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広島高等裁判所岡山支部 平成14年(行コ)16号 判決 2004年7月22日

主文

1  原判決主文第2項を次のとおり変更する。

(1)  控訴人らの下記(2)及び(3)の各処分無効確認請求をいずれも棄却する。

(2)  被控訴人が,控訴人エヌエス日進株式会社に対して,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成12年法律第105号による改正前のもの)14条の3第1号及び14条の6に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第544号により行った平成13年1月10日から同月19日までの事業停止処分は,これを取り消す。

(3)  被控訴人が,控訴人有限会社津下建材に対して,同法12条1項及び19条の3に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第545号により行った岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥の搬入中止及びその撤去を命じる処分は,これを取り消す。

2  控訴人エヌエス日進株式会社のその余の控訴を棄却する。

3  訴訟費用は,1,2審を通じて,控訴人エヌエス日進株式会社と被控訴人との間ではこれを2分し,その1を控訴人エヌエス日進株式会社の負担とし,その余を被控訴人の負担とし,控訴人有限会社津下建材と被控訴人との間では全部被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が,控訴人エヌエス日進株式会社(以下「エヌエス日進」という。)に対して,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(平成12年法律第105号による改正前のもの。以下「廃棄物処理法」という。)14条の3第1号及び14条の6に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第544号により行った平成13年1月10日から同月19日までの事業停止処分,平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第546号により行った産業廃棄物管理業に係る許可証の返納命令は,いずれも

(1)  (主位的請求)無効であることを確認する。

(2)  (予備的請求)これを取り消す。

3  被控訴人が,控訴人有限会社津下建材(以下「津下建材」という。)に対して,同法12条1項及び19条の3に基づき平成12年12月19日付け岡山市指令産廃第545号により行った岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥の搬入中止及びその撤去を命じる処分は,

(1)  (主位的請求)無効であることを確認する。

(2)  (予備的請求)これを取り消す。

4  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,本件係争物が産業廃棄物に該当するとして被控訴人が控訴人らに対してした各処分(以下「本件各処分」という。)等について,本件係争物は改良土であって産業廃棄物ではない等と主張する控訴人らが,主位的に本件各処分等の無効確認を,予備的にその取消を求めた事案である。

2  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実

(1)  当事者等

ア エヌエス日進は,昭和52年2月12日に設立され,産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成9年5月28日付け更新許可。乙4の1),産業廃棄物処分業(被控訴人平成9年5月28日付け更新許可。乙4の2)及び特別管理産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成11年3月2日付け更新許可。乙4の3)の各許可を受け,産業廃棄物処理を主な業務とする株式会社である。

イ 津下建材は,産業廃棄物収集運搬業(被控訴人平成10年12月20日付け更新許可)の許可を受け,これを業として行っている有限会社であり,収集運搬車両として,登録番号岡山11こ3145及び岡山11こ3148を含め合計7台のダンプを利用することを被控訴人に届けている(乙8,11,12)。

ウ 訴外株式会社未来(以下「訴外未来」という。)は,重機数台を所有し,土木工事を業として行っている株式会社であり,その代表者は訴外A(以下「訴外A」という。)であるが,同人は,津下建材代表者の夫である(乙11)。

エ 岡山市環境事業局業務部産業廃棄物対策課(平成13年4月1日付け機構改革により現在は岡山市環境局保全部産業廃棄物対策課である。以下「産廃課」という。)は,廃棄物処理法2条4項に定める産業廃棄物の処理等に関する事務を地方自治法2条10項に定める法定受託業務として執行するために設置された被控訴人の組織である。

(2)  本件各処分等に至る経緯

ア 産廃課職員は,平成12年8月24日,エヌエス日進のd事業場に対する立入調査を行った。d事業場には,汚泥の天日乾燥・混練固化施設(以下「ピット」という。),破砕施設などの産業廃棄物中間処理施設に加え,ピットで乾燥固化されたものを原材料として改良土を製造するための施設(以下「改良土プラント」という。)があった。

イ 同年9月11日及び同月14日,灰色の有体物(以下「本件係争物」という。)が,訴外未来所有の10トンダンプにより,d事業場から岡山市a地内の土地(以下「本件土地」という。)に運搬され,本件土地に本件係争物が降ろされた。

ウ 産廃課職員は,同月14日午後5時30分ころ,本件土地への立入調査を実施し,本件係争物を採取して持ち帰った。

エ B(以下「B」という。)は,同月21日午後1時31分ころ,訴外未来所有の10トンダンプに本件係争物を積載してd事業場を出発し,同日午後1時50分ころ,本件土地に到着し,本件土地に本件係争物を降ろした。そこで,産廃課職員が,Bに事情聴取したところ,Bは以下のとおり答えた。また,産廃課職員は,同日,本件係争物を採取して持ち帰った。

(ア) 訴外未来の代表者である訴外Aの指示により,平成12年5月若しくは同年6月ころから,エヌエス日進より改良土として購入したものをd事業場からダンプで本件土地へ搬入し,埋立に使用していた。

(イ) 搬入量は,10トンダンプで1日あたり少ないときは7車分,多いときは50車分である。

オ 産廃課職員は,同日,訴外Aに事情聴取を行い,その際,同人は以下のとおり答えた。そして,被控訴人は,同月22日,訴外Aから,関係書類の提出を受けた。

(ア) 平成12年6月,本件土地のうち,岡山市ae番f及び同所b番cの各土地を重機置場にする目的で,エヌエス日進の代表者であるC(以下「C」という。)から購入した。

(イ) 埋立に利用していた材料は,エヌエス日進から改良土として購入したものである。その価格は,10トンあたり,当初2000円であったが,平成12年5月からは3500円に値上がりした。

カ 産廃課職員は,同日,Cにも来庁するよう求めたが,Cは出張中のため,エヌエス日進の営業課長であるD(以下「D」という。)が訪れ,事情聴取に応じた。

キ 被控訴人は,同月22日付け書面をもって,Cの来庁を求めたところ,同月26日,同人はDとともに訪れ,以下のとおり述べた。

(ア) エヌエス日進が,平成12年4月から7月までの間に受け入れた汚泥の大半は,大本・アイサワ・蜂谷共同企業体(以下「訴外共同企業体」という。)がシールド工事を請け負っている岡山市g町作業所から排出されたものである。

(イ) 訴外共同企業体からの受託開始は,平成10年12月ころであるが,本格的な受入は,平成12年5月以降で,同年4月から8月末までの処分委託実績は,10トンダンプで576車分である。

ク 被控訴人は,同年10月17日付けで,エヌエス日進に対し,以下のとおり,予定している不利益処分,不利益処分の事実となる原因等を記載した弁明の機会付与通知書を送付した(甲23)。

(ア) 予定している不利益処分の内容及び根拠となる法令の条項

(予定している不利益処分の内容)

① 産業廃棄物収集運搬業及び産業廃棄物処分業の事業の全部停止10日間

② 特別管理産業廃棄物収集運搬業の事業の全部停止10日間

(根拠となる法令の条項)

① 廃棄物処理法14条の3第1号

② 廃棄物処理法14条の6

(イ) 不利益処分の原因となる事実

平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物中間処理業務に伴って生じた産業廃棄物である汚泥(セメント等により固化したもの)の収集運搬を訴外未来こと津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかった。

(ウ) 弁明の機会の付与の方式 弁明書の提出

(エ) 弁明書の提出期限    平成12年10月30日

ケ 被控訴人は,同年10月17日付けで,津下建材及び訴外未来に対し,以下のとおり予定している不利益処分,不利益処分の原因となる事実(本件係争物が産業廃棄物であること)等を記載した弁明の機会付与通知書を送付した。

(ア) 予定している不利益処分の内容

① 岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。

② 岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。

(イ) 弁明の機会の付与の方式 弁明書の提出

(ウ) 弁明書の提出期限    平成12年10月30日

コ エヌエス日進,津下建材及び訴外未来ら代理人であった菊池捷男弁護士(以下「菊池弁護士」という。)らは,同月26日,被控訴人に,弁明書と題する書面を提出し,本件係争物は有価物(第3種,第4種改良土建設資材)であるから産業廃棄物ではないと主張し,被控訴人が本件係争物を産業廃棄物であると断定した根拠についてその争点の明確化を求めた(乙27)。

サ これを受けて,被控訴人は,同年11月27日付けで,菊池弁護士に対し,以下の内容を記載した弁明の機会の付与通知書(補充)を送付し,菊池弁護士の元に同月28日到着した(甲24の(1),(2))。

(ア) 不利益処分の原因となる事実の補充部分(産業廃棄物である汚泥と認定した理由)

