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広島高等裁判所岡山支部 平成18年(行コ)4号 判決 2009年9月17日

当事者の表示は別紙当事者目録記載のとおり

主文

一  一審被告岡山市長、同Y2、同Y3、同Y4、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9、同Y10、同Y11、同Y12、同Y13、同Y14の控訴に基づき、原判決中同一審被告ら敗訴部分を次のとおり変更する。

(1)  一審被告岡山市長が、下記一審被告らに対し、下記各金員及びこれらに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を請求しないことが違法であることを確認する。

ア  一審被告Y15に対し、四億五〇九〇万四〇〇〇円

イ  同Y16に対し、二億一四八七万六〇〇〇円

ウ  同Y5に対し、一億三〇六四万二〇〇〇円

エ  同Y6に対し、一億八一二八万九〇〇〇円

オ  同Y7に対し、七一九三万円

カ  同Y8に対し、一億一六二五万九〇〇〇円

キ  同Y9に対し、一七三五万二〇〇〇円

(2)  一審被告Y5は、岡山市に対し、一億三〇六四万二〇〇〇円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(3)  一審被告Y6は、岡山市に対し、一億八一二八万九〇〇〇円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  一審被告Y7は、岡山市に対し、七一九三万円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(5)  一審被告Y8は、岡山市に対し、一億一六二五万九〇〇〇円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(6)  一審被告Y9は、岡山市に対し、一七三五万二〇〇〇円及びこれに対する平成一一年九月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(7)  一審原告らの一審被告岡山市長、同Y5、同Y6、同Y7、同Y8、同Y9に対するその余の請求を棄却する。

(8)  一審原告らの一審被告Y2、同Y3、同Y4、同Y10、同Y11、同Y12、同Y13、同Y14に対する請求をいずれも棄却する。

二  一審原告ら及び一審被告Y15、同Y16の本件各控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、一、二審を通じて、一審原告らに生じた費用の四分の一と一審被告岡山市長に生じた費用の二分の一を一審被告岡山市長の、一審原告らに生じた費用の一〇分の一と一審被告Y15に生じた費用を一審被告Y15の、一審原告らに生じた費用の二〇分の一と一審被告Y16に生じた費用を一審被告Y16の、一審原告らに生じた費用の四〇分の一と一審被告Y5に生じた費用の五分の一を一審被告Y5の、一審原告らに生じた費用の三〇分の一と一審被告Y6に生じた費用の二分の一を一審被告Y6の、一審原告らに生じた費用の五〇分の一と一審被告Y7に生じた費用の三分の一を一審被告Y7の、一審原告らに生じた費用の四〇分の一と一審被告Y8に生じた費用の三分の二を一審被告Y8の、一審原告らに生じた費用の一〇〇分の一と一審被告Y9に生じた費用の三分の一を一審被告Y9の、一審原告らに生じたその余の費用と一審被告らに生じたその余の費用を一審原告らの各負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  一審原告ら

1  原判決中、一審被告Y17(以下「一審被告Y17」という。)に対する一審原告らの請求を棄却した部分を取り消す。

2  一審被告Y17は、岡山市に対し、一億一四三五万一〇〇〇円及びこれに対する平成一二年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は一、二審とも一審被告Y17の負担とする。

二  別紙当事者目録二ないし四、八ないし一一、一三、一四の一審被告ら

1  原判決中、一審被告らの敗訴部分を取り消す。

2  一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は一、二審とも一審原告らの負担とする。

三  別紙当事者目録一、五、七、一五ないし一九の一審被告ら

(本案前)

1 原判決中、一審被告らの敗訴部分を取り消す。

2 一審原告らの訴えを却下する。

3 訴訟費用は一、二審とも一審原告らの負担とする。

(本案)

