広島高等裁判所 昭和56年(ネ)137号 判決 1981年11月26日
主文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は各自控訴人に対し、金二〇万円を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審を通じてこれを二〇分し、その一を被控訴人らの、その余を控訴人の負担とする。
事実
第一 申立
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人らは各自控訴人に対し、金四〇〇万円及び内金三六〇万円に対する昭和四九年一二月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人三名
本件控訴を棄却する。
第二 主張及び証拠関係
次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一である(ただし、原判決二枚目裏六行の「六日、」の次に「広島家庭裁判所に」を加え、同六枚目裏六行の「甲第一、第二号各証、」を「甲第一号証の一ないし六、第二号証の一ないし七、」と改める)から、これを引用する。
一 控訴人
1 控訴人が黒川英昭と本件土地の売買契約を締結した時期を昭和四九年七月と改める。
2 被控訴人らは、広島家庭裁判所に提出した申述書添付の負債表に、控訴人に対する本件債務の記載を脱漏しており、また知れた債権者である控訴人に対し、民法九二七条に定める公告、催告をしていないので、本件限定承認は無効である。
3 被控訴人らが寺本修に対して所有権移転登記手続をしたことは、民法九二一条三号の隠匿に該当し、被控訴人らは単純承認したものとみなされる。
4 限定承認の申述後の管理財産の処分については家庭裁判所の許可を要する(民法九二六条、九一八条三項、二八条)のに、被控訴人らは右許可を得ないで、前記寺本に対する所有権移転登記手続をした。
5 昭和五三年一月三〇日に被控訴人クニが相続財産管理人(以下単に管理人という)に選任されたことは認める。
二 被控訴人三名
1 控訴人の前記2の主張事実中、控訴人が知れたる債権者であることを否認し、その余の事実は認める。
2 被控訴人らは、限定承認の申述に際して添付した財産目録に本件土地を記載しており、何ら隠匿していない。
3 管理人は相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をすることができる(民法九三六条二項)もので、寺本に対する所有権移転登記手続をしたのは、被相続人黒川英昭が生前に締結していた売買契約を履行したにすぎない。
4 限定承認による清算手続は現在進行中であり、まだ終了していない。
5 被控訴人らが除去した植木等については、民法二四二条が適用される。
理由
一 本件土地がもと黒川英昭の所有であつたことは当事者間に争いがない。
二 当裁判所も、控訴人が右英昭から昭和四九年七月ころに本件土地を代金三六〇万円で買受け、その代金を完済したことを認定するが、その理由は、次のとおり訂正、削除するほか、原判決の説示と同一であるから、これ(原判決七枚目表一行から九枚目表末行と裏一行にわたる「認められる。」まで)を引用する。
1 原判決七枚目表一行の「甲第一号各証、甲第二号各証」を「甲第一号証の一ないし六、第二号証の一ないし七」と、四行の「甲第五号証各証」を「甲第五号証の一ないし四」と、同八枚目裏一行の「甲第二号各証」を「甲第二号証の一ないし七」と、五行の「第四、第五号各証」を「第四号証、第五号証の一ないし四」と改める。
2 同八枚目裏六行の「なお」から九枚目表三行の「更に」までを削除し、九枚目表八行の「一七一三番三」の次に「畑」を加え、九行の「同番の三」を「何番三畑」と改める。
三 英昭は昭和五二年九月一六日に死亡し、同人の妻子である被控訴人らが同人を相続したこと、被控訴人らは、本件土地を英昭が昭和五二年一月二五日に山陽観光株式会社に売渡し、同会社は昭和五三年五月二日に寺本修に売渡したものであるとして、同年五月一二日に、中間の前記会社への登記手続を省略して、寺本への所有権移転登記手続を経由したことは当事者間に争いがない。
四 控訴人は、被控訴人らが右寺本への所有権移転登記手続をしたことをもつて、控訴人が買主として所有権を取得することが不能となり、控訴人の買受代金相当の損害を受けたとして、不法行為に該当する旨主張する。
1 被控訴人らが昭和五二年一二月一六日に広島家庭裁判所に英昭の相続に関し限定承認の申述をし、右申述が昭和五三年一月二六日に受理されたことは当事者間に争いがない。
2 控訴人は、右限定承認の効力を争うので、順次検討する。
(一) 控訴人主張の負債表の記載、公告、催告の違反は限定承認を無効とする事由にはならないと解するのが相当である。
(二) 次に控訴人は、被控訴人らが前記寺本への所有権移転登記をした行為は、民法九二一条一号の処分、または同条三号の隠匿に該当する旨主張する。
しかし、一号は限定承認をする以前にした処分についての規定であり、また三号の隠匿には、被相続人が真実に行つていた譲渡行為にそう登記手続をする行為は含まれない、と解するのが相当であるところ、前記のように、寺本への所有権移転登記手続は限定承認後にされたものであり、成立に争いのない乙第一六号証、原審における被控訴人黒川クニ本人尋問の結果及びこれによつて成立の認められる乙第一二号証に弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人らは限定承認申述書に添付の財産目録中に本件土地を記載していたが、被相続人英昭が山陽観光株式会社に、同会社が寺本にそれぞれ本件土地を売渡していたことが判明したため、前記寺本への所有権移転登記手続をしたことが認められるので、前記控訴人の主張は採用できない。
3 そうすると、被控訴人らは英昭を限定相続したことになり、控訴人は、英昭の限定相続人である被控訴人らに対して、英昭からの本件土地買受けによる所有権移転登記手続を請求することはできないと解するのが相当であり、これがあることを前提とする損害賠償請求は理由がない。
五 従つて、控訴人の被控訴人らが相続を単純承認したことを前提とする債務不履行に基づく賠償請求も理由がない。
六 次に、清算手続違反を理由とする控訴人の損害賠償請求も、当審での右手続違反の主張について判断するまでもなく理由がない、と判断するが、その理由は原判決理由五の説示を、うち一一枚目表一〇行の「管財人」を「管理人」と、裏六行の「明らかである。」から同一二枚目表一行までを「明らかであり、前記登記手続により、控訴人に損害が生ずるか及びその額はなお確定していない段階にあるから、控訴人の請求は失当というほかない。」と改めたものと同一であるから、これを引用する。
七 樹木の除去を理由とする損害賠償請求について判断する。
本件土地に植栽していた樹木を、控訴人主張のころに被控訴人らが除去したことは、その数量、種別を除いて、当事者間に争いがない。
前記認定(二に引用の部分)のとおり、控訴人は昭和四二年ころ英昭から本件土地を買受ける予約をするとともに、本体土地の引渡を受けたが、原審における証人沢田久枝の証言、控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は右引渡を受けた後に、英昭の了承の下に、本件土地にさつき、松、梅、椿等の樹木を少くとも八〇本、時価二〇万円相当を植栽していたもので、これらをすべて被控訴人らが除去し、無価値となつたこと、控訴人は、右除去以前に、広兼真澄を通じ、被控訴人らに対して、本件土地について前記売買を原因とする所有権移転登記手続を求めていたことが認められ、これに反する証拠はない。右認定事実によると、右樹木は控訴人が権原に因つて本件土地に附属させたものであるから、控訴人の所有であると認められ、これを被控訴人らが自力で除去したことは、少くとも過失による不法行為に該当し、被控訴人らは各自控訴人に対し、これによる損害金二〇万円を賠償する義務がある。
八 以上の次第で、控訴人の本訴請求は前記七の限度で認容し、その余は棄却すべきであるところ、原判決はこれと相違するので、これを右趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。