以下の事実等を総合的に勘案した結果,本件係争物は「廃棄物」すなわち「不要物」に該当する。

① 本件係争物は,造成地への搬入直後も泥状を呈し,天日乾燥しなければ,埋め立てることができないことなどから中間処理が不完全である。

② 本件係争物は,中間処理過程においてセメント等を添加している上,中間処理後の粒状も均一でなく,岡山県や岡山市における「改良土」の基準にも該当しない。

③ 排出者(工事請負業者)は,汚泥をセメント固化等したのち「建設汚泥(産業廃棄物)」として排出し,エヌエス日進に処理委託している。

④ セメント固化後に排出の建設汚泥については,通常,同業者は「改良土として製造できない。」等との理由から,全量管理型最終処分場に処理委託している。

⑤ セメント固化後に排出の建設汚泥を「改良土」に製造・販売している業者は,岡山市内においては他に見当たらない。

⑥ リサイクルを推進している岡山市でさえ,セメント添加による「改良土」は,業者から一切購入していない。

⑦ 同業者に比べ,本件係争物の売買価格がかなり安価である。

⑧ エヌエス日進における「改良土」の販売先は,本年5月以降訴外未来こと津下建材のみである。

(イ) 補充部分についての弁明の機会の付与の方式  弁明書の提出

(ウ) 弁明書の提出期限              平成12年12月11日

シ これに対し,菊池弁護士らは,同年12月1日までに,被控訴人に,弁明書(補充)を提出し,反論した(乙54)。

ス そして,菊池弁護士らは,同月5日付けの証拠開示請求書と題する書面を被控訴人に提出し,上記サ(ア)の根拠となった証拠の開示を求めた(甲25)。

セ さらに,菊池弁護士らは,同月13日付けの弁明の機会の付与と証拠開示の請求と題する書面を送付し,被控訴人に同月14日に到着した(甲26の(1),(2))。

ソ しかし,被控訴人は,エヌエス日進らからの上記ス及びセの求めに応ずることなく,同月19日,エヌエス日進及び津下建材に対し,以下の内容の本件各処分をした。

(ア) エヌエス日進に対するもの(乙29。岡山市指令産廃第544号。以下「本件事業停止処分」という。)

産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可に係る事業全部の平成13年1月10日から同月19日までの10日間の事業停止

(イ) 津下建材に対するもの(乙30。岡山市指令産廃第545号。以下「本件中止撤去命令処分」という。)

① 岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。

② 岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。

タ また,被控訴人は,エヌエス日進に対し,平成12年12月19日,産業廃棄物処理業に係る許可証の返納を求める通知をした(乙67。岡山市指令産廃第546号。以下「本件許可証返納通知」といい,本件各処分と併せて述べる場合には「本件各処分等」という。)

3  争点

(1)  本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えの適法性

ア 被控訴人の主張

(ア) 行政事件訴訟法36条に定める無効確認の訴え(以下「無効確認訴訟」という。)及び同法3条2項に定める処分取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)が適法なものとして取り上げられ,請求の当否について本案判決を得るためには訴えの利益が必要であるところ,本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えは,本件事業停止期間の経過により,訴えの利益が既に消滅している。

(イ) これに対し,エヌエス日進は,産業廃棄物処理業の更新許可のための消極的要件(廃棄物処理法7条3項4号ホ)の存在を理由に訴えの利益がなお存する旨主張する。

しかし,廃棄物処理法7条3項4号ホにいう「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者」とは,例えば,過去において許可取消処分を何度も繰り返し受けたため,許可を与えても,なお取消処分を受けることが明らかである者など,申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できないことが明らかな者をいい,産業廃棄物処理業の許可の取消しという一時的な事業停止処分よりもはるかに重い処分を受けることが明らかな者に限って同号ホに該当するものであり,エヌエス日進のように比較的短期間の事業停止処分を受けた者が,同号ホに該当するとされることはあり得ないのであるから,本件事業停止処分が原因で不利益処分を受ける可能性があることを前提に訴えの利益があるとするエヌエス日進の主張は失当である。

また,エヌエス日進は,本件事業停止処分を前提に岡山県が廃棄物処理施設の設置許可の事前協議を保留にしている旨主張するが,被控訴人が岡山県知事に対し,平成13年4月17日付け書面によりエヌエス日進の指導状況等を照会したところ,岡山県知事は,施設の変更許可申請に係る事前協議を継続し,指導中であると回答しており,本件訴訟の係属を原因として保留にしているものではない。

そして,岡山市は,岡山市における契約の適正な履行と公正を確保するため,指定業者に対する指名停止基準を定めているが,エヌエス日進の本件事業停止処分は,上記基準に該当しないものであるから,将来的にエヌエス日進が本件事業停止処分の存在を理由に指名停止処分を受ける可能性も全くない。

イ エヌエス日進の主張

(ア) 廃棄物処理法14条の4第2項等は,産業廃棄物処理業の許可は,5年を下らない政令で定める期間ごとに更新を受けなければ期間の経過によりその効力を失う旨規定しており,この許可更新処分にあっては,許可に準じる審査基準が適用されるところ,同法14条の4第3項,7条3項4号ホには,「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」と規定されており,エヌエス日進が将来産業廃棄物処理業の許可の更新を申請した場合,本件事業停止処分の存在は,更新の許否を決する際に,又は廃棄物処理法に基づく多種の許可を申請した際に,考慮しうる不利益な事由に該当する。

(イ) 現実に,被控訴人は,本件事業停止期間経過後も,この処分の事実を前提として,エヌエス日進に対し,行政指導を行い(甲42,43),また,被控訴人の担当者は,エヌエス日進が上記行政指導に従わないときは,さらに必要な処分を行うことになる旨述べた(甲45)。

(ウ) エヌエス日進の岡山県に対する最終処分場の事前協議申請が保留にされ,岡山市からは公共工事の指名業者として指名停止処分を行う旨の予告を受けるなど不利益な扱いが現実に行われている。

(エ) 被控訴人は,エヌエス日進のように比較的短期間の事業停止処分を受けた者が,廃棄物処理法7条3項4号ホに該当するとされることはあり得ないなどと主張するが,取消し等を求める訴えの利益があるといえるためには,その不利益処分がなされたことによって相手方が将来不利益な扱いを受ける可能性ないし現実的な可能性があることまでは必ずしも要せず,抽象的な可能性があることをもって足りるというべきである。

(2)  本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えの適法性

ア 被控訴人の主張

(ア) 無効確認訴訟及び取消訴訟が適法なものとして,請求の当否について本案判決を得るためには,当該問題とする行為が,「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(以下,単に「処分」という。)でなければならず,処分とは,行政庁の法令に基づく行為の全てを意味するものではなく,公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうちで,その行為により直接国民の権利義務を形成し,又はその範囲を確定する等国民の法律上の地位に変動を及ぼすような性質のものでなければならない。

(イ) 本件許可証返納通知は,当該許可を受けた者が,岡山市廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行細則15条2項5号及び同細則21条2項5号(乙34。以下「本件細則」という。)に定める事由に該当したときに,同細則に基づき,行政庁である被控訴人が,その任意の返納を促す行政指導に止まり,この通知によって,相手方である産業廃棄物処理業者に許可証を返納すべき法律上の作為義務が発生する訳でもなく,またこの通知に従わなかったとしても,何らその通知に従わなかったこと自体を問われて不利益を受ける訳ではないから,本件許可証返納通知は,(ア)にいう処分に該当しない。

これに対して,エヌエス日進は,許可証を返納した結果,エヌエス日進は,排出事業者すなわち取引先と廃棄物の処理委託契約を一切締結できなくなるという極めて重大な影響を受けると主張するが,エヌエス日進が上記委託契約を締結できなくなるのは,許可証を返納した効果によるものではなく,本件事業停止処分を受けた効果に他ならないから,明らかに失当である。

(ウ) 仮に,本件許可証返納通知が,(ア)にいう処分に該当するとしても,本件許可証返納通知に係る訴えは,エヌエス日進が被控訴人に許可証を返納した時である平成13年1月10日から既に3か月を経過して提起されており,行政事件訴訟法14条1項の法定の出訴期間を徒過してなされたものである。

(エ) したがって,本件許可証返納通知に係る訴えは,不適法である。

イ エヌエス日進の主張

本件許可証返納通知は,これによりエヌエス日進の権利ないし法律上の利益に直接影響を及ぼす法的効果を有するものであり,処分に該当する。 廃棄物処理法において,許可証の存在自体は極めて重要な意味を持つ。すなわち,例えば,排出事業者が廃棄物業者と,廃棄物の収集運搬・処理についての委託契約を締結する場合には,政令で定める委託基準に従わなければならないが(廃棄物処理法12条3項),その委託基準の内容として,許可証を委託契約に必ず添付しなければならないとされている(同施行令6条の2第3項,施行規則8条の4第1項)。したがって,許可証を返納した結果,エヌエス日進は,排出事業者すなわち取引先と廃棄物の処理委託契約を一切締結できなくなるという極めて重大な影響を受けるのである。

(3)  本件係争物の特定性等

ア 控訴人らの主張

(ア) 被控訴人は,本件事業停止処分において,対象となる本件係争物を「平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物中間処理業務に伴って生じた産業廃棄物である汚泥(セメント等により固化したもの)」と記載し,本件中止撤去命令処分において,撤去命令処分の対象となる本件係争物を「岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)」と記載している。

