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広島高等裁判所 昭和55年(行コ)8号 判決 1981年7月30日

控訴人(原告) 川西チエ子

被控訴人(被告) 広島労働基準監督署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人の昭和四九年八月二九日付控訴人に対する労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付の不支給決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一である(ただし、原判決三枚目表六行の「同2」の次に「(控訴人の請求は遺族補償年金請求である)」を加え五枚目表六行「亡勇が」から九行までを「金員、季節のものは控訴人が知恵子の兄や亡勇の兄弟に送付していただけである。」と改める)からこれを引用する。

(主張)

一  控訴人

控訴人らの営む通船業が広島通船株式会社に吸収され、控訴人所有の船舶を買い替えたが、労災保険の支給の基礎となる勇の生前の収入は控訴人に負うところが多大であつた。そして、控訴人は本件事故により内縁の夫勇を失うとともに、資本というべき船を失い、すべてをなくしたに等しい。一方、間下知恵子は、勇との間に一〇年以上何の交渉もなかつたのであるから、失うものは何もない。従つて、衡平の原則からも本件遺族補償給付金は控訴人に支給されるべきである。

二  被控訴人

本件遺族補償給付金の基礎となるものは勇の収入からきよ出されたものであり、その受給権者は労災法一六条の二で法定されており、いわゆる重婚的内縁関係に入つた者は受給権がないのであるから、前記控訴人の主張は失当である。なお、知恵子にとつても勇が死亡したことにより、同人と夫婦として生活することが永遠にできなくなり、送金も得られなくなつたものであるから、損失があることは明らかである。

(証拠関係)<省略>

理由

当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきものと判断するが、その理由は次に訂正、付加するほか、原判決の説示する理由と同一であるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏三行の「同2」の次に「(遺族補償給付は遺族補償年金の趣旨である)」を加え、八枚目裏九行の「乙第一七号証」を削除し、一〇枚目裏三行の「会社に勤める」を「会社の役員となる」と改め、一一枚目表八行の末尾に「(なお、これら金品の送付のうちには、控訴人が控訴人名義でしたものもあつた)。」を加え、一二枚目表九行の「無かつたものとみられる。」を「なかつた。」と改め、一三枚目表七、八行の括弧部分を削る。

二  控訴人は、衡平の原則から、本件遺族補償年金を控訴人に給付すべき旨主張するが、その受給権者は労災法一六条の二で法定されており、前記(引用部分)のようにいわゆる重婚的内縁関係にある者は同条項に定める受給権者に該当しないのであるから、右主張は採用できない。

そうすると、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正清)

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