広島高等裁判所岡山支部 平成12年(行コ)5号 判決 2001年7月12日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 本案前の申立て
被控訴人の本件訴えを却下する。
(3) 本案の申立て
被控訴人の請求を棄却する。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 控訴の趣旨に対する答弁
主文同旨
第2請求及び事案の概要
次の1のとおり訂正し,当審における補充的主張として2のとおり付加するほか,原判決2頁7行目から16頁5行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の訂正
(1) 原告決5頁につき,1行目の「被告の下に」を「控訴人の管轄下にある前記各市立小学校に」と,5行目の「被告の実施機関」を「控訴人」と各改める。
(2) 同15頁2行目の「岡山市学校管理規則」を「岡山市立学校管理規則」と改める。
2 当審における補充的主張
(1) 起訴人の主張
ア 公文書の定義
原判決は,岡山市情報公開及び個人情報保護に関する条例(本条例)2条1号の公文書について「その作成主体が所属職員であると否とは問わず、広く所属職員がその職務に関連して作成し、又は取得したことにより保管する文書」をいうとする(原判決18頁8行目から10行目にかけて)。
しかし,本条例が2条2号で公文書の定義として①実施機関の職員が職務上作成し,又は取得したものであること,②当該実施機関が管理しているものであることの2つの要件を定めている理由の1つは,実施機関が責任をもって当該文書の開示,非開示について判断し,措置することができるものでなければならないからである。
この面から上記各要件について検討すると,次のとおり,原判決の上記判示が誤りであることは明らかである。すなわち,
(ア) 上記①の要件について
開示請求されている文書等を開示するためには,実施機関が当該文書等を開示する正当な権限を有することが必要であり,そのことは案施機関が当該文書等の処分権限を有することを意味する。そして,実施機関が上記処分権限を有するのは,当該文書の作成又は取得が当該案施機関の事務に属すること,言い換えれば,それらの行為が当該実施機関の指揮監督の下になされたことが必要である。上記①の要件は,この観点から解釈する必要があり,そうすると,本条例2条1号の「職務上」という文言は,当該職員の職務上の所管に属することを意味し,原判決のように「職務に関連して」と解釈するのは不当である。
そもそも,原判決のように「職務上」という文言を「職務に関連して」と解釈するのは,他の法令における一般的解釈とも異なっている。さらに,単に「職務に関連して」作成又は取得したものを広く含むとすると,教員が授業や職員会議における提案等のために個人的に作成したメモ等も含まれることになるが,このような文書について実施機関である控訴人が開示を決定する権限などない。
(イ) 上記②の要件について
実施機関が開示請求された文書等を実際に開示するためには,当該実施機関が当該文書等を現実に支配れていることが必要であり,そのために定められている要件が上記②である。原判決の前記説示は,本条例2条1号の個々の要件の重要性を無視したものである。
実施機関の職員は,その職務遂行の過程において,個人のレベルで様々な資料の収集・分析,試案の作成・検討を行い,批判に耐え得るものを行政組織としての検討の場に提出し,行政組織としての意思決定を求めるのが通常であり,そのうち,実施機関が開示,非開示の決定をなし得るのは,行政組織としての検討の場に提出された文書に限られる。そして,このような文書は,実施機関が文書を管理するための規程を定めて管理しているのが通常であって,このような規程の適用のない文書等については,実施機関においてその存否を確認することさえ容易ではなく,実施機関が管理しているとはいえない。もちろん,文書管理規程によって管理されていない文書であっても本条例2条1号の公文書に該当するものはあり得るが,文書管理規程によって管理されていない文書については,個々具体的に当該文書が法的及び現実的に実施機関が管理していることを証明される必要があるというべきである。ちなみに,被控訴人は,文書管理規程が本条例の下位規範であると主張するが,両者はその目的が異なっており,上位,下位という関係に立つものではない。
原判決が「文書管理規程に定める文書であるか否かを問うところではない」とする意味が,案施機関が現実に支配している文書であるか否かを問わないとの趣旨であれば,明文に反するし,現実を無視している。被控訴人は,文書取り寄せ等の手段があると主張するが,それは法的に担保されたものではなく,あくまでも任意の協力に期待するにすぎず,法的に文書の公開を強制できる制度である情報公開の実効性が第三者の任意の協力に依存するというのは矛盾である。
イ 補助教材購入関係文書が控訴人の事務と関係がないこと