(イ) しかし,上記の汚泥は,撤去命令処分の性格からみて,対象の特定性(その性状,搬入期間,搬入量)において不十分であるばかりでなく,エヌエス日進が製造した改良土の上記土地への搬入開始は,平成12年8月中旬以降であり,平成12年6月上旬から同年8月中旬までは上記土地にエヌエス日進から搬入された物体はない。

(ウ) したがって,本件各処分等には,その対象となる本件係争物の特定が不十分又は対象物の不存在もしくはその誤認の瑕疵があるから,無効又は少なくとも取消原因がある。

イ 被控訴人の主張

控訴人の主張は失当である。

(4)  本件係争物の産業廃棄物該当性

ア 被控訴人の主張

(ア) 「廃棄物」とは,占有者が自ら利用し(他人に有償で売却できる性状の物を占有者が使用することをいい,他人に有償で売却できない物を排出者が使用することは含まない。),又は他人に有償で売却できないため,不要となったものであり,このうち,有償で売却とは,占有者が引取者に物を渡し,占有者が引取者より実質的に売却代金を受け取ることをいうものであって,形式的,脱法的なものは含まない。本件の場合,エヌエス日進は,訴外未来に10トンあたり3500円で売却したものを,10トンあたり4750円の運搬賃を支払って納品しており,有償での売却には該当しない。

本件で問題となっている汚泥とは,工場排水等の処理後に残る泥状のもの及び各種製造業の製造過程において生じる泥状のものであって,有機性及び無機性のものすべてを含むものであり,汚泥に該当するか否かの判断は,細かな物理的性状及び科学的内容にとらわれることなく,外観上,泥状を呈しているものは,すべて汚泥である。したがって,コーン指数(ポータブルコーンペネトロメーターを地中に押し込んだときの抵抗をコーン断面積で除した値。コーン貫入試験は,貫入抵抗から地盤の堅さ,締まり具合を調べる実験である。)は建設汚泥であるか否かを判断する上で重要な要素とはいえない。また,汚泥として排出された後,何らかの処理によってその物理的性状が変化したとしても,その変化した有体物は,他人に有償で売却できるものとして再生されない限り廃棄物処理法施行令2条13号で定める産業廃棄物に該当する。すなわち,仮に,本件係争物が建設汚泥リサイクル指針に定める第3種又は第4種改良土に該当するとしても,その商品価値はなく,その市場性も極めて狭いものであるから,当然に有価物とはいえない。

(イ) 以下の事実によれば,本件係争物は,エヌエス日進が,訴外共同企業体から,岡山市g町作業所の工事で排出され,その処分の委託を受けた産業廃棄物である汚泥であり,仮に,控訴人らが主張するように本件係争物が汚泥たる性状を完全に失って固化したとしても,有価物として再生されていないから,産業廃棄物である性格はなお失われない。なお,本件の場合,本件係争物が汚泥を主体とするものであることについては争いがないのであるから,有価物として再生されたものであることについての主張立証責任は,控訴人らにある。

① 本件係争物の性状

<ア> 本件係争物は,本件土地への搬入直後も泥状を呈し,本件土地に人工的に造った穴で天日乾燥して固めた後でなければ,埋め立てることができないほどの流動性を呈していた。本件係争物が本件土地への搬入時において産業廃棄物である汚泥であったことは,平成12年9月14日及び同月21日の産廃課職員の立入検査や歩行実験及び目視などの調査により明らかである。すなわち,産廃課職員が本件係争物の性状を確認するために,同月21日に歩行実験を行ったところ,同職員の足がくるぶしあたりまで沈み歩行が困難な状態となった(乙14)。また,改良土は,通常,茶色で粒状が均一で小さくさらさらしているはずなのに,本件係争物は,灰色で粒径40㎜以上の粒土が混在していた。

<イ> 被控訴人が,平成12年9月21日,訴外Aから事情聴取をしたところ,本件係争物を搬入直後に埋立に利用すると,流動性が高く埋立に適さないので,本件土地の一角に掘った穴で数日間おいて,ある程度固化した時点で埋立に利用していた旨述べた(乙13)。

<ウ> 本件係争物は,pH値が約12で,生活環境保全上,直ちに支障があるとまではいえないものの,高アルカリ性であるため,野菜,果樹等に根腐れ等の障害が発生するおそれがあり,植物の生育にも適さないものである。

<エ> 仮に,本件係争物に石灰が含有され,エヌエス日進の改良土プラントの一部を経たことが明らかとなっても,そのことのみをもって本件係争物を有価物とすることはできない。

② 本件係争物が事業者から排出された時の状況について

本件係争物は,訴外共同企業体の建設掘削工事により流動性のかなり高い泥状で排出され,その運搬を物理的かつ経済的に容易にするため,固化剤としてセメントが添加され,完全に固化しない粘土状の状態で産業廃棄物としてエヌエス日進に処理委託された。エヌエス日進は,現実には,本件土地の埋立に利用する意図を有していたにもかかわらず,排出者である訴外共同企業体に対しては,処分委託をした汚泥は中間処理を行い,改良土として道路中央分離帯の工事に使用するとの説明を行っていた。

③ 汚泥の通常の取扱形態について

通常の汚泥は,中間処理が行われ,改良土などの有用物になるか,管理型の最終処分場で埋立処分されるかのいずれかであるが,本件係争物のように,セメント添加により粘土状の状態で排出された汚泥は,改良土として加工できないため,通常,管理型の最終処分場で埋立処分される以外に方法はない。

④ 汚泥及び改良土の取引価値について

<ア> 改良土は,公共団体が,リサイクル推進の観点から一定の水準を満たしたものについて,その発注する公共工事において利用されることがあるが,通常,改良土よりも質の良い新品の真砂土又は建設発生土を安価で入手できるため,民間の工事で利用されることはほとんどない。

この点に関し,エヌエス日進は,新品の真砂土が10トンあたり約6000円のところ,本件係争物を訴外未来に対し,10トンあたり3500円という極めて安価で販売しており,民間の売買においても十分競争力を有している旨主張する。しかし,同業他社は改良土を10トンあたり9000円から1万4000円までの範囲で販売していること,10トンの改良土製造に必要な添加剤として利用する石灰の費用として約3600円必要であること,エヌエス日進は,訴外未来に対し本件係争物の運搬にあたり運搬費用としてダンプ1台あたり4750円を支払っており,売主がその売却価格を上回る運搬費用を負担していることに照らすと,エヌエス日進の訴外未来に対する販売価格は明らかに通常の取引価格を逸脱したものであり,その実態は本件係争物の有償売却を装い,ダンプチャーター契約によるマージンを訴外未来に与えて,本件係争物を津下建材をして不法投棄させていたものである。

すなわち,弁明書(乙27)添付の訴外未来作成の請求書によれば,平成12年4月分から同年8月分までの訴外未来からエヌエス日進に対する請求総額は1703万8894円であり,このうち本件係争物と関連があると認められる本件土地へのダンプ及び重機チャーター代並びに土木作業員及び重機オペレーターの派遣に係る請求合計は約1500万円となり,エヌエス日進は,本件係争物の運搬費用だけでなく,造成費用までも訴外未来に支払っていた。そして,産業廃棄物処理業者は,通常自社業務に必要な車両は自社で所有しているため,自社所有の車両で対応していること,処理委託料の関係でダンプを他社からチャーターする場合でも1か月100万円以上の代金を支払ってまで自社所有外のダンプをチャーターすることは考え難いこと,エヌエス日進は産業廃棄物収集運搬業の許可に係る運搬車両として,その当時,27台前後の車両を岡山市に届出,所有していたことに照らすと,わずか5か月間で1700万円以上の代金を支払ってまでダンプをチャーターしていることは通常の取引と比較して不自然である。一方,平成12年4月から同年8月までの間,エヌエス日進が訴外未来に販売していた本件係争物の請求総額は319万3200円(消費税別)であり,結局のところ,エヌエス日進は訴外未来に本件係争物を引き渡していたもので,エヌエス日進と訴外未来は形式的に売買を装っていたに過ぎない。さらに,本件土地のうち岡山市ae番f及びb番cの各土地は,登記簿上,平成12年6月8日売買を原因として,Cから訴外Aに売却され,所有権移転登記がなされているにもかかわらず,Cを債務者とする根抵当権設定登記は抹消されていないこと,埋め立てられた本件土地の全部が訴外Aの所有ではないこと,本件土地の排出水に係る排水施設はCが管理していることなどはエヌエス日進と訴外未来との密接な関係を裏付けるものであり,ひいては,両者が形式的に売買を装っていたことを裏付けるものである。

<イ> また,本件係争物は,固化剤としてセメントを添加しており,粒径40㎜以上の粒土が混在し,改良土としての唯一の購入先である岡山市や岡山県といった公共団体が発注する公共工事で使用する基準には該当しないため,公共団体への売却はできず,他方,前記のとおり民間は改良土を利用しないのが通常であるから,本件係争物をもって有価物と見ることはできない。

