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広島高等裁判所岡山支部 平成10年(ネ)158号 判決 2000年9月14日

控訴人 A野太郎

右訴訟代理人弁護士 河田英正

同 近藤幸夫

同 嘉松喜佐夫

同 清水善朗

同 山本勝敏

同 秋山義信

同 石田正也

同 佐藤知健

同 井上健三

同 谷和子

同 的場真介

同 山崎博幸

同 大神周一

同 小串典介

被控訴人 世界基督教統一神霊協会

右代表者代表役員 江利川安榮

右訴訟代理人弁護士 和島登志雄

同 鐘築優

主文

一  原判決中控訴人と被控訴人に関する部分を取り消す。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一七二万五〇〇〇円及びこれに対する平成元年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、控訴人と被控訴人間に生じたものは、第一、二審を通じてこれを七分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人と被控訴人に関する部分を取り消す。

2  被控訴人は控訴人に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成元年一二月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用中、控訴人と被控訴人間に生じたものは、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の要旨

控訴人は、被控訴人あるいはその信者らの違法なマインドコントロールを伴う勧誘・教化行為によって、被控訴人に対し、献金をし、セミナー参加費・腕時計(シャルム)購入代金を支払うことを余儀なくされ、また、宗教選択の自由を不当に侵害されたうえ、その人格権を侵害され、霊感商法等数々の反社会的経済活動をする反社会的集団に心ならずも所属させられてその一員として活動させられ、いわば心を乗っ取られたことにより多大な精神的苦痛を被ったとして、民法七〇九条又は七一五条に基づき、被控訴人に対し、献金額相当の七四万七〇〇〇円、セミナー参加費相当の一二万五〇〇〇円、腕時計購入代金相当の一二万八〇〇〇円、精神的損害一〇〇万円の損害金合計二〇〇万円及びこれに対する不法行為後(訴状送達日の翌日)である平成元年一二月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めた。

これに対し、被控訴人は、控訴人を勧誘・教化したのは、被控訴人の信者を中心に独立して設立された別組織であって、被控訴人は何ら関与しておらず、また、信者らは、被控訴人の職員ではないから指揮監督関係はない上、被控訴人の事業の執行につきなされたものともいえない旨、また、信者らによる本件の勧誘・教化行為は、信教の自由の範囲内でなされ社会通念上許された伝道活動であり、控訴人は自由な意思決定により宗教的確信に基づいて、被控訴人の教義を信仰し、宗教活動をなしたものである旨主張して、不法行為の成立を否認し、損害の発生を争う。

第三当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決「第二 当事者の主張」欄に記載された当事者双方の主張のとおりであるから、これを引用する。

原判決七頁一行目「発刊し」の次に「(教理解説書として、その後、日本語版『原理講論』が発刊されている)」を挿入し、八頁三行目「伝導所」を「伝道所」と、一四頁一行目「完成する」を「完成すること」と、一六頁五行目「行為」を「行為の正しさ」と、二三頁七行目、八行目の各「伝導活動」をいずれも「伝道活動」と、五四頁七行目「待って」を「持って」と、六五頁二行目「いつものとおり以上」を「普段と」と、七二頁六行目「会社」を「勤務先」と、同頁九行目「昭和六二年」を「昭和六三年」と、八四頁七行目「布教活動」を「宗教活動」と、それぞれ訂正する。

理由

第一当事者について

次の事実は当事者間に争いがない。

一  被控訴人

世界基督教統一神霊協会は、昭和二九年に韓国ソウルで設立された宗教団体であり、教義創始者は韓国人文鮮明である。同会の教えは、昭和三三年韓国籍の崔翔翼(チェ・サンイク、日本名西川勝)により、日本にもたらされ、同会の教えを奉ずる信者らは、宗教団体日本統一教会を創立し、昭和三五年、教理解説書「原理解説」を発刊し(教理解説書として、その後、日本語版「原理講論」が発刊されている)、昭和三九年七月、東京都知事から宗教法人法一四条に定める規則を認証する旨の決定を受け、同月一六日、被控訴人「世界基督教統一神霊教会」として、宗教法人の設立登記を経た。

被控訴人は、各都道府県に布教所を置き、地区本部、教会又は伝道所等を設置している。

被控訴人の目的は、神と人間の究極の理想である人間完成と地上天国を実現するところにあるとしており、その教理である統一原理は、創造原理、堕落論、復帰原理の三つから成る。