1 原判決中、一審被告らの敗訴部分を取り消す。

2 一審原告らの請求を棄却する。

3 訴訟費用は一、二審とも一審原告らの負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、旧自治省(現総務省)が、地方公共団体に交付する普通交付税額を算定するに当たり、地方自治法(平成一四年法律第四号改正前のもの。以下「法」という。)二四六条及び地方自治法等の規定に基づく地方公共団体の報告に関する総理府令(昭和二八年総理府令第三二号)を実施根拠として行われた市町村公共施設状況調査における公共下水道に係る「現在排水人口」について、各地方自治体に、市町村公共施設状況調査表への記載をするよう求めたところ、岡山市が、昭和四五年度から平成一〇年度の二九か年度にわたり、同調査記載要領によって指示されていた数値を記載せず、同数値よりも過大な数値となる数値を記載したために、岡山市に対する地方交付税が過大に交付されたとして、旧自治大臣が、岡山市に対し、地方交付税法(平成一一年法律第一六〇号による改正前のもの。以下同じ。)一九条四項に基づき、同市が受けるべきであった地方交付税額を超過する部分一九億八四八一万七〇〇〇円(以下「超過額」という。)の返還及び同法一九条五項に基づく加算金の支払を請求したのに対して、岡山市は、平成一一年九月二八日、同金額を支払った。そこで、岡山市の住民である一審原告らが、昭和五六年度から平成一〇年度までの間における上記調査表の記載にかかわった当時の岡山市長、下水道局または財政局担当の助役、岡山市下水道局及び財政局の幹部職員であった者らを一審被告として、①上記の市町村公共施設状況調査表に過大な数値を記載することに関与した行為及び②旧自治省から交付された普通交付税算定用(市町村分)基礎数値チェック表の確認手続を行う際に、同表に記載された過大な数値を訂正しなかった不作為によって、岡山市が支払った加算金相当額二一億二二四八万七〇〇〇円の損害を被ったが、一審被告岡山市長はその損害賠償請求権の行使を怠っているとして、法二四二条の二第一項四号に基づき、岡山市に代位して、一審被告岡山市長及び一審被告Y17を除く一審被告らに対し、岡山市に対し①及び②の共同不法行為に基づく昭和五六年度から平成一〇年度までの加算金にかかる各関与年度分相当の損害金(附帯請求は、不法行為の後の日である平成一一年九月二九日〔岡山市が旧自治省に対して加算金を支払った日の翌日〕から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求である。)の賠償を、また、下水道普及率が過大であったことを公表した当時の岡山市長であった一審被告Y17に対し、同人が岡山市長在任中に、昭和五五年度に係る加算金相当額の不法行為に基づく損害賠償請求権を除斥期間の徒過によって消滅させたことにより岡山市に一億一四三五万一〇〇〇円の損害を負わせたとして、岡山市に対し不法行為に基づく損害(附帯請求は、不法行為の後の日である訴状送達の日の翌日である平成一二年一一月八日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求である。)の賠償を、さらに、一審被告岡山市長に対して、前記各損害賠償請求を怠る事実が違法であることの確認を求めた事案である。

原審は、一審被告岡山市長、一審被告らのうち一審被告Y17を除く市長、一審被告のうち助役、下水道局長または財政局長の地位にあった者に対する請求を一部認容し、一審被告岡山市長がかかる一審被告らに対して損害賠償請求をしないことが違法であることを確認し、一審被告Y17及び一審被告らのうち下水道局または財政局の部長以下の地位にあった市職員に対する請求を棄却した。

これに対し、一審原告らは、一審被告Y17に対する請求が棄却されたことを不服として控訴し、請求を認容された一審被告らもこれを不服として控訴した。したがって、原審で請求が棄却された原審相被告らである下水道局または財政局の部長以下の市職員であった者らに対する判決は確定しており、また、一審被告らのうち下水道局または財政局の局長、助役であった者らに係る請求の一部は棄却されたが、これについて不服申立はなく、いずれも当審で審理の対象となっていない。

なお、一審原告らは、当審で、一審被告A及び同Bに関する訴えを取り下げたほか、一審原告らのうち同Cは訴えを全部取り下げた。

二  前提となる事実(争いのない事実又は各項括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

次のとおり付加訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案の概要」の「一 前提となる事実」(原判決七頁一八行目から同一二頁二二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決八頁一二行目「ある」の次に「。ただし、補正係数のうち主要なものは、種別補正、段階補正、密度補正、態容補正、寒冷補正の五種であり、そのほかは特例的なものである(乙ア一、二)」を付加する。

2  同一三行目から同二四行目までを次のとおり改める。

「 下水道費が基準財政需要額の算出項目である行政項目に新たに加えられたのは、昭和四二年度以降である。行政項目の一つである下水道費の測定単位は人口であり、費用は経常経費と投資的経費に区分される。経常経費には下水道の維持管理に要する公費負担分、投資的経費には下水道施設に係る地方債の元利償還金相当額の公費負担分を算定する。単位費用は法律で決められ、年度により変動がありうるが、平成一二年度においては経常経費が一六〇円、投資的経費が一〇一円である。

