで、その南側にだけ幅員一・五メートルの歩道があり、乙車の車幅は一・六九メートルである。なお、甲車は一・三メートル以下である(昭和五〇年九月一日運輸省令第三四号による改正前の道路運送車両法施行規則別表第一号による)。

(三)  被控訴人大田は甲車を運転して本件市道を南進し、本件現場で、市道西側にある野村ビルに所用のため、停車したが、その位置は車道北端から約一・二メートルの間隔をおいた場所であつた(従つて、車道北端から甲車南側までの距離は約二・五メートルとなる)。

(四)  右甲車の停車場所の前方市道左側端には自動車一台が駐車しており、車道西端には三台の自動車が縦一列に駐車していて西端から約一・六メートルの車道をふさいでいた(従つて、右三台の車と甲車との間の車道は約三・七メートルとなる)。

(五)  被控訴人大田は停車後直ちに運転席右側ドアを開いたがその際後方(北側)から進んでくる車両の有無等についての安全確認を全くしなかつたため、甲車の後方から本件現場付近を南進し、甲車の右側(車道東端から約二・九メートル部分)を通過しようとしていた控訴人自転車に気付かず、前記ドアの先端を控訴人自転車に衝突させて控訴人輝男を同自転車とともに右斜め前方に転倒させた。

(六)  被控訴人梶は乙車を運転し、本件市道を時速約四〇キロメートルで北進し、本件現場に差しかかつた際、右前方約一八・一メートルの地点に前記甲車が停車したこと及びその後尾右側(中央寄り)を控訴人自転車が南進してくることを認めたので、時速を約三〇キロメートルに落して約八・二メートル進行した際、控訴人自転車が甲車のドア付近まで進行しているのを認めた(その際の乙車と控訴人自転車間の距離は約九・九メートル)が、そのまま進行しても控訴人自転車が甲車横からその前方に出て、乙車とは安全に離合できるものと考えていたところ、前記(五)の衝突が生じ、控訴人輝男が乙車の進路前方に転倒したのを認め、直ちに急ブレーキをかけたが及ばず、乙車前部ナンバープレート付近と控訴人輝男とが衝突するに至つた。

(七)  乙車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

2  右認定した事実によると、控訴人輝男は本件事故発生の直前は道路の左側端ではなく、甲車の右側(車道中央寄り)を通行していたものであるが、甲車及びその前方自動車の道路左側端における駐車という道路状況からすると、甲車の右側を通行したことはやむを得なかつた(道交法一八条一項参照)と認められ、控訴人輝男に過失があつたと認めることはできず、甲車と控訴人輝男との衝突は、甲車が右側(車道中央側)ドアを後方の安全を確認しないで開いた一方的過失に因つて生じたものと認められる。

3  更に、前記認定事実によると、被控訴人梶が、甲車と控訴人自転車との衝突がないとした場合、乙車は控訴人自転車が甲車横を通過した後に同自転車と離合すると考えたことは相当であり、そうなれば同自転車は左側に寄ることができたので(甲車前方左側に駐車中の自動車は道路左端に停車していたものである)、右離合は安全にすることができたと認められる。ところが、被控訴人大田の前記右側ドアを、後方不確認のまま、開いたという自動車運転手として非常識といえる行動によつて乙車と控訴人輝男の衝突が生じたものと認められ、被控訴人梶には、右のような被控訴人大田の異常な行動の結果、甲車と控訴人自転車とが衝突する場合を予測して、これに対処し得るように運転をする義務はなく、乙車と控訴人輝男との衝突につき被控訴人梶に過失は認められない。

そうすると、被控訴人梶及び同バルコムには本件事故発生については責任はないことになる。

四  本件に関する傷害、後遺障害の内容、程度、身分関係、損害(賠償請求権を含む)についての認定は後記のとおり訂正、付加するほか、原判決の説示(一八枚目裏八行から二五枚目表三行まで)と同一であるから、これを引用する。

1  一八枚目裏九行の「甲」の次に「第六号証、」を加え、一〇行の「同ハツエ」を「原審及び当審における控訴人ハツエ」と、一一行の「請求原因(三)の事実の外」を「請求原因(三)の事実及び控訴人輝男は昭和五六年五月に至つてもなお慢性肝炎のために通院治療を受けており(昭和五四年五月までの通院実日数は計六一二日である)、」と改める。

2  一九枚目裏二行の「被告ハツエ」を「控訴人ハツエ」と、二〇枚目裏一行の「休業損害となる」を「休業損害となり、その額は次のとおりである」と、二一枚目表九行の「原告」を「控訴人輝男」と、二二枚目表四行の「甲第一五号証」を「甲第一三ないし第一五号証」と、末行の「として計算すると、」を「とするのが相当であるので、」と各改め、末行から裏二行までのかつこ部分を削除する。

3  二二枚目裏五行から九行までを、「前記認定のように、控訴人輝男は、一人での外出が危険であるため、将来とも通院治療には家族の付添が必要であり、また食事の際には或程度の補助が必要ではあるが、他の日常生活は一応一人ですることができるのであるから、前段の付添、補助の程度は、通常家族が病気となつた際の互助協力の範囲内のものと認められるので、被控訴人らに対し、将来の看護料としての金員支払いを求めることは認容できない。」と改める。

4  二二枚目裏一〇行の「金三四万八、〇〇〇円」を「金一六万八〇〇〇円」と、二三枚目表一行を「入院中の諸雑費として金九万円、交通費金七万八〇〇〇円の出費があつた事実を認めることができるが、通院中の諸雑費についてはこれを認めるに足りる証拠はない。」と各改める。

5  二三枚目表二行の「金一、七〇八万円」を「金二三二四万一〇九八円」と、三行から七行までを「控訴人輝男が本件損害に関し、自賠責保険から合計二三二四万一〇九八円の支払いを受けたことは同控訴人が認めているので、右金額を1ないし7の合計額金二九六八万八〇〇〇円から控除すると、残額は金六四四万六九〇二円となる。」と、一〇、一一行の「8の損益相殺後の金額の約一割相当額である金一二〇万円」を「金七〇万円」と、裏二行から四行を「以上によると、控訴人輝男の賠償請求権残額は金七一四万六九〇二円となる。」と各改める。

五  以上の次第で、控訴人らの請求は、被控訴人谷口、同大田に対するもののうち控訴人輝男分として各金七一四万六九〇二円及び内金六四四万六九〇二円に対する本件不法行為後である昭和四九年一月八日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の範囲、控訴人ハツエ分として各金一〇〇万円とこれに対する同期間同率の遅延損害金の範囲、控訴人眞知子、同美和子分としていずれも各五〇万円とこれに対する同期間同率の遅延損害金の範囲で理由があるが、その余はすべて失当として棄却すべきところ、原判決の棄却部分は右以下であるからこの部分に対する本件各控訴は理由がないものとして棄却し、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正淸)

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