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広島高等裁判所岡山支部 平成17年(ネ)27号 判決 2006年1月31日

控訴人兼被控訴人(1審本訴被告,1審反訴原告)

株式会社オリエントコーポレーション

(以下「1審被告オリコ」という。)

同代表者代表取締役

上西郁夫

同訴訟代理人弁護士

山根剛

同訴訟復代理人弁護士

火矢悦治

吉岡康祐

妻鹿安希子

田中将之

控訴人兼被控訴人(1審本訴被告,1審反訴原告)

ファインクレジット株式会社

(以下「1審被告ファイン」という。)

同代表者代表取締役

木村了

同訴訟代理人弁護士

荒木孝壬

福屋登

控訴人兼被控訴人(1審本訴被告,1審反訴原告)

株式会社クオーク

(以下「1審被告クオーク」という。)

同代表者代表取締役

仁瓶眞平

同訴訟代理人弁護士

中務嗣治郎

岩城本臣

森真二

村野譲二

加藤幸江

浅井隆彦

中光弘

村上創

小林章博

錦野裕宗

鈴木秋夫

近藤恭子

藤井康弘

國吉雅男

瀧川佳昌

衛藤祐樹

金澤浩志

安保智勇

被控訴人兼控訴人(1審本訴原告,1審反訴被告)

甲野太郎等別紙1審原告目録記載のとおり(以下「1審原告ら」といい,

個別の1審原告をいう場合には,上記目録「番号」欄の番号によって特定する。)

同訴訟代理人弁護士(ただし,別紙1審原告目録「番号」

欄記載7,17,25,26,29,35,50,51の1審原告を除く。)

加瀬野忠吉

松島幸三

安田寛

榎本康浩

主文

1  1審原告らの控訴に基づき,原判決主文2項を取り消す。

2  上記取消部分に係る1審被告らの本件各反訴請求をいずれも棄却する。

3  1審原告らのその余の控訴及び1審被告らの各控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,1,2審とも,1審被告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の各申立て

1  1審被告オリコ

(1)  原判決主文2項及び3項の1審被告オリコに係る部分を次のとおり変更する。

(2)  別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載1ないし28の各1審原告は,1審被告オリコに対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額及びこれに対する平成13年3月28日から各支払済みまで年6分(控訴状の控訴の趣旨に「年5分」とあるのは誤記と認める。)の割合による金員をそれぞれ支払え。

(3)  仮執行宣言

2  1審被告ファイン

(1)  原判決主文2項及び3項の1審被告ファインに係る部分を次のとおり変更する。

(2)  別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載29ないし41の各1審原告は,1審被告ファインに対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額及びこれに対する同目録の「最終約定支払期日」欄記載の日の翌日から各支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。

3  1審被告クオーク

(1)  原判決主文2項及び3項の1審被告クオークに係る部分を次のとおり変更する。

(2)  別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載42ないし51の各1審原告は,1審被告クオークに対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額及びこれに対する同目録の「最終約定支払期日」欄記載の日の翌日から各支払済みまで年6分の割合(年365日の日割計算)による金員をそれぞれ支払え。

(3)  仮執行宣言

4  1審原告ら

(1)  原判決中,1審原告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  主位的請求

別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載1ないし28の各1審原告と1審被告オリコとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載29ないし41の各1審原告と1審被告ファインとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載42ないし51の各1審原告と1審被告クオークとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,各1審原告の各1審被告に対する支払義務がそれぞれ存在しないことを確認する。

(3)  予備的請求1

1審被告オリコは,別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載1ないし28の各1審原告に対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,1審被告ファインは,同目録の「1審原告番号」欄記載29ないし41の各1審原告に対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,1審被告クオークは,同目録の「1審原告番号」欄記載42ないし51の各1審原告に対し,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,それぞれ取立てをしてはならない。

(4)  予備的請求2

別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載1ないし28の各1審原告と1審被告オリコとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載29ないし41の各1審原告と1審被告ファインとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載42ないし51の各1審原告と1審被告クオークとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,各1審原告が,各1審被告に対し,それぞれ支払を拒絶することができることを確認する。

(5)  予備的請求3

別紙請求目録の「1審原告番号」欄記載1ないし28の各1審原告と1審被告オリコとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載29ないし41の各1審原告と1審被告ファインとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,同目録の「1審原告番号」欄記載42ないし51の各1審原告と1審被告クオークとの間で,同目録の「請求金額」欄記載の各金額につき,各1審原告が,各1審被告に対し,各金額の支払の請求を受けたときは,それぞれこれを拒絶することができることを確認する。

第2  事案の概要

1  以下のとおり付加,訂正,削除し,2ないし5で当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決6頁につき