下水道費の需要額を算定する上で使用される補正係数には当初態容補正のみ採用されたが、これに加え密度補正が昭和四五年度から導入されている。下水道費の密度補正は経常経費に適用されて加算に使用され、下水道費の経常経費に適用する補正の算式は、普通態容補正係数+(密度補正係数-一)である。

密度補正に用いる密度を算定するための指標は、当初昭和五〇年度までは排水人口のみであり、その後昭和六一年度までは排水人口及び排水面積であったが、その後時期を追う毎に種類が増え、平成一二年当時で一四種類あった。その一つが公共下水道の現在排水人口であり、これは、昭和四五年当時から一貫して存在する。密度の算定方法は次のとおりである(普通交付税に関する省令(昭和三七年自治省令第一七号)九条一項の表参照)。もっとも、分母の人口は、昭和五九年度までは人口集中地区人口であったし、各指標に掛けられる係数は、上記省令により定められるが、年度毎に多少変動するものであり、下記数値は平成一二年度適用のものである。公共下水道に係る排水人口を含めた上記各指標の数値は、昭和四五年度の密度補正の導入時から、前々年度市町村公共施設状況調査による前年の三月三一日現在の当該数値とするとされている。以上については、地方交付税法及び普通交付税に関する省令に規定されている(甲八三の三、甲八四ないし八八、九一ないし一一七、乙ア一ないし三)。

(密度補正係数-一)=(B(公共下水道に係る排水人口)×八・九一+C×九・〇〇+D×一三・〇九+E×七・三九+F×一三・一八+G×一四・五二+H×四・一〇+I×一〇・九五+J×六一・〇五+K×一四・〇四+L×三八・四六+M×一四・六五+N×一六・四八+O×二三・八一)÷A(測定単位の数値(人口))

3  原判決九頁一〇・一一行目「算定基礎となる数値は、公共施設状況調査によって判明した現在排水人口の数値」を「算定基礎となる現在排水人口の数値は、普通交付税を交付される年度の前年度に行われるその更に前年度の公共施設状況調査によって判明したその年度末である三月三一日現在の排水人口の数値をそのまま利用していた」と、同二〇行目の「当該年度」を「上記調査をする前年度」とそれぞれ改め、同二二行目の「下水道局総務課」の次に「(下水道総務課)」を、同二四行目「いた」の次に「(甲一、七、八の一・二、甲九、一〇の一・二、甲一一)」をそれぞれ付加する。

4  原判決一〇頁三行目「いた」の次に「(甲六、八の一・二)」を、同六行目の「計画課」の次に「(平成九年度以降は調整課)」を、同七行目「の上、」の次に「上記記載要領で定められた数値とは異なる岡山市独自の方式で算出した」をそれぞれ付加し、同八行目の「各課」を「各部局」と改め、同一八行目「いた」の次に「(甲三一の一・二)」を付加する。

5  原判決一一頁六行目「同月二七日まで」の次に「の三日間及び同年六月七日、八日、一〇日の三日間にわたり」を、同二二行目「命じた」の次に「(甲六〇)」をそれぞれ付加する。

6  原判決一二頁一行目の末尾に改行して次のとおり付加する。

「岡山市が旧自治省から交付を受けた普通交付税のうち返還を命ぜられて返還した普通交付税超過額及びこれに対する加算額として支払った金額のうち、昭和五五年度以降の分は次のとおりである(乙ア六)。

