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広島高等裁判所 昭和58年(ネ)301号 判決 1988年6月28日

控訴人(原告) 総評全国金属労働組合広島地方本部東洋シート支部

被控訴人(被告) 東洋シート労働組合

補助参加人 株式会社東洋シート

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の物件を引渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

この判決は、第二、第三項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

控訴人は主文同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

第二当事者の主張

(控訴人組合)

一  請求原因

1 (一) 補助参加人会社(以下「会社」という)は、広島県安芸郡海田町東海田五五八七番地に広島工場を、兵庫県伊丹市に伊丹工場を有し、乗用車用シート等の製造販売を業とする会社であり、従前の組合としては、会社の従業員で組織された全国金属労働組合(以下「全金」という。)兵庫地方本部(以下「兵庫地本」という。)東洋シート支部(但し、昭和五四年四月二〇日当時のもの。以下「旧名称組合」という。)が存在し、その内部に前記工場単位で各分会があり、その役員、執行委員がおり、各分会毎に組合大会が開かれていた。

(二) 控訴人組合は、昭和五四年四月二〇日開催の旧名称組合広島分会臨時大会(以下「本件大会」という。)でした全金を脱退する旨の決議(以下「全金脱退決議」という。)が無効ないし不存在であるとしてその効力を争う組合員らが、従前どおりその組織を維持したもので、旧名称組合と同一性を有する労働組合である。これに対し、被控訴人組合は、右全金脱退決議が有効であるとしてこれに従い全金から脱退した者らが、新たに組織した労働組合であり、旧名称組合とは関係がない。

2 本件大会における全金脱退決議の無効ないし不存在

(一) 決議に至る経緯

会社は昭和五三年ころから旧名称組合の人事に介入し、また、会社の下級職制はそのころから、組合執行部の提案に故なく反対してその執行を困難ならしめ、昭和五四年二月の分会長選挙の際旧名称組合の元役員であつた一色邦男(以下「一色」という。)に対し立候補辞退を働きかけ、同年四月一八、一九日多数の組合員に対し全金脱退の署名を求めて全金からの脱退を画策した。しかし、旧名称組合広島分会執行部は右脱退の署名の事実を知りながら傍観し、大部分の組合員から脱退に賛成する旨の署名が集まつたことを知ると、その態度を一転し、組合が分裂する危機があると称して急拠本件大会を招集し、全金からの脱退を果たそうとした。

(二) 全金規約違反

旧名称組合が全金から脱退する手続は、上部団体である全金の規約の定めによるべきもので、旧名称組合の規約の定めによるべきものではない。右全金の規約によると、全金は労働者個人による加入脱退を前提として、全国を通じ単一体として組織された労働組合であり、組合員個人が全金に対し個々に脱退の届出をしたときに初めて脱退の効果が生ずるものである。その一支部である旧名称組合が団体名でその脱退届出をしても脱退の効力を有しないから、この様な関係にある旧名称組合が全金を脱退する旨決議しても、その決議は、それ自体全金の規約に反し無効であり、組合員個人に右脱退の効果を及ぼすものではない。

(三) 招集手続(遵守期間等)の違法

本件大会にも適用されるべき支部大会に関する旧名称組合の規約一二条によると、「大会を招集するには一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示しなければならない。但し、緊急止むを得ない場合はこの限りではない。」旨定めている。本件大会は、組合員の一部が昭和五四年四月二〇日旧名称組合広島分会執行委員長に対し、全金脱退賛成署名簿を添えて組合大会の招集を請求したところ、旧名称組合広島分会執行委員長は、右規約同条但し書の規定に従いその招集手続きをすることとし、一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示することなく、当日の僅か二時間後に、代議員を通じて口頭で招集され、開会されたものである。しかし、右規約但し書にいう「緊急止むを得ない場合」の要件に該当しないから、本件大会は右規約に反し違法であるから不存在というべきであり、また、本件大会の全金脱退決議はこの点で無効である。すなわち、(1) 全金から脱退する旨の議題は、旧名称組合の存立の是非を問う重要な議題であり大会で討議される以前に相当の熟慮期間を要する場合である。(2) 当時多くの組合員が全金脱退に反対しており、旧名称組合広島分会の執行部はこれを知悉していたか、知りうべき状況にあつた。(3) 旧名称組合広島分会執行委員長は、組合分裂の危機を避けるため緊急に大会を開く必要性があつたというが、そのような事情はなく、下級職制が組合役員など広島分会執行部の多数を占め団体で全金脱退を画策していたので、脱退決議をするためにのみ緊急性があつたのにすぎない。右規約但し書の解釈運用に裁量の余地があるとしても、その招集手続は右執行委員長の裁量権の範囲を越え濫用に当る。

