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広島高等裁判所岡山支部 平成12年(行コ)10号 判決 2002年2月07日

控訴人

甲こと乙

同訴訟代理人弁護士

羽原真二

被控訴人

岡山西税務署長

瀬島愼司

同指定代理人

池下朗

吉川浩平

楫屋光男

近藤英幸

村田剛

永井功

金坂武志

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対して平成5年3月10日付けでなした原判決添付別表一ないし五の課税処分等経過表区分欄記載の各更正処分のうち、同添付課税処分目録の「取消しを求める所得金額」欄記載の各金額に対応する所得税額の部分、及び被控訴人が控訴人に対して同日付けでなした同別表三の「過少申告加算税の額」欄記載の過少申告加算税賦課決定処分のうち、32万4500円の部分をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

第2請求及び事案の概要

次の1のとおり訂正し、当審における補充的主張につき2、3のとおり付加するほか、原判決2頁10行目から25頁5行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決の訂正

(1)  原判決4頁10行目の「平成六年一月一七日」を「平成5年12月3日(平成6年1月17日届出)」と改める。

(2)  同5頁8行目の「課税処分等経過表区分欄」から9行目の「各金額で」までを「課税処分等経過表区分の『確定申告』欄記載の内容で」と改める。

(3)  同6頁9行目の「被告に対し」の次に「本件各更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定について」を加える。

(4)  同7頁につき、2行目の「平成六二年」を「昭和62年」と改め、5行目の末尾に「控訴人は、同年4月4日ころ同裁決書の送達を受けて同裁決のあったことを知り、同年7月2日、本件訴訟を提起したものである。」を加え、6行目から10行目までを次のとおり改める。

「また、控訴人は、被控訴人に対し、平成元年分、平成2年分及び平成3年分の所得税の青色申告の承認の取消処分についての異議申立てをし、被控訴人が平成5年8月4日付けで上記各取消処分は存在しないとして異議申立てを却下する旨の決定をしたところ、控訴人は、国税不服審判所長に対し、同年9月3日付けで昭和60年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分に不服があるとして審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成10年3月31日付けで同取消処分については異議申立てについての決定を経ていないとしてこれを却下する旨の裁決をした。」

(5)  同8頁2行目の「別紙課税処分目録『申告総所得』欄」を「別表区分欄各『確定申告』中の『総所得金額』欄」と改める。

(6)  同9頁につき、7行目の次に行を改めて「(三) 控訴人は、前記給与及び外注費が必要経費であるとして争うほかは、本件各更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定につき争っていない。」を加え、9行目の「からから」を「から」と改める。

(7)  同12頁7行目から8行目にかけての「平成六年一月一七日」を「平成5年12月3日」と改める。

(8)  同13頁につき、3行目の「木造」の次に「瓦葺」を加え、4行目の「後記建物(4)」を「後記建物(3)」と改める。

(9)  同16頁1行目の「同年」を「昭和61年」と改める。

(10)  同19頁7行目の「平元年」を「平成元年」と改める。

(11)  同22頁1行目の「平成六二年」を「昭和62年」と改める。

2  当審における控訴人の補充的主張

(1)  訴外丙は、本件で問題になっている昭和60年1月から平成元年2月までの間、給与、外注費として多額の支払を受けており、収入面で控訴人から独立していた。

(2)  また、訴外丙は、支出面においても、建物(4)及びその敷地の競落代金、建物(4)の修理費用、結婚の際の諸費用その他について、独立して支出していたのであり、訴外丙が控訴人と「生計を一にする」とか共通の経済単位であったということはできない。

(3)  被控訴人は、訴外丙が受け取った金員を自ら管理し、独立して支出したとはいえないと主張する。しかし、訴外丙に給与等として多額の収入があったこと自体同人がこれを管理していたことを推認させるし、また、同人が相当の金額を支出したという事実も、自らその財源である金員を管理していたことを推認させる。

(4)  丙は、歯科技工士という資格を有しており、控訴人の診療所で働くようになる前は、倉敷のA歯科医院に勤務し、控訴人らとは独立した生計を営んでいた。控訴人の従業員になった後も、ことさらに控訴人と生計を一体にする必要もなかった。

3  上記補充的主張に対する被控訴人の反論

(1)  控訴人は、丙が、昭和60年1月から平成元年2月までの間、給与、外注費の支払を受けており、収入面で控訴人から独立していたと主張する。しかし、問題になるのは、丙が受け取った金員を自ら独立して管理していたか否かであって、控訴人から給与等の支払を受けていたからといって、受け取った金員を自ら管理していたことにはならず、丙が控訴人と生計を一にする親族であるとの原判決の認定は揺るがない。

