広島高等裁判所 昭和56年(行コ)3号 判決 1981年9月10日
控訴人(原告) 有限会社クラブ豊
被控訴人(被告) 広島法務局登記官
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。控訴人の、昭和五五年六月六日受付第四八九四号取締役、代表取締役、監査役の変更登記申請及び同日受付第四八九三号本店移転登記申請に対する被控訴人の同年七月二六日付各却下処分を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠関係は、次に訂正するほか、原判決該当欄記載と同一であるから、これを引用する。
原判決八枚目表一〇行の「氏名・住所によつて担保される。」とあるのを「住所、氏名、生年月日によつて担保され、印鑑届書は形式的なものでこれを欠いても登記実務に支障となるものではない。」と改める。
理由
一 請求原因1及び2(本件登記申請及び却下処分)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで先ず、原判決別紙記載一の申請(以下、本件変更登記申請という。)の却下処分の適否について検討する。
(印鑑届書の添付について)
1 控訴人が本件変更登記申請にあたつて、申請書に押印すべき者(以下押印者という)である頓京美代子の印鑑紙を提出したが、規則九条四項、五項に定める印鑑届書を添付していなかつたことは当事者間に争いがない。
2 法二〇条は、登記の申請書に押印者の印鑑をあらかじめ登記所に提出させ、押印者が登記の申請をするとき、右提出の印鑑と同一の印鑑を申請書に押印させることにより、申請人の同一性を担保して登記の真実をはかつた規定である、と解される。
3 控訴人は、印鑑紙に住所、氏名、生年月日が記載してあるので、それによつて押印者の同一性は担保されるから、印鑑届書を欠いても登記実務に支障はない旨主張する。しかし、右印鑑提出の方法、様式等をどのようにするかは、右立法趣旨や事務の能率化等諸般の事情を考慮して定めるべき立法政策の問題であり、前記規則で印鑑届書の添付を要求した趣旨は、印鑑の届出の意思表示を書面化することによつて明確化し、紛争の防止に役立たせることにあると解されるのであつて、右主張は採用できない。
4 次に控訴人は、本件が規則九条の四を適用すべき場合である旨主張する。しかし、代表取締役を定めている有限会社における登記申請書の押印者は、右代表取締役で、押印すべき印鑑は各代表取締役につき決定されるべきものであるから、代表取締役に変更があれば、新代表取締役の印鑑を法二〇条によつて提出すべきことになる(旧代表取締役提出の印鑑紙は規則九条の二により朱抹されて廃棄される)。このことは新代表取締役が旧代表取締役と同一の印鑑を使用する場合でも異ならないものであり、規則九条の四は特定の代表取締役が従前の印鑑を使用して変更登記又は登記の更正の申請をする場合の規定であつて、控訴人の主張は採用できない。
(印鑑証明書の添付について)
1 本件変更登記申請にあたつては、規則九三条、八二条三項本文により、決議書に記載されている各取締役の名下の印鑑について印鑑証明書の添付を要するところ、控訴人は右申請にあたつて、決議書に記載されている取締役頓京幹治の名下の印鑑について、印鑑証明書を添付しなかつたこと及び控訴人の旧代表取締役永田豊満が提出していた印鑑の印影と本件申請書に添付された決議書の代表取締役頓京美代子の名下に押捺された印鑑の印影とが同一であることは当事者間に争いない。
2 控訴人は、1後段のような場合には規則八二条三項但書により、前記頓京幹治の印鑑証明書の添付は必要でない旨主張するが、当裁判所も右主張は失当で、右但書の適用はなく、本文により本件申請書に頓京幹治の印鑑証明書の添付を必要とする、と判断する。その理由は、被控訴人のこの部分に関する主張(引用の原判決六枚目表九行から七枚目裏一行まで)と同一である。
(結論)
そうすると、被控訴人の本件変更登記申請却下処分は適法である。
三 右のように、本件変更登記申請が不適法として却下すべきものである以上、原判決別紙記載二の申請は申請書記載の控訴人代表取締役と商業登記簿記載の代表取締役とが相違することになるので、被控訴人が法二四条九号により右登記申請を却下したことは適法である。
四 以上の次第で、控訴人の本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正清)