(ア) 原判決は,購買担当者が保管する文書は所属職員たる学年主任の指示を受けて実施機関たる控訴人のために保管をするものに該当するとの旨の説示をする(原判決19頁から23頁にかけて)。
しかし,購買は,控訴人たる教育委員会が行う事業ではなく,保護者(児童)に対する便宜供与として,各学校長の判断でなされているものにすぎないのであって,この点は補助教材の購入と他の学用品等の購入とで異なるものではない(両者について区別された処理もなされていない)。仮に補助教材の購入が控訴人の事務であるならば,そのための収入支出は岡山市の予算に計上され,予算の執行に関する手続に従ってなされなければならないが,そのような処理はなされていない。また,控訴人には,それに関する文書について開示したり,その引渡しを求める権限もない。被控訴人は,「購買職員は,実施機関の職務上の指揮監督権限に従う職員である学校長や学年主任の指示を受けて文書を保管している」と主張するが,教育委員会の学校長等に対する指揮監督権は職務上のものに限られる(地方公務員法32条)から,問題は控訴人の一般的抽象的な指揮監督権ではなく,その職務上の指揮監督権があるか否かであるところ,控訴人の職務上の指揮監督権は購買には及んでいない。もちろん,教育委員会が学校長等に対して購買の業務を行ってはならないという命令を発することは可能であろうが,それは服務管理の問題であって,文書の引渡しを命ずる権限とは別の次元の問題である。したがって,購買に関する文書は控訴人のために保管されているものではない。
(イ) 原判決は,補助教材の使用について控訴人への届出がなされることから,その購入も控訴人の事務になるとするようであるが,両者は全く別個のものである。すなわち,補助教材の控訴人への届出は,主教材たる教科書の決定が控訴人によってなされることとの関係において必要とされるものであり,各学校においていかなる補助教材が使用されているかを把握し,場合によっては,その使用についての指導を行う必要があるためになされるものである。これに対し,指定された補助教材をどこでどのようにして取得するかは,それぞれの保護者の自由であり,それを規制する権限は控訴人にはなく,ただ,保護者ひいては児童の便宜を図るために長い間の慣習として補助教材やその他の学用品の購買が学校内で行われているにすぎず,それは,控訴人はもとより学校長や教職員の事務そのものではない。
(ウ) 原判決は,学年主任が補助教材等を仕入れてそれを保護者に販売するとし,それが学年主任等の本来担当すべき事務であるとする(原判決20頁,22頁)が,これは補助教材等を購買(校長と購買担当者によって組織されている)が業者から購入して保護者に販売しているという関係を理解しない重大な事実誤認である。
すなわち,補助教材の購入を法的に整理すると,学年主任、学級担任及び学年会計は,事実たる慣習に基づいて,いずれも保護者の代理人として,保護者のために購買に対する注文,品物の受領及び支払を行っていることになるのであって,学年主任等が控訴人から命ぜられた職務としてそれらのことを行っているのではない。
これを購買の側からみると,業者からの購入価格と保護者への販売価格との差額をもって自らの活動に要する経費に充てているのであり,それらは控訴人から独立した経済活動である。
ウ 補助教材購入関係文書が控訴人の管理しているものに該当しないこと
原判決は,補助教材関係文書は実施機関である控訴人の所属職員がその職務上管理しているものであるとする(原判決23頁1行目から2行目にかけて)。
しかし,以上から明らかなとおり,補助教材購入関係文書のうち,購買から学年主任あての文書は,保護者の代理人としての学年主任がその事務処理のために保管しているものであり,それ以外の文書は,購買が自らの経済活動のために保管しているものであって,いずれも実施機関たる控訴人がなすべき事務を実行又は補助する活動に関する文書ではないのであるから,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書」ではないのみならず,「当該実施機関が管理しているもの」でもない。また,控訴人には,その文書の開示,非開示を決定する権限はなく,購買担当者や学年主任に対してその引渡しを求める法律上の権限もないから,仮に補助教材購入関係文書が本条例2条1号に定める公文書に該当するとされたとしても,これを開示する方法は存在しない。
(2) 被控訴人の反論
ア 控訴人の主張ア(公文書の定義)について
(ア) 本条例が市民の公文書の公開を求める権利を保障し,市民の市政への参加を推進し,市政に対する市民の理解と信頼の増進を図り,もってより開かれた市政の実現に寄与することを目的として制定されたものであることからすると,本条例2条1号に規定する公文書の範囲は広く解釈されるべきであり,この点に関する原判決の説示は相当である。
公的な機関が情報公開制度を設ける場合には,当該公的機関ないしその職員が関わりを持った公文書については,ともかくもこれを公開の対象範囲とするのが基本というべきである。