(2)  また、控訴人は、支出面においても、建物(4)及びその敷地の競落代金、建物(4)の修理費用、結婚の際の諸費用その他について、独立して支出していたのであり、丙が控訴人と「生計を一にする」とか共通の経済単位であったということはできないと主張し、その証拠として甲第60号証等を提出する。しかし、控訴人提出の書証によっても、丙が控訴人の主張に係る支出をしたとは認められないし、独立していた経済単位を形成していたということはできない。

第3争点に対する判断

1  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の「第三 争点に対する判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。当審における証拠調べの結果によっても、同判断は左右されない。

(1)  原判決29頁につき、8行目の「昭和六二年三月時点で」を「少なくとも昭和62年3月までは」と改め、10行目の「主張する」を「供述する」と改める。

(2)  同30頁2行目の「B歯科クリニックで」を「B歯科クリニックを開業以来同クリニックで」と改める。

(3)  同31頁につき、3行目から4行目にかけての「隣地に移転したため、変更しなかったものである」を「訴外丙が建物(2)に居住するようになったときに居住地の変更をしなかったのは、隣地に移転したにすぎなかったためである」と、5行目の「第一九ないし第二三号証」を「乙第13号証の1ないし18」と各改め、7行目の「締結するに当たり」の次に「、その契約証書に」を加える。

(4)  同32頁につき、2行目の「青色申告専従者」を「青色事業専従者」と、3行目の「青色申告専従者給与」を「青色専従者給与」と、同行から4行目にかけての「青色申告専従者給与に関する届出変更届出書」を「青色専従者給与に関する変更届出書」と各改める。

(5)  同35頁9行目の「昭和六三年」を「昭和62年」と改める。

(6)  同36頁につき、6行目の「転居後である」の次に「はずの」を加え、8行目の「三月」を「12月」と改める。

(7)  同38頁10行目の「六三〇万〇〇〇〇円」を「620万円」と改める。

(8)  同39頁につき、1行目の「八〇万〇〇〇〇円」を「90万円」と改め、5行目から6行目にかけての「印影」の次に「(乙19の(1)ないし(6)の訴外丙名下の印影は乙18の控訴人名下の印影と酷似している)」を加える。

2  要するに、

(1)  昭和60年1月から昭和61年に建物(1)の取り壊しがなされるまでの間についてみると、訴外丙及び訴外丁は建物(2)で生活していたところ、控訴人は、同建物で完全に生活していたのか、建物(1)で就寝していたのか必ずしも明確でない。しかし、仮に控訴人が建物(1)で就寝していたとしても、①控訴人と訴外丙とは、昭和55年12月に共有名義で建物(2)及びその敷地を購入するまでは、訴外丁とともに建物(1)で共同生活を送っていたものであり、建物(2)及びその敷地を購入した後は、その就寝場所が異なるようになった可能性があるとはいえ、建物(1)、同(2)は隣接している上、ともに独身で、同じ職場に勤務しており、共同生活に準じる関係を継続していたと推認できること、②訴外丁は、控訴人、訴外丙を含む一家の家計を掌握していたと認められること(訴外戊は昭和61年4月に控訴人と結婚した後の一家の生活についてそのように供述するが、控訴人が独身であったころも同様であったと推認できる)、③控訴人は、被控訴人に対し、昭和57年7月及び昭和58年3月に、訴外丙を「生計を一にする配偶者その他の親族」であることを要件とする青色事業専従者として青色専従者給与に関する届出書及びその変更届出書を提出しているが、その後その関係に変化があった形跡はなく、また、控訴人は、昭和60年3月に行った昭和59年分の所得税の確定申告では、訴外丙を扶養親族としていたことなどの諸点に照らすと、控訴人と訴外丙とは、それぞれの生活に必要な費用の全部又はその主要な部分を共同して支弁し合う関係(いわば共通の財布から支出する関係)にあったと推認することができる。

