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広島高等裁判所岡山支部 平成12年(行ス)1号 決定 2002年2月20日

(基本事件 岡山地方裁判所 平成11年(行ウ)第20号 平成12年(行ク)第2号 《相手方吉永町の参加申立事件》)

主文

1  本件抗告を棄却する。

2  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第1抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨は別紙抗告状(写し)に記載のとおりであり,抗告の理由は別紙抗告理由書(写し)に記載のとおりである。

第2事案の概要及び本件各参加申立ての理由等

次のとおり訂正するほか,原決定5頁2行目から22頁2行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

1  原決定13頁につき,1行目の「平成一〇年法律第五四号」を「平成11年法律第87号」と,5行目の「適性」を「適正」と各改める。

2  同18頁5行目の「許可に関して」の前に「少なくとも平成9年改正までは,」を加え,7行目の「一般的である」を「一般的であった」と改める。

第3当裁判所の判断

1  事実経過

記録によれば,次の(1)のとおり訂正し,本件不許可処分に至る経緯として(2)のとおり付加するほか,原決定22頁5行目から32頁4行目までに記載の事実を認めることができる。

(1) 原決定24頁につき,

① 1行目から2行目にかけての「主張することができると主張している」を次のとおり改める。

「主張することができ,以上の諸点で抗告人の本件許可申請は廃掃法15条2項及びこれを具体化した同法施行規則(昭和46年厚生省令第35号。ただし,平成9年厚生省令第65号による改正前のもの),一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める命令(昭和52年3月14日総理府・厚生省令。ただし,平成10年総理府・厚生省令第2号による改正前のもの。以下『共同命令』という)に適合していないから,本件不許可処分に違法性はないし,また,知事は,同法15条1項に基づく申請が同法の目的を達することができないものであると認めるときは,同法15条2項とは別個に,法の目的の範囲内において合理的な裁量を行使し,申請の許否を決することができると解すべきところ,本件許可申請は,廃掃法が目指す生活環境の保全に適合していないので,この点からも本件不許可処分に違法性はないと主張している」

② 6行目の「ことにはならない」を「ことにはならないし,また,廃掃法15条1項の申請が同法15条2項に適合しているときは,知事はこれを許可しなければならず,知事には不許可処分をする裁量権が認められていない」と改める。

本件不許可処分に至る経緯

① 岡山県では,産業廃棄物の適正処理につき,その内規として産業廃棄物関係事務処理要綱(平成元年4月1日施行)を定め,地域住民等のコンセンサスを得る方策として許可申請に先立ち事前計画書を知事に提出し,審査を受けることを義務付けた。そして,同要綱は,関係者の責務や事前手続の内容等を明確化した岡山県産業廃棄物適正処理指導要綱(乙11)として改正され,平成8年7月1日から改正要綱が施行された。これによれば,産業廃棄物処理施設を設置しようとする者は,地方振興局に対し,事前計画書を,地元住民等の同意書を添付して提出することとされ(13条,14条),地方振興局長は,事前計画書が提出されたときは,関係市町村長に対して,生活環境保全上の意見を照会し(15条),指導すべき事項があると認めたときは,計画者にその事項を通知し,計画者は,同通知を受けたときは,必要な措置を検討の上,その結果を地方振興局長に報告するものとされている(16条)。そして,地方振興局長は,事前計画書の内容又は計画者の報告が適当であると認めたときは,計画者及び関係市町村長に対し,当該事前計画書の審査終了の通知を行うものとされ(17条),計画者は,同通知を受けるまでの間は,産業廃棄物処理施設の設置等の許可の申請を行うことができないものとされている(19条)。

② 抗告人は,平成6年11月10日,岡山県東備地方振興局に対し,本件許可申請の事前計画書(甲11)を提出した。

③ 岡山県東備地方振興局長は,吉永町長に対し,生活環境上の意見を照会したところ,同町長は,平成6年12月20日ころ,被告に対し,同計画に反対であるとの意見書を提出したので,被告は,平成7年2月6日付け書面(甲12)で,抗告人に対し,相手方吉永町と十分協議すること等を求める旨の通知をした。相手方吉永町は,当初抗告人との協議を拒否していたが,平成8年8月及び9月に,岡山県東備地方振興局長から,抗告人との協議に応じるように求める通知を受け,これに応じることとなった。そこで,同年9月から平成9年7月にかけて,岡山県職員が司会をし,相手方吉永町と抗告人の各責任者が出席し,10回にわたり事前協議が行われた。しかし,第10回事前協議において,吉永町長が抗告人に対し,本件予定地に本件処理施設を設置する計画(以下「本件計画」という)の撤回を求めたことから,事前協議が中断され,本件計画の撤回を巡る吉永町と抗告人代表者との交渉も決裂した。そこで,抗告人は,同年10月1日,東備地方振興局に対し,本件処理施設の設置許可申請書を提出するに至り,被告はその受理を保留した。