超過額 加算額

昭和五五年度 五四四〇万一〇〇〇円 一億一四二二万一〇〇〇円

昭和五六年度 六三五二万八〇〇〇円 一億二六六六万五〇〇〇円

昭和五七年度 七四六七万四〇〇〇円 一億四〇三五万円

昭和五八年度 八一一三万九〇〇〇円 一億四三二一万九〇〇〇円

昭和五九年度 八二〇三万一〇〇〇円 一億三六七六万九〇〇〇円

昭和六〇年度 八四六二万九〇〇〇円 一億三〇六四万二〇〇〇円

昭和六一年度 八〇六九万五〇〇〇円 一億一六五〇万二〇〇〇円

昭和六二年度 八〇八二万三〇〇〇円 一億〇七〇〇万円

昭和六三年度 七七八九万九〇〇〇円 九四一二万四〇〇〇円

平成元年度 七九四一万四〇〇〇円 八七一六万五〇〇〇円

平成二年度 七五四九万円 七五〇〇万五〇〇〇円

平成三年度 七五一二万一〇〇〇円 六七三〇万二〇〇〇円

平成四年度 九三二四万一〇〇〇円 七一九三万円

平成五年度 一億〇九五八万五〇〇〇円 七三七九万四〇〇〇円

平成六年度 一億二四二五万円 六九一五万二〇〇〇円

平成七年度 一億四〇五七万七〇〇〇円 六三六八万五〇〇〇円

平成八年度 一億五三二五万九〇〇〇円 五二五七万四〇〇〇円

平成九年度 一億五〇八五万七〇〇〇円 三五一一万五〇〇〇円

平成一〇年度 一億四〇六〇万一〇〇〇円 一七三五万二〇〇〇円」

7  原判決一二頁二〇行目「通知した」の次に「(甲一)」を、同二二行目「提起した」の次に「(顕著な事実)」をそれぞれ付加する。

三  争点及びこれに関する当事者の主張

1  本案前の争点

(一) 本件訴えに係る請求は、法二四二条の二第一項四号の「怠る事実に係る相手方に対する…損害賠償の請求」に該当するか。

(1) この点に関する当事者の主張は、(2)を付加するほかは、原判決一四頁一三行目から同一六頁二四行目までに記載したとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決一五頁二〇行目「報告した行為」の次に「並びに基準財政需要額の調査の際に当該数値を訂正せず、その後もこれを看過したという不作為」を付加する。

(2) 一審被告Y15(以下「一審被告Y15」という。)の主張

ア 本件請求の原因とされる、市町村公共施設状況調査に関する岡山市の報告は、国の機関委任事務と位置づけられている。そして、住民訴訟は、地方公共団体の機関又は職員の財務会計行為そのものの違法性ないし地方公共団体の固有の事務処理の違法性に伴って生ずる財務会計行為の是正を住民が地方公共団体に求めるものであり、地方公共団体の公共事務ないし固有事務あるいは団体事務に限られるべきである。したがって、国の事務とされる機関委任事務の処理の違法性については住民訴訟の対象になり得ない。加算金の支払についても、それが国の事務の違法性を理由としている場合には、加算金支払の違法性を住民訴訟で争うことはできない。

イ 本件訴えの提起については、違法に財産の管理を怠る事実の存在が前提であるところ、損害賠償請求権の不行使が直ちに違法であるとはいえず、本件について事実関係を解明するのに、加算金の賦課があってから本訴提起までの一年と半月という期間は十分なものとはいえない。また、本件において、損害賠償請求権が発生しているとしても、岡山市がこれを行使しないことに合理的な理由がある。したがって、「違法に」財産の管理を怠る事実は存在しない。

(二) 本件訴えは適法な監査請求を経てなされたものか。

この点に関する当事者の主張は、原判決一六頁二六行目から同二〇頁四行目までに記載したとおりであるから、これを引用する。

2  本案の争点

(一) 一審被告岡山市長及び一審被告Y17を除く一審被告ら(以下「一審被告職員ら」という。)の岡山市に対する共同不法行為責任の有無

(1) 次に補正し、(2)以下を付加するほかは、原判決二〇頁七行目から同三四頁二行目まで及び同二一行目から同三五頁一二行目までに記載したとおりであるから、これを引用する。

ア 原判決二三頁二一行目「答弁し(甲三二)、」の次に「E市議も同月二四日の市議会本会議で、岡山市が公表している下水道の処理区域人口に昼間人口九万七〇〇〇人が含まれていることを指摘した。」を付加する。

イ 同三〇頁一六行目「平成三年一二月二四日」を「平成三年一二月一一日」と改め、同一七・一八行目「D議員の指摘」の次に「、平成三年一二月二四日の議会におけるE議員の指摘」を付加する。

ウ 同三一頁一五行目及び同二二行目の各「F」を「F1」と改める。

エ 同三二頁二五・二六行目の「及び平成四年六月一二日の岡山市議会の建設委員会」を削除し、同二六行目の「D議員」を「E議員」と改め、同三三頁一一行目の「建設委員会」の次に「及び平成四年六月一二日の岡山市議会の建設委員会」を付加する。

