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広島高等裁判所 昭和57年(ネ)22号 判決 1982年9月24日

控訴人・附帯控訴人(被告)

岩瀬とも江

被控訴人・附帯控訴人(原告)

山口県市町村職員共済組合

主文

一  原判決中控訴人(附帯被控訴人)の敗訴部分を取り消す。

被控訴人(附帯控訴人)の請求を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人。以下単に控訴人という。)は主文と同旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人。以下単に被控訴人という。)は「本件控訴を棄却する。」との判決ならびに附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。控訴人は被控訴人に対し金六七万八二三〇円およびこれに対する昭和五六年五月二六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほか、原判決該当欄記載と同一であるから、これを引用する。

(主張)

一  被控訴人

1  被控訴人主張にかかる本件事故は、控訴人の前方及び側方不注視の一方的過失により発生したものであり、仮に伊藤豊に過失があつたとしても、控訴人の過失と対比すると、前者の過失は二割程度である。

2  本件事故についての民事調停事件で、控訴人は伊藤豊に対して一五万円を支払う旨を約した。

3  後記二3の事実は認める。

二  控訴人

1  本件事故(昭和五四年一〇月六日に山口県小野田市上木屋五八七番地前道路上において、控訴人運転の普通乗用自動車と伊藤豊運転の自転車とが衝突)の発生は認める。

2  前記一1は争い、2の事実は認める。

3  本件事故による伊藤豊の損害の填補として、自賠責保険の保険金一九五万円が給付(内金一六一万一三一二円が治療費、通院費、慰藉料、休業損害、後遺障害による損害として伊藤豊本人に、内金三一万三四六三円が治療費として山口労災病院に、内金二万五二二五円が治療費、事故証明書分として控訴人に各支払い)された。

(証拠関係)〔略〕

理由

一  本件事故が発生したことについては当事者間に争いがない。

二  成立に争いのない乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一、二(各一部)、当審証人伊藤豊の証言(一部)、原審および当審における控訴人本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

昭和五四年一〇月六日午後一時ころ、控訴人は普通乗用自動車を運転し、前記小野田市上木屋五八七番地伊藤豊方前道路上を、小野田駅方面から宇部駅方面に向けて走行した。時速は四〇キロメートルであり、道路中央線にそう形で運転していた。同所附近で控訴人の行手に交通整理の行われていない交差点があるが、控訴人の進行方向左側は山陽本線の鉄道線路敷地で一段と高くなつているため、右交差点に左手から進入して来る交差道路(鉄道線路の下を通つて出てくる。)は控訴人にとつて見通し困難な状況にあつた(なお、交差点右側にカーブミラーが設置されているが、右交差道路が暗いため、カーブミラーによつて交差道路内の状況を見通すことも困難であつた)。控訴人は減速しないまま右交差点に進入しようとしたところ、伊藤豊が自転車を運転し右交差道路から突然交差点に進入してきた。控訴人は約六・四メートル先にこれを認め、急ブレーキをかけたが及ばず、中央線にそつて走つていた自車の左前部を自転車に衝突させ、よつて伊藤豊に対し右鎖骨々折などの傷害を負わせた。控訴人の進行していた道路は幅員約六・六メートルであり、その中央線標識は交差点の中まで連続して引かれていて、伊藤豊が進行してきた幅員約四メートルの交差道路に対していわゆる優先道路の関係にある。

以上の事実が認められ、乙第三号証の一、二、当審証人伊藤豊の証言中右認定に反する部分は信用できないし(右の一部には、伊藤豊は右交差点入口で一時停止していたところを衝突されたとする部分が存するが、乙第一号証(実況見分調書)によつて認められる本件事故現場の自転車による擦過痕の状況などに照らし信用し難い。)、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、本件事故の発生については、道路交通法三六条四項に照らし控訴人にも過失があつたといわざるを得ないが、交差する道路が優先道路であるにもかかわらず、そのまま進入した伊藤豊にも過失があつたということができ、その過失割合は、控訴人三割、伊藤豊七割と認めるのが相当である。

控訴人の過失についての抗弁は、右限度で理由がある。

三  前掲乙第三号証の一、二、原審証人伊藤達之の証言によつて成立の認められる甲第二号証、原審証人織田村陽の証言を総合すると、伊藤豊は、本件事故に因り右鎖骨骨折等の傷害を受けたため、事故当日から昭和五五年六月ころまで、山口労災病院で入、通院の治療を受けたこと、伊藤豊は被控訴人の組合員伊藤敏明の被扶養者であり、前記治療のうち、昭和五四年一一月から昭和五五年六月までの分については、被控訴人の組合保険を利用して治療を受けたこと、その間の治療費合計は九六万八九〇〇円であり、その七割の六七万八二三〇円について被控訴人が山口労災病院に支払つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

四  被控訴人は、右六七万八二三〇円の支払い額について健康保険法六七条による代位取得を主張するので、伊藤豊が控訴人に対して有する損害賠償請求権について判断する。

1  先ず、伊藤豊が本件事故によつて被つた損害額について考える。

治療費九六万八九〇〇円の損害が存したことは右に認定したとおりである。次に、伊藤豊が本件事故による損害の填補として、自賠責保険より保険金一九五万円の支払いを受けたことは当事者間に争いのないところであるから、伊藤豊には一応右金額の損害があつたということができる。更に、当審証人伊藤豊の証言によると、同人と控訴人は、本件事故につき民事調停をなし、後者が前者に一五万円を支払つて一切を解決したことが明らかであり、そうすると、右金額の損害があつたものと一応いうことができる。すなわち、伊藤豊は本件事故により右三者の合計三〇六万八九〇〇円の損害があつたと認めることはできるが、それ以上の損害があつたことを認めるに足る証拠はない(なお、仮りに伊藤豊にそれ以上の損害があつたとしても、同人は右調停において控訴人に対しその損害賠償請求権を放棄したといえる。)。

2  前記二のとおり、本件事故発生については、伊藤豊に七割、控訴人に三割の過失があるから、右三〇六万八九〇〇円の損害について、伊藤豊が控訴人に対して請求できるのは、その三割である九二万〇六七〇円に過ぎない。

3  しかるところ、前記のように、伊藤豊の本件事故による損害について自賠責保険金一九五万円が支払われていることは当事者間に争いがなく、また、民事調停の結果伊藤豊は一五万円の支払いを受けているのであるから、2の控訴人に請求することのできた損害九二万〇六七〇円はすべて填補されたこととなる。

4  そうすると、被控訴人が代位取得できる伊藤豊の控訴人に対する損害賠償請求債権はないこととなる。

五  次に被控訴人は、支払い約定があつた旨主張(請求原因4)し、成立に争いのない甲第一号証(念書)が、その記載内容から右主張に関する約定書と認められるが、右念書には「過失責任の範囲において求償に応じる」旨の記載のあることに照らすと、甲第一号証をもつてしては、前記四のとおり控訴人が伊藤豊に支払うべき損害額については既に填補されている場合においても、なお被控訴人の求償に応じる約定がなされたものとは認められず、他に被控訴人の主張を認めるに足りる証拠はない。

六  以上の次第で、被控訴人の本訴請求は理由がないので棄却すべきであり、これと判断を異にする原判決は被控訴人の請求を認容した限度で取消を免れず、また附帯控訴も理由がない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹村壽 梶本俊明 出嵜正清)

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