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広島高等裁判所岡山支部 平成14年(行コ)12号 判決 2003年6月05日

控訴人

有限会社A

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

竹下重人

被控訴人

玉島税務署長 安光守

同指定代理人

村上泰彦

阿井賢二

有熊和郁

木元伸次

坂元耕樹

向原良二

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し平成9年5月16日付けでした次の処分は、いずれもこれを取り消す。

(1)  平成元年10月1日から平成2年9月30日までの事業年度(以下「平成2年9月期」という)の法人税の更正処分

(2)  平成2年10月1日から平成3年9月30日までの事業年度(以下「平成3年9月期」という)の法人税額39万5600円を超える部分の法人税の更正処分

(3)  平成3年10月1日から平成4年9月30日までの事業年度(以下「平成4年9月期」という)の法人税額5600円を超える部分の法人税の更正処分

(4)  平成5年10月1日から平成6年9月30日までの事業年度(以下「平成6年9月期」という)の法人税の更正処分

(5)  平成6年10月1日から平成7年9月30日までの事業年度(以下「平成7年9月期」という)の法人税の更正処分

(6)  平成7年10月1日から平成8年9月30日までの事業年度(以下「平成8年9月期」という)の法人税の更正処分

3  訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

下記2のとおり当審における当事者の補充的主張を付加するほか、原判決の「第2事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決の記載を下記1のとおり訂正する。

1(1)  原判決2頁23行目の「昭和47年10月16日」を「昭和47年10月6日」と改める。

(2)  同3頁12行目の「法人税等」を「法人税」と、同18行目の「証票」を「証ひょう」と各改める。

(3)  同5頁16行目の「IND」を「IMD」と改める。

(4)  同7頁5行目の「(別表3の<15>、<16>及び<17>)」を「(別表3の<16>)」と改め、同14行目末尾に「ただし、<1>ないし<3>及び<12>につき、被控訴人の予備的主張は争わない。」を加える。

(5)  同9頁9行目末尾に「ただし、被控訴人の予備的主張は争わない。」を加える。

(6)  同10頁10行目と末行の各「振替伝票欄」をいずれも「振替伝票の摘要欄」と、同21行目の「のために、用意しておくものである。」を「のための備品として購入したものである。」と各改める。

(7)  同11頁8行目の「これはお歳暮の購入代金である。」を「これは控訴人の業務用備品として購入したものである。」と、同20行目から21行目にかけての「これらは当直室の備品として使用したものである」を「そのうち、ワインは顧客への贈物としたもので、その余は当直室の備品として購入したものである」と各改める。

(8)  同13頁11行目の「別表5の<19>、<20>)は、営業状況の視察」を「別表5の(大阪旅費))は、同業者の営業状況の視察等」と改める。

(9)  同14頁6行目の次に改行して次のとおり加える。

「ウ なお、法人税法22条2項は、『有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供』に係る収益の額を当該事業年度の益金の額に算入すべき金額としているところ、上記規定により課税の対象となる収益の額は、資産の譲渡又は役務の提供が適正な対価によってなされた場合や無償でなされた場合だけではなく、低廉な対価によってされた場合にも、当該資産の譲渡又は役務の提供がなされた当時における時価相当額をもって算定すべきものと解されることから、低利による利息の約定がなされていても、社会通念上妥当な利率による利息相当額との差額について同様に収益が発生すると解すべきである。加えて、法人税法37条6項は、民法上の贈与のように反対給付を伴わない対価性のない資産又は経済的な利益の譲渡又は供与を名義のいかんを問わず寄附金として扱う旨を明らかにし、同条7項において、対価性のある資産又はその経済的な利益の譲渡又は供与についても、その対価とその譲渡又は供与の時における資産等の価額との間に差がある場合には、その差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額が寄附金の額に含まれるものと定め、寄附金に該当する利益供与等の形態と損金に算入されない寄附金の範囲を明らかにしたものと解することができるのであり、同条6項の場合と7項の場合とで、実質的にみて寄附金とされることとなる利益供与等の範囲に差異が生じることは予定されていないものと考えられることから、上記の差額についても、同条7項の規定により寄附金の額に含まれる。」

(10)  原判決添付別表の表示中「別表六-一」を「別表6(1)」と、「別表六-二」を「別表6(2)」と各改める。

2  当審における当事者の補充的主張

(1)  控訴人

法人税法22条2項は、「無償による役務の提供に係る収益の額」を益金の額に算入すべきものと規定している。しかし、通常の用語法としては、無利息貸付を役務の提供とは言わない。被控訴人は、低利貸付であるとして、控訴人の計上した金額と、普通銀行の長期貸付の平均利率によって計算した差額を加算する処分をしたが、これは法令に根拠のない違法な処分である。また、「無償による役務の提供」に無利息貸付が含まれるとする解釈があり得るとしても、そこから低利貸付を通常の金利に引き直して課税することができるという解釈はあり得ない。そのような徴税に傾斜した解釈は、課税要件は全て法律に明確に規定されなければならないとする租税法律主義の原則に反するものである。

