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広島高等裁判所岡山支部 平成14年(ラ)49号 決定 2002年9月20日

抗告人

A野太郎

他1名

上記両名代理人弁護士

辻武司

米田秀美

上甲悌二

重住禎子

相手方

津山市中央街区市街地再開発組合

同代表者理事長

池幹夫

同代理人弁護士

坂和章平

主文

一  本件抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

抗告の趣旨は「原決定を取り消す。相手方を破産者とする。」との裁判を求めるというものであり、その理由は別紙抗告理由書及び抗告理由補充書(いずれも写し)のとおりである。

二  本件は、相手方の理事である抗告人らが、その地位に基づいて相手方の破産宣告を申し立てた事案であり(なお、本件申立後、抗告人A野太郎は、相手方の理事の地位を失った)、申立の趣旨及び理由、これに対する相手方の反論の要旨等は、原決定一頁二一行目から末行に記載のとおりであるから、これを引用する。

三  当裁判所の判断

(1)  一件記録によれば、本件の経過等として次の事実が認められる。

ア  相手方は都市再開発法に基づき設立された法人であり、抗告人らはいずれも相手方の理事である。ただし、抗告人A野太郎は、本件申立て後の平成一四年二月一七日、同法二六条の規定に基づく解任請求により、その地位を失った。

イ  津山市では、中心市街地の活性化を目指して、都市再開発法に基づく市街地再開発事業が計画され、同法に基づき、昭和六二年五月、南新座地区を施行地区として津山市南新座地区市街地再開発組合が、平成二年七月、吹屋町第三街区を施行地区として津山市吹屋町第三街区市街地再開発組合が、平成六年七月、中央街区を施行地区として相手方が各設立され、これらの組合による市街地再開発事業が進められた。なお、相手方の権利者は一六五名で、総事業費は約三二〇億円であった。

さらに、昭和六二年に代替地の対策等を目的とする津山中央開発株式会社が、昭和六三年に権利者共有床の管理、再開発ビルの管理運営等を目的とする津山商業開発株式会社が、平成六年に中央街区再開発による保留床の運用等を目的とする津山街づくり株式会社(津山市等が出資する第三セクター)が各設立された。

ウ  相手方が計画した再開発ビル(名称「アルネ・津山」)は平成一一年三月に完成し、同年四月から使用収益が開始されているが、相手方には不正な資金流用があり、そのため、同ビルの建築代金等の支払などの再開発事業に要した費用の支払は完了しておらず、事業の終期(平成一三年三月三一日)が到来したが、解散の目処もたっていなかった。

エ  岡山県知事は、平成一三年五月二三日、都市再開発法一二五条一項に基づき、相手方の事業及び会計の状況を検査したところ、定款及び事業計画に定めのない事項(権利者法人に対する金銭の貸付等)として、①津山商業開発株式会社、津山中央開発株式会社及び津山市吹屋町第三街区市街地再開発組合に対する金銭の貸付、②津山商業開発株式会社及び津山中央開発株式会社に対する受取利息及び保留床処分金の未収金、③借入金の名目による権利者法人への金銭の貸付、④出資金の名目による協同組合津山一番街及び津山商業開発株式会社への金銭の貸付が判明したので、同年五月三一日、同法一二五条三項に基づき、その旨指摘し、同年六月一一日までにこれを受けて行った措置及び総会において議決された是正計画を報告するよう命じた。なお、岡山県知事による上記検査結果によると、当時の相手方の債務は、合計四四億五九一〇万二三三五円(内訳、津山商業開発株式会社に対し六〇〇万円、津山街づくり株式会社に対し四億三七一三万三九七二円、津山市市街地再開発準備組合に対し四億七一〇八万七八〇八円、株式会社熊谷組(以下「熊谷組」という)に対し三二億四一一四万一五五五円、協同組合都市設計連合に対し二億七七五五万七〇〇〇円、岡山県に対し二二三五万五三〇〇円、津山市に対し三八二万六七〇〇円)であった。

これを受けて、同年六月八日開催の相手方の臨時総会で、岡山県知事の上記指摘については、同年六月末までに返還、納付ないし回収を求めることを内容とする是正計画が可決されたが、同計画は実行できず、その後も具体的な是正処理ができなかった。

オ  そこで、岡山県は、同年夏ころ、次のような是正処理案(以下「本件スキーム」という)を示した。

(ア) 本件再開発事業の関係者(相手方、津山市吹屋町第三街区市街地再開発組合、津山市市街地再開発準備組合、津山街づくり株式会社、津山中央開発株式会社、津山商業開発株式会社、熊谷組、協同組合都市設計連合)間において、債務引受、弁済、代物弁済、債権放棄、債務免除等を行うことにより、全体的な債権債務の整理を行い、これにより、熊谷組以外の債権者は債権の弁済ないし実質的な弁済を受ける。

(イ) 上記債権債務の整理のために相手方が支出する費用に充てるために、相手方の組合員に対し、賦課金を課す。

(ウ) 上記賦課金を現金で納付することができない組合員は、賦課金に代えて本件事業における権利床(地上権を分離した建物部分のみ)を提供する。

(エ) 津山街づくり株式会社は、一五億円のリノベーション補助金を受けて、これを原資として、上記(ウ)の権利床を取得する。そして、津山街づくり株式会社は、取得した権利床の敷地部分を組合員から賃借し、組合員に対して賃料を支払う。

(オ) 相手方は、組合員から徴収する賦課金及び債務者から回収できる貸付金等の限度で熊谷組に対する弁済を行い、熊谷組の残債権については債務免除(債権放棄)を受ける。