(四) 採決の違法、決議の不存在

旧名称組合規約九条六号、四号によると、大会における採決の方法は、直接無記名投票又は挙手により行われ、決議は出席者の過半数により成立するとされているが、本件大会における採決の方法は、実際には全金脱退に賛成の者につき、初めに拍手採決、次いで挙手採決、最後に起立採決をしたところ、右起立採決により決議されたというが、右採決方法は規約にない方法によるものであつて違法である上、その起立者の数を数えず、また、採決当時すでに午後零時四〇分を過ぎており昼休み終了を予告する予鈴が鳴り、各人が職場に戻るため個々に立ち上がつていた時であつて、その起立が脱退に賛成の意思表示であるかどうか不明で、賛成者の数を数えることができない状態であつたのに、議長が一方的に起立多数により可決された旨宣言したのにすぎないから、決議が成立したものとはいえず、決議は不存在である。

(五) 大会定足数の不充足、議題の不明確

大会は、組合員総数の三分の二以上の組合員の出席により成立し、決議のときもその定足数が維持されなければならない(旧名称組合規約九条一号、四号)が、右決議の時点では、前記のように多数の組合員が退席中で、定足数を充足しておらず、大会自体成立していなかつたものである。また、議長から議題の明示がなく、「九〇数パーセントの組合員から全金脱退に賛成する署名簿の提出があつたが、執行部としても、これらの組合員の意思を尊重して全金を脱退することに賛成である。ついては、大会でその確認の決議をしたい。」というものであり、何の議案を提出したのか不明であつた。

3 (一) 全金兵庫地本は同年五月一日旧名称組合の執行委員長山下稔ら執行部九名に対し、制裁として、六か月間の権利停止処分をし、同年五月四日一色を執行委員長代行に指名したので、右一色の招集により、全金脱退決議に反対した一一名の組合員が同年同月七日旧名称組合の臨時組合大会を開き、執行委員長に一色を選任したほか、各役員、執行委員を選任し、旧名称組合を維持運営の上現在に至つており、それが控訴人組合である。

(二) 他方、旧名称組合伊丹分会においても全金脱退の決議がされ、同年四月二三日旧名称組合本部執行委員会において、右各分会の脱退決議に基づき、全金脱退の決議がされ、これに従い団体で全金を脱退する旨届出がされた後、吉田定雄ら広島分会の旧執行部は同年五月九日広島工場で、組合大会を開くなど所定の手続を経て新たに被控訴人組合を結成したものである。

4 (一) 別紙目録記載の物件(以下「本件物件」という。)は旧名称組合の所有であつたが、現在被控訴人組合が占有している。

(二) 前記2、3主張の経緯のとおり、控訴人組合は、旧名称組合と同一性を有する組合であるから、所有権に基づいて被控訴人組合に対し本件物件の引渡しを求める。

二  本案前の主張に対する控訴人組合の主張

1 控訴人組合は昭和五四年五月七日の臨時組合大会で一色を執行委員長に選任したが、右大会招集手続及び選任は有効であり、一色が正当に控訴人組合の代表権を有する。すなわち、(1) 当時旧名称組合執行委員長山下及び執行委員ら全員がすでに旧名称組合を脱退した後のことであるから、同人らに対し全金兵庫地本がした組合統制処分の効力の有無は、右選任の効力に関係がない。(2) 全金兵庫地本は同年同月四日一色に対し、全金規約一五条に基づく指導として、執行部が不在となつた旧名称組合を緊急に立て直すよう指示し、同人をその執行委員長代行に指名して臨時組合大会の招集権限を与え、一色はこれに基づき大会招集を代行した(民法五六条の仮理事の選任は、財産的取引をする法人についての制度であつて労働組合には適切ではなく、組合員全員による臨時大会を開き執行委員長選任の決議をしているのであるから、必ずしも右の仮理事を選任する必要がない。)。(3) 大会では全員一致で一色を執行委員長に選任したもので、その決議に不備はない。