ア 14行目の「掛布団カバー」を「上掛布団カバー」に改める。

イ 23行目の「25」の次に「〔枝番を含む。〕」を加える。

(2)  同8頁につき

ア 4行目の「本件各寝具」を「本件寝具」に改める。

イ 19行目の「都度2万8800円」を「都度,本件寝具代金の8%」に改める。

ウ 23行目の「1万0800円」を「本件寝具代金の3%」に改める。

(3)  同9頁14行目の「甲23の5」を「甲23の5の1」に改める。

(4)  同10頁5行目,8行目及び9行目の「本件契約」を「本件売買契約及び本件モニター契約」にそれぞれ改める。

(5)  同11頁1行目の「破産法」を「平成16年6月2日法律第75号による廃止前の破産法(以下「破産法」という。)」に改める。

(6)  同13頁25行目の「2条9項」から26行目の「(告示)」までを「2条9項3号,不公正な取引方法(公正取引委員会告示第15号)」に改める。

(7)  同15頁3行目の「不公正な取引方法不公正な取引方法(告示)」を「不公正な取引方法(公正取引委員会告示第15号)」に改める。

(8)  同16頁25行目の「重大過失」を「重大な過失」に改める。

(9)  同18頁22行目の「本件各契約」を「本件売買契約及び本件モニター契約」に改める。

(10)  同19頁につき

ア 7行目の「本件契約」を「本件売買契約」に改める。

イ 12行目から18行目までを全て削る。

ウ 21行目の「本件売買契約」の前に「同条項を適用することなく,」を加える。

(11)  同21頁につき

ア 7行目の「締結」を「締結し継続」に改める。

イ 19行目の「売買契約」を「本件売買契約」に改める。

(12)  同23頁末行の「被告クオーク」を「1審被告ら」に改める。

(13)  同24頁5行目の「抗弁」の次に「(1審被告クオークの主張)」を加える。

2  1審原告ら(ただし,別紙1審原告目録「番号」欄記載7,17,25,26,29,35,50,51の1審原告を除く。)の主張

(1)  原判決が,信義則を理由に抗弁対抗を制限したのは,明らかに誤りである。

旧割賦販売法30条の4の立法趣旨は,①割賦購入あっせん業者と販売業者との間には,購入者への商品の販売に関して密接な取引関係が存在していること,②このような密接な関係が存在しているため,購入者は,割賦販売の場合と同様に商品の引渡がなされない等の場合には支払請求を拒み得ることを期待していること,③割賦購入あっせん業者は,販売業者を継続的取引関係を通じて監督することができ,また「損失」を分散,転嫁する能力を有していること,④これに対して,購入者は,購入に際して一時的に販売業者と接するに過ぎず,また,契約に習熟しておらず,「損失」負担能力が低い等割賦購入あっせん業者に比して不利な立場に置かれていることを考慮して,消費者保護の観点から抗弁対抗を認めたものである。

ところが,原判決は,上記の「損失」という用語を「危険」の用語に置き換え,信義則による制限を判断する規範の一つとして「消費者が販売業者から得た利得を勘案し,両者の取引から生じた危険を,割賦購入あっせん業者ではなく,消費者に負担させることが許容されるか否か(危険負担が許容される消費者を保護することは,危険負担能力の低い消費者を保護するという法の趣旨及び目的に合致しない)」という要件を意図的に創設し,本件寝具相当代金及び受取モニター料の吐き出しを肯定するのである。しかし,上記の立法趣旨にいう「損失」とはまさに抗弁対抗が認められた結果信販会社が被る「損失」のことであって,これを負担する能力あるいはこれを回避する能力,分散する能力は,クレジットシステムを自ら構築し,手数料により莫大な収入を上げ,これを分散すべく多角的事業を行う巨大企業である信販会社に認められこそすれ,家計に苦しみ,家計を補うべく内職・モニター商法に参加する主婦層を中心とする一般消費者には負担能力も回避能力も損失分散能力も存しないのである。さらに,旧割賦販売法30条の4は,抗弁対抗の結果,抗弁事由が解消されるまでの間に消費者に何らかの利得が残ることを許容しているのであり,上記の立法趣旨にいう「損失」の回避・分散能力とは,利得を吐き出す能力の有無を言っているのではない。

(2)  原判決は,1審原告らが本件寝具の取得価額及びモニター料等をほとんど労することなく手中にしているとして,それらを合計した限度で1審原告らに本件に係る各契約における危険を負担させることが許容されるとする。

しかし,本件寝具はそもそも押しつけられた不要なものであり,かかる寝具の保有をもって原判決のいう危険負担能力ありとは認められない。しかも,本件寝具の所有権は公序良俗違反無効の論理的帰結としてダンシングに帰属するか所有権を留保する信販会社に帰属するのであり,仮に,不当利得の返還を問題とするのであれば,本件寝具そのものを返還すべきであって,購入の必要がなかった本件寝具の価額相当額を利得とすべきではない。

また,モニター料についても,1審原告らはダンシングの欺瞞的勧誘方法により錯誤に陥り,モニター料の取得が経済的実体を伴う取引であるとの認識のもとに,本件売買契約及び本件モニター契約を締結し,1審原告らのほとんどは,実際にも,レポートの提出及びチラシ等の配布を実施していたのであって,レポートの提出・チラシの配布とその対価であるモニター料の受領は,経済的実体を伴った取引であって,本件モニター料の受領をもって,「不労所得」ないしは「不当な利得」であるとは言えないことは明らかである。

(3)  原判決は,抗弁を対抗することが信義に反すると認められる「特段の事情」について,(1)の観点等からの総合考慮という基準を打ち出している。しかし,旧割賦販売法30条の4という抗弁対抗規定は,信販会社の主観を一切問わないというものであり,これを信義則という一般条項により例外的に制限しようとする以上,その解釈姿勢は厳格でなければならず,「総合考慮」などという判断基準の設定は「特段の事情」判断についての弛緩を招き,その立法趣旨を没却してしまう。