(2) 一審原告らの主張

ア 地方公共団体が職員に対し民法上の不法行為に基づいて損害賠償請求をなしうるのを、職員が故意又は重過失の場合に限定するかどうかについて、法二四三条の二第一項の法意は、これら職員の職務の特殊性に鑑みて、責任の発生の要件及び範囲を限定したものであり、その趣旨に照らせば、同条項所定の職員以外の職員が違法行為等により地方公共団体に損害を与えた場合には、上記特殊性は認められず、当該職員の賠償責任については民法の規定によることとなる。その場合、責任発生の要件及び範囲を限定する理由は存在しない。国家賠償法一条二項は特則を設けたものであり、これを地方公共団体自身に対する加害の場合に類推適用すべきものではない。

イ 一審被告岡山市長及び同Y17を除く一審被告らの責任原因について、基礎的な事実関係は、原判決二〇頁八行目から同二四頁八行目までに記載したとおりであるほか、市長、下水道担当助役、下水道局長のみならず、財政担当助役及び財政局長らも、岡山市が公表、報告していた公共下水道の処理(利用)人口の数値が、旧建設省の定義に反して水増しされていることを知っており、これらの者は、公共施設状況調査等の諸調査に当たっては、公共下水道の現在排水人口欄には真実の数値を記入しないという意思で統一していたものであり、これら主張事実を基礎に、虚偽の数値の報告、これにより岡山市に損害が発生することを、故意又は重大な過失により看過した行為が不法行為に該当するというものである。

すなわち、旧自治省が行う公共施設状況調査及び旧建設省が行う下水道事業実施計画書の提出要請等に対し、その指示に反し、しかも旧建設省の定義、住民登録人口に基づく算定であるかのように装って岡山市独自の方法で算定した数値を報告していたが、このことは、市長から助役、局長に至る岡山市の上位当局者の政策的決定に基づいて行われていた。また、下水道の普及率や処理人口が毎年国に報告される事項であることは、市の上位当局者は当然に知り尽くしていた。したがって、岡山市において下水道普及率が旧建設省の指定と異なる方式で算定公表されていることを知っている、もしくはこれを知らないことに重大な過失がある市の上位当局者は、下水道普及率と利用人口が国や県にどのように報告されているか、岡山市が行っている報告等の結果、岡山市にどのような財政的影響が生じるか、について十分な調査を行い、財政的損害が発生するおそれがある場合にはこれを回避する措置を講ずる職務上の注意、行為義務がある。なお、公共下水道の現在排水人口について、公共施設状況調査において水増しされた数値が報告されたとしても、翌年度に行われる地方交付税算定資料の提出及び検収の過程において、さきに報告された虚偽の数値の訂正は可能である。したがって、これらを怠ることは重大な過失に該当する。しかし、これらの者は上記調査及び是正を怠った。

なお、地方交付税の基礎知識は、地方自治体の幹部職員であれば当然知っていると期待されるものであり、現に知っているものである。地方自治大学校でも地方交付税の講義が行われるから、岡山市の少なくとも課長以上の中堅幹部職員は、地方交付税制度についての基本的な知識を有するはずであり、財政局の幹部職員であれば、地方交付税や基準財政需要額についての基本知識を持っているのが当然であり、下水道局の幹部職員であれば、下水道費にかかる基準財政需要額の構造について知っていて当然である。下水道の排水人口が、下水道費にかかる基準財政需要額の算定に関する密度補正の変数になっているという程度の理解が、岡山市財政局や下水道局の幹部職員に欠けていると考えるべき理由はなく、常識の範囲に属する。実際、岡山市の幹部職員らは、早い段階から、公共下水道の排水人口が普通交付税の算定基礎の一部になっていることを認識していた。仮にそれを認識していない者がいたとしたら、それを認識しないことについて非常に重い過失がある。

ウ 一審被告岡山市長及び同Y17以外の一審被告らの責任原因事実は、これまでに主張したほか、個別的には次のとおりである。

(ア) 一審被告Y15

遅くとも平成三年四月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成三年ないし平成九年に行われた平成二年度ないし平成八年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成四年度ないし平成一〇年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成二年に行われた平成元年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成三年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(イ) 一審被告Y2

遅くとも岡山市建設局長就任後半年経過時の昭和四五年九月までに、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口よりも多い計画人口に基づいていることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和五五年ないし昭和五六年に行われた昭和五四年度ないし昭和五五年度公共施設状況調査において、記載要領に反して計画人口に基づいた下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和五六年度ないし昭和五七年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

昭和五七年に行われた昭和五六年度公共施設状況調査において、記載要領に反して計画人口に基づいた下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて昭和五八年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われようとするのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(ウ) 一審被告Y3(以下「一審被告Y3」という。)