その内容の概要は、原判決九頁一行目から一五頁八行目までに摘示するとおりである。

二  控訴人

控訴人は、被控訴人に在籍していたが、脱会した者である。

第二争点判断の基礎となる事実について

一  被控訴人あるいは信者組織の宗教活動あるいは経済活動の実態

原判決一〇〇頁一一行目から、一一五頁八行目までに認定説示するところと同一であるから、これを引用する。

二  被控訴人の教義と被控訴人あるいは信者組織の経済活動

前示認定の事実に、《証拠省略》を総合すると、次のとおり認定できる。

1  被控訴人の教義として、万物復帰の教えがあり、これは、堕落して万物より劣る身になってしまった人間が、万物を主管してゆく神の子としての本来の姿に戻るための条件として、神に対して万物を復帰させる(棒げる)というものであり、その具体的な実践として、真心を尽くして神に献金すべきこととされる。

さらに、教祖である文鮮明や、被控訴人の会長等の幹部によって、「借りてでも天に捧げようとする心がなくてはならない。」「死ぬようなことがあっても万物復帰をすることに合格しなければならない。」「お金は人類のため神様に仕えたいと思っている。お金の方が先生が好きで集まってくる。いずれ近い将来にはこの団体が世界で一番お金持ちになるだろう。神様が所有すべきなのにそれを失ってしまったのだから、取り戻すべき責任が私たちにはある。万物を取り戻して神様の前に棒げなくてはならない。」「神様はすべてを失い、サタンがすべてを主管してしまった。世の中のすべての万物を取り戻して神様の所有にしなければならない。」「まず経済訓練をして次に人を愛する訓練をしなければならない。」「みなさんはまず、経済問題に対して責任を負うのです。」「昼食一食分にも満たない献金をするのでなく、自分の生命、全財産にも当たるすべてを棒げるのです。」「無理なくしては復帰はできない。」「この世的に見れば最悪でも、天的にみれば最善のことなのです。」「脅迫であっても真の愛を毎日飲める人をつくれば、神はよくやったと言われるでしょう。」「キリスト教では長い間一〇分の一献金という発想をしてきた。しかし今ではそういう悠長なことはやっておれない。今では百パーセント神に帰さねばならない。その内容は何かというと、結局宗教の精神を示すために経済を通してやるという道である。」等と説かれる。

2  そして、被控訴人の信者が役員となって株式会社ハッピーワールド、株式会社世界のしあわせ等及びその傘下の販売会社を経営し、韓国の統一教会企業である一信石材工芸、一和等で製造された大理石の壺、多宝塔、高麗人参濃縮液を輸入し、被控訴人の信者がその実践活動として、詐欺的で暴利的な霊感商法によって販売してきた。

また、被控訴人らの信者らはその実践活動として、街頭で珍味売りをしたり、宝石、毛皮、呉服、絵画の展示会を開いてこれらを販売し、自ら被控訴人に多額の献金をし、あるいは他者に働きかけて多額の献金をさせてきた。

被控訴人の信者は、経済活動をするに当たって、天法は地法に優ると信じ、地上天国の実現のために「復帰した万物」を用いるのであるから、他人を騙してもそれは、その人のためには罪滅ぼしになり、その人のためになるものと考え、詐欺的商法に対しても罪障感をもたないまま、販売マニュアルに沿って販売成績をあげることに懸命となる。

3  被控訴人の信者が、献金勧誘活動、販売活動等の経済活動によって得た多額の資金は、信者のもとには残ることなく、ほとんど被控訴人に渡る。

以上認定した事実からすると、被控訴人自ら、あるいは、少なくともその信者組織において万物復帰の実践のための活動として、霊感商法等違法な商取引を含む系統的・組織的な資金獲得活動をしてきているものと推認するほかない。

三  控訴人に対する勧誘から脱会までの経緯

控訴人に対する勧誘から脱会までの経緯は、原判決一二三頁八行目「ビデ才」を「ビデオ」と訂正し、次のとおり付加し改めるほかは、原判決一一六頁一〇行目から、一五三頁一一行目までに認定説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決一一六頁一〇行目から一一行目の「甲第一九号証」から「第二八号証」までを「甲第一九ないし第二八号証」と改める。