④ ところで,吉永町の住民の間では,事前計画書の提出がなされると,これに対する反対運動が起こり,平成6年ころ吉永町産業廃棄物処分場阻止同盟が発足し,平成7年5月ころには産業廃棄物最終処分場阻止連絡協議会が発足し,以後同協議会を中心として,本件計画に対する反対運動が行われた。また,平成8年12月には,産廃阻止町民の会も結成された。

⑤ 上記③の許可申請書の提出がなされた後の平成9年10月20日,東備地方振興局長立会いの下に,相手方吉永町と抗告人の間で,話合い再開の確認書(甲21)が取り交わされ,抗告人は,上記許可申請を取り下げた。そして,同月から同年12月にかけて4回にわたり事前協議がなされ,これと平行して専門家会議が3回,実務者会議が6回開催された。そして,この4回の事前協議は,公開された。

⑥ このような経緯を経て,抗告人は,平成10年1月8日,東備地方振興局長に対し,最終報告書(甲24)を提出した。しかし,同年2月8日に行われた吉永町の住民投票では,投票総数(投票率91.65パーセント)中本件処理施設の建設に対する反対票の割合が98パーセント近くに達した。そこで,吉永町長は,同年2月10日,東備地方振興局長に対し,協議未了となっている事項があること,住民投票の結果を尊重しなければならない状況にあること等を記載した産業廃棄物最終処分場建設計画に係る事前協議に関する報告書(丙59)を提出した。

⑦ 抗告人は,平成10年3月10日,本件許可申請(乙1)をなし,他方,相手方吉永町は,同年4月30日,東備地方振興局長に対し,世論の動向を理解する必要があること,遮水工の安全性に問題があること等を内容とする意見書(乙12)を提出したところ,被告は,同年5月20日,本件不許可処分をなした。抗告人は,同年5月28日,厚生大臣に対し,審査請求(乙2)をしたが,平成11年6月8日,棄却裁決(乙5)がなされ,同年8月17日,本件基本事件の提訴がなされたものである。

2  以上の事実に基づいて,相手方らの補助参加の申立ての適否について検討する。

(1) 民訴法42条所定の補助参加が認められるのは,専ら訴訟の結果につき法律上の利害関係を有する場合に限られ,単に事実上の利害関係を有するにとどまる場合は補助参加は許されない(最高裁昭和39年1月23日第一小法廷判決・裁判集民事71号271頁参照)。そして,法律上の利害関係を有する場合とは,当該訴訟の判決が参加人の私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがある場合をいうものと解される(最高裁平成13年1月30日第一小法廷決定・民集55巻1号30頁参照)。抗告人は,補助参加の利益があるというためには,訴訟の結果が,補助参加人の法律上の地位に「法律上の影響を与えること」が必要であり,事実上の影響では足りないと主張する。しかし,補助参加の制度は,他人間の訴訟の結果として不利益な判決の効力が自己に及ぶことを避けるための制度ではなく,他人間の訴訟の判決が参加人の法的地位又は法的利益に事実上の不利益な影響が及ぶことを防止するための制度であるから,補助参加の利益があるというためには,訴訟の結果が,補助参加人の法的地位又は法的利益に事実上の影響を及ぼすおそれがあれば足りると解され,抗告人の上記主張は採用できない。

(2) 補助参加の利益についての上記考え方に基づき,相手方らの補助参加の利益について検討すると,当裁判所も,基本事件の判決が相手方らの私法上又は公法上の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあるから,相手方らには補助参加の利益があるものと判断する。その理由は,次の①のとおり訂正し,②のとおり付加するほか,原決定36頁1行目から47頁6行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

① 原決定の訂正

(a) 原決定37頁7行目の「右判決理由中の判断に拘束される」の次に「(行政事件訴訟法33条)」を加える。

(b) 同39頁8行目から9行目にかけての「大股簡易水道,」を削除する。

(c) 同45頁末行の「基本事件」から46頁2行目の「結果として」までを「基本事件で本件不許可処分の取消判決が確定すると,行政事件訴訟法33条の定める取消判決の拘束力により本件許可申請に対して許可処分がなされ,本件処理施設が本件予定地に建設・操業される蓋然性が高くなる結果として」と改める。