(2)  控訴人は、昭和61年4月27日に訴外戊と結婚し、そのころまでに建物(1)を取り壊し、その跡地に建物(3)を建築し、他方で、訴外丙は、同年7月に建物(4)及び土地(4)を自己名義で取得した。しかし、その後も、平成元年2月に訴外丙が婚姻するまでの間は、①建物(4)の水道使用量、電気使用量からみて、訴外丙が建物(4)に生活の本拠を移したとは認められず、そのころ同人が賃借した自動車駐車場の位置、同人が外国人登録における居住地を岡山市伊福町から同市下伊福西町に変更したのは婚姻した平成元年2月28日になってからであることに照らしても、仕事中を別にすれば、訴外丙はそれ以前と同様に建物(2)を中心とした生活を継続していたと認められること、②控訴人夫婦も、建物(2)を中心とする生活を継続していたと認められること(この点についての訴外戊の供述を不自然として排斥することはできない)、③訴外丁は、このころも、控訴人らを含む一家の家計を掌握し、建物(3)の賃借人からの賃料も受領していたこと、④訴外丙所有の建物(4)についての電気使用契約が控訴人名義でなされ、控訴人所有の建物(3)の賃借人からの賃料の振込送金先が訴外丙名義の口座とされるなど、控訴人、訴外丙の所有する財産の管理がその所有名義人ごとに厳密に区別してなされていないことなどの諸点に照らすと、この時期においても、控訴人と訴外丙との間の、それぞれの生活に必要な費用の全部又はその主要な部分をいわば共通の財布から支出する関係に変化はなかったと認めることができる。

(3)  以上のとおりであるから、本件で問題になっている昭和60年1月から平成元年2月までの間についてみると、控訴人と訴外丙とは、訴外丁とともに、それぞれの生活に必要な費用の全部又はその主要な部分をいわば共通の財布から支出する関係にあったものであって、そうすると、訴外丙が控訴人と「生計を一にする関係」にあったと認めるのが相当であり、それを前提とした本件各更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定処分に違法はない。

(4)  なお、上記(1)で③として指摘した青色専従者給与に関する届出書及びその変更届出書につき、その書面作成に関与した証人C(D税理士事務所の事務長。以下「C」という)は、当審において、「訴外丙を青色事業専従者としたのは、控訴人と訴外丙が一緒に税理士事務所に来たりしていたので、訴外丙と控訴人とが一緒に住んでいるのであろうと誤解したためであり、そのことを当時控訴人や訴外丙に確認したわけではない。」などと供述する。しかし、上記供述部分は、Cが平成11年4月28日に被控訴人指定代理人に対してした供述(乙17)と矛盾していること、青色事業専従者であるか否かといった重要な点について控訴人に確認しないまま、単に訴外丙と控訴人が一緒に税理士事務所に来ていたということだけで税理士事務所の側で訴外丙を青色事業専従者であると判断し、その旨申告するということは通常考えられないこと、証人Cの供述中にはそれ以外にも訴外丙と会った回数等の点でも不自然であったり、他の機会における供述(乙28)と矛盾したりする点があることに照らすと、これを採用することはできない。

3  控訴人は、当審における補充的主張として、①訴外丙は、本件で問題になっている昭和60年1月から平成元年2月までの間、給与、外注費として多額の支払を受けており、収入面で控訴人から独立していたこと、②支出面においても、建物(4)及びその敷地の競落代金、建物(4)の修理費用、結婚の際の諸費用その他について、独立して支出していたこと、③訴外丙は、歯科技工士という資格を有しており、控訴人の診療所で働くようになる前は、倉敷のA歯科医院に勤務し、控訴人らとは独立した生計を営んでいたのであり、控訴人の従業員になった後も、ことさらに控訴人と生計を一体にする必要がなかったことなどの諸点を指摘し、訴外丙が控訴人と「生計を一にする親族」関係にあったとはいえないと主張し、これを裏付ける書証として甲第60ないし第77、第79号証を提出する。

しかし、控訴人提出の上記書証によっても、昭和60年1月から平成元年2月までの間(上記書証の中にはこの時期に関連しないものも含まれている)、訴外丙が控訴人からの収入を独立して管理し、その独立して管理している金員で自己の諸費用を支払ったと認めるには足りない。そして、訴外丙が給与、外注費として多額の支払を受けていること、訴外丙名で多額の支出がなされていること、訴外丙が歯科技工士という資格を有していることなどの諸点を考慮しても、上記2で説示した諸事情に照らすと、訴外丙が上記期間において、控訴人から独立して収入を管理したり、その管理した収入から諸費用の支払をしていたとは認められず、むしろ、訴外丁が中心になって管理するいわば共通の財布(訴外丙名義の預貯金もその一部を構成する)からその支払をしていたと認めるのが相当であり、このことは、訴外丙の当審証人としての供述によって更に明らかになったというべきである。

4  よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 裁判官 森一岳)

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