そして,原判決の重大な問題点は,その掲げる3つの観点を並列して総合考慮していることにある。そもそも旧割賦販売法30条の4に基づく抗弁対抗を信義則で制限することを基礎付けるためには,消費者に単なる過失があるだけでは足りないところ,1審原告らには,故意あるいは重過失は認められないのであるから,信義則による抗弁対抗の制限はこの時点で既に基礎付けられない。また,信販会社に加盟店調査義務違反があるような場合には,抗弁対抗を制限する必要など存しないところ,本件では,1審被告らには加盟店調査義務違反があったのであるから,抗弁対抗を信義則上制限する根拠を欠くのである。

したがって,原判決は信義則の適用において誤っている。

3  1審被告オリコの主張

(1)  本件売買契約と本件モニター契約とを一体の契約として評価したことの誤り

2個の契約を1個の混合契約として認定できる場合としては,①契約の両当事者が両契約につき条件関係に立たせるなどして,初めから関連性を設定するような合意をしていた場合,②契約の両当事者の明確な意思表示を欠くが,両契約が客観的に手段,目的の条件関係に立つなどして,客観的に関連性が認められる場合がある。

そこで,本件における2個の契約の関連性を考えるに,確かに,本件モニター契約は,本件寝具を所有していなければ締結することは不可能であり,本件売買契約なくしては,本件モニター契約はありえず,両契約は条件関係にあると評価できる可能性がある。しかし,一方,本件モニター契約を締結しなくとも,本件売買契約を締結することは可能であるから,両契約は条件関係にあるとはいえず,本件売買契約とは別個に本件モニター契約を締結することによって初めてモニター会員になるのであるから,両契約は,密接に関連付けられているものの,2個の独立した契約であり,不可分であるということはできない。そして,モニター料の存在は,1審原告らにとって,単なる売買の動機に過ぎず,両契約の関連性として,当事者双方において,本件売買契約の効力が本件モニター契約の効力に従うという内容の意思の合致は見られないから,両契約を1個の契約として締結したという当事者間の合理的意思が推定できるに足りる事実は認められない。

原判決が両契約を一体と解したことは,裁判所が当事者の契約意思を離れて,すなわち,存在する事実を超えて事実を構築するような認定をしたものであり,法解釈の領域を超えるものである。

(2)  公序良俗違反を認定した誤り

ア 原判決は,ダンシングが破綻する運命にあったことは明らかであると認定するが,この事実認定は誤りである。

1審原告らは,本件モニター商法の破綻必至性から公序良俗違反を主張するが,それはあくまでも発生した結果から考えているだけのことである。すなわち,ダンシングとしては,初めから破産することを計画していたわけではなく,ダンシングが当初予定していた事業計画の通りに経営が行えなかったことに加え,モニター会員がチラシ配布やマンスリーレポートの提出などの役務提供を果たさなかったこと,平成10年10月ころ,ダンシングが経営状態の悪化からモニター会員制度の変更案を示したが,ビジネス会員の強硬な反対により変更を断念したことなどの諸事情から,最終的に破綻に至ったものであって,そこに高度の違法性はなく,公序良俗違反はない。

イ 原判決は,ダンシングによる勧誘方法が欺瞞的顧客誘因,不当な利益による顧客誘因に該当すると認定するが,欺瞞的商法を認定するのであれば,全体像よりは個別事情を重視すべきであり,元来,それは詐欺錯誤の問題として検討すべきところ,そこには当然,私的自治を許さないほどの社会的違法性はなく,一律に公序良俗違反として無効と認定することは余りにも危険である。

ウ そもそも,1審原告らが集団訴訟における個別立証の困難を免れるために,便宜上の手段として公序良俗違反の法理を利用するようなこと自体が,公序良俗違反の本質を考えた場合に許されないことである。

(3)  加盟店管理責任を認めた誤り

1審被告オリコは,平成10年4月3日の契約の際及び同年7月中旬に,ダンシングに対し,販売方法の資料の提出及び販売方法の説明を求め,同年10月中旬にお客様相談室に連絡が入ってからは,直ちに調査を開始し,同年11月初旬に本件モニター商法の概要を知り,同年11月中旬,藤井ダンシング社長と面談して厳重注意し,今後の方針を打ち立てるなど,迅速に対応し,改善も確認できなかった平成11年2月末をもって,ダンシング顧客との立替払契約を終了したのである。

したがって,1審被告オリコのダンシングに対する加盟店管理に落ち度はなく,1審被告オリコに落ち度を認めた原判決は誤りである。

4  1審被告ファインの主張

(1)  原判決は,本件売買契約と本件モニター契約とは法形式上は別個のものであるが,両契約は密接不可分に結びついた契約であるとして,本件モニター契約の瑕疵がそのまま本件売買契約の瑕疵となることを肯定する。

