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広島高等裁判所 昭和58年(う)37号 判決 1983年6月21日

主文

原判決を破棄する。

本件を岩国簡易裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は弁護人久冨進作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官佐々木信幸作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

所論は、要するに、「原判決は、中島新、小笠原剛、中村博樹の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書(以下本件各調書という)を証拠として挙示し、右の証拠などによつて被告人が酒酔い運転をしたとの事実を認定して有罪の判決をした。本件各調書は、いずれも原審において刑事訴訟法三二一条一項二号前段に定める供述不能にあたるものとして証拠調がなされているが、右の供述不能にあたらず、また、特信性もないから証拠能力がない。しかるに、本件各調書を証拠として取り調べて、これに基づき罪となるべき事実を認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある。」というのである。

そこで、検討すると、記録によれば、

一原判決は、証拠として本件各調書を挙示し、他の証拠と総合して、被告人が原判示の日時場所において自動車の酒酔い運転をしたとの事実を認定し、被告人を罰金三万五〇〇〇円に処する旨の判決をしたこと、

二本件各調書の立証趣旨は、いずれも被告人の犯行後の行動というのであつて、自動車事故を起こした直後の被告人が酒に酔つていて、その後警察官によつて連行されるまで飲酒していないことなどが記載されていること、

三本件各調書の供述者らは、本件の証拠決定がなされた当時いずれも中学校一年生(中島、小笠原はいずれも一三才、中村は一二才)であるが、その保護者らは、検察庁係官による再三の説得にもかかわらず、公判期日外の尋問の場合を含めて右の供述者らの証人尋問に応ずることを強く拒否していること、右の拒否の理由は、たかが交通違反のことぐらいで、わざわざ小松島(中島の転居先である徳島県小松島市)まで来て話を聞きたいなどとは呆れ返つてしまう、違反をした人と検事との意地の張り合いとしか思えない(中島の母)、証言によつて仕返しを受けることが絶対ないということを誓約する文書を貰わんことには証言させることはできない(中島の父)、被告人による報復のおそれやその子弟(中村の通学している中学校の生徒)との関係(中村の父母)、証人尋問の召喚状を受け取つて、始めて小笠原がこの事件に関わつていることを知つた、従つて親として出廷させることを認め難い(小笠原の母)などというものであること、

四原審は、一旦本件各調書の供述者らを証人として尋問することを決定し、召喚したが、その期日を変更した後、右の証拠決定を取り消し、本件各調書を刑事訴訟法三二一条一項二号前段に該当する書面として取り調べる旨を決定し、右決定に対する弁護人の異議申立を棄却してこれを取り調べたこと、

が認められる。

ところで、刑事訴訟法三二一条一項二号前段の「供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき」というのは例示的列挙であつて、これに準ずるような供述不能の場合を含むと解される。しかし、本件の出頭拒否に正当な理由があるといえないことはもとより当然であり、このように証人において正当な理由なく出頭を拒否しているに過ぎない場合(それが保護者の恣意に基づくにせよ)が、前記の供述不能の場合にあたるとして憲法三七条二項に定める被告人の証人審問権を奪うことはできない。してみると、本件各調書を刑事訴訟法三二一条一項二号前段に該当する書面として取り調べることは到底許されないところである。原審としては、すべからく、右の供述者らを再度証人として召喚し(その情操保護上心要がある場合には所在場所での公判期日外の尋問を行うなどして)、保護者らの説得に努めるべきであつたのであり、これらの努力をしても右の供述者らが出頭しないときは、同人らを勾引することも止むを得ないところであつて、右の勾引の措置を取つたからといつて、なんら少年法の精神に反するものではない。

してみると、証拠能力がない本件各調書を証拠として取り調べ、かつ、これを罪となるべき事実を認定する証拠として挙示した点において原審の訴訟手続に法令の違反があり、本件各調書を全部除外した残余の原判決挙示の証拠のみによつては原判示の事実を認めるのに十分ではないから、右の違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであつて、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

なお、原判決は、証拠の標目中に証人新庄康子の尋問調書を挙示しているが、記録によれば、右の証人尋問は、原審第四回公判期日に被告人が出頭しているのに、その当日、原審の裁判所である岩国簡易裁判所において、公判準備として被告人を立会わせることなく行われたことが認められ、右のような措置を取らねばならない特段の事由を認めることはできないから、右の証人尋問は違法なものというべきである。しかしながら、右の尋問調書の内容から考えて、原判示事実の存否に関係ある証拠ではないから、右の違法は判決に影響を及ぼすものではない。

そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決を破棄し、同法四〇〇条本文により更に審理を尽くさせるため、本件を岩国簡易裁判所に差し戻すこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(干場義秋 荒木恒平 竹重誠夫)

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