(被控訴人組合)

一  本案前の抗弁

被控訴人組合

一色は控訴人組合の代表権がないので本件訴えは却下を免れない。すなわち、(1) 旧名称組合執行委員長山下及び執行委員ら九名は昭和五四年五月一日全金兵庫地本から六か月の権利停止処分を受けたが、右処分は規約の制裁手続によりされたものではなく、労働組合法を無視し旧名称組合の自主性を侵害したもので無効である。(2) 全金兵庫地本が同年同月五日一色を旧名称組合の執行委員長代行に指名したが、その法的根拠がなく(執行部の全員不在の場合民法五六条の仮理事の選任によるほか方法がない。)、無効である。(3) 一色は組合臨時大会を招集する権限がないのに同年同月四日これを招集し同年同月七日開会したので、その大会は成立せず、執行委員長選任決議も不成立ないし無効である。(4) 組合役員は、労働組合法五条二項五号、全金規約付属支部規約基準案三五条、旧名称組合選挙細則一条により組合員の直接無記名投票によつて選任決議をすべきところ、右大会ではこれによらず挙手採決及び一部の組合員の委任状による投票で決議しており、一色の選任決議は無効である。

二  本案に対する答弁

1 (一) 控訴人請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。旧名称組合は、昭和五四年四月二〇日の本件大会における全金脱退決議及びその後の伊丹分会における同趣旨の決議を基礎として、同年四月二三日旧名称組合本部執行委員会における同趣旨の決議をした上、これに基づき、同年同月同日全金兵庫地本に対し団体の脱退届出をして脱退した後、名称を変更した。それが被控訴人組合である。従つて、旧名称組合と同一性のある組合は被控訴人組合であり、控訴人組合は全金脱退に反対する者が新たに結成した労働組合で、旧名称組合と同一性がないものである。

2 本件大会における全金脱退決議の有効性

(一) 控訴人請求原因2(一)の事実は否認する。昭和五三年一二月ころから昭和五四年一月ころまでは、旧名称組合広島分会執行部の提出する議案がすべて否決されたため、上部団体である全金の指導方針に批判が集中し、全金を脱退せよとする組合員が多くなつて、組合員が任意に全金脱退に賛成する旨の署名をするに至つた。旧名称組合広島分会所属組合員の九〇パーセントを超える二九一名の組合員が昭和五四年四月二〇日午前一〇時ころ旧名称組合広島分会執行委員長吉田定雄に対し、全金脱退賛成署名簿を添えて、全金を脱退することを議題として、広島分会の臨時組合大会を招集するよう請求した。そこで、右執行委員長は直ちに執行委員会、代議員会を開いて審議の結果右招集請求のとおり臨時組合大会を招集することを決定した。しかし、右執行委員長は招集手続につき、後記(三)の事情から緊急止むを得ない場合として、同日午後零時一五分から昼休時間を利用して臨時組合大会を開く旨決定し、その旨代議員を通じ口頭で各組合員に告知して招集した。