⑤ 本件係争物の処理工程についての控訴人らの主張に対する反論

<ア> 改良土を製造するためには,原料たる汚泥の数倍量の建設発生土が必要とされるにもかかわらず,平成12年8月24日,産廃課職員がエヌエス日進のd事業場に立入検査を行った際,同施設内には,建設発生土又はこれに相当する土砂は全く保管されていなかった。

<イ> 産廃課職員は,同日の立入検査の際,E工場長(以下「E工場長」という。)に対し,処理委託を受けた汚泥すべてを改良土プラントの原材料にしているのか否かについて説明を求めたところ,同人は,現在の改良土プラントでは,処理委託を受けた汚泥のうち約3割は処理できない状況にあり,当該処理できない汚泥はすべて訴外財団法人岡山県環境保全事業団(以下「訴外事業団」という。)に委託処理をしている旨述べた。しかし,訴外事業団に事実確認した結果,エヌエス日進が訴外事業団に処理委託している汚泥の量は,平成12年1月から7月までの実績で,わずかピット2個から3個分にあたる50.44トンしかなく(乙9の(1),(2)),E工場長の発言が虚偽であることが明らかとなった。

<ウ> エヌエス日進が平成12年6月から同年8月までの間,訴外共同企業体から処理委託を受けていた汚泥は,4360トンであるところ,改良土を製造する場合には汚泥2に対して建設発生土8の割合で製造するというエヌエス日進の主張に従えば,改良土として約2万1000トン以上が製造されることとなるが,改良土の唯一の販売先である訴外未来へは9000トン程度しか引き渡されていないのであるから,残り1万トン以上の改良土の所在が不明である。

これに対する控訴人らの弁明主張によると,セメントで固化して排出した汚泥は,4360トン(1813立米)で比重約2.42となる一方,エヌエス日進が訴外未来に販売した本件係争物は8360トン(6269立米)で比重約1.32となり,比重が大幅に異なってしまう。一般の汚泥の比重は,1.2から1.6まで,建設発生土の比重は,1.4から2.0までであることから,セメント固化の汚泥の比重はそれらの間にあるはずであり,控訴人らが主張する換算基準は不可解である。

また,控訴人らの主張では,セメントで固化して排出した汚泥が約30%減量化することになるが,一般のセメントにより固化した汚泥は約5%しか減量しない。控訴人らの主張のとおりとして計算しても,6900トンの改良土の行方が不明である。

イ 控訴人らの主張

(ア) 最高裁平成11年3月10日第二小法廷判決(刑集53巻3号339頁)によれば,廃棄物とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かはその物の性状,排出の状況,通常の取扱形態,取引価値の有無,意思等を総合的に勘案して決するのが相当であるとの見解を述べている。この見解によれば,客観的に有用物としての組成・性能を備えている物は,有償で譲渡することができるので,原則として有用物であるが,このような物であっても,例外的に廃棄物として取り扱うべき場合があり得るということになる。そして,本件係争物は,エヌエス日進から訴外未来へ販売された改良土(第3種・第4種改良土建設資材)であって,有用物であるから,産業廃棄物には該当しない。なお,被控訴人は,本件の場合,本件係争物が汚泥を主体とするものであることについては争いがないのであるから,有価物として再生されたものであることについての主張立証責任は,控訴人らにあると主張するが,本件各処分等は控訴人らに対し不利益処分を課すものであるから,本件各処分等をした被控訴人が本件各処分等の適法性について立証責任を負うものであって,本件係争物が産業廃棄物であることの立証責任は被控訴人にあるというべきである。

(イ) 本件係争物の客観的性状

本件係争物は,エヌエス日進が製造した改良土であり,泥状でないことは以下の事実から明らかである。

① 本件係争物が,訴外共同企業体から排出された段階の建設汚泥とは質的に全く異なっており,適切な改良が行われたものであることは,本件係争物に係る鑑定(カルシウム含有量試験)結果から明らかである。

② 本件係争物を示す産廃課職員撮影の各写真(甲48)では,ダンプアウトされた直後の状態で,こんもりと山盛りになっており,周辺に水は垂れておらず,流動性は認められない。また,本件係争物がビニールに入った状態において産廃課職員により撮影された写真(乙13)によっても流動性がないのは明らかである。さらに,本件係争物がダンプアウトされた直後のダンプの荷台を写した写真(乙13)によっても,ダンプの荷台の底には全く泥状のものが付着していない。

③ 専門家の意見書(甲33~35,155)においても,ダンプアウトされた土が約45度の安息角をもって堆積していることから,本件係争物は泥状ではないとの意見が述べられている。

④ 旧建設省が監修している建設汚泥リサイクル指針(甲31)によれば,処理土(改良土)を土質材料として利用する場合の品質区分は,原則としてコーン指数を指標とするとされており,第4種処理土で200kN/㎡以上,第3種処理土で400kN/㎡以上,第2種処理土で800kN/㎡以上とされているところ,平成13年2月13日,本件土地内の産廃課職員が本件係争物を採取したのとほぼ同一地点で土を採取し,土質検査をした結果,コーン指数が200kN/㎡以上であり,前記リサイクル指針の基準を満たしている(甲32,40)。

⑤ なお,旧厚生省の建設廃棄物処理指針(甲30)は,泥状の状態とは,標準仕様ダンプトラックに山積みができず,また,その上を人が歩けない状態をいい,この状態を土の強度を示す指標でいえば,コーン指数が概ね200kN/㎡以下又は一軸圧縮強度が概ね50kN/㎡以下である旨規定しているところ,一般の庭土であってもダンプトラックに揺られて締め固めがゆるんだ状態でダンプアウトすれば,土の中に空気を含んだふわふわの状態になることは明らかであるから,上記「人が歩けない状態」とは標準ダンプトラック積載時のことをいい,ダンプアウトされた状態の土砂を歩く場合には適用されない。

⑥ 被控訴人は,改良土は,通常茶色で粒状が均一で小さくさらさらしているのに,本件係争物は灰色で粒径40㎜以上の粒土が混在していた旨主張しているが,改良土の色は材料としての汚泥及び建設発生土の色により決まり,多様であるから判断基準とはならないし,団子状のものは押せば粉々になるのであるから,その状態で粒径を測ることは技術的に誤っている。なお,エヌエス日進の改良土は振動ふるい機に取り付けられている40㎜のふるいを通過した原料のみを使っており,この解きほぐしにより粒径は40㎜以下に調整されているため,その後の工程で粒径が大きくなったり,再度固化することはない。

⑦ 被控訴人は,平成12年9月21日,被控訴人が訴外Aに対して事情聴取した際,同人が,本件係争物について,流動性が高いため搬入直後は埋立に利用できないと述べたと主張するが,そのような事実はない。

(ウ) 本件係争物の有償性

本件係争物は,エヌエス日進の製造した改良土であり,有償で売却されている。

① 訴外未来への売却

<ア> 平成11年8月から同年11月まで

使用目的 御津郡h町地内工事取引量  2400立米

<イ> 平成11年12月から平成12年7月まで

使用目的 岡山市i地内工事取引量  9124立米

<ウ> 平成12年8月

使用目的 岡山市j地内工事取引量  500立米

<エ> 平成12年8月から同年9月まで

使用目的 岡山市a地内工事取引量  2731立米

<オ> 取引価格

当初10トンあたり2000円平成12年5月から10トンあたり3500円

<カ> エヌエス日進と訴外未来との関係等

訴外未来とエヌエス日進の取引のきっかけは,エヌエス日進の取引先会社の下請業者であった訴外未来が,改良土及び再生砕石等の材料確認のため,d事業場を訪問したことが始まりであり,平成11年8月から改良土の取引を開始した。

平成11年8月から同年11月までの取引分までは現金での支払であったが,同年12月からは銀行振込に変更し,平成12年4月には,エヌエス日進より訴外未来に対して,重機による土木工事を依頼した。それ以来,エヌエス日進は,訴外未来に重機土木工事の依頼を行い,また自社工事などで運搬車両が必要となったとき,ダンプのチャーターも訴外未来に依頼するようになり,お互いに支払が発生するため,改良土代金と資材運搬等の運搬代金債務等を相殺処理するようになった。すなわち,エヌエス日進から訴外未来に対する支払金額にはエヌエス日進から訴外未来に対して発注した重機土木工事費・重機回送費,ダンプのチャーター費が含まれており,本件係争物の運搬費用とは何ら関係がない。

被控訴人は,エヌエス日進が,訴外未来に対して本件係争物の運搬費用としてダンプ1台あたり4750円を支払っていたと主張するが,そのような事実はない。本件係争物の運搬は,訴外未来の費用と責任によって行われていたものであり,エヌエス日進は,d事業場において改良土の引渡を行っていたものである。