しかし,原判決の解釈は売買契約の解釈を誤るものである。すなわち,確かに,1審原告らがダンシングのモニター会員となるためには,本件寝具を購入する必要性があったが,モニター会員登録しなくても本件寝具を購入することはできたところ,会員制度には愛用会員,モニター会員,ビジネス会員があり,1審原告らがダンシングから収入を得るためには,モニター会員となるかビジネス会員となるかの選択があり,いずれの場合も,本件売買契約とは別に選択した所定の業務委託契約を締結する必要があった上,モニター会員からビジネス会員への登録替えは自由であり,モニター会員資格を失っても,本件売買契約自体が否定されるものではなかったという事情があった。このような事情からすると,本件寝具を利用するというモニター制度は本件モニター契約の内容であり,本件売買契約に本件モニター契約が付加されていたり,本件モニター契約に本件売買契約が付加されているという関係にはなく,1審原告らが商品代金を上回るモニター料が受領でき,いい小遣い稼ぎになると考えて勧誘を受けたことは,単なる契約の動機に過ぎないものである。

(2)  原判決は,本件売買契約には公序良俗違反による無効事由が存在すると認めるが,以下のとおり,これは法解釈等を誤るものである。

ア 原判決の本件モニター商法は構造的に破綻必至であったという認定は安易であり,誤りである。すなわち,本件のモニター会員制度は「24か月,合計84万円」の利得を保証したものではなく,ダンシングの破産原因は,その放漫な経営と1審被告ファインによる精算留保による資金繰りの急激な悪化をダンシングが克服できなかったからに過ぎないのであって,モニター会員数が頭打ちになったわけではない。

イ 原判決の独禁法の解釈は誤りである。すなわち,原判決が問題としているのは,ビジネス会員によるセールストークに過ぎず,ダンシングはかかるセールストークが判明した会員については,除籍処分に付している。1審原告らが確認すべきは,業務委託契約の内容であり,これこそがダンシングによる勧誘文言であり,1審原告らは,同書面の交付を受けているのであるから,契約内容に「欺瞞」「不当」と指摘される謂われはない。

ウ 原判決は,ビジネス会員制度を内包した本件のモニター会員制度は連鎖販売取引類似のものと評価せざるを得ないとするが,その論理には無理がある。すなわち,ダンシングのビジネス会員制度は本件寝具の購入者の全てがビジネス会員になるわけではなく,また,無限に連鎖するわけでもないことは明らかである。そして,商品が生活に必要な寝具であり,その価格自体が相応の額となっていること,ダンシングが関係諸法規等を遵守していたことを考えれば,原判決のビジネス会員制度ひいては無限連鎖法の解釈は誤りである。

(3)  原判決は,本件について,旧割賦販売法30条の4の適用を認めるが,1審原告らは,本件立替払契約の申込時にモニター料が払われなければ割賦金を支払わないという動機を有しておらず,仮にそのような動機を有していたとしても1審被告ファインには表示していなかったものであるから,1審原告らは,旧割賦販売法30条の4によって保護すべき者ではないというべきである。

(4)  原判決は,本件の場合,1審原告らについて本件売買契約無効の抗弁を対抗できるとした上で,抗弁対抗が信義に反すると認められる「特段の事情」がある場合には抗弁対抗は許されないとする。

しかし,旧割賦販売法30条の4の規定の仕方からして,本件のような売買契約とは別個な業務委託契約の成否,消長をも抗弁事由として当然に含むものではないし,「特段の事情」の検討も1審原告らと1審被告ファインとの利益衡量によりなされなければならない。

1審原告らは,本件モニター契約に疑問や不審を感じたものの,ビジネス会員らの巧みな説明を受け,半信半疑ながらも,モニター料の高額さに目を奪われて,本件の各契約を締結したものであり,1審原告らにおいて,相当の落ち度があったことは原判決も認めるところであって,この落ち度は,故意又は重過失をもって論じられるべきであり,仮にそこまで認められないとしても,単なる過失を排除する理由はない。

原判決は,1審原告らに危険を負担させることを許容する事情の有無を信義則の適用の問題として検討し,本件寝具の取得価額及びモニター料等受領額を合計した限度で1審原告らにその危険を負担させることは許容されると判示するが,本件の事情からすると,1審原告らの負担を上記の限度とすることは不当である。

また,原判決は,1審被告ファインの加盟店管理義務を肯定する。しかし,信販会社が加盟店を具体的に監督できるという立場にはないから,原判決の信販会社の加盟店に対する調査義務の法的根拠は誤りである。さらに,1審被告ファインは,ダンシングが紹介販売をしていること,愛用会員,モニター会員,ビジネス会員が存在することを知っていただけであり,ダンシングからは,本件寝具の品質の良さを強調する販売をしている,モニター会員はせいぜい1%程度であるとの説明を受けていたものであって,匿名の電話を受けて,その後のダンシングに対する問い合わせ及び顧客に対する再調査により,精算留保の措置を果敢にとったものである。したがって,1審被告ファインが,加盟店であるダンシングに対する調査,管理義務を怠ったという原判決は誤りである。

(5)  原判決の本件寝具の取得価額の認定は誤りである。すなわち,本件では,1審原告らは,ダンシングの販売価格をもってしか本件寝具を購入できなかったものであるから,原判決の「取得しうる市場価格」の認定には明らかな誤りがある。