(二) 同(二)の事実は争う。旧名称組合は本件大会の全金脱退決議等を基礎として全金から団体として脱退したが、全金脱退決議は有効で、これに反対の組合員についても、いわゆる引きさらい効果として、右脱退の効力が生ずるものである。すなわち、上部団体の全金が単一組織体であつても、旧名称組合は独自の規約、議決機関、役員、財産ことに会計を有し、組合活動について必ずしも全金中央本部、兵庫地本の指令に拘束されず独自の活動をしており、実質的に旧名称組合がその構成単位として機能していたから、旧名称組合が独自に全金脱退の決議をすることができ、その結果旧名称組合が団体で全金から脱退することができる(この場合それに反対する組合員は新たな組合を結成することができるから、その保護に欠けるところがない。)。敷衍すれば、旧名称組合の規約は、従前の大阪マツダ労働組合の規約がそのまま承継されたもので、全金規約とは異なる点があり、抵触する場合全金規約が優先する旨の規定(全金中央本部規約八九条二項)は旧名称組合が加盟した当時には存在しなかつた上、旧名称組合がこれを承認したことがなく、右規約は組合の既得権及び自主性を侵害するもので、憲法二八条、民法九〇条に違反し無効である。また、全金への加入手続は旧名称組合が団体でしており、組合員が中央本部に対し個々に加入手続をしたものではなく、中央本部は組合員数を把握するだけで個々の組合員については、兵庫地方本部が旧名称組合からの一括届出により把握していたのに止どまり、それも実際には、組合員数を大幅に下回つていた。

(三) 同(三)の事実は争う。本件大会は、旧名称組合執行委員長の裁量により、旧名称組合規約一二条但し書の緊急止むを得ない場合として招集されたもので、適法である。すなわち、(1) 前記のとおり、旧名称組合が全金から脱退すべきかどうかは、その執行部に対する批判の高まつた昭和五三年一二月ころから本件大会の昭和五四年四月二〇日までの間各組合員において考慮する期間が十分に存在したもので、多数の組合員が熟慮の結果、全金から脱退することに賛成の署名をしており、大会招集の通常の方法である一週間前までに議題等必要な事項を告示して行う必要がなかつた。(2) 全金脱退賛成の署名については何等職制から組合員に対する強制はなく、また、その署名者は組合員の圧倒的多数を占めていた。(3) 右署名簿に基づく組合員らの大会招集請求より大会まで告示期間を一週間も置いた場合、旧名称組合は事実上分裂する危機にあり、分裂により大会を開けない事態を招かないように配慮し、組合の組織を維持することが緊急重要な課題であつた。(4) 緊急止むを得ない場合に関する従前の運用はかなり緩やかであつた。たとえば、昭和四二年一一月二五日及び昭和四九年一二月三日の各広島分会の臨時大会は、いずれも、招集した当日に開かれている。従つて、前記の事情から、緊急止むを得ない場合に当たるとして大会招集手続をとつた執行委員長の裁量は相当であり、なんらの誤りもない。

(四) 同(四)の事実は争う。全金脱退決議は、一旦拍手採決の後最終的には起立採決により決議されたが、右起立採決はその性質上旧名称組合規約九条六号にいう挙手採決より厳格な採決法というべきであるから、その方法が規約違反であるとはいえず、また、前記のように、全金脱退に賛成の者が組合員の九〇パーセント以上あることは既に署名簿の記載から明らかであり、初め拍手採決をしたとき多数の者の拍手があり実際にはそれで決議が成立していたけれども、なお念のため起立採決をとり、その起立者の数は確認しなかつたけれども、右署名簿の数からみて出席者の三分の二以上であることが明かである。

(五) 同(五)の事実は争う。大会は、組合員総数三一九名のうち定足数である三分の二以上の二一八名が出席したので、成立している。また、議題は、全金脱退の可否についてであり、そのことは大会で明示しているばかりでなく、出席組合員の周知のところである。

(六) その後、旧名称組合本部執行委員会が、昭和五四年四月二三日、兵庫地本に対しその脱退届出をしたことは前記1(二)のとおりである。

3 (一) 同3(一)の事実のうち、全金兵庫地本が控訴人主張の日時に旧名称組合執行委員長山下稔ら九名の者に対しその主張のような権利停止処分をしたことは認めるが、その余の事実は争う。同(二)の事実のうち、控訴人主張の日時にその主張のような議決をしたことは認めるが、その余の事実は争う。