(d) 同46頁4行目から5行目にかけての「基本事件の判決理由中の判断も含めた判断の結果」を「基本事件の判決の結果」と改める。

② 補足説明

(a) 抗告人は,「本件不許可処分の適否を判断する根拠となる平成9年改正前の廃掃法1条,15条について,これを周辺住民の生命身体の安全等の権利利益を個別具体的に保護することを目的としているものと解釈することはできない。ところが,周辺住民の人格権的利益を保護するために本件補助参加を認める考え方は,補助参加人によって,抗告人との間に将来生じ得る別個の請求を持ち込んでこれについて判断を求めるに等しく,さらに,行政実定法規上保護されていない利益を一種の行政過程である行政訴訟の場で保護するという矛盾した結果を招いている。」との旨の主張をする。

しかし,平成9年改正前の廃掃法1条,15条が周辺住民の生命身体の安全等の権利利益を個別具体的に保護することを目的としているか否かはともかく,本件において周辺住民に補助参加を認めることは,本件訴訟の判決が周辺住民の法的地位又は法的利益に事実上の不利益な影響が及ぶことを防止するため,被告を勝訴させるべく参加することを認めるにすぎず,周辺住民と抗告人との間に生じ得る別個の請求について判断することになるわけではないし,周辺住民に廃掃法上の行政処分の取消しを求める権利を認めることになるわけでもない。したがって,抗告人指摘の点は,本件において周辺住民の補助参加を認めることを否定する根拠とはなり得ない。

(b) 抗告人は,本件不許可処分をした被告が当事者として根拠法規の解釈及び処分の適法性について主張立証をしているから,相手方Aらの関与を認めなければならない必要性に乏しく,かえって,その関与を認めれば,訴訟の長期化と混乱をもたらす弊害が大きいと主張する。

なるほど,被告は本件不許可処分の適法性について主張立証をしており,3000人以上に及ぶ相手方Aらの本訴への関与を認めると,訴訟が混乱するおそれが全くないとはいえない。しかし,前記認定のとおり,吉永町の地域住民は,抗告人が事前計画書を提出したころから反対運動を展開し,その結果,相手方吉永町らと抗告人による事前協議が途中から公開されるに至り,また,本件許可申請がなされると,相手方吉永町は,東備地方振興局長に対し,このような世論の動向を理解する必要があることなどを指摘する意見書を提出し,そのような経緯を経て,本件不許可処分がなされたものである。要するに,本件不許可処分は,本件処理施設の設置を求める業者,本件予定地の周辺の住民,本件予定地の自治体である相手方吉永町の間の住民の生活環境等を巡る交渉を経た結果されたものであるから,このような経緯に照らせば,地域住民にとって重大な影響を及ぼしかねない本件不許可処分の適否について,相手方吉永町及び地域住民である相手方Aらに自らの立場で主張,立証を行う機会を与えることは,審理の充実を図ることになるというべきである。また,相手方Aらは共通の代理人弁護士を選任しているので,その参加を認めることによって訴訟が混乱するおそれはそれほど大きいとはいえない。その他相手方Aらの補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれない。

(c) さらに,抗告人は,「危険施設,嫌忌施設と周辺住民の問題を考える際,いかなる危険がどの範囲に及び得るのかがある程度定型的に予想されるのでなければ,保護すべき範囲を確定することができないが,原決定はその判断をしていない。行政事件の原告適格については,根拠法規に手掛りがない場合,根拠法規の定める安全性等の審査に過誤があった場合に生じるおそれがある事故によって,直接的かつ重大な被害を受けるものと予想される範囲について社会通念に照らし判断するほかないとされており,この理は補助参加の適格性の判断においても同様と解される。そして,この検討をしないまま補助参加を認めると,金剛川が下流で合流している吉井川の下流域の住民まで補助参加を認めることになり,際限がなくなってしまう。」と主張する。

しかし,補助参加の利益は,前記のとおり,訴訟の結果が,補助参加人の法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあれば認められ,他方,行政処分の取消訴訟における原告適格は,当該行政法規自体が当該個人の個別的利益を保護していると解される場合に認められるものであるから,前者の判断に際し後者の基準を採用するのは相当でない。そして,相手方Aらについてみると,前記のとおり,基本事件の判決が相手方Aらの法的地位又は法的利益に影響を及ぼすおそれがあり,また,補助参加を否定すべき特段の事情はうかがわれないのであるから,相手方Aらの補助参加を認めることに問題はない。

3  以上のとおりであるから,本件抗告は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 裁判官 森一岳)

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