5  1審被告クオークの主張

(1)  原判決の「本件売買契約と本件モニター契約とは,法形式上は別個のものではあるが,両契約は密接不可分に結びついた契約であり,本件売買契約及び本件モニター契約を全体的に観察して,そこに無効,取消,解除事由が存する場合には,本件売買契約に当該事由が存するものというべきである」との判示部分は,判例違背にあたり失当である(最高裁判所平成8年11月12日第三小法廷判決。民集50巻10号2673頁)。すなわち,本件の場合に上記判例の基準をあてはめると,社会通念上モニター料の受領が本件寝具の購入目的となっているという関係が認められることが必要であるはずであるが,社会通念上寝具購入の目的はそれを使って寝るということに尽きるのであって,上記のような関係は認められないから,本件売買契約と本件モニター契約の不可分一体性を承認し,公序良俗違反による全部無効と結論するのは失当である。

また,印鑑の売買契約と合体してなされた金銭配当契約がいわゆる無限連鎖講に当たり無効とされた事例に関する名古屋高等裁判所金沢支部昭和62年8月31日判決(高民集40巻3号53頁)は,売買契約と金銭配当契約とを別個独立のものと解しており,本件の場合も,両契約を不可分一体と解して全部無効という結論を採る必然性はない。

さらに,特定商取引法51条の規定及び最高裁判所判決(第三小法廷平成2年2月20日判決。裁判集民事159号151頁)からすると,旧割賦販売法30条の4の下では,「付帯役務の提供を条件とする指定商品の販売」という類型に当てはまらない限り,両契約の不可分一体性は認められないところ,本件におけるモニター料の支払のような金銭の給付は,役務の提供すなわち労務または便益の提供に該当しないから,不可分一体性は認め難い。

(2)  原判決は,破綻必至性,独禁法違反及びマルチ商法の点から,本件モニター商法は公序良俗に反するものと認めるに十分であるとするが,そのように解すべき理由は全くない。

ア 本件モニター商法には,主観的にも客観的にも破綻必至性はなく,1審被告ファインの与信供与停止により結果的に破綻しただけのことである。

また,本件でいう「破綻必至性」というのは,本件寝具の売買代金以上のモニター料をダンシングが購入者に支払うことになるという仕組みそれ自体が収支のバランスを欠いたものであり,早晩資金繰りに行き詰まらざるを得ないという意味であり,無限連鎖講等におけるものとは全く意味を異にするものであって,その悪性の中核的部分を共有していないから,公序良俗違反を基礎付けるものではないというべきである。

イ マルチまがい商法性が問題となるのは,ビジネス会員についてであって,本件モニター契約に関する限り,マルチまがい商法性は固有の問題ではなく,本件のモニター会員制度はこれと併存して別個独立に行われていた制度に過ぎないのであるから,この両者の密接性を云々して公序良俗違反性を基礎付けるのは失当である。

(3)  原判決は,抗弁を対抗することが信義に反すると認められる「特段の事情」の有無を判断するに当たり,消費者に故意または故意に比肩すべき重過失が存するか否かということを考慮要素とすべきであるとする。しかし,1審原告らにそのような事情があれば,1審原告らの行為はそれだけで共同不法行為または付随義務違反の成立要件を充たしており,信義則違反による抗弁対抗制限の法理の出番はない。そもそも信義誠実の原則は,個々の事案における法律規定の具体的な解釈適用場面において,法律規定の一般的ないし形式的な適用によっては著しく均衡を失する場合において,その一般的ないし形式的な適用を限定ないし修正して当該事案に適った妥当な解決を図るための法理である。したがって,1審原告らの行為が信義則違反と評価すべきかどうかについては,その行為が法令または公序良俗に反する非難されるべきものであることまでは必要ではなく,法の趣旨に照らして1審原告らに法律規定の一般的ないし形式的な適用による保護を与えることが著しく不均衡を招くかどうかを検討すれば足りるのである。そうすると,原判決の上記見解は,信義則違反成立の範囲を不当に狭めるものであり,失当である。

本件において,1審原告らは,少なくとも本件モニター契約が,自らは経済的負担をせず,モニター料をもって分割支払金の返済に充て,さらにその差額が利得となる契約であるという認識を有していたのであるから,本件寝具を売却すればするほど,モニター料の支払のためにダンシングに損失が累積する一方であり,社会通念上,ダンシングが短期間のうちに破綻することが必至であったということを容易に推認し得たのであるから,1審原告らには悪意重過失があったものと評価すべきである。

そうすると,1審被告らの犠牲において,射幸的な意図をもって契約関係に入った1審原告らを保護することは信義則に反するものといわざるを得ないし,信義衡平の原則からして,1審原告らの利得の保有が許されるべきではない。

(4)  原判決は,旧通産省の行政指導等を根拠に加盟店管理義務があるとする。しかし,立替払契約上,信販会社が購入者に対して負う義務は,立替払をするという給付義務に尽きるのであって,原判決の上記見解は,実際の信販会社と加盟店との関係,業界の実状に関して根本的に誤った認識に基づいており,また,上記行政指導等の法的性質についても誤った解釈をしている。

第3  当裁判所の判断

1  認定事実

以下のとおり付加,訂正するほかは,原判決27頁3行目から34頁11行目までを引用する。

(1)  原判決27頁につき

ア 3行目の「甲13,23」を「甲13ないし23」に改める。

イ 9行目の「丙16」を「丙3ないし5,16」に改める。

ウ 15行目の「登録申請書面」を「登録申請書」に改める。

(2)  同28頁21行目の「被告クオークについ」を「1審被告クオークにつき」に改める。

(3)  同31頁につき

ア 19行目末尾の次に,改行の上以下のとおり加える。

「(12) ダンシングにおける会員登録総数

平成11年5月31日にダンシングが自己破産の申立てを行うまでの延べ会員総数は1万7687名であり,その内訳は以下のとおりであった。なお,モニター会員からビジネス会員に変更した会員は合計821名であり,その割合は5%にも満たなかった。