(二) 同3(二)の事実は認める。

4 (一) 同4(一)の事実のうち被控訴人組合が本件物件を占有していることは認めるが、その余の事実は争う。前記の主張のとおり、本件物件は被控訴人組合の所有である。

(二) したがつて、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却されるべきである。

第三証拠関係<省略>

理由

第一本案前の主張について

一  被控訴人組合は一色が控訴人組合の代表権を有しないので本件訴えは却下すべきである旨主張する。

控訴人組合は、その組合員と主張する者らで組織された組合でありその代表者が一色であると主張するので、控訴人組合が旧名称組合と同一ないしこれを承継したものであるかどうかとの争点についての判断は暫くおいて、右主張について検討する。各成立に争いのない甲第三、第五号証、乙第二、第三号証、原本の存在と成立に争いのない甲第一二一号証、丙第一号証、弁論の全趣旨から各成立が認められる甲第一、第二、第七、第一三号証、各官署作成部分の成立に争いがなくその余の部分の各成立が弁論の全趣旨から認められる甲第四号証、甲第六号証の一ないし九、甲第八ないし第一〇号証、原審証人大山勝也、当審証人飯田功、同松坂茂美の各証言、原審及び当審における控訴人組合、原審における被控訴人組合各代表者本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

旧名称組合広島分会は昭和五四年四月二〇日本件大会において全金脱退決議をし(但し、その成立、効力の点は暫くおく。)、同伊丹分会は同年同月二一日その大会において同旨の決議をし、同本部執行委員会が同年同月二三日旧名称組合が全体として全金から脱退する旨決議し、本部執行委員長が同年同月同日全金兵庫地本に対し団体名でその脱退届出をした。兵庫地本は同年五月一日旧名称組合執行委員長山下稔ら執行部九名の者に対し、組合の統制処分として六か月間の権利停止処分をした上、上部組織組合の指導措置として同年五月四日一色を旧名称組合の委員長代行に指定し、旧名称組合を早急に立て直すよう指示した。そこで、一色は同年同月同日本件大会等で全金を脱退しない旨意思表示している者一四名に対し、旧名称組合の臨時大会を同年五月七日海田町教育会館において役員選任等の件で開く旨告知したほか、従前の組合員に対しても、その旨記載したビラを配布して、大会を招集した。右大会が予定通り開かれ、一色が出席組合員一一名の全員挙手の方法で右執行委員長に選任され、同年六月一日の大会でその名称を全金広島地方本部東洋シート支部(控訴人組合)と改めた。控訴人組合の組合員はその後五八名まで増加したが、脱退、退職などにより、現在は控訴人組合主張の二〇名及び一色ら執行部の者らになつた。

以上のとおり認められる。

右認定の事実により検討すると、(1) 右認定のように旧名称組合執行委員長山下及び執行委員ら九名が兵庫地本から六か月の権利停止処分を受けているが、右五月七日の大会の当時同人らは既に全金を脱退しているから、その統制処分の効力の有無は大会の成否に直接の影響を及ぼさない。(2) 兵庫地本が一色を委員長代行に指名したことは、執行委員長及び執行委員の全員が不在となつたことに対処するため、上部組織である兵庫地本が下部組織組合に対する指導として暫定的にしたものであり、当時の状況から止むを得なかつたものというべきであり、この場合に、民法五六条の仮理事を選任する必要がないと解される。(3) 一色は兵庫地本から委員長代行の指名を受けているのであるから、大会招集の権限を有するもので、大会は成立しその大会でなされた役員選任決議も有効である。(4) 組合役員選任決議の方法が組合員の直接無記名投票によるべきことは、全金規約五七条の趣旨、旧名称組合選挙細則一条(この点は、前記甲第一、第三号証から認められる。)及び労働組合法五条二項五号に定められているけれども、右各規定の趣旨は、投票の自由及び秘密を確保しようとするものであると解されるところ、出席者全員一致による挙手採決で執行委員長を選任する旨決議した場合は、例外としてこれを認めても、右各規定の趣旨に反するものとはいえない。また、その採決に当たり欠席者につき委任状による投票があつたとする被控訴人組合の主張はこれを認めることのできる証拠がなく、後記二1(一)認定の規約の関係からみても、一色の右選定手続に特に違法の点は見当たらない。従つて、一色は控訴人組合の執行委員長としてその代表権を有するものということができ、この点の被控訴人組合主張は理由がない。