2  原判決一二七頁六行目「ことであった。」の次に、「しかし、これは偽りであって、B山松夫は、被控訴人の岡山県内の信者団体の幹部である(控訴人は、B山が『統一教会岡山県青年部団長』であると認識している。)ことが、後日、控訴人が統一教会員となった後、判明した。」と付加する。

3  原判決一三三頁六行目「と会った。」の次に、「なお、クリエイトの先輩として紹介された右C川は、後になって、統一教会の幹部であることが判明した。」と付加する。

4  原判決一三四頁七行目「D原と話をした。」の次に「しかし、D原が全国を歩いている指折りの占い師であるというのは偽りであって、D原は、当時、被控訴人の岡山教会の幹部(控訴人は『統一協会岡山教会の岡山県本部長』であると認識している。)で、大理石の壺や多宝塔を先祖の因縁を説き不安を生じさせて販売する霊感商法をしていたE田商会の社員で、顧客とのトラブルの示談交渉を担当していた者であった。」と付加する。

5  原判決一四〇頁三行目「A田から、」を「A田あるいはC川から、」と改め、その次に「A野君のお金で、アジア・アフリカで飢餓で苦しむ子供たちが何万人も助かるんだよ。」と挿入する。

6  原判決一四一頁四行目「行われた。」の次に「控訴人は、自己が事故等の緊急時に備えて蓄えていたすべての財産を被控訴人に献金してしまったことから、不安ではあったが、被控訴人に不信感を抱かなければ霊界に裁かれることはないから、事故等の緊急事態も生じないだろうと被控訴人に救いを求める方向への気持ちの傾きが生じた。」と付加する。

第三争点についての判断

一  以上認定したところによると、

1  被控訴人の信者らによる一連の勧誘、教化行為あるいは経済活動は、被控訴人自らが指示していると推認してもやむを得ない状況にあるといえなくもないが、少なくとも、被控訴人の宗教活動ないしそれと密接に関連する布教活動の一環として行われ、かつ、被控訴人の教義、信仰の実践活動と認められる。したがって、被控訴人の信者らが被控訴人法人と別に組織・団体を構成し、その信者組織の意思決定に従って布教活動あるいは経済活動を行う場合であっても、被控訴人とその信者組織とは同じ目的のために存立し、信者組織は、宗教法人たる被控訴人を母体とし、その存立基盤としているのであって、被控訴人の存立目的を達成するのに必要な限度と方法において、被控訴人が信者組織ないしはその構成員である信者らを規律・監督することが本来予定されているとみるべく、しかも、現にこれが実行されているのであるから、被控訴人において、信者組織に対する実質的な指揮監督関係があるものということができる。

