広島高等裁判所 昭和58年(う)157号 判決 1984年3月08日
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金二〇万円に処する。右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
第一控訴趣意に対する判断<省略>
第二職権による判断
職権で原判決を調査すると、原判決は、証拠の標目を挙示するにあたり、被告人及び各証人の原審公判廷における供述、証人尋問調書についてはその標題、種目を個別に明示しているが、その余の各証拠については公判調書の証拠等関係カードに記載された証拠の標目を番号により特定して引用することによつて挙示していることが明らかである。しかし、刑事訴訟法三三五条一項、刑事訴訟規則二一八条の二によれば、右のような引用の方法による証拠の挙示は、簡易公判手続で審理した事件以外は許されないのであつて、本件について右の手続によつて審判をする旨の決定がなされていないことは記録上明白であるから、原判決には不適法な方法による証拠の挙示をしたという訴訟手続の法令違反があるものというべきであり、適法に挙示された証拠のみによつては原判示の事実を認定することができないから、右の訴訟手続の法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は破棄を免れない。
そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書に従い、当裁判所において更に次のとおり判決する。(罪となるべき事実)
原判決記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(証拠の標目)
一 被告人の原審公判廷における供述記載
一 被告人の検察官及び司法警察員(二通)に対する各供述調書
一 証人嶋田健次、同花田高治、同中川康信の原審公判廷における各供述記載
一 証人中井秀雄に対する原審裁判所の尋問調書
一 司法警察員作成の実況見分調書三通及び死体実況見分調書
一 司法巡査作成の捜査報告書
一 医師一ノ瀬眞平作成の死亡診断書
一 峠達郎作成の図面
一 広島警察本部交通規制課長作成の回答書写
(干場義秋 荒木恒平 竹重誠夫)
《参考・原判決の「罪となるべき事実」および「証拠の標目」》
(罪となるべき事実)
被告人は、自動車運転の業務に従事するものであるが、昭和五七年九月一一日午後九時五分ころ、大型乗用自動車(バス)を運転し、広島市南区比治山本町一二番一八号先の交通整理の行われている交差点を、東から北へ右折進行するに際し、自動車運転者としては、交差点の内側で一時停止又は最徐行して対向車両の有無を確め安全を確認し、かつ、信号の表示に注意すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、おりから西から東に向け対向直進してくる大石周治(当時一九年)運転の自動二輪車を右前方約四九メートル地点に認めたものの、同車に対面する信号は青色を表示しているのに、その信号の表示を十分に確認しなかつたため、自車が交差点に進入後間もなく黄色に変つたものと、錯覚し、同車は、同交差点西側の一時停止線で停止するものと軽信し、時速約二〇キロメートルで右折進行を続けた過失により、間もなく同車の進路を塞いで、同車前部を、自車側面前部付近に衝突させ、よつて、同人に対し頭蓋底骨折、肺臓損傷等の傷害を負わせ、同人を同日午後一〇時三分ころ、同市中区国泰町一丁目五番一一号一ノ瀬病院において、同傷害により死亡するに至らしめたものである。
(証拠の標目)
一 被告人の当公判廷における供述
一 証人嶋田健次、同花田高治、同大石清香、同中川康信の当公判廷における各供述
一 証人中井秀雄に対する当裁判所の尋問調書
一 検察官申請の証拠等関係カード3乃至10、15乃至19、21乃至23
一 弁護人申請の証拠等関係カード2、4、5