また,被控訴人は,本件係争物の販売価格が同業他社と比較して著しく安価である旨主張するが,リサイクルを行う産業廃棄物処理業者の場合には,中間処理のために,排出業者から委託料を受領し,これをリサイクルして販売した段階で販売代金を受領するのであるから,採算性については中間処理委託料と販売代金の双方を売上として計上しなければ誤りである。

さらに,被控訴人は,本件土地にCの根抵当権設定登記が残存していることを不自然であると主張するが,これは根抵当権者である旧岡山市民信用金庫が破綻したため,その抹消登記手続が遅れているに過ぎない。

② エヌエス日進は,訴外未来以外にも,1立米あたり500円で有償売却している。

(エ) 本件土地における本件係争物の利用状況

① 津下建材は,重機置場とするために,本件土地を造成する工事を行っており,その工事に本件係争物を使用している。本件土地に元々ある土は,そのままでは機材置場にも適さない軟らかい赤土であることから,通常の残土よりも締め固めた強度の高い改良土である本件係争物を搬入して工事を行っているものであって,産業廃棄物を投棄しているものではない。

② 専門家の意見(甲33~35)によれば,本件土地は改良土を利用した造成として適切な施工方法がとられ,法面及び盛土上部に覆土が行われている点も適切であり,盛土を行う際には外周を先行して盛り,その中を埋めていく工法がとられているため,最上部に穴状の空洞がある点も施工方法として適切である等と指摘されている。

(オ) 被控訴人の主張に対する反論

① 被控訴人は,セメント添加により粘土状の状態で排出された汚泥は改良土として加工できない旨主張するが,セメント添加により流動性を低くした状態で排出された汚泥を改良土として加工することは技術的に可能であり,かつ一般的である(甲65)。

② 被控訴人は,平成12年8月24日の立入検査の際,d事業場に建設発生土が存在しなかったと主張するが,そのような事実はない。

③ 被控訴人は,E工場長が処理委託を受けた汚泥のうち3割は自らの処理能力を超えていることを理由に訴外事業団に処理委託していると述べた旨主張するが,そのような事実はない。

④ 被控訴人は,本件係争物について高アルカリ性であることを問題とするが,改良土が固化剤の影響でpH値が高いのは当然であり,日数の経過と共に比較的早くpH値が低下する結果が報告されている上,覆土等の措置を講じれば,その支障はない。

⑤ 被控訴人は,改良土は民間で利用されることは少ない旨主張するが,改良土は通常の残土よりも締め固めの強度が高いため,埋立,埋戻し,造成工事において,民間工事,公共工事を問わず需要がある。

⑥ 被控訴人は,多量の改良土の行方が不明である旨主張する。エヌエス日進が平成12年6月から8月までの間,訴外共同企業体から処理委託された汚泥は,10トンダンプで436車であり,容量としては1813立方メートルである。この汚泥は中間処理によって減量化し,1272.6立方メートルとなる。これをさらに改良土プラントにおいて原料として使用し,最終的に6553立方メートルの改良土を製造している。そのうち,訴外未来へ改良土を10トンダンプで836車,容量に換算すると,6269立方メートルを販売している。

したがって,改良土の所在は明確であり,行方不明のものなど存在しない。

(5)  本件各処分等に係る行政手続の違法性

ア 控訴人らの主張

(ア) 本件各処分等の行政手続法30条違反

① 弁明の機会付与にあたっては,行政庁はこれに先立ち,不利益処分の名あて人となるべき者に対し,「予定される不利益処分の内容と根拠となる法令の条項」(行政手続法30条1号)の外,「不利益処分の原因となる事実」(同2号)を書面により通知しなければならない。

これらの規定は,不利益処分の名あて人となるべき国民に対し,いかなる不利益処分が,いかなる事実及び根拠に基づいてなされるかについて,弁明手続において実際に意見陳述が行われるまでに相当の期間をおいて,あらかじめ示さなければ,不利益処分の名あて人となるべき者は,自己の権利利益を守るための防御手段を有効に行使し得なくなるため,このような事態を防止し,名あて人となるべき者の権利利益を保護するために設けられたものである。

したがって,この制度趣旨によれば,上記規定によって,あらかじめ通知すべき事項は,不利益処分の名あて人となるべき者が理解した上,的確な弁明書及び証拠書類を提出することができる程度に具体的に記載されなければならない。ことに弁明手続は,聴聞手続と異なり,証拠書類等を含む弁明書の提出だけですべての手続が終了することになり,その後に行政庁とのやりとりによる審理の過程はないのであるから,不利益処分の原因となる事実に対する根拠法令の当てはめの過程が,聴聞手続が行われるときに比べて分かりにくい場合も多いと考えられる。弁明手続における不利益処分の名あて人となるべき者の権利利益の保護機能を保障するためにも,当該不利益処分をしようと考えるに至った過程の適否が判断できる程度の説明が必要と解すべきである。

② そこで,本件の場合,行政庁たる被控訴人は,不利益処分の相手方となるべき控訴人らに対し,本件各処分等の原因となる事実として被控訴人が調査し把握していた事実を総合的に勘案した結果,処分要件ありと判断し,本件各処分等をしたものであるから,被控訴人には,調査把握していた事実を事前に控訴人らに対してもれなく通知し,弁明及び立証を求めるべき法律上の義務があった。しかるに,被控訴人は,調査把握していた事実のうち一部の事実しか控訴人らに通知しておらず,以下の事実については弁明を経由することなしに本件各処分等をした。

<ア> 本件係争物のpH値が高いこと

<イ> 本件土地に穴を掘って汚泥を埋め立て,これを隠すために覆土していること

<ウ> エヌエス日進のダンプチャーター料が高すぎるので,エヌエス日進が津下建材に本件係争物の運搬をチャーターしたことは疑わしいこと

<エ> 津下建材が残土処理地として届け出た区域の一部はC所有地を含んでいるので,控訴人らの結託が疑われること

<オ> 本件土地の排出水に係る排水施設をCが管理しているから,控訴人らの結託が疑われること

<カ> 本件土地の法面にエヌエス日進の通路が開設されたことから,控訴人らの結託が疑われること

<キ> エヌエス日進は,訴外共同企業体に対し,その排出汚泥を原料として製造する改良土の使途は道路の中央分離帯工事だと説明しているので,本件土地にエヌエス日進が運搬したのは改良土ではない疑いがあること

<ク> 本件係争物は,訴外共同企業体から搬入した汚泥をピットに入れ,改良土として製造する前の汚泥のままで本件土地に搬入されたと推認されること

<ケ> 改良土を製造するためには,原料となる汚泥の数倍量の建設残土が必要とされるのに,エヌエス日進のd事業場には相当量の建設残土がなかったから,エヌエス日進のd事業場で改良土を製造していたとの主張は疑わしいこと

<コ> エヌエス日進が受託した汚泥のうち3割は処理できないというのに,訴外事業団に委託した量が少なすぎるから,エヌエス日進は受託した汚泥をすべて改良土として製造していたのではないと考えられること

③ したがって,本件各処分等は,被控訴人があらかじめ把握していた②の<ア>ないし<コ>の各事実を控訴人らに事前に通知して弁明を求めることなくなされた点において,行政手続法30条に違反するものである。

(イ) 本件各処分等の行政手続法14条違反

① 行政手続法14条によれば,行政庁は不利益処分をする場合には,その名あて人に対し,同時に,当該不利益処分の理由を示さなければならないとされている。この趣旨は,不利益処分を行うことに伴い,当該処分の名あて人に対して一定の義務が課され,又はその権利が制限されることに鑑み,処分の客観性及び判断の慎重・合理性を担保させ,かつ,当該名あて人に処分の理由を理解して貰うと同時に,事後救済手続上の便宜に資する観点から,その理由を名あて人に提示することにある。したがって,同条の「理由」といえるためには,名あて人が,自分がどういう理由で不利益な処分を受けたかを,その理由を見て具体的に理解し得るような形で提示しなければならず,また,理由の追完も認められないというべきである。

② 本件の場合,エヌエス日進に対しては,不利益処分の根拠条文と,エヌエス日進の行為がこれに該当する旨が抽象的に記載されているに止まる。これでは,「不利益処分の根拠条項」が記載されているだけに等しく,「その原因たる事実」は全く書かれていないといってよいし,まして処分の原因となった具体的事実と,違反するとされた法規への当てはめやその論理的プロセスの説明は全く欠けている。

③ また,津下建材に対する本件中止撤去命令処分には,「理由」の記載が全く欠けている。

④ したがって,本件各処分等は行政手続法14条に違反し,理由不備の違法があるといわなければならない。

⑤ さらに,本件の場合,上記(ア)で述べたとおり,弁明手続通知の際に示された「不利益処分の原因となる事実」の記載に多数の重要な処分庁認定事実が欠落しており,その瑕疵を本件各処分等を行うに際しての理由の提示にそのまま引き継いだのであるから,行政手続法14条に照らして,被控訴人の理由の提示には重大な違法があるといわなければならない。