第二本案について

一  控訴人の請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  1 前記一冒頭記載の各証拠、各成立に争いのない甲第一六、第一七、第三四号証、乙第一〇号証の一、丙第五号証、各原本の存在と成立に争いのない甲第二六、第一一六ないし第一一八号証、丙第六号証、弁論の全趣旨から各成立が認められる甲第一一、第一四、第二五号証、第三〇号証の一ないし一〇、甲第六〇ないし第一〇七、第一〇九ないし第一一一号証、乙第九号証、会社内の写真であることに争いのない甲第二四号証の一ないし五、当審証人黒瀬了、同中川賢二、同百田正義(但し、一部認定に反する部分を除く。)、原審証人大橋義人、同向山國一、原審及び当審証人原田邦雄(但し、一部認定に反する部分を除く。)、同田中主税(但し、一部認定に反する部分を除く。)、同橋本博の各証言、原審及び当審控訴人組合、原審被控訴人組合各代表者本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  旧名称組合の規約によると、広島分会、伊丹分会を通じた組合大会、執行委員会、代議員会、執行委員長などの役員、執行委員、代議員の定めがあり、組合大会が最高の議決機関であるとされているが、他方、本部執行委員会規約では本部執行委員会が旧名称組合の最高の議決及び執行の機関であると定めており、両規定の関係についての定めはない。広島及び伊丹各分会の議決及び執行機関等についてはそれを定めた規約が一切存在しないが、慣行として、右全体を通じた規約を各分会にも類推適用ないし準用すべきものとして運用され、各分会長をその執行委員長と呼んでいた。本部執行委員会は、両分会の各執行委員長、副執行委員長、書記長、及び広島分会執行委員四名で構成され、両分会の決議を基礎として(その間に差異があるときは適宜調整する。)議決し、これに基づき執行しており、さらに全体を通じた大会を開かないのが通常の取扱いであつた。

(二)  旧名称組合は全金に加盟後その指導の下に組合活動を続けていたが、昭和五三年春及び秋に賃上げ闘争のためにストライキまでしたのにいずれも会社からゼロ回答があつたこと、その後にも、組合費等が増大し、多数の退職者が発生したことなどから、旧名称組合執行部及び全金の指導方針に批判を抱く組合員が漸次多くなつた。広島分会においては、同年九月頃から執行部の提案による執行委員会の決議が、代議員会において了承されず、代議員の間において執行部批判の声が強くなり、そのため、昭和五四年一月に執行部役員、執行委員が改選された。しかし、その後全金を脱退すべきであるとの意見を持つ組合員が次第に多くなり、下級職制である一部の組合員が、個人的に会合し、全金から脱退することにつき賛成の者の署名を集め、これに基づき組合大会を招集するよう請求することとし、外部からの干渉を避けるため、隠密裡にその賛成者から署名を集めるべく、同年四月一八日、一九日の両日七五名の組合員が発起人となり各組合員に対し、全金脱退の趣意書を配布して署名を求め、広島分会の組合員総数三一九名のうち二九一名の組合員の署名が集められた。そこで、右発起人代表者が同年四月二〇日午前一〇時ころ旧名称組合広島分会執行委員長吉田定雄に対し、右署名簿を添え、全金を脱退することを議題として、臨時組合大会を招集するよう請求した。