遅くとも昭和五八年一二月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和五九年ないし昭和六一年に行われた昭和五八年度ないし昭和六〇年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和六〇年度ないし昭和六二年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

昭和五八年に行われた昭和五七年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて昭和五九年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(エ) 一審被告Y16(以下「一審被告Y16」という。)

遅くとも平成三年一二月、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成四年ないし平成五年に行われた平成三年度ないし平成四年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成五年度ないし平成六年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成三年に行われた平成二年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成四年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(オ) 一審被告Y4(以下「一審被告Y4」という。)

遅くとも平成一〇年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成九年に行われた平成八年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告され、これに基づいて平成一〇年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(カ) 一審被告Y5(以下「一審被告Y5」という。)

遅くとも岡山市建設局下水道部長であった昭和四六年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口よりも多い計画人口に基づいていることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和五五年ないし昭和五九年に行われた昭和五四年度ないし昭和五八年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和五六年度ないし昭和六〇年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(キ) 一審被告Y6(以下「一審被告Y6」という。)

遅くとも昭和六一年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和六二年ないし昭和六三年に行われた公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和六三年度ないし平成元年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

昭和六〇年に行われた昭和五九年度公共施設状況調査、及び昭和六一年に行われた昭和六〇年度公共施設状況調査において、記載要領に反して計画人口に基づいた下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて昭和六一年及び昭和六二年に各年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(ク) 一審被告Y7(以下「一審被告Y7」という。)

平成二年一〇月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成三年に行われた平成二年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成四年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成元年に行われた昭和六三年度公共施設状況調査、及び平成二年に行われた平成元年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成二年及び平成三年に各年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(ケ) 一審被告Y8(以下「一審被告Y8」という。)

平成六年六月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成六年ないし平成七年に行われた平成五年度ないし平成六年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成七年度ないし平成八年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成五年に行われた平成四年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成六年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(コ) 一審被告Y9(以下「一審被告Y9」という。)

平成九年五月、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成九年に行われた平成八年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成一〇年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成八年に行われた平成七年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成九年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(サ) 一審被告Y10(以下「一審被告Y10」という。)

遅くとも昭和五六年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口よりも多い計画人口に基づいていることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和五七年ないし昭和五八年に行われた昭和五六年度ないし昭和五七年度公共施設状況調査において、記載要領に反して計画人口に基づいた下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和五八年度ないし昭和五九年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

昭和五五年に行われた昭和五四年度公共施設状況調査、及び昭和五六年に行われた昭和五五年度公共施設状況調査において、記載要領に反して計画人口に基づいた下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて昭和五六年及び昭和五七年に各年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(シ) 一審被告Y11(以下「一審被告Y11」という。)

遅くとも昭和六〇年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、昭和六一年ないし昭和六三年に行われた公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、昭和六二年度ないし平成元年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

昭和五九年に行われた昭和五八年度公共施設状況調査、及び昭和六〇年に行われた昭和五九年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて昭和六〇年及び昭和六一年に各年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(ス) 一審被告Y12(以下「一審被告Y12」という。)

遅くとも平成二年九月、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成三年に行われた平成二年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成四年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成元年に行われた昭和六三年度公共施設状況調査、及び平成二年に行われた平成元年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成二年及び平成三年に各年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(セ) 一審被告Y13(以下「一審被告Y13」という。)

遅くとも平成八年二月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成八年に行われた公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告されるのを放置し、平成九年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

平成七年に行われた平成六年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口の報告がなされ、これに基づいて平成八年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(ソ) 一審被告Y14(以下「一審被告Y14」という。)

遅くとも平成一〇年九月ころ、岡山市が公表している下水道利用人口の数値が定住人口に昼間人口を加算したものであることを知った。

岡山市の下水道利用人口の数値の報告等の状況について、何の調査もせず放置し、平成九年に行われた平成八年度公共施設状況調査において、記載要領に反して昼間人口を加算した下水道現在排水人口が報告され、これに基づいて平成一〇年に同年度の普通交付税について過大な算定・交付が行われるのを数値の訂正等を行わないで放置した。

(3) 一審被告岡山市長の主張

ア 地方交付税法一九条の加算金の制度は、同法によって特に定められた地方公共団体の責任であるから、地方公共団体が加算金を納付した場合に、それに相当する額を職員に求償するためには、その根拠となる法律の定めが必要である。しかし、同法にはそのような規定はないから、岡山市は本件加算金支払について、関係職員に求償することはできない。