(カ) 以上により、相手方の債権債務を整理した上、相手方は解散、清算する。

カ  同年九月三〇日の相手方の臨時総会において、本件スキームに基づく是正計画が賛成多数で承認決議され、相手方はその旨の是正計画書を岡山県知事に提出した。そして、同年一二月一五日の相手方の臨時総会において、本件スキームに基づいて組合員に賦課する賦課金の額及びその徴収方法並びにこれに伴う事業計画の変更が賛成多数で承認可決された。なお、上記各総会において、抗告人らは同計画に反対した。

相手方の債権者その他関係者は、本件スキームに基づいて相手方の清算をすることに同意している。

キ  そして、相手方は、上記賦課金の徴収手続を進め、これに反対する組合員については、賦課金の滞納処分として賃料等の差押え手続を行っている。

また、相手方は、平成一四年三月、相手方が所有していた本件再開発ビル(アルネ・津山)の床(建物の番号一〇一)を四億円余で、同ビルの床(建物の番号一〇二、一〇三、二〇一、二〇三)を一一億円余でいずれも津山街づくり株式会社に売却した。

このように賦課金、売却代金を得たことから、相手方は、債権者である熊谷組や岡山県等の了解のもとに、本件事業のコンサルタントである協同組合都市設計連合に対する後記債務(約定報酬)を完済し(支払先は上記債権の譲受人である株式会社都市住宅研究所)、本件事業のディベロッパー(請負人)である熊谷組に対する未払工事代金の一部を支払った。

本件スキームの実行により、相手方の債権者は実質的には熊谷組のみとなるが、前記のとおり、本件スキームでは、相手方は組合員から徴収する賦課金及び債務者から回収できる貸付金の限度で熊谷組に対する弁済を行い、熊谷組の残債権については債務免除を受けるとされているところ、熊谷組もこれを承諾しており、熊谷組は、相手方について破産手続による清算を希望していない。

ク  相手方が平成一三年一二月一五日開催した臨時総会の議事録に添付された清算案には、相手方の資産負債について次のとおり記載されている。

(ア) 資産

①保留床処分金(権利者増床) 五九六五万三〇〇〇円

②その他雑収入 一億二九〇八万二三五二円

③未同意者権利床処分 一五億三五五五万八一三七円

④賦課金 一七億〇五三七万三七八六円

⑤返還金 一二億三二八七万三四七六円

合計 四六億六二五四万〇七五一円

(イ) 負債

①熊谷組未払工事代金 三三億六三二五万六五五五円

②協同組合都市設計連合 二億七七五五万七〇〇〇円

③その他事務費 三億二四八八万七〇八〇円

④金利 二八七八万七三九二円

⑤事業外支出金(借入金残) 七億一三四四万九七二四円

合計 四七億〇七九三万七七五一円

なお、相手方は、平成一四年一月一六日当時、熊谷組、協同組合都市設計連合に対し上記債務を負っているほか、津山市市街地再開発組合に対し約四億七一〇八万円、津山街づくり株式会社に対し約四億二五〇〇万円、津山市に対し約七六六万円の債務を負っていた。

ケ  抗告人らは、相手方総会での組合員に対する上記賦課金賦課決議(以下「本件賦課金賦課決議」という)は都市再開発法の予定するところではなく、違法であるとして、相手方を被告として当該総会決議無効確認の訴えを岡山地方裁判所津山支部に提起し、現在も同訴訟が係属している。

(2)  上記事実によれば、相手方が債務超過にあることは否定できないが、相手方及びその債権者その他の関係者間において、相手方の清算については本件スキームに基づいて実行されることが合意され、同スキームに基づく清算が進行中であり、これにより、相手方の熊谷組以外の債権者に対する債務は消滅することになる。

一方、熊谷組は、同スキームに基づく清算によって債権全額を回収することはできず、相手方の熊谷組に対する債務は残存するが、熊谷組は、相手方に対する債権のうち同スキームに基づいて弁済を受けることができないものについてはこれを免除すること(債権放棄)に同意しており、熊谷組は、相手方について破産手続による清算を希望していない。

破産手続は、総債権者に対する債務を完済することができない状態にある場合に、強制的に債務者の全財産を換価し、総債権者に公平な金銭的満足を与えることを目的とする裁判上の手続であるところ、以上によれば、相手方の清算については本件スキームに基づいて実行することを相手方のすべての債権者が同意しており、これによって債権全額の回収を得ることができない債権者は熊谷組のみであるが、熊谷組は残債権を免除することにも同意しているのであるから、相手方については破産宣告の必要性に乏しい。

また、前記のとおり、相手方が債務超過に陥るについては、相手方の違法、不正な資金流用ないし金銭の貸付が原因となっているところ、このような事態を踏まえて、相手方総会で、本件スキームに基づいて相手方を清算することが決議されたものである。そして、抗告人らは、相手方の理事として上記不正資金流用等につき責任がないとはいえないところ、本件スキームに基づいて相手方を清算することに反対であるとして、相手方組合員の多数の意向に反し、相手方の理事としての地位に基づき、本件申立てに及んでいるものである。

このような事情を考慮すると、本件申立ては申立権の濫用というべきである。

抗告人らは、相手方総会における本件賦課金賦課決議は違法であると主張するところ、この点は、当該総会決議無効確認訴訟で現に係争中であって、上記賦課決議が違法であると直ちにいうことはできない。

また、仮に、上記賦課決議が違法であり、これに反対する組合員からの賦課金の徴収ができない結果に至ったとしても、上記経過に照らすと、相手方の熊谷組に対する残債務はこれを免除するとの熊谷組の意思には変わりがないと認められるから、上記判断を左右するものではない。

(3)  相手方は、抗告人A野太郎の本件申立資格、相手方の破産能力を争うが、以上によれば、これらの点について判断するまでもなく、抗告人らの本件申立ては却下を免れない。

よって、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 岩坪朗彦)

<以下省略>

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