(イ) 控訴人は,本条例2条1号の公文書は実施機関が文書を管理するための規程を定めて管理しているのが通常であるとの旨の主張をするが,この主張は事実に反している。そもそも公務所は公務員が職務を行う場所であるから,公務所の職員が作成し,又は取得して現に公務所に存在している文書は,それが私文書であると認めるべき特別の事情がない限り,職員が職務上作成し,又は取得した公文書であると事実上推定できるのであり,また,同様に,公務所の管理下にあるのではないと認めるべき特別の事情のない限り,当該公務所が管理しているものと事実上推定できる。したがって,実施機関の職員が作成又は取得し,現に実施機関の管理する場所に存在する文書は,公文書と推定(又は事実上推定)されるべきものであり,その公文書性を否定する者がその立証責任を負うべきである。
文書等に対する「現実の支配」とは,実施機関が当該文書等に対し組織として実効性のある支配を有していれば足りるものであり,現実に実施機関の事務所内に保管されている必要はなく,関係各部に保管されているものであってもよく,行政上の指揮監督関係あるいは協力関係により当該文書の取り寄せ,開示,非開示の決定ができればよいと解するべきである。また,実施機関の定める文書管理規程は,法規範としては本条例の下位の規範であり,下位規範である文書管理規程によって,上位規範である本条例の適用範囲が限定されるようなことはあり得ないし,あってはならない。
本件で開示を求められている補助教材購入関係文書は,学校管理者である学校長が雇用している購買職員及び学校長の指揮指導の下にある学年主任が,学校施設内において現に保管し,学校長において常時監査することあるいは提出を命じることが可能な文書であり,学校責任者において直接実効性のある支配管理がなされているのであるから,市立の各学校を管轄下に置き,学校長を指揮監督化に置く実施機関である控訴人において直ちにその取り寄せ,開示,非開示の決定等の処置ができることは明らかである(現に本件訴訟においてその取り寄せを行っている)。
イ 控訴人の主張イ(補助教材購入関係文書が控訴人の事務と関係がないこと)について
(ア) 控訴人は判決の「控訴人のために」保管する文書との言葉にこだわり,補助教材購入関係文書は控訴人のために保管されているものではないと主張する。しかし,購買職員は,実施機関の職務上の指揮監督権限に従う職員である学校長や学年主任の指示を受けて文書を保管しているのであり(占有補助者),原判決の用いた「ために」の用語はこの関係を表現したにすぎない。
なるほど,購買は,その収入支出は市の予算に計上されていない。しかし,購買は,事実として,学校建築上必要な場所として予定されており,その事務は各学校において校務として認識され,教職員が職務の1つとして担当し,校長に雇用された私人である購買職員も教職員扱いされて職員録に掲載されている。また,購買に関する事務は学校長の更迭に伴って後任者に引き継がれている。そして,運営実態として,学校長が補助教材販売業者から販売手数料を受け取り,これを購買職員の報酬や学校行事等にあてているが,学校長がこれを経営するに当たって地方公務員法38条1項の許可を受けていないのは,購買が校務であるからである。したがって,購買による補助教材の業者からの購入事務は,校務そのものであり,仮にそうでないとしても学校長の職務に密接に関連しているものであるから,補助教材購入関係文書が公文書に該当することは明らかである。
控訴人は,「控訴人には,それに関する文書について開示したり,その引渡しを求める権限もない。」と主張するが,購買は校務であるから,控訴人は各市立学校の管理者である学校長に対し購買に関する事項について指揮監督する権限を有しているのであり,この主張は失当である。
(イ) 控訴人は,また,原判決の「補助教材の購入事務を本来担当すべき学年主任等」(原判決22頁3行目)との表現をとらえて,補助教材の仕入れ,販売が学年主任の本来の事務であるとしているとして非難する。しかし,原判決の上記表現は,購買担当者が学年主任等の教職員に代わってその指示の下に補助教材の購入事務を行っており,学年主任等の補助者であることを説明するために用いられたにすぎず,控訴人の主張は原判決を曲解するものである。
そして,控訴人は,「学年主任,学級担任及び学年会計は,事実たる慣習に基づいて,いずれも保護者の代理人として,保護者のために購買に対する注文,品物の受領及び支払を行っていることになるのであって,学年主任等が控訴人から命ぜられた職務としてそれらのことを行っているのではない。」と主張する。しかし,学年主任等は,教育の円滑化を図るという教育上の必要性から補助教材の仕入れ等に関与しているのであって,その本来の職務に密接に関連した職務(公務)であって,単なる私的行為ではない。