右執行委員長は、本部執行委員長山下稔とも連絡の上、直ちに執行委員会を開き同日午後零時一五分から昼休み時間を利用して臨時組合大会を開くことを決議し、さらに代議員会も開いて同旨の決議をした。旧名称組合規約一二条によると、「大会を招集するには執行委員長は開催の一週間前までに議題その他必要な事項を組合員に告示すると共に、大会運営委員に通知しなければならない。但し、緊急止むを得ない場合はこの限りでない。」旨定められているが、右執行委員長は右規約同条但し書にいう緊急止むを得ない場合に当るものとして、その招集手続をとることとし、同日午後零時一五分から昼休み時間を利用し、検査係前広場において、全金脱退の可否を議題として、旧名称組合の臨時大会を開催する旨招集し、その告知手続は、同日の代議員会において各代議員を通じ各組合員に対し、口頭告知するよう決議し、各代議員がその決議に基づいて各組合員に対しその旨口頭告知した上、同日午後零時二〇分ころから右告知のとおり大会が開催された。本件大会において、議長が全金脱退が可決された旨宣言した(但し、その効力の点は暫くおく。)。

(三)  ところで、前記のとおり旧名称組合広島分会組合員の多数の者が、全金脱退に賛成の署名をしているけれども、右署名は、組合員である下級職制のうち直接の上司が職場で部下の組合員に対し、強くその署名を求める方法でされたため、中には断り切れずに署名したものもあり、また、職場討議もなかつたので、これについて十分考慮する余裕もないまま大会に望んだ者が多く、大会後にその署名が本心に基づくものではなかつた旨述べてこれを撤回した者が相当あつた。しかし、右執行委員長は、多数組合員の全金脱退の気運が高まつたこの機会を逸することなく、直ちに大会を開き、一挙に全金脱退決議を成立させる必要があるとの情勢判断を行い、その事情が規約同条但し書の緊急止むを得ない場合に当るとして、その方法で前記のとおり大会を招集する旨裁量し決定した。従前、旧名称組合広島分会における大会の招集告示期間は二日ないし四日として、運用されたことが多く、特に、(イ) 昭和三八年に全金に加入する際執行委員会で決定した翌日に代議員会を開き代議員を通じ各組合員に対し口頭で告知する旨決議し、当日の午後五時ころ臨時大会を開いたことがあるが、その時は組合員に対する解雇について会社との団交が行き詰まり、それに対抗するには、組合が早急に強力な上部団体である全金に加盟し、その指導、援助を得なければその局面を打開できない状況に置かれたため、緊急に右解雇処分撤回及び全金加入を関連の議題として、臨時大会が開かれた。(ロ) 昭和四一年一一月二五日の臨時大会は、執行委員会で決議した翌日開かれたが、緊急に回答すべき年末一時金の団交受諾に関する件が議題であつた。(ハ) 昭和四九年一二月三日の臨時大会は、執行委員会で決議をした当日開いているが、執行部の信任が議題で、直ちに開かないとその執行に支障を来すとの判断で開いたものであり、しかも、その大会では決議せず、一週間後に組合員の直接無記名投票により結局信任されたものである。

以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。

2 そこで、旧名称組合広島分会執行委員長吉田定雄のした本件大会招集手続が旧名称組合規約一二条但し書にいう「緊急止むを得ない場合」に当たるとして一週間の告示期間を置かないでなされた本件大会における全金脱退決議の効力について検討する。

旧名称組合規約一二条本文の趣旨は、大会における議題等必要な事項を事前に組合員に告知するばかりでなく、これを周知徹底し、その議題等に関し十分に調査検討する機会を与えたものというべきところ、その組合が上部の所属団体から脱退するかどうかという議題は、その組合の運営に関する最も重要で基本的な問題であり、そのいずれに所属するかは組合員個人の身分、今後の経済闘争の結果など多大の影響を及ぼすことが予測されるから、通常の場合以上に、組合員にその準備をする十分な時間的余裕を与え慎重に考慮するための期間を確保すべきであり、そのためには、規約に定めた一週間の告示期間を厳守し、手続の公正を確保することが組合の民主的運用の基本であるといわなければならない。この様な議題の性質上、執行委員長としては、右規約同条本文の招集手続をとるべきであり、簡易な方法である同条但し書の緊急止むを得ない場合としてその招集手続をすべきではないといえる。まして、前記認定事実から明らかなように、全金脱退に反対の者がまだかなりの数に達していたのであるから、十分に考慮する期間を確保することが右規約の趣旨に沿うものである。しかるに、旧名称組合広島分会執行委員長は、多数組合員の全金脱退の気運が高まつた時期を逸することなくその議決をすべきものとの情勢判断に基づいて、規約同条但し書による招集手続をとつたものであり、未だ緊急止むを得ない場合に当るものとはいえない。前記認定のうち、旧名称組合の各執行委員長が過去において同条但し書によつて開いた大会の事例については、その緊急止むを得ない場合とした判断につきそれなりに首肯することができるけれども、これらはいずれも本件大会の場合と事情を異にし右事例があるからといつて本件大会の決議をも有効であるということはできない。そして、規約同条の如何なる手続で大会を招集するかは執行委員長の裁量に属するものといえるが、右認定の事情の下で本件大会につき規約同条但し書の緊急止むを得ない場合による招集手続をしたことは、裁量権の範囲を超えるもので、違法といわざるを得ない。