ア モニター会員  1万4272名

イ ビジネス会員    2137名

ウ チャンス会員     804名

エ テルメイト会員    474名」

イ 20行目の「(12)」を「(13)」に改める。

(4)  同32頁23行目の「ものであ」を「ものであると」に改める。

(5)  同34頁につき

ア 1行目,4行目及び6行目の「清算金」を「精算金」にそれぞれ改める。

イ 5行目の「(13)」を「(14)」に改める。

2  争点1(本件売買契約に無効あるいは取消又は撤回,解除原因があるか)について

(1) 本件売買契約と本件モニター契約の関係

ア  訂正の上引用した原判決認定の前提事実及び上記1の認定事実(以下「本件認定事実」という。)によれば,本件モニター商法(本件売買契約に本件モニター契約を組み合わせた商法)は,本件寝具を購入してモニター会員となり,本件寝具に関する簡単なレポートを提出すればモニター料を受領できるというものであるが,ダンシングにおける延べ会員総数1万7687名のうち,モニター会員は1万4272名,ビジネス会員は2137名,チャンス会員は804名,テルメイト会員は474名であり,モニター会員の占める割合は約80%にのぼる一方,モニター会員からビジネス会員に変更した会員は5%にも及ばなかったこと,モニター契約のみをした者は存在せず,本件寝具の売買契約のみをした者もほとんどいなかったこと(甲40,47),ダンシング所定の契約書の体裁からも明らかなように,本件モニター契約が本件売買契約に付帯して締結されるようになっている場合が多かったこと,1審原告ら及びモニター会員らの認識としても,本件寝具代金を上回るモニター料を受領できる旨の勧誘を受けたことが本件寝具購入の重要な要素であり,モニター料の受領と本件寝具の購入とは不可分一体の関係にあるものとして本件売買契約を締結したものであることが認められる。これらの点からすると,本件売買契約と本件モニター契約は不可分一体の契約であると解するのが相当である。

イ 1審被告オリコ及び1審被告ファインは,本件モニター契約を締結しなくとも,本件売買契約を締結することは可能であり,モニター料の存在は1審原告らにとって単なる売買の動機に過ぎないから,両契約を一体と解するのは不当である旨主張する。しかし,上記アで述べたとおり,本件認定事実によれば,上記のとおり解するのが相当であり,1審被告オリコ及び1審被告ファインの上記主張は採用できない。

ウ 1審被告クオークは,判例(最高裁判所平成8年11月12日第三小法廷。民集50巻10号2673頁)の基準を本件にあてはめると,社会通念上モニター料の受領が本件寝具の購入目的となっているという関係が認められることが必要であるはずであるが,社会通念上寝具購入の目的はそれを使って寝るということに尽きるのであって,上記のような関係は認められないから,本件売買契約と本件モニター契約の不可分一体性は認められないと主張する。しかし,上記アで述べたとおり,本件認定事実によれば,社会通念上からしても,1審被告クオークが主張するように限定的に解すべき理由はないから,上記のとおり解するのが相当であって,1審被告クオークの上記主張は採用できない。このことは,1審被告クオークが指摘する名古屋高等裁判所金沢支部の裁判例及び特定商取引法51条及び最高裁判所判決からしても,本件の場合において,1審被告クオークが主張するように不可分一体性を認める範囲を限定して解されなければならない理由とはならないから,上記の判断を左右するものではない。

(2) 本件売買契約についての公序良俗違反に係る無効事由の存否

ア  本件認定事実によれば,本件モニター商法は,モニタープランを主力として展開する販売方法であるところ,この販売方法によれば,ダンシングが本件寝具の代金全額を1審被告ら信販会社から立替払を受けたとしても,モニター会員のレポート提出により,24回に分けるにせよ,上記金額を大幅に上回る金員を支払わなければならないものであるから,このような取引を継続してもダンシングにおいて利益を留保する余地はなく,客観的に見ればいずれ経営破綻を招くことが明らかな商法であったこと,ダンシングは,本件モニター商法を連鎖販売取引であるビジネス会員制度と結び合わせて,本件モニター商法を全国に展開し,モニター会員の急増に拍車をかけ,その結果,モニター会員はその総数1万4272名にも及んだこと,ダンシングは,ビジネス会員を通じて,顧客に対し,本件のモニター会員制度が成立する理由について虚偽の説明を行って,その勧誘を行い,多数の顧客が,その説明に半信半疑ながらもこれを信じ,勧誘に応じて本件寝具に係る売買契約及びモニター契約を締結したこと,その結果,ダンシングは,当然の経過として,自己破産するに至り,多数の顧客に損害を被らせたことが認められる。これらの点からすると,本件モニター商法は,詐欺的商法であり,自由取引の枠組みを超える反社会的なものであって,公序良俗に反するものであるというべきである。

イ 1審被告らは,本件モニター商法に破綻必至性はなく,ダンシングの経営が破綻したのは,1審被告ファインによる精算留保等によるものであると主張する。しかし,本件認定事実によれば,1審被告ファインの精算留保によって,ダンシングが自己破産せざるを得なくなった時期が早まった可能性があるだけであって,本件モニター商法について,破綻必至性が認められることは上記アのとおりであるから,1審被告らの上記主張は採用できない。

