広島高等裁判所岡山支部 平成16年(ラ)5号 決定 2004年4月06日
抗告人
X
外2名
上記3名訴訟代理人弁護士
松井健二
相手方
国
同代表者法務大臣
野沢太三
同訴訟代理人弁護士
板野次郎
同指定代理人
吉川浩平
外7名
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
別紙抗告状(写し)に記載のとおりである。
第2 当裁判所の判断
1 当裁判所も、相手方には本件各文書の提出義務はないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正し、抗告理由について2のとおり付加するほかは、原決定の「第2 当裁判所の判断」の記載を引用する。
(1) 原決定4頁19行目<編注本号290頁左段25行目>の「69号」を「96号」と改める。
(2) 同6頁5行目<同290頁右段29行目>の「適性な」を「適正な」と改め、同頁9行目<同頁右段35行目>、13行目<同頁右段40行目>及び同7頁6行目<同291頁左段16行目>の「訴訟」を「争訟」と改める。
(3) 同7頁16行目<同291頁左段30行目>から8頁17行目<同291頁右段17行目>までを削除する。
(4) 同8頁21行目<同291頁右段23行目>の「一般に」から23行目<同291頁右段27行目>の「いわざるを得ないので」までを次のとおり改める。
「上記のとおり、本件各文書について、相手方が民事訴訟法220条による提出義務を負わない以上」
(5) 同頁末行<同291頁右段29行目>の「本件各文書は」から9頁1行目<同291頁右段31行目>の「該当しないから」までを次のとおり改める。
「本件各文書は、民事訴訟法220条3号後段所定の文書に該当せず、かつ、同条4号ロ所定の文書に該当するから」
2 抗告理由について
(1) 抗告人らは、民事訴訟法220条4号ロにいう「公務員の職務上の秘密」とは、公権力作用にかかわる職務上の秘密をいうのであり、本件のような非権力作用に関する職務上の事項については該当しないと主張する。
確かに、国が運営する医療機関による医療行為は、純然たる私経済作用であって、国家賠償法1条にいう「公権力の行使」には当たらないというべきである。しかし、訂正の上引用した原決定が認定するとおり、本件各文書は、本件医療事故について、行政庁内部において、相互に自由かつ率直な意見交換を行うことにより、将来の医事紛争が予想される患者らとの交渉ないし訴訟追行に向けての対応・方針を検討することを目的として作成されたものであって、非公知の事項に関するものであり、かつ、紛争当事者としての国の円滑な交渉ないし訴訟追行の適正を確保するために実質的にも秘密として保護するに値する事項に関するものであるから、非権力作用に関する職務上の事項であるがゆえに「公務員の職務上の秘密」に当たらないとするのは相当でない。抗告人らの主張は採用できない。
(2) 抗告人らは、原決定は、内部文書のうち公務員が組織的に用いるものは一般的文書提出義務があり、本件各文書を公務員が組織的に用いるものと認めながら、「外部の者におよそ開示が予定されていない文書」という別のカテゴリーを設けて、民事訴訟法220条4号ニ括弧書き所定の「公務員が組織的に用いる」文書には当たらないとするが、そのような解釈手法は、解釈の域を超えるものとして違法であると主張する。
原決定の上記抗告人らの指摘する部分は、本件各文書が同条4号ロ所定の文書に該当する以上、結論に影響を及ぼすものではないが、念のため検討するに、上記括弧書きが設けられた趣旨は、国又は地方公共団体が所持し公務員が組織的に用いる文書は、文書の所持者である国等の自己使用文書に該当するものではないことを規定上明確にするためであると解される。
そして、訂正の上引用した原決定が認定するとおり、本件1の文書は、文部科学省大学局医学教育課長宛に本件医療事故について報告するために作成された文書であり、本件2の文書は、本件医療事故について、その状況を病院長に報告するため、また、岡山大学医学部附属病院医事紛争対策委員会の委員長が、同委員会の招集の必要性の有無を判断する資料としたり、同委員会が招集された場合に、本件医療事故に対する今後の病院の対応を同委員会において審議する場合の資料とするために作成された文書である。
そうすると、本件各文書は、本件医療事故について、文部科学省及び岡山大学医学部附属病院という行政庁内部で組織的に検討する目的で作成されたものと認められるから、外部の者に開示が予定されているか否かにかかわらず、上記括弧書き所定の「公務員が組織的に用いる」文書に当たるといわざるを得ない。したがって、同条同号ニにより本件各文書につき提出義務を否定することはできないというべきである。よって、この部分についての抗告人らの主張は理由がある。
3 結論
以上検討したところによれば、原決定は、本件各文書が民事訴訟法220条4号ニ所定の自己使用文書に当たるとした点において相当でないが、本件各文書が同条3号後段所定の文書に当たらないとした点及び同条4号ロ所定の文書に当たるとした点並びに相手方に本件各文書を提出する信義則上の義務があるとは認められないとした点においては相当であって、結局、相手方には本件各文書を提出する義務があるとは認められない。よって、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・前坂光雄、裁判官・岩坪朗彦、裁判官・横溝邦彦)
別紙抗告状<省略>