広島高等裁判所 昭和63年(う)129号 判決
論旨は,要するに,…中略…本件事故はI(被害者)の一方的過失によるものであり,被告人に過失はないから,原判決には明らかに判決に影響を及ぼす事実の誤認ひいては法令の適用の誤りが存するというのである。
そこで,所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原判決挙示の各証拠を総合すると,本件事故は,Iの不注意もあったとはいえ,被告人の原判示のとおりの過失に基づき起こったことを認めるに十分であり,当審における事実取調べの結果もこれを左右しない。以下,若干補足して説明する。
所論はまず,原判決は,被告人の過失を認定する前提として,本件事故の現場(以下「本件現場」という。)には車両等の通行が予測されると認定したが,本件のときのように岩壁から水面貯木場付近まで木材を運搬する本船作業の際は,本件現場付近ではフォークローダーのみが木材のピストン輸送に当たり,他の車両の乗り入れは禁止されていたもので,実際乗り入れる車両は皆無であったから,右認定は誤っている旨主張する。
しかしながら,関係各証拠によれば,本件現場は財団法人H県木材公社がH県から委託を受けて管理している木材運搬用通路であり,同所への出入りは,通常開かれている1か所の出入口の守衛所で部外者に対するチェックがなされていたものの,木材輸入業者等の関係者については格別制限もなく,同人らは業務の必要上若干の危険を承知のうえで本件現場等を自動車で通行し,右状態はフォークローダーが前記本船作業をするような場合も変わりはなかったことが認められ,右事実によれば,本件現場には車両等の通行が予測されるとした原判決の認定に誤りはない。弁護人は右認定に沿うU,H及びIの原審公判廷における各供述は信用できない旨主張するが,右各供述は具体的かつ自然で,しかも本件現場の監理責任者であるH県木材公社A事務所長Wの司法警察員に対する供述調書の内容等ともよく符合し,十分信用できるというべきである。所論は採用できない。
所論は次に,原判決は,被告人がフォークローダーのフォーク部を低位置にして進行すべきである旨認定したが,被告人は本件事故時フォークローダーで約16.3メートルという長大な材木を運搬しており,しかも通路の左側には最頂部が約3メートルの木材の山があったうえ,通路の右側に寄れば本船から木材を降ろしてくることがあって危険であったから,被告人はフォークローダーのフォーク部を低位置にして進行することはできなかった旨主張する。
確かに,被告人は本件事故当時フォークローダーで長さ約16.3メートルの木材を運び,通路の左側には最高部約3メートルの材木の山があったことは所論のとおりである。
しかしながら,関係各証拠によれば,本件事故現場付近の通路は約32メートルの幅員があり,被告人は右通路の右側部分をかなりあけて進行していたことが認められ(所論は通路の右側に寄れば本船から木材を降ろしてくることがあって危険であった旨主張するが,少なくとも本件事故の際右部分で木材を降ろす作業をしていなかったことは明らかである。),右事実によれば,被告人がフォークローダーのフォーク部を低位置にして進行することは十分可能であったというべきである。所論は採用できない。
所論は更に,原判決は,その補足説明において,被告人がI車を発見した後直ちに制動措置を講じていれば本件事故は防止できたとして,I車を発見した際軽くブレーキを踏んだ後急制動の措置をとった被告人の運転方法を問題にしているが,被告人の右制動方法は当時の状況からみてやむを得なかったものである旨主張する。
確かに,被告人がI車を発見した際,直ちに急制動の措置を講じていたとしても,その結果フォークローダーが前に傾きIの対応等によっては事故が起こった可能性もないではなく,また逆に,本件のようにI車を発見した際軽くブレーキを踏んだ後急制動の措置をとった場合でも右同様Iの対応等により(本件ではIが停車したことがかえって結果的に事故につながったことがうかがえる。)事故が起こらなかった可能性もないではないから,被告人のとった制動方法についての原判決の説示は必ずしも当を得ていないけれども,原判決はその(罪となるべき事実)で明らかなように被告人の過失をI車を発見してから後に求めず,正当にその前でとらえているのであって,原判決の措辞やや適切さを欠くとはいえ,所論の点は原判決の認定した被告人の過失を論難する根拠となり得ないというべきである。所論は採用できない。
右のとおりであり,その他の所論の点を考慮しても,原判決に事実誤認あるいはこれに基づく法令の適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。