なお、本件事実に関与した職員と岡山市との関係は、国家賠償法一条が定める公務員が不法行為を行ったときの当該公務員とその属する国又は公共団体との関係に類似する。そして、同法一条により損害賠償をした国又は公共団体は、当該公務員に故意又は重大な過失があったときに限って、求償権を取得する。もし本件について国家賠償法一条二項を準用するとしても、本件は、故意に国に対して虚偽の報告をしたとされる場合であるから、求償を受ける公務員に故意が存すること、すなわち公共施設状況調査表への数値の記入に故意があること及びその数値が交付税の算定に用いられることを認識していたことが必要となる。

イ 本件においては、一審被告職員らは、原判決二四頁一六行目から同二五頁一二行目までの主張のとおり、これらについて知らなかったものである。

旧建設省の定義と異なる算定方法による下水道普及率で公表することについては、下水道局内部で決定されていた。しかし、公共施設状況調査の数値まで、記載要領と異なる数値で報告することを下水道局内部で決定されていたわけではなく、組織的政策決定がなされていたこともない。

ウ 公務員の勤務関係は公法上のものであって、その権利義務は法令によって定められている(地方公務員法三二条、三五条、地方自治法二四三条の二、国家賠償法一条二項)から、法令に何の定めもない本件の場合に、一審被告職員らに損害賠償義務を負わせる根拠はない。

(4) 一審被告Y15の主張

前記原審主張に加え、以下の点からも、一審被告Y15は、公共施設状況調査表の下水道等の現在排水人口の記入及び報告等について、善良な管理者に求められる注意義務に違反したことはなく、過失はない。

ア 公共施設状況調査表の下水道等の現在排水人口の欄に、下水道局計画課の担当職員が記載要領と異なる数値を記入し、財政課に報告し、財政課の担当職員がとりまとめて調査表に記載し、財政課長が決裁して岡山県知事を経由して旧自治大臣に報告していた過程において、一審被告Y15が報告を受けたり、決裁したりすることはなかった。したがって、控訴人は、公共施設状況調査表及びその記載要領を見たこともなく、その下水道等の現在排水人口の欄にいかなる数値が記入されているかなど知らなかった。

岡山市において、独自の方式で算定した下水道普及率を国に報告する数値としても用いるとの政策的決定をしたことはない。

イ 一審被告Y15は、岡山市長就任後、本件訴訟まで、下水道普及率について、岡山市方式と旧建設省方式があり、算出の仕方に問題があることを、誰からも説明を受けたことがなく、知らなかった。下水道普及率について報告されたのは、岡山市方式による普及率の数値のみであり、その算定方式の内容説明も受けていない。平成三年一二月市議会での討論等によっても、一審被告Y15が岡山市の下水道処理人口に昼間人口が含まれていること、旧建設省の定義とは異なっていることを知ったことはないし、問題意識を持つことも不可能であった。一審被告Y15がY8下水道局長に対し、Y7局長のときに解決済みであると答えたことがあるとすれば、市長就任時に同局長から選挙公約とした下水道普及率の達成について問題があると聞かされていなかったことから、同公約を変える必要性がないという意味であったと思われる。

ウ 岡山市方式は、三〇年前の前々市長のときに始まり、延々と踏襲されてきた。水増し数字を基に普及率を七〇パーセントとする下水道基本計画が策定されたのは、平成元年のQ市長時代であり、これが、目標年数を三〇年間から一五年間に置き換えたほかは、一審被告Y15の市長就任に伴って自動的に引き継がれた。上記経緯から、一審被告Y15は、これを正しい算定方式によるものと確信していた。なお、岡山市方式は、将来見通しに基づく人口の上積み加算であるから、これを水増しと呼ぶことは妥当ではない。旧建設省においても、昭和五一年の後にも、処理人口に昼間人口が加味されることは公認していた。

したがって、一審被告Y15において、仮に下水道利用人口に昼間人口が加算されていることを知ったとしても、悉皆的な調査を行う義務などはなかった。

エ 一審被告Y15を含め、岡山市職員らは、誰も下水道人口が地方交付税と結びついていることに気が付かず、地方交付税との関係で岡山市方式が違法性をもつことについての認識を持つことができなかった。その技術的専門的な領域であり、複雑難解である一方、地方交付税の基準財政需要の算定は事務的に処理されるものであり、下水道費にかかる基準財政需要に密度補正が導入されたからといって、それが幹部職員ないし市長に報告されることはあり得ないから、両者の関係に気が付かないことをもって過失があったとはいえない。