2  そして、被控訴人の信者組織は、予め組織的に作成されたマニュアルに従い、構成員たる信者らにおいて有機的一体として行動し、①信者であるB野、D川において、被控訴人の信者組織が主催する展示会等を通じて販売する商品を購入させ、あるいは被控訴人への献金をさせ、ひいては被控訴人の信者に勧誘する目的であるのに、敢えてその目的を隠し、控訴人に対し、文化サークルの勧誘であると虚言を弄し、被控訴人信者組織の運営する教義伝道のためのビデオセンター「クリエイト」をサークル活動をする場所であると偽って、右センターに誘い入れ、ビデオ講座代金を支払わせてビデオ講座に入会させたうえ、アンケートに記入させて、控訴人の財産等に関する情報を収集し、②信者組織が開催した展示会に誘って絵画購入を勧めても控訴人が購入せず、手紙や電話により控訴人を誘ってもビデオセンターに控訴人が通って来なくなるや、B野において、さらに、実体は被控訴人信者組織の幹部によるものであるのに、クリエイトとは別のYOUなる団体が主催する占い師の講演会がある旨虚言を弄して控訴人を誘ったうえ、幹部のB山を、講演をしながら全国を巡り歩いている占い師であると紹介し、B山から「このままの生活を続けていたら大変なことになる。今が転換期です。」とことさらに控訴人を不安にする言葉を言わせ、B野が「あの方は占いの当たる先生です。現在遠のいているクリエイトにも来て見てみませんか。」と付言して、控訴人をクリエイトに通わせる契機を与え、③控訴人に対し、霊界や神の存在についてのビデオを見せ、超常現象に関するビデオを見せて、霊界の存在を信じるきっかけを作らせ、④控訴人に前回に引き続き、C山という女性を全国を歩いている占い師であると紹介して、控訴人が書いた家系図について占わせ、「このような女性ばかりの家系はこの後途絶えてしまう。」「あなたが今なんとかしなければひどいことになる。」などと言わせて、控訴人をさらに不安にさせ、⑤前記の「占い師」と同一人であると気がついていない控訴人に対し、B野において、今度は「立派な人」として前記B山を控訴人に紹介して、親身になって相談に乗らせ、神とか霊界というものにつき受け入れられないでいる控訴人に対し、B山から「私もこの問題について何一〇年も疑ってきて、研究してこの道にたどりついた。」「A野君もそんなに拒否せずに疑ってみてだめなものならばそれでいいじゃないか。」などと助言させて、控訴人に神や霊界に対する関心を強めさせ、⑥真実は被控訴人の信者組織の幹部であるのに、文化サークル「クリエイト」の先輩であるとして、C川を控訴人に紹介して、親しみを持たせ、⑦控訴人の信頼感を得たC川から、さらに、被控訴人信者組織の幹部であるD原を全国を歩いている指折りの占い師であるとして控訴人に紹介させ、家系図をもとにD原から「あなたの祖先は殿様だから、相当人を苦しめてきただろう。」「人を殺してきているのではないか。」「多くの女性を相当泣かしてきているのではないか。」「今のままではすまされない。」などと話させて、控訴人の不安を助長させるとともに、クリエイトでもっと学ばなければならないと思うようにさせ、⑧その四日後、午後七時ころから二時間にわたり、控訴人に対し、クリエイトのセンター所長のA田が、「この世にメシアが現れる時がきている。」「この時を逃せば世界は滅びる。」「そのために何とかしないと世界平和はない。」「そのためにA野君が来たんだ。」などと一対一の特別講義をした後、始めて被控訴人教団名を控訴人に明かし、アジア・アフリカで生活苦の人たちに医療援助しているビデオを見せて、被控訴人の素晴らしさを印象づけた上、メシアが文鮮明であることを始めて明かし、クリエイトのスタッフ以外に控訴人しかセンター内にいない状態で、A田、C川ほかスタッフが入れ替わり立ち替わり、控訴人に対し、「あなたはサタンの子だから、神の子になるためには自分の持っているものを捨てなければならない。」「あなたが持っている財産はサタンのものだからまず、それを捨てて神のもとへ行かなければならない。」などと言って、金銭の出捐を迫り、控訴人が一〇万円を出しても構わないというと、「それではだめだ。すべてを捧げなさい。」「後は神がすべてを見てくれるのだから、(財産がなくても)構わない。」などと、午後一二時ころまで執拗に控訴人に迫って、控訴人の全財産である六〇万円を差し出すことに応じさせ、⑨自己の財産全部を被控訴人に献金として支払って、蓄えをなくしたことから、被控訴人に救いを求める気持ちに傾いた控訴人を修練会に誘い、参加費用を出させてスケジュールが詰まり睡眠も不足するようなセミナーに参加させて教化し、さらに新生セミナーの段階では、控訴人の給料の大半を被控訴人の関係で費消させ、また、控訴人の生活を管理して、被控訴人の影響力を強め、⑩実践トレーニングの段階では、控訴人をして、逆に、マニュアルに沿い、嘘を言って、ことさらに被控訴人の正体を隠し、アンケートを行い、クリエイトに勧誘させる活動をさせ、二〇人位からアンケートを取り、そのうち三、四名をクリエイトに通わせるまでにさせ、被控訴人信者組織主催の絵画展に知人を誘うようにまで至らせたものである。

二  控訴人に対する不法行為の成否

宗教団体が、非信者の勧誘・教化する布教行為、信者を各種宗教活動に従事させたり、信者から献金を勧誘する行為は、それらが、社会通念上、正当な目的に基づき、方法、結果が、相当である限り、正当な宗教活動の範囲内にあるものと認められる。しかしながら、宗教団体の行う行為が、専ら利益獲得等の不当な目的である場合、あるいは宗教団体であることをことさらに秘して勧誘し、徒らに害悪を告知して、相手方の不安を煽り、困惑させるなどして、相手方の自由意思を制約し、宗教選択の自由を奪い、相手方の財産に比較して不当に高額な財貨を献金させる等、その目的、方法、結果が、社会的に相当な範囲を逸脱している場合には、もはや、正当な行為とは言えず、民法が規定する不法行為との関連において違法であるとの評価を受けるものというべきである。