控訴人は,「これを購買の側からみると,業者からの購入価格と保護者への販売価格との差額をもって自らの活動に要する経費に充てているのであり,それらは控訴人から独立した経済活動である。」とも主張するが,学校長が管理者となり,購買担当者として私人を雇用し,業者からの手数料を担当者の報酬や学校行事等の費用にあてている実態からすると,補助教材の仕入れ,販売は学校長らの職務に関連した行為であることが明らかである。
ウ 控訴人の主張ウ(補助教材購入関係文書が控訴人の管理しているものに該当しないこと)について
控訴人は,「控訴人には,補助教材購入関係文書の開示,非開示を決定する権限はなく,購買担当者や学年主任に対してその引渡しを求める法律上の権限もないから,仮に補助教材購入関係文書が本条例2条1号に定める公文書に該当するとされたとしても,これを開示する方法は存在しない。」と主張する。しかし,補助教材購入関係文書は,学校長が学年主任及び購買担当者を指揮監督する立場において管理しているものであり,控訴人は,学校長を指揮監督する権限において,文書の取り寄せ,開示,非開示の決定をすることができるから,上記主張は失当である。
第3争点に対する判断
1 当裁判所も被控訴人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決の「第三当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決18頁8行目の「管理しているものとは」から21頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「管理しているものの中には,その文書を作成し,又は取得したのが所属職員自体ではなく,その職務上の指示を受けて所属職員以外の者が作成し,又は取得した場合を含み,また,その管理においても,所属職員が直接保管するのではなく,所属職員の指示を受けて所属職員以外の者が当該実施機関のために保管するものも含まれると解するのが相当である。
そして,控訴人は,被控訴人が開示を請求する補助教材購入関係文書として別紙文書目録記載の文書が存在することを認めている。ところで,証拠(甲15の(1)ないし(3)、乙2の(1)ないし(4),3の(1)ないし(4),4の(1)ないし(3),5ないし7の各(1),(2),8,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 別紙文書目録記載の文書は,岡山市立旭東小学校,同伊島小学校,同鹿田小学校の平成9年度における第5学年の補助教材購入関係の文書である。
イ 当該各小学校の校長は,学年主任と学級担任とが協議した結果に基づき,学級又は学年の児童全員又は特定の集団における児童全員が使用する副読本,参考書,学習帳,練習帳,その他教科書以外の補助教材の使用につき,控訴人の承認を受け,又はこれを届け出る(地方教育行政組織運営法33条2項及び岡山市立学校管理規則9条,10条によると,岡山市では,補助教材のうち教科書の発行されていない教科・科目,道徳又は特別活動の主たる教材として使用する図書については教育委員会の承認事項とし,それ以外のものについては届出事項とされている)。
ウ 当該各小学校の校長は,児童に対する学用品,制服・体操服,校章等を,一般的に「購買」,「販売所」,「分配所」などと呼ばれる校内施設において販売する業務を購買担当者に委嘱しているが,補助教材については,学年主任や学級担任,購買担当者を通じて販売業者に注文してこれを購入する。補助教材の購入代金は,学級担任が学年通信等を利用して児童の保護者に連絡・通知した上,保護者からこれを集金して,学年会計が購買担当者に交付し,購買担当者がこれを販売業者に対して支払っている。
エ 補助教材や学用品等を業者から仕入れて児童又はその保護者に販売することにより得られた利益は,当該小学校の校長の管理する預金口座に補助教材用と店頭販売用に分けて保管され,購買担当者に対する報酬のほか,校長の判断で児童の観劇,学校の環境整備等に使用される。当該各小学校の校長が交替した場合には,その預金口座は,新しい校長に引き継がれる。
オ 別紙文書目録記載の文書は,補助教材に関してこれらの過程で作成される請求書,納品書,領収書,金銭出納帳簿であり,上記の各文書の種類に応じ,学年主任等又は購買担当者により保管されている。
以上の事実によれば,右の各文書は,小学校の校長が,教育委員会の監督の下で採用した補助教材を,小学校の校長として組織的に購入,販売したことに関し,自ら又はその指示の下で他の教員ないし購買担当者が作成ないし取得し,組織的に保管しているものというべきであるから,学年主任等が保管するものはもちろんのこと,正規の事務職員ではない購買担当者が保管するものについても,本条例2条1号に定める公文書に該当するというべきである。」
(2) 同22頁2行目の「補助教材」から5行目の「地位にある」までを「校長の行う補助教材の購入について,その事務を校長の指示に基づき処理しているのであり,同事務処理に関する限り,校長の事務補助者の地位にある」と,10行目及び末行の「教員」をいずれも「校長」と各改める。