ウ 1審被告オリコは,本件モニター商法が欺瞞的商法(詐欺的商法)であるとするのであれば,個別事情を考慮すべきであり,集団訴訟における個別立証の困難を免れるために便宜上の手段として公序良俗違反の法理を利用することは許されないと主張し,1審被告ファインは,虚偽の説明を行ったのはビジネス会員によるセールストークに過ぎない等として,「欺瞞」「不当」と指摘される謂われはないと主張する。しかし,本件認定事実によれば,ダンシングがモニター会員の勧誘の際に虚偽の説明を組織的に行っていたこと,勧誘を受けた顧客らが半信半疑ながらもこれを信じたことは明らかであるから,1審被告オリコ及び同ファインの上記各主張はいずれも採用できない。

エ 1審被告クオークは,マルチまがい商法性が問題となるのは,ビジネス会員についてであって,本件のモニター会員制度はこれと併存して別個独立に行われていた制度に過ぎないのであるから,この両者の密接性を云々して公序良俗違反を基礎付けるのは失当であると主張する。しかし,上記アで認定したとおり,本件の場合,ダンシングは,ビジネス会員を通じて,顧客に対し,本件のモニター会員制度が成立する理由について虚偽の説明を行って,その勧誘を行った結果,多数のモニター会員が加入したものであって,両者は密接不可分な関係にあるというべきであるから,これらの点を本件モニター商法の公序良俗違反性について総合考慮するのは当然である。したがって,1審被告クオークの上記主張も採用できない。

オ 以上によれば,本件モニター商法は,公序良俗に反する違法な取引であるところ,これを法的に構成するところの本件売買契約及び本件モニター契約は不可分一体の契約であると認められるから,両契約は公序良俗に反し全部無効であるといわなければならない。

3  争点2(1審原告らは,本件売買契約無効の抗弁を本件立替払契約上の1審被告らの割賦金支払請求についての抗弁として主張し得るか)について

(1)  本件認定事実によれば,本件立替払契約は,1審被告らが,1審原告らのダンシングに対する本件寝具購入代金を立替払した上で,1審原告らから2か月以上の期間にわたる3回以上の分割の支払を受けるものであるから,旧割賦販売法30条の4の「割賦購入あっせん」(同法2条3項2号)に当たる。また,本件寝具は,同法施行令1条1項別表1第4号の「寝具」に当たり,同法2条4項の「指定商品」に該当し,その値段はいずれも4万円以上であることが認められる。

旧割賦販売法30条の4の規定は,信販業者に対する関係で,消費者の利益を保護するためのものであり,かつ,同条において対抗を認める抗弁には制限がないのであるから,1審原告らは,特段の事情のない限り,上記2で認定,判断した公序良俗違反を理由とする本件売買契約の無効を主張して,1審被告ら信販会社の割賦金支払請求を拒むことができると解するのが相当である。

これに対して,1審被告らは,本件売買契約と本件モニター契約が別個独立の契約である等として,抗弁対抗を否定するが,上記2で認定,判断したとおりであるから,1審被告らの上記主張は採用できない。また,1審被告らは,1審原告らがレポートの提出やチラシ配布の対価としてモニター料を受領していたことが「作業又は労務の請負」として「商行為」に該当する,モニター料の不払いは本件売買契約を履行した後に生じた事由であるから,同条にいう「販売につき」生じた事由には該当しないと主張するが,本件認定事実によれば,1審原告らは営業的に「作業又は労務の請負」をなしていたものとは認められないし,本件売買契約に係る無効事由は,本件売買契約自体に内在するものであるから,1審被告らの上記各主張も採用できない。さらに,1審被告ファインは,1審原告らは,本件立替払契約の申込時にモニター料が払われなければ割賦金を支払わないという動機を有しておらず,仮にそのような動機を有していたとしても1審被告ファインには表示していなかったものであるから,1審原告らは,旧割賦販売法30条の4によって保護すべき者ではないと主張するが,1審原告らが対抗できる抗弁は,本件売買契約の公序良俗違反無効であって,錯誤無効の主張ではないから,1審被告ファインの上記主張も採用できない。

(2) ところで,旧割賦販売法30条の4は,①割賦購入あっせん業者と販売業者との間には,購入者への商品の販売に関して密接な取引関係が存在していること,②このような密接な関係が存在するため,購入者は,割賦販売の場合と同様に,商品の引渡がなされない場合等には支払請求を拒絶できることを期待していること,③割賦購入あっせん業者は,継続的取引関係を通じて販売業者を監督することができ,また,損失を分散・転嫁することができる能力を有していること,④これに対して,購入者は,購入に際して一時的に販売業者と接するに過ぎず,また,契約に習熟していないし,損失負担能力が低い等,割賦購入あっせん業者と比較して,不利な立場に置かれることなどの諸事情に鑑み,消費者の利益を保護するという社会的要請に応えるために,私法上の重大な特則として規定されたものである。したがって,購入者が割賦購入あっせん業者に対して抗弁を主張(対抗)することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には,抗弁の対抗が許されないことは,信義則の法理から当然であるが,上記の同法30条の4の趣旨及び目的に照らすと,本件認定事実の下においては,上記にいう「特段の事情」については,信販会社である1審被告らとの本件立替払契約締結に際し,購入者である1審原告らに何らかの過失や不注意があるだけでは足りないというべきであり,購入者である1審原告らにおいて,販売業者であるダンシングの本件モニター商法が公序良俗に反するものであることを知り,かつ,クレジット契約の不正利用によって信販会社に損害を及ぼすことを認識しながら,自ら積極的にこれに加担したというような背信的事情が有る場合をいうものと解するのが相当である。