(ウ) 採証上の違法

本件各処分等に先立つ平成12年9月21日にその資料を収集する目的で,産廃課職員は,控訴人らに無断で本件土地に立ち入り,控訴人らの許可なく土砂をほしいままに採取し,Bを尋問した。廃棄物処理法が定める行政機関の立入調査はあくまで任意調査であり,被控訴人が行った立入,土砂採取行為は明らかに違法であり,このような違法な手続により採取したサンプルその他の資料に基づく本件各処分等は違法である。

(エ) 違法判断の基準時の誤り

① エヌエス日進について

<ア> 通説判例は,取消訴訟における処分の違法判断の基準時を当該処分がなされた日と解している。

<イ> 被控訴人は,その産廃課職員が行った上記(ウ)の平成12年9月21日の立入調査に基づき本件各処分等を行った。しかし,現在に至っても,本件土地内に埋め立てられた本件係争物は,崩れるどころか少しも変形することさえなく,当初の美しい形状を保持していることからみて,それが建設汚泥でなく,良質の改良土であることが明らかに証明された。科学的知見によれば,改良土は,埋め立てられた後1か月を経過するとその強度が飛躍的に増大し,その後も時の経過とともに急速に強度を増す性質を有する(甲174)。

<ウ> 仮に,本件係争物が平成12年9月21日の時点においては,安定処理を行ってからの期間が短かったため固化剤による強度発現が不十分で,締め固めがやや緩い状態であったとしても,本件各処分が行われた平成12年12月には十分な強度を有することが明らかであったのであるから,本件土地の再調査をすることなくなされた本件各処分等はその要件を欠くものであり違法である。

② 津下建材について

<ア> 無効等確認訴訟における処分の無効判断の基準時は,当該処分がなされた日とは限らない。継続的効果を有する処分については,処分後の事情変更により処分が効力を失うことがあり,この場合には口頭弁論終結時を基準として,処分が無効かどうかが判断される。

<イ> 本件の場合,遅くとも本件中止撤去命令処分がなされた平成12年12月19日の時点において,本件土地が安定した強固な状態にあったことは上記①で述べたとおりである上,現時点においても同様な状態であることからすると,十分な強度を有することが認められる。

<ウ> そうすると,本件中止撤去命令処分は既に失効していることが明らかである。

イ 被控訴人の主張

(ア) 行政手続法30条,14条違反の主張について

① 行政手続における理由付記の制度は,行政決定を行う行政庁の判断の慎重さと合理性を担保し,その恣意を抑制するとともに,行政決定の理由を相手方に知らせることにより,行政上の不服申立てや訴訟を行う上での便宜を与えることをその目的としている。このうち,控訴人らは,被控訴人の弁明の機会の付与の通知及び本件各処分通知記載の内容では,上記後段の趣旨に反する点があるとするものである。

② しかし,被控訴人の上記各通知には,上記理由付記の制度の趣旨に沿うべく,根拠となる条文はもとより,処分要件に該当する原因となる事実を具体的に記載しており,控訴人らの主張するような違法な点はない。

また,控訴人らは,弁明の機会の付与通知に対する弁明書や本件各処分通知に対する訴状において,本件係争物が産業廃棄物である汚泥であるか否かという点が本件における最大の争点であることを十分認識し,本件係争物が有価物であると主張して,本件係争物が産業廃棄物であるとする被控訴人の主張に対して反論を展開しているが,このことは,行政手続法の上記趣旨を十分に踏まえた通知がされた結果にほかならない。

③ したがって,被控訴人のした弁明の機会の付与通知及び本件各処分通知に控訴人ら主張の違法な点はなく,控訴人らの主張は失当である。

(イ) 採証上の違法の主張について

① 廃棄物処理法19条に基づく立入調査権はその拒否に対する処罰で担保されているが,立ち入られてまずい者は立入を拒否する可能性もあり,あらゆる場合において,相手方の同意がなければ同条の立入調査権を行使できないと解すれば,立入調査権を定めた趣旨が全く没却されることになる。したがって,一定の条件の下では相手方の同意を要せず,調査権の行使を適法に行使しうると解すべきである。すなわち,相手方の任意の協力を得ることにあらかじめ困難が予想され,立入調査の必要性及び緊急性がともに高い場合には相当と認められる限度においては,相手方の同意を得ない立入権の行使が許容されると解すべきである。

② 本件においては,控訴人らは某市議会議員を介し,d事業場の受託汚泥の処理実績報告の提出を企業秘密として拒否する等被控訴人による調査に対して極めて非協力的であったこと,d事業場への立入調査の際,処理を受託した多量の建設汚泥の処理内容が不明朗であったこと,Cが,平成11年8月に本件と同種の汚泥不法投棄事件を起こしたにもかかわらず,その事実を最後まで認めなかったこと,建設汚泥の不法投棄を一刻も早く止めさせる必要があったこと,本件における立入場所は,人が看守したり,人が居住する建物の敷地ではなく,平穏に短時間で行われたこと等を総合的に勘案すると,本件調査は許容されるべき範囲内のものであり,この調査に基づく本件各処分も何ら違法な点はないというべきである。

(ウ) 違法判断の基準時の誤りの主張について

① エヌエス日進に係る主張について

控訴人らの主張は,廃棄物処理法12条3項及び14条8項からして,失当である。すなわち,上記条項は,収集若しくは運搬又は処分の要件を定めるものであるから,その目的物が産業廃棄物に該当するか否かの判断の基準時が当該収集若しくは運搬又は処分がされた時点でなければならないのは当然のことである。

② 津下建材について

控訴人らは,本件中止撤去命令処分を適法に行うためには,その処分時において再度科学的検査をすべきであった等と主張するが,本件係争物が本件土地への搬入時点で産業廃棄物である汚泥であったことは明らかであり,現在に至るまで何らの再生処理も行われていない以上,産業廃棄物としての性格は失っていない。したがって,本件中止撤去命令処分に何ら違法な点はない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えの適法性)について

(1)  被控訴人は,本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えは,本件事業停止期間の経過により,訴えの利益が既に消滅していると主張する。

(2)  行政処分についての取消訴訟あるいは無効確認訴訟は,当該処分の効果が期間の経過等により消滅した場合においても,なお処分の取消しあるいは無効確認をしなければ回復できないような法律上の利益を有する者に限りこれを提起することができる(行政事件訴訟法9条,36条)。したがって,事業停止処分のように,行政処分が一定の期間内に限り,国民の権利利益を制約するものである場合,すわなち,処分に期間が付されている場合,期間経過後においては,処分がされたことを理由として法律上の不利益を受けるおそれがあるのでなければ,その取消し等を求める訴えの利益は消滅する。

(3)  本件の場合に本件事業停止期間が経過していることは明らかであるから,なお,エヌエス日進において,法律上の不利益を受けるおそれがあると認められるかが問題となる。

ア 廃棄物処理法14条2項,5項及び同法14条の4第2項は,産業廃棄物収集運搬業,産業廃棄物処分業及び特別管理産業廃棄物収集運搬業について,5年を下らない政令で定める期間ごとに更新を受けなければ,その期間の経過によって,その効力を失う旨規定しており,その更新許可にあっては,許可に準じる審査基準が適用されるが,同法14条3項等により適用される同法7条3項4号ホは「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」には許可をしてはならない旨規定している。

イ この規定について,被控訴人は,申請者の資質及び社会的信用の面から適切な業務運営が初めから期待できないことが明らかな者をいい,エヌエス日進のように比較的短期間の事業停止処分を受けた者は,上記規定に該当するとされることはあり得ないと主張する。しかし,上記規定には被控訴人主張のような限定は付されておらず,エヌエス日進が,将来産業廃棄物収集運搬業等の許可の更新を申請した場合,本件事業停止処分の存在がエヌエス日進にとって不利益な事由として考慮されるおそれがあるといわざるを得ない。

(4)  以上によれば,本件事業停止処分に係るエヌエス日進の訴えには訴えの利益があると認められるから,当該訴えは適法である。被控訴人の上記主張は採用できない。

2  争点(2)(本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えの適法性)について

(1)  被控訴人は,本件許可証返納通知は,これによってエヌエス日進に法律上の作為義務が発生するものではなく,また,これに従わなかったとしても,そのこと自体で不利益を受ける訳ではないから,取消訴訟等の対象となる処分には該当せず,本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えは不適法であると主張する。

(2)  取消訴訟等の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」とは,公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解される(最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁)。

(3)  そこで,本件許可証返納通知について検討するに,本件細則(乙34)は,許可証を返納しなければならない場合として業務停止処分が為された場合を規定しているのみであって,本件細則に基づく本件許可証返納通知には,これを強制する手続等に関する規定はない。したがって,本件許可証返納通知は,取消訴訟等の対象となる処分には該当しないというべきである。これに対し,エヌエス日進は,許可証を返納した結果,廃棄物の処理委託契約を一切締結できなくなるという極めて重大な影響を受けると主張するが,これは事業停止処分の結果であって,許可証の返納によるものではないから,エヌエス日進の上記主張は採用できない。