従つて、その余の点につき判断するまでもなく、本件大会における全金脱退決議は無効であるということができる。

3 前記第一の一認定のように、旧名称組合の本部執行部において全金を脱退する旨の決議をなし、その執行として本部執行委員長が兵庫地本に対して旧名称組合としての脱退届出をしているのであるが、右執行部の決議は本件大会の全金脱退の決議を基礎としてされたものである以上、本件大会の決議が前記のとおり無効であれば右本部執行部の決議もまた無効といわざるを得ず、その決議の執行として本部執行委員長が兵庫地本に対して旧名称組合の名においてした脱退届出もその効力を生ずるに由ない。

4 前記1冒頭の各証拠を総合すると、次の事実が認められる。

全金規約六二条、六四条、兵庫地本規約三三条、三四条の趣旨からみると、団体脱退の可否はさておいて、組合員が個人の資格でこれを脱退することができる旨定められているところ、前記のとおり旧名称組合の本部執行委員長は昭和五四年四月二三日兵庫地本に対し団体名でその脱退届出をなし、右脱退者において同年五月八日に臨時組合大会を開き、会社従業員二三八名が出席の上、所要の規約改正、名称の変更(被控訴人組合名)などを決議し、その後旧名称組合は消滅して存在せず、全金とは一切関係がない旨主張し、被控訴人組合として組合活動を続けている。一方、控訴人組合は、前記第一の一認定のように、一色ら役員を選任し、その旨兵庫地本に報告した時点では、組合員数は一四名であり、その後の大会で、広島地方本部に組織変えし、組合員数も増加し、独自の組合活動を行つて現在に至つている。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

前記のとおり本件大会における全金脱退決議が無効であるため、旧名称組合本部執行委員長が兵庫地本に対して旧名称組合の名においてした脱退届も無効であるが、右認定の事実、前記第一の一認定の事実、前記各説示によると、全金脱退決議に賛成した者は個人の資格において集団的に、全金を脱退する意思をも有していたと推認するのが相当で、執行部、さらには、兵庫地本に対する通知も右趣旨を含んでいたものと認めることができ、同人らはすべてそのころ個人として全金に所属する旧名称組合から脱退したものというべきである。従つて、被控訴人組合は、右脱退者らが脱退後に旧名称組合とは全く無関係な組合として新たに結成されたものであつて旧名称組合とは同一性がない。一方、昭和五四年五月八日ころの時点では右一色ら一四名が旧名称組合に残留し、控訴人組合名を称するに至つたとみることができるので、控訴人組合が旧名称組合を維持しまたは継承しこれと同一性を有するものであるということができる。

三  前記一、二の各事実からみると、控訴人組合が旧名称組合を維持存続した組合であり、本件物件は控訴人組合の所有に属するものということができ、被控訴人組合が本件物件を占有していることは当事者間に争いがないので、被控訴人組合は控訴人組合に対し本件物件の引渡義務を負う。

四  以上のとおりであるから、控訴人組合の本訴請求は理由があるのでこれを認容すべきところ、これと異なる原判決は相当ではないのでこれを取り消した上前記のとおりその請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三 高木積夫 池田克俊)

物件目録<省略>

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