(2)  被控訴人

<1> 役務とは、「サービス、用役を意味する。資本、労働、財貨を利用することによって得られる経済的な効用性、便益性をいう。役務を提供した場合には、収益として計上される。労務費、賃借料、利息などの支払は、役務の提供を受けたことに対する費用の支出である」とされており、利息を得て行う金銭貸付が、法人税法22条2項の有償による役務の提供であることからすると、無利息による金銭貸付が、同項の無償による役務の提供に該当することは明らかである。

<2> 金銭消費貸借契約において当事者間で無利息による貸借が行われた場合には、法人税法22条2項の規定により社会通念上妥当な利率による利息相当額を益金の額に算入すべきところ、たまたま、これを下回る利息収入を得たからといって、社会通念上妥当な利率による利息相当額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、上記のような取扱いを受ける無利息貸付の場合との間に公平を欠くことになる。

<3> したがって、法人税法22条2項の規定の趣旨から、金銭消費貸借契約において当事者間で低額な利息の約定がなされていても、益金の額に算入すべき収益の額には、当該約定により現実に受領すべき利息の額のほか、これと社会通念上妥当な利率による利息相当額との差額も含まれるものと解すべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり訂正するほか、原判決の「第3当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決14頁10行目の「32」を「35」と改め、11行目の「94号証」の次に「(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ)」を加える。

(2)  同15頁末行の「乙第16、19」の次に「、20」を加える。

(3)  同16頁8行目の「乙第16、」の次に「25、」を、同17行目の「乙第16、」の次に「25、」を各加える。

(4)  同17頁24行目から同18頁1行目までを次のとおり改める。

「そして、控訴人は、これらの購入物品のうち、ワインは顧客への贈り物としたものであり、その余は宿直室の備品である旨主張するが、控訴人はその具体的状況については何ら主張していないのであって、これらが控訴人の業務の遂行に必要な支出とは認められない。」

(5)  同19頁12行目から22行目までを次のとおり改める。

「そして、法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、無償による役務の提供に係る当該事業年度の収益の額を当該事業年度の益金の額に算入すべきものと規定しており、無償の役務の提供も収益の発生原因となることを認めている。この規定は、法人が、他に無償で役務の提供をする場合には、その提供に対する反対給付を伴わないものであっても、提供時における役務の提供に対する適正な対価に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものであると解される。法人が利息を得て行う金銭貸付が法人税法22条2項の有償による役務の提供に該当することは明らかであり、当該利息金が収益となるところ、無利息による金銭貸付は同項の「無償による役務の提供」に該当するというべきであり、その場合には、適正な、すなわち、社会通念上妥当な利率による利息相当額の経済的利益が無償で借主に提供されたものとして、これが当該法人の収益として認識されることとなる。また、社会通念上妥当な利率よりも低利息の金銭貸付は、法人税法22条2項にいう有償による役務の提供にあたることはいうまでもないが、この場合も、当該貸付時から返済時までの間において、社会通念上妥当な利率による利息相当額に相当する経済的価値が認められるのであって、たまたま現実に収受した利息金がそのうちの一部のみであるからといって社会通念上妥当な利率による利息相当額との差額部分の収益が認識され得ないとすれば、前記のような取扱を受ける無利息による貸付の場合との間の公平を欠くことになる。したがって、法人税法22条2項の趣旨からして、この場合に益金の額に算入すべき収益の額には、現実に収受した利息金のほか、これと貸付時から返済時までの間における社会通念上妥当な利率による利息相当額との差額も含まれるものと解するのが相当である。このように解することは、同法37条7項が、経済的な利益の供与をした場合において、供与の対価の額が当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に無償の供与をしたものと認められる金額が寄附金の額に含まれるものとしていることにも対応するものである。

本件の貸金について、控訴人は、前記認定のように、平成4年9月期及び平成6年9月期を除く各事業年度において無利息による融資を行っており、これは無償による役務の提供に該当するから、社会通念上妥当な利率による利息相当額の収益を計上すべきである。」

(6)  同20頁9行目の「社会通念上妥当な」の次に「利率による」を加える。

2  控訴人は、当審における補充的主張として、<1>無利息貸付を役務の提供とは言わない、<2>被控訴人は、低利貸付であるとして、控訴人の計上した金額と、普通銀行の長期貸付の平均利率によって計算した差額を加算する処分をしたが、これは法令に根拠のない違法な処分である旨主張する。

しかし、無利息貸付も低利貸付も法人税法22条2項にいう「無償の役務の提供」に該当することは、訂正の上引用した原判決が説示するとおりであって、控訴人の上記主張は採用できない。

第4結論

よって、原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 横溝邦彦)

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