大判例

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広島高等裁判所 昭和63年(う)243号 判決

論旨は要するに,被告人は本件公訴事実と同一の被疑事実につき2度も逮捕,勾留されたものであって,かかる身柄拘束の不当な蒸し返しは本件公訴提起の効力を無効ならしめるものであるから,刑事訴訟法338条4号により本件公訴は棄却されるべきであるというものである。

そこで所論にかんがみ記録を調査して検討するに,原審で取り調べた関係証拠を総合すると,原判決が所論同旨の原審弁護人の主張につきその補足説明の項において認定した事実及びそれに基づいてなした判断は,当裁判所においてもすべてこれを正当として是認することができ,当審における事実取調べの結果によるもその結論を左右するに至らない。

所論は,(1) 憲法及び刑事訴訟法は再度の逮捕,勾留を許していないと考えられるし,(2) 特別の事情があるときには,例外的にこれが許されると解し得るとしても,本件においてはそのような特別の事情はない旨主張するので,この点につき若干補足すると,憲法には再逮捕,再勾留を禁ずる規定はなく,令状主義の原則の範囲内でこれを法律に委ねているものと解すべきところ,刑事訴訟法199条3項,刑事訴訟規則142条1項8号は再逮捕が許されることを予想した規定と解され,したがって明文の規定はないけれどもこれに続く再勾留についても法は必ずしもこれを禁止するものではないと解すべきであるが,同一の被疑事実による再度の逮捕,勾留を何らの制約なしに認めることは,逮捕,勾留につき厳格な時間的制約を定めた法の趣旨を没却することになるから許されず,事案の軽重に応じて,先行する逮捕,勾留期間の長短,その間の捜査経過等に徴して,社会通念上捜査機関による捜査の続行がやむを得ず,これが身柄拘束の不当な蒸し返しとは認められない等特別の事情があるときに限り例外的に許されると解すべきである。そしてこれを本件について見るに,原判決がその補足説明として説示しているような事実経過=すなわち被告人が出頭した当時の異常な言動,その後の取調べにおける不自然な供述内容,勾留期間を延長しての精神衛生診断医による診断と県知事への通報,さらに精神衛生鑑定医による診察及び診断とそれに基づく措置入院,病状回復後の再逮捕とそれに続く3日間の再勾留による取調べ後の起訴=に加えて,その当時の被告人の不安定な身上関係,本件事案の罪質,態様等に徴すると,本件においては右のような特別の事情があったものということができ,そこに本件公訴提起を無効ならしめるような手続違背は認められず,所論は採用することができない。

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