(3) 同25頁5行目から6行目にかけての「学年主任等に代わって校長及び学年主任等の指示の下に」を「校長に代わってその指示の下に」と改める。
2 控訴人は,補助教材購入関係文書が控訴人の事務と関係がない旨縷々指摘する。
しかし,控訴人は,大学以外の教育機関を所管し(地方教育行政組織運営法32条),当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,地方教育行政組織運営法23条に定めるもの,すなわち,学校その他の教育機関の用に供する財産の管理に関すること(2号),学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業指導に関すること(5号),教科書その他の教材の取扱いに関すること(6号),校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること(7号)等に関するものを管理し,執行する行政委員会であるから,市立小学校において,教育の円滑を図るという教育上の必要から,校長が,校内施設で購買事務を担当している者を通じて,補助教材を集団的に購入して販売し,その利益を児童の観劇や校内の環境整備等に用いるという補助教材購入を巡る一連の事務についても,その管理権が及んでいるというべきであり,その過程で作成ないし取得された補助教材購入関係文書は,本条例2条1号の控訴人の「職員が職務上作成し,又は取得した文書」に該当するということができる。
控訴人は,「仮に補助教材の購入が控訴人の事務であるならば,そのための収入支出は岡山市の予算に計上され,予算の執行に関する手続に従ってなされなければならないが,そのような処理はなされていない。」と主張する。しかし,補助教材の購入に係る事務の実態は上記のとおりであるから,補助教材の購入が岡山市の予算に計上されていないからといって,同事務が控訴人の事務ではないとか,補助教材購入関係文書が開示の対象である「公文書」でないということはできない。
また,控訴人は,「控訴人には,それに関する文書について開示したり,その引渡しを求める権限もない。」と主張する。しかし,上記1で訂正の上引用した原判決の説示するとおり,補助教材購入関係文書は,校長が他の教員や購買担当者を通じてその職務上作成ないし取得し,組織的に管理しているのであるから,控訴人の指揮監督権に基づいて校長に対しその引渡しを求める権限があるというべきである。
さらに,控訴人は,「補助教材をどこでどのようにして取得するかは,補助教材の使用についての控訴人への届出とは全く別個の問題であって,それぞれの保護者の自由であり,それを規制する権限は控訴人にはなく,ただ,保護者ひいては児童の便宜を図るために長い間の慣習として補助教材やその他の学用品の購買が学校内で行われているにすぎず,それは,控訴人はもとより学校長や教職員の事務そのものではない。」との旨の主張をする。なるほど,補助教材の採択の問題と購入の問題とは同一ではなく,後者については控訴人の事前の承認や届出は要求されず,また,それぞれの保護者に自由が認められている。しかし,採択した補助教材について保護者が現実にこれを取得できるか否かは教育上重要な問題であり,教育的配慮から校長が集団的にこれを購入し,販売することは,単なる校長の私的行為でなく,校長がその職務上行っている行為というべきであり,これを校長の事務ではないとする控訴人の主張は実態に合致していない。
控訴人は,「補助教材の購入を法的に整理すると,学年主任,学級担任及び学年会計は,事実たる慣習に基づいて,いずれも保護者の代理人として,保護者のために購買に対する注文,品物の受領及び支払を行っていることになるのであって,学年主任等が控訴人から命ぜられた職務としてそれらのことを行っているのではない。これを購買の側からみると,業者からの購入価格と保護者への販売価格との差額をもって自らの活動に要する経費に充てているのであり,それらは控訴人から独立した経済活動である。」と主張する。しかし,前記1で訂正の上引用した原判決の説示するとおり,補助教材の購入は,校長が,購買担当者を補助事務者として,職務に密接に関連する事務としてこれを行っているというべきである。校長が購買をすることについて控訴人の格別の許可を求めた様子はなく,控訴人においてもそれを是認していることが窺われるのは,そのような実態を前提にしていると解される。したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
3 次に,控訴人は,補助教材購入関係文書が控訴人の管理しているものに該当しないと主張する。しかし,控訴人のこの主張が採用できないことは,前記1で訂正の上引用した原判決の説示及び上記2で説示したところから明らかである。
4 よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 裁判官 森一岳)