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広島高等裁判所岡山支部 平成10年(ネ)92号 判決 1998年10月29日

控訴人

大崎俊二

右訴訟代理人弁護士

松岡一章

被控訴人

大崎千恵

右訴訟代理人弁護士

宮川勝之

中村優子

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  本件を岡山地方裁判所に差し戻す。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

以下のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」第二のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決三頁九行目「別紙遺産目録」の次に「(本件審判の審判書添付の別紙遺産目録は、原判決添付の別紙遺産目録と同じである。)」を加える。

2  同六頁四行目「別紙物件目録」の次に「(本件審判の審判書添付の別紙物件目録は、原判決添付の別紙物件目録と同じである。)」を加える。

3  同一〇頁四行目から五行目にかけて「算定すべきである」を以下のとおり改める。

「算定すべきであり、また別紙遺産目録記載の3の土地の価額は、同地上に存する別紙遺産目録記載の6の建物につき相手方(被控訴人)が持分二分の一を有しているため、抗告人(控訴人)の利用が制約されることに鑑み、相続開始時一億四五五〇万円、分割時一億一二〇〇万円と算定すべきである」

4  同一〇頁一〇行目「原審判」から一一頁二行目「低くなっている」までを以下のとおり改める。

「別紙物件目録記載の1の土地の持分二分の一を抗告人(控訴人)の特別受益として評価するについて、分割時までに右土地の半分が岡山市によって買収されたこと及びその買収価格を参酌すべきである」

5  同一二頁一行目から一二行目にかけて「一〇〇〇万円とすべきであり」を「一〇〇〇万円(前記贈与額九〇〇万円と被相続人富喜子が出捐した売買費用内金一〇〇万円の合計額)とし、かつ、物価変動を考慮して相続開始時のその評価を一二三〇円とみるべきであり」に改める。

6  同一二頁三行目「区分建物」を「区分所有建物」に改める。

7  同一二頁四行目「五〇〇万円が加えられるべきであり」を「五〇〇万円を加え、かつ、物価変動を考慮して右五〇〇万円の相続開始時の評価を六一五万円とみるべきであり」に改める。

8  同一二頁五行目「六四二九万五〇〇〇円」を「三二一四万七〇〇〇円」に改める。

9  同一二頁六行目「訴訟事項」を「裁判所の審理の対象となり得る事項」に改める。

第三  当裁判所の判断

一  控訴人は、民法九〇三条一項所定の相続分(以下「具体的相続分」という)につき、これが遺産に対する相続人の権利割合を示す権利関係であることを前提として、当然に確認訴訟の対象となり、かつ確認の利益を有すると主張するので検討する。

民法九〇三条一項は、共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定によって算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、その残額を以てその相続分とする旨定める。

同条項によれば、同条項所定の遺贈または贈与(以下「特別受益」という)を受けた相続人については、その特別受益の価額を考慮して、同法九〇〇条所定の法定相続分、同法九〇一条所定の代襲相続分又は同条九〇二条所定の指定相続分(以下「法定相続分等」という)が修正されるのであるから、これによって算定される具体的相続分も、法定相続分等と同様に遺産に対する権利割合を示すものと考えられないでもない。

しかしながら、具体的相続分は、遺産分割手続において法定相続分等に特別受益及び寄与分による修正を加えて各相続人の具体的取得分を算定する過程で認定されるものであるから、遺産分割手続の一環としてなされる計算上の分配基準であり、遺産分割の過程においてのみ機能する観念的なものというべきであって、具体的相続分について遺産分割手続を離れて独立に権利性を認める実益は認め難い。また、具体的相続分を確定するためには、相続人、法定相続分等及び相続財産の範囲の確定のほか、相続財産の相続時の価額の算定、共同相続人中に被相続人から遺贈又は贈与を受けた者があった場合は、それらが特別受益に該当するか否か、いわゆる持戻免除の特約の有無、特別受益財産の評価が必要となる。特別受益に該当するか否か或いはいわゆる持戻免除の特約の有無の判断に当たっては、当該財産の内容・価額、各共同相続人の生活状況、被相続人の意思、各相続人間の公平等一切の事情を考慮して、後見的に裁量権を行使して合目的的な解決を図るのが相当である場合が多い。さらに、共同相続人中に民法九〇四条の二により寄与分を定める必要のある者があった場合、具体的相続分を定めるためには、寄与分の有無・程度を確定する必要があるが、これを訴訟手続で確定することはできないから、通常は家庭裁判所の審判によってなされる寄与分の確定がない限り、訴訟上具体的相続分を確定することができないことになる。

右のような諸事情を総合考慮すると、遺産分割の前提としての具体的相続分は、遺産分割の前提事項として一般に認められている相続人や遺産の範囲等とは性質を異にし、遺産分割手続における計算上の分配基準にすぎず、民事訴訟の対象としての適格性を有するものではないと解するのが相当である。

なお、遺留分減殺請求権が行使された場合、遺留分の有無・程度を判断するに当たって、具体的相続分を訴訟上算定することがあり得るが、右事実と、遺産分割の前提としての具体的相続分について訴訟の対象としての適格性を否定することは、なんら矛盾しない(遺留分減殺請求権が行使された場合であっても、遺留分算定の前提としての具体的相続分自体が確認訴訟の対象となり得るとするのには疑問がある)。

二  以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する(口頭弁論終結の日・平成一〇年八月六日)。

(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 上田昭典 裁判官 市川昇)

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