これに対して,1審被告らは,本件モニター契約により1審原告らが受領するモニター料等は不労所得であり,また,1審原告らはダンシングの一機関ともいうべき立場であって,旧割賦販売法30条の4で保護されるべき消費者ではなく,このような1審原告らが,本件売買契約について公序良俗違反無効の抗弁を主張して,1審被告らに責任を転嫁することは信義則に反し許されないと主張し,加えて,1審被告ファイン及び同クオークは,1審原告らに故意または重過失がある場合には,共同不法行為等の成立要件を充たしている,旧割賦販売法30条の4の規定の仕方等からして,「特段の事情」の検討は1審原告らと1審被告らとの利益衡量によるべきであり,単なる過失を排除する理由はない等と主張する。しかし,本件認定事実によれば,1審原告らが受領したモニター料が不労所得であるとは直ちにはいえないし,また,モニター会員に過ぎない1審原告らについて,同人らがダンシングの一機関であるとまで認めるに足りる証拠はなく,さらに,上記で述べた同法30条の4の立法趣旨に鑑みると,購入者に単なる過失しかない場合に,同条の適用を認めないことはその趣旨に反し,消費者の利益保護に欠けることになる上,消費者に販売業者との共同不法行為が成立する場合のあることから,同法30条の4による抗弁の対抗を許さない範囲について当該消費者に単なる過失がある場合も含むと解さなければならないということは,両制度の趣旨目的が異なることからして,直ちにはいえないというべきである。したがって,1審被告らの上記各主張はいずれも採用できない。

(3) そこで,1審原告らにおいて,販売業者であるダンシングの本件モニター商法が公序良俗に反するものであることを知り,かつ,クレジット契約の不正利用によって信販会社に損害を及ぼすことを認識しながら,自ら積極的にこれに加担したというような背信的事情があると認められるかについて検討するに,本件認定事実によれば,1審原告らはいずれもモニター会員であること,ダンシングは,本件のモニター会員制度が成立する理由について虚偽の説明をし,1審原告らを含む顧客もその説明に半信半疑ながらも,結局,これを信じ,本件売買契約を締結したものであることが認められ,ダンシングが破綻した現在から振り返ると,そのように1審原告らが信じたことは軽率であったとは認められるが,それ以上に1審原告らについて,上記のような背信的事情があったとまではいえず,他に1審原告らに背信的事情があったとまで認めるに足りる証拠もない。

これに対し,1審被告クオークは,本件において,1審原告らは,少なくとも本件モニター契約が,自らは経済的負担をせず,モニター料をもって分割支払金の返済に充て,さらにその差額が利得となる契約であるという認識を有していたのであるから,本件寝具を売却すればするほど,モニター料の支払のためにダンシングに損失が累積する一方であり,社会通念上,ダンシングが短期間のうちに破綻することが必至であったということを容易に推認し得たのであるから,1審原告らには悪意重過失があったものと評価すべきであると主張する。しかし,上記で述べたとおり,ダンシングが破綻した現在から振り返ると,1審原告らがダンシングからの説明を信じたことは軽率であったとはいえるものの,本件認定事実で認定したとおり,1審被告らにおいても,ダンシングの販売方法に疑問を感じながらも,直ちにダンシングとの加盟店契約を打ち切らなかったことからすると,1審原告らがダンシングの破綻必至性を本件売買契約等締結当時に容易に推認し得たものと直ちに認めることはできず,そのように認めるに足りる証拠もない。したがって,1審被告クオークの上記主張は採用できない。

なお,1審被告らは,加盟店管理責任はなかった等として縷々主張するが,上記の認定,判断及び前述した旧割賦販売法30条の4の立法趣旨からすると,仮に,1審被告らに加盟店であるダンシングに対する管理責任がなかったとしても,本件においては,そのことから,1審原告らからの抗弁対抗を否定することはできないというべきであるから,1審被告らの上記主張については判断するまでもない。

4  以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,1審原告らは1審被告らからの本件各反訴請求を本件売買契約の公序良俗違反無効を理由として拒絶することができる。したがって,1審被告らの本件立替払契約に基づく本件各反訴請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり,一方,1審原告らの本件立替払契約に係る債務についての支払義務の不存在確認等を求める本件本訴請求については,本件各反訴請求において給付請求がなされていることからして,いずれもその確認の利益を欠く不適法なものというべきであるから,その訴えを却下すべきである。

第4  結論

よって,1審原告らの控訴に基づき原判決主文2項を取り消し,同取消部分に係る1審被告らの本件各反訴請求をいずれも棄却し,1審原告らのその余の控訴及び1審被告らの各控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・前坂光雄,裁判官・岩坪朗彦,裁判官・横溝邦彦)

別紙

請求目録<省略>

1審原告目録<省略>

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