(4)  以上によれば,被控訴人の上記主張は理由がある。したがって,本件許可証返納通知に係るエヌエス日進の訴えは不適法である。

3  争点(3)(本件係争物の特定性)について

(1)  控訴人らは,本件各処分の対象となる本件係争物の特定が不十分又は対象物が不存在もしくは誤認の瑕疵があると主張する。

(2)  本件事業停止処分における不利益処分の原因となる事実は「平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物中間処理業務に伴って生じた産業廃棄物である汚泥(セメント等により固化したもの)の収集運搬を訴外未来こと津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかった。」というものであり,本件中止撤去命令処分の内容は「岡山市ab番c地内及びその周辺への汚泥(セメント等により固化したものを含む)の搬入を中止すること。岡山市ab番c地内及びその周辺に放棄している汚泥(セメント等により固化したもの)を平成13年4月10日までに適正な処分を行うことができる場所へ撤去すること。」である。本件各処分に至る経緯は,前記第2の2(2)で認定したとおりであり,平成12年9月の事情聴取の時点から,本件係争物について,被控訴人は産業廃棄物である汚泥であると主張し,控訴人らは,改良土であって,産業廃棄物ではないと主張し,控訴人らは,被控訴人が本件係争物を産業廃棄物であると断定した根拠についてその争点の明確化等を求めていたことが認められる。控訴人らは,対象の特定性(その性状,搬入期間,搬入量)において不十分であるばかりでなく,エヌエス日進が製造した改良土を本件土地に搬入を開始したのは,平成12年8月中旬以降であると主張する。しかし,本件においては,上記のとおり,本件係争物の産業廃棄物該当性については争いがあるところ,本件各処分の対象となる本件係争物が何を意味するのかということについては控訴人らと被控訴人との間に事実上争いはないと認められる上,本件の場合には,搬入期間及び搬入量が本件係争物の特定に不可欠なものであるとまではいうことはできないから,本件係争物の特定性を欠くものとは認められない。

(3)  以上によれば,控訴人らの上記主張は採用できない。

4  争点(4)(本件係争物の産業廃棄物性)について

(1)  産業廃棄物の定義

ア 廃棄物処理法は,2条1項において,「『廃棄物』とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のものをいう。」と定義しているが,この規定は,一般に廃棄物として取り扱われる蓋然性の高いものを代表的に例示したものであり,廃棄物とは,占有者が自ら利用し,又は他人に有償で売却することができないために不要となったものをいい,これらに該当するか否かは占有者の意思,その性状等を総合的に勘案して定めるべきものと解される。したがって,当該物について,占有者が主観的に他人に有償で売却することができると判断しただけであって,客観的には他人に有償で売却することができないものは,廃棄物に該当するといわざるを得ない。

イ また,廃棄物処理法は,同条4項1号において,「『産業廃棄物』とは,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物をいう。」と定義している。そして,同法施行令2条は,上記政令で定める廃棄物について,紙くず等12種類のものを規定するほか,13号において「燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類又は前各号に掲げる産業廃棄物を処分するために処理したものであって,これらの産業廃棄物に該当しないもの」と規定している。

ウ 以上によれば,ある産業廃棄物を再利用のために処理をし,他人に有償で売却することができる状態となった場合には,当該産業廃棄物は,その産業廃棄物該当性を失うものと解される。したがって,ある産業廃棄物に何らかの処理がなされても,未だ他人に有償で売却することができる状態に至っていない場合には,その産業廃棄物該当性は失われないものと解される。

(2)  産業廃棄物該当性についての主張立証責任

ア 国民の自由を制限し,国民に義務を課する行政処分の取消しを求める訴訟においては,行政庁がその適法であることの主張立証責任を負担すると解すべきであるところ,エヌエス日進のd事業場に搬入された時点では産業廃棄物である汚泥であったことについては当事者間に争いがない本件の場合,本件係争物が産業廃棄物である汚泥に再利用のための処理をし,他人に有償で売却することができる状態となったことについて,控訴人らが主張立証責任を負担するのか,本件係争物がその産業廃棄物該当性を失っていないことについて被控訴人が主張立証責任を負担するのかが問題となる。

イ そこで検討するに,上記(1)で述べたところによれば,確かに,本件係争物が汚泥の状態にないということだけでは,その産業廃棄物該当性は否定されないものの,被控訴人は,本件事業停止処分にあたっては,エヌエス日進が平成12年6月上旬から同年9月21日までの間,産業廃棄物である本件係争物の収集運搬を津下建材に委託する際,書面による委託契約を行わなかったことを不利益処分の原因となる事実としている以上,上記の期間において,本件係争物が汚泥であったということ又は本件係争物はこれを他人に有償で売却することができないものであったということについて,被控訴人がその主張立証をする責任を負うといわなければならない。また,被控訴人は,本件中止撤去命令処分にあたっては,津下建材が同命令時に産業廃棄物である本件係争物を本件土地に放棄していたことを不利益処分の原因となる事実としたものであるから,同様に,同命令時において,本件係争物が汚泥であったということ又は本件係争物はこれを他人に有償で売却することができないものであったということについて,被控訴人がその主張立証をする責任を負うといわなければならない。

(3)  本件係争物の産業廃棄物該当性の有無

ア まず,被控訴人は,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であると主張するので,この点について検討する。

(ア) 汚泥とは,工場排水等の処理後に残るでい状のもの及び各種製造業の製造工程において生ずるでい状のものであって,有機性及び無機性のものをすべて含むとされているところ,旧厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室作成の建設廃棄物処理指針(平成11年3月。甲30,乙33。以下「本件指針」という。)によれば,「建設汚泥の取扱い」として,以下のとおり記載されていた。

① 地下鉄工事等の建設工事に係る掘削工事に伴って排出されるもののうち,含水率が高く粒子が微細な泥状のものは,無機性汚泥として取り扱う。また,粒子が直径74ミクロンを超える粒子をおおむね95%以上含む掘削物にあっては,容易に水分を除去できるので,ずり分離等を行って泥状の状態ではなく流動性を呈さなくなったものであって,かつ,生活環境の保全上支障のないものは土砂として扱うことができる。

② 泥状の状態とは,標準仕様ダンプトラックに山積みができず,また,その上を人が歩けない状態をいい,この状態を土の強度を示す指標でいえば,コーン指数がおおむね200kN/㎡以下又は一軸圧縮強度がおおむね50kN/㎡以下である。

③ しかし,掘削物を標準仕様ダンプトラック等に積み込んだ時には泥状を呈していない掘削物であっても,運搬中の練り返しにより泥状を呈するものもあるので,これらの掘削物は「汚泥」として取り扱う必要がある。なお,地山の掘削により生じる掘削物は土砂であり,土砂は廃棄物処理法の対象外である。

④ この土砂か汚泥かの判断は,掘削工事に伴って排出される時点で行うものとする。掘削工事から排出されるとは,水を利用し,地山を掘削する工法においては,発生した掘削物を元の土砂と水に分離する工程までを,掘削工事としてとらえ,この一体となるシステムから排出される時点で判断することとなる。

(イ) 本件の場合,本件係争物がエヌエス日進のd事業場に搬入された時点で,産業廃棄物である汚泥であったことについては,当事者間に争いがない。しかし,本件各処分においてその産業廃棄物該当性が問題とされる時点は,本件事業停止処分については平成12年6月上旬から同年9月21日までの間であり,本件中止撤去命令処分についてはその処分時である同年12月19日の時点であるから,その各時点で本件係争物が産業廃棄物である汚泥と認められるかを検討しなければならない。

(ウ) この点について,被控訴人は,本件土地へのダンプアウトされた直後の本件係争物について目視,歩行実験した結果及び関係者からの事情聴取(乙11,13,14,49,51,52,証人F,同〔いずれも原審〕)から,本件係争物は,本件土地への搬入時点で泥状を呈しており,本件土地に人工的に掘った穴で天日乾燥して固めた後でなければ埋め立てることができないほどの流動性を有しており,平成12年9月21日に歩行実験を行ったところ,同実験を実施した産廃課職員F(以下「F」という。)は,くるぶしのあたりまで埋まり,歩行困難な状態であったと報告していること等から,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であると主張している。

(エ) 証拠(乙11及び13添付の各写真,甲32~35,39,154,155,証人B)によれば,平成12年9月21日に本件土地へダンプアウトされた直後の本件係争物は,エヌエス日進のd事業場でB運転のダンプに積載され,山道を約20分程度要して運搬されたにもかかわらず,約45度の安息角をもって堆積しており,ダンプの荷台にも粘土状あるいは液状の物体の付着は認められないこと,同月14日の本件係争物もほぼ同様な状態であったことが認められる。