而して、前記認定したところによれば、一の2の一連の行為は、個々の行為をみると、一般の宗教行為の一場面と同様の現象を呈するものと言えなくもないものもあり、また控訴人は主観的には自由意思により決断しているようにみえるが、これを全体として、また客観的にみると、被控訴人の信者組織において、予め個人情報を集め、献金、入信に至るまでのスケジュールも決めた上で、その予定された流れに沿い、ことさらに虚言を弄して、正体を偽って勧誘した後、さらに偽占い師を仕立てて演出して欺罔し、徒に害悪を告知して、控訴人の不安を煽り、困惑させるなどして、控訴人の自由意思を制約し、執拗に迫って、控訴人の財産に比較して不当に高額な財貨を献金させ、その延長として、さらに宗教選択の自由を奪って入信させ、控訴人の生活を侵し、自由に生きるべき時間を奪ったものといわざるを得ない。

なお、本件においては、控訴人がマインドコントロールを伴う違法行為を主張していることから、右概念の定義、内容等をめぐって争われているけれども、少なくとも、本件事案において、不法行為が成立するかどうかの認定判断をするにつき、右概念は道具概念としての意義をもつものとは解されない(前示のように、当事者が主観的、個別的には自由な意思で判断しているように見えても、客観的、全体的に吟味すると、外部からの意図的操作により意思決定していると評価される心理状態をもって「マインドコントロール」された状態と呼ぶのであれば、右概念は説明概念にとどまる)。

そうすると、本件において、被控訴人の信者組織のメンバーが周到に計画したスケジュールに従って、有機的に連携してなした一連の行為が宗教的行為と評価しうるとしても、その目的、方法、結果が社会的に相当と認められる範囲を逸脱しており、教義の実践の名のもとに他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく、故意による一体的な一連の不法行為と評価されることとなる。

三  被控訴人の責任

前記一の1で認定したところからすると、被控訴人は少なくとも、その信者組織の信者らが有機的一体としてなした不法行為につき、これが被控訴人の事業の執行についてなされたものとして、民法七一五条の使用者責任を負うべきこととなる。

四  控訴人の損害

1  献金額

前示第二の三に認定したところによれば、控訴人は、昭和六三年六月三日、六〇万円をクリエイトのスタッフに手渡して、被控訴人に献金したことが認められるが、他方、控訴人主張の、別途一四万七〇〇〇円を献金した事実を認めるに足る証拠はない。

2  セミナー参加費

《証拠省略》によると、控訴人は、前示第二の三に認定した昭和六三年六月一七日からの修練会(スリーデイズ)のセミナー参加費として支払った二万五〇〇〇円を含め、セミナー参加費合計一一二万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。

3  腕時計購入代金

控訴人は原審における本人尋問中で、昭和六三年一二月のCB展で、自己の実績を上げるために、代金一二万八〇〇〇円で腕時計を購入した旨供述するが、その裏付け資料もないうえ、購入の経緯、時計の市価等も判然としないから、右代金相当の損害を受けたものとはにわかに認定し難いところである。

4  精神的損害

控訴人は、被控訴人の信者らが有機的一体としてなした不法行為によって、宗教選択の自由を不当に侵害されたうえ、その人格権を侵害され、正常な日常生活を回復した後で回顧すれば、霊感商法等の反社会的経済活動をする集団に心ならずも所属しその一員として活動することとなったことにつき自責の念に苛まれ、被控訴人の信者組織からの勧誘行為に端を発して棄教するまでの間、貴重な人生の日々を控訴人にとっては後悔のみ残る時間としてしか過ごせないことを余儀なくされたものとして、耐え難い悔しさを残していることが認められるところ、控訴人を慰謝するには一〇〇万円を下回らない慰謝料をもって相当とすべきことは明らかである。

第四結論

そうすると、控訴人は被控訴人に対し、不法行為に基づく損害賠償金一七二万五〇〇〇円及びこれに対する不法行為後である平成元年一二月一〇日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の限度で支払いを求めることができ、したがって、本件請求は右限度で理由があるが、その余は理由がない。

以上の次第で、本件請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消し、控訴人の請求を右の限度で認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六七条二項前段、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片岡安夫 裁判官 金馬健二 安井省三)

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