これらの事実及び前記(ア)の本件指針からすると,本件係争物は産業廃棄物である汚泥であるとは認められないというべきである。なお,本件指針によれば,土質を示すコーン指数も汚泥かどうかを判断する基準の一つとされているところ,産廃課職員は,同月14日及び21日の立入検査の際,本件係争物を採取したが,これらについて,コーン指数についての検査が行われていない(当事者間に争いがない)ため,本件の場合,コーン指数の点から本件係争物の性状を判断することはできない。

さらに,被控訴人は,泥状物堆積実験を行い,その報告書等(乙81~83)を提出するが,上記実験に用いられた建設発生土は,その性状,そのダンプアウト中の状態等からして,本件係争物とはその性状を著しく異にするものといわざるを得ないから,上記実験結果によっても,上記結論は左右されない。

(オ) したがって,被控訴人の本件係争物が産業廃棄物である汚泥である旨の上記主張は採用できない。

イ 次に,被控訴人は,本件係争物は建設汚泥として排出された後他人に有償で売却できるものとして再生されたものではない旨主張し,その根拠をあげるので,この点について検討する。

(ア) 被控訴人は,本件の場合,エヌエス日進は,訴外未来に10トンあたり3500円で売却した本件係争物を10トンあたり4750円の運搬賃等を支払って納品しており,控訴人らは,有償での売却を仮装している旨主張し,この点について,弁明書(乙27)添付の訴外未来作成の請求書等から明らかとなったその取引関係から認められるものであって,Cから訴外Aに売却されて所有権移転登記もなされた土地についてCを債務者とする根抵当権設定登記が抹消されないでいたこと(乙44の(3),(4)),埋め立てられた本件土地の全部が訴外Aの土地ではないこと(乙43の(2),44の(5)),本件土地の排水施設をCが管理していること(乙45)などは,これを裏付けるものであると主張する。

しかし,上記根抵当権設定登記は旧岡山市民信用金庫を根抵当権者とするものであるが,同信用金庫が破綻したことは当裁判所に顕著であり,また,平成14年2月には同登記は抹消されている(甲118,119)のであるから,平成12年の時点において,控訴人らが主張するとおり,同根抵当権は被担保債権も存在しない実体のないものであった可能性は十分にあるものということができる。そして,被控訴人が主張するその他の点を考慮しても,Cと訴外Aが通常のビジネス上の交際を超えて本件係争物の有償譲渡を共謀して仮装するような関係にあったとは認められない。そもそも,被控訴人が主張する上記仮装の根拠は,控訴人ら代理人が被控訴人に提出した弁明書(乙27)に添付された資料であるところ,そこに有償譲渡仮装の証拠資料を誤って混入させてしまうというような事態は想定し難い。これに対して,控訴人らは,上記請求書中の「土工上高田 8H-3人」(乙27の73頁)等は,本件土地の100メートル南に所在するエヌエス日進の分別場所の工事代金であり,「11t常用 d 8H-2台」(乙27の74頁)等は,dでダンプをチャーターした代金であり,本件係争物のdから本件土地への運搬賃ではないと主張し,Cも,原審において,この主張に沿う供述をしている。そして,控訴人らが主張する分別場所が存在し,その土地の所有者がCであることは,証拠(乙38の(3),43の(2))上これを認めることができ,また,上記請求書中には,「k」という記載もなされており,これはエヌエス日進における営業所の一つであると認められる(Cの原審供述)。

被控訴人は,エヌエス日進が訴外未来に対し,10トンあたり3500円という極めて安価であるいは原価割れで本件係争物を販売しているとも主張するが,証拠(乙25,甲94)によれば,エヌエス日進は,訴外共同企業体から汚泥の処理を委託され,その委託代金として,ダンプ1台あたり1万8000円を受領しており,石灰代,人件費等の製造費用を差し引いても,10トンあたり3500円で販売すると,1立米あたり約1000円程度の利益を得ることができることが認められる。

これらの点を総合考慮すると,本件の場合,上記請求書中のエヌエス日進の訴外未来に対する支払が本件係争物の本件土地への運搬賃等であると断定することまではできないといわざるを得ない。

(イ) さらに,被控訴人は,①改良土は,通常茶色で粒状が均一で小さくさらさらしているはずなのに,本件係争物は,灰色で粒径が40㎜以上の粒土が混在している,②本件係争物はpH値が12で,植物の生育に適さない,③本件係争物のようにセメント添加により粘土状の状態で排出された汚泥は,改良土として加工できない,④本件係争物が建設汚泥リサイクル指針に定める第3種又は第4種改良土に該当するとしても,岡山県や岡山市の基準には適合しない等公共団体への売却はできず,民間は改良土を利用しないのが通常であるから,その商品価値はなく,商品価値があったとしても,その市場性も極めて狭いものであるから,当然に有価物にはならない,⑤平成12年8月24日のエヌエス日進のd事業場への立入検査の際,原料となるべき建設発生土等は全く保管されていなかったし,その際,E工場長は委託処理について述べたが,訴外事業団に対する調査の結果,その発言が虚偽であったことが判明した,⑥控訴人らの主張によっても,行方不明の改良土が多く存在する,⑦エヌエス日進は,訴外共同企業体には,改良土として道路中央分離帯の工事に使用すると説明していた,などと主張する。

しかしながら,このうち,①ないし④については,証拠(甲154~158)によれば,京都大学大学院地球環境学堂のH教授は,根拠として十分でない,あるいは誤った見解であるとの意見を述べていること等が認められ,被控訴人の主張は一つの見解にしか過ぎないといわざるを得ないし,pH値については,当初産廃課職員において,問題とされていなかったことが認められる(原審証人Iの供述)。③については,建設汚泥を材料としてセメント系固化剤を使用して改良土を製造する方法は,一般に行われているものであり(甲65,101),また,

⑤ のうち,建設発生土等の保管の点については,控訴人らは,これを否認しているところ,原審証人の供述によれば,同日の立入検査時に直接確認した調査員はおらず,帰りの車の中で話が出たものに過ぎないというのであるから,これを直ちに採用することはできない。⑥の点については,控訴人らは被控訴人とは異なる計算をしており,これが全く根拠のないものとは認められない。⑤のE工場長の発言については,控訴人らはこれを否認し,これに沿ったE工場長の陳述書(甲37)を提出しており,また,⑦については,産廃課職員作成の報告書(乙25)においても「道路の中央分離帯等に使用する」と記載されており,道路の中央分離帯工事のみに使用するとはされていないことからして,これらを直ちに採用することはできない。

(ウ) 一方,証拠(甲161)によれば,本件係争物には,控訴人らが主張するとおり,石灰が添加されていたことが認められるのであって,このことは本件係争物がエヌエス日進d事業場に設置されている改良土プラントで処理されたことを裏付けるものである上,本件係争物によって埋立られた本件土地が3年以上経った時点においても,当初の形状を保持していること(争いがない)は,本件係争物が控訴人ら主張の締め固めの効果を持つことを裏付けるものである。さらに,エヌエス日進は,建設汚泥を材料とした改良土について,他にも販売実績を有している(甲21,67ないし70等。枝番を含む。)

(エ) 以上検討した結果によれば,本件の場合,被控訴人が,本件係争物の売買が仮装ではないかと疑念を持つに至ったことにその根拠が全くなかったとまではいえないものの,本件係争物が有価物ではなく,訴外未来を含む控訴人らの間で売買が仮装されたと断定することはできないといわざるを得ない。したがって,本件係争物については,有価物として再生されていない産業廃棄物であるとも認めることはできない。被控訴人のその他の主張,立証によっても,以上の認定,判断を覆すには足りない。

5  争点(5)(本件各処分に係る行政手続の違法性)について

上記4によれば,本件各処分は,産業廃棄物とは認められない本件係争物を産業廃棄物として行われたものであるから,違法なものであるといわざるを得ないが,その瑕疵の程度は,前記第2の2(2)で認定した本件各処分に至る経緯及び上記4によれば,明白なものであるとは認め難いというべきであるから,本件各処分の取消事由となるに止まり,無効事由とはならないといわざるを得ない。

控訴人らは,本件各処分の無効確認を主位的請求とし,前記第2の3(5)のアにおいて,本件各処分に係る行政手続の違法性についての主張をしている。しかし,仮に,本件各処分に係る行政手続に控訴人ら主張の違法性があると認められるとしても,その違法は本件各処分の取消事由とはなるものの,無効事由とはならないと解されるから,上記のとおり既に取消事由があることが認められる本件の場合には,争点(5)についてさらに判断を加える必要はないといわざるを得ない。

6  以上によれば,控訴人らの本件各請求は,本件各処分の無効確認を求める主位的請求は理由がないからこれを棄却すべきであるが,本件各処分の取消を求める予備的請求は理由があるからこれを認容し,エヌエス日進の本件許可証返納通知の無効確認等を求める訴えは不適法であるから却下すべきである。

第4結論

よって,結論を異にする原判決を変更し,仮執行宣言については相当でないからこれを付さないこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 岩坪朗彦 裁判官 横溝邦彦)

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