(5) 下水道局関係一審被告ら(別紙当事者目録四、八ないし一一、一三、一四。以下同様に呼称する。)の主張

ア 法二四三条の二が、同条第一項の職員につき、故意又は重大な過失がある場合にのみ賠償責任を負うとしていること、国家賠償法一条二項が公務員に故意又は重過失があった場合のみ、求償される旨規定していること、労働者が使用者に損害賠償責任等を負うのは、故意又は重大な過失がある場合に限られると解されること、ないし被用者の責任を信義則により制限する判例法理からすれば、法二四三条の二第一項所定以外の職員についても、故意又は重大な過失がない限り、損害賠償責任を負わないと解するのが相当である。

また、本件は、第三者である国に対し損害を賠償した岡山市が公務員に求償しているものであるから、本来は国家賠償法一条二項の求償権の行使そのもの或いはこれと実質的に同視されるものであるから、当該公務員は故意又は重大な過失がある場合にのみ責任があると解すべきである。

イ 地方交付税法一九条四項に基づく支払命令の要件が、当該地方公共団体という組織全体の行為が作為又は虚偽に該当することである以上、当該行為に関連する職務を行った職員にそのような意味での積極的な虚偽の意思がなかった場合には、当該地方公共団体から当該職員に対する損害賠償を制限するのが不法行為上当然の法理である。一審被告らに、作為を加え又は虚偽の記載をしたことの認識はなかったから、一審被告ら個々人に賠償責任を負わせるのは相当ではない。

ウ 旧建設省に報告する数値を含む下水道普及率と公共施設状況調査、地方交付税の算定手続とは全く関連がないから、前者が旧建設省の定義による数値と異なる数値であることを認識していたとしても、後者において、記載要領と異なる方法による数値が記載されていることを認識していたことにはならない。下水道局関係一審被告らは、公共施設状況調査の存在すら認識していなかった。

したがって、旧建設省に報告する下水道普及率の数値が旧建設省の定義と異なることを認識していたとしても、国への他の報告において、下水道処理人口が国の指定する定義と異なる方式によってなされていることを強く疑って、それに対応した措置をとるまでの義務はない。

下水道局関係一審被告らのうち、下水道局長であった者は、岡山市が独自の算定方式で普及率を算定していることは認識していたが、一応の合理性があり、統計数値の連続性の観点からやむを得ないものと考えており、水増しされた下水道処理人口の数値が報告されているとの認識は有していなかった。他方、下水道担当助役であった者は、下水道普及率の決定に関与したり、下水道局の職員から下水道普及率の算定の方法について報告を受けたりしておらず、岡山市が独自の算定方式で下水道普及率を算定していたことは認識していなかった。いずれにしても、公共施設状況調査の現在排水人口の報告数値が過大であり、普通交付税を過大に交付を受けることを認識していた者は、下水道局関係一審被告らの中にはいない。

なお、昭和五一年度以前の公共施設状況調査における現在排水人口は、明確な定義がなかったり、実際に下水道を使用している人口と定義されるなどしており、普通交付税における基準財政需要額算定に用いられる人口といえば住民登録上の人口しかありえないとはいえない。

エ 交付された地方交付税をどのような使途に充てるかは、その地方公共団体の自由であり、この点国庫補助金制度とは異なる。したがって、下水道事業が国からの地方交付税によって行われていたという認識は誤りである。そして、公共施設状況調査の報告は、下水道総務課長の決裁権限で財政課に報告され、下水道局関係一審被告らすなわち下水道局の担当助役及び下水道局長は、公共施設状況調査の報告に関与する機会は全くなかったから、同一審被告らが、普通地方交付税の算定の基礎となる公共施設状況調査表の現在排水人口欄にも処理区域内利用人口の数値を現在排水人口として記載することについて許容していたことはない。

下水道局の職員にとって、地方交付税の金額やその算定根拠となる基準財政需要額の下水道費の数値は日常業務には関係のないものであるから、これを業務上意識していない。したがって、下水道局の幹部職員であれば、下水道の排水人口が増えれば基準財政需要額が増すという関係を知っていて当然であるとの主張は根拠がない。

オ 岡山市が旧建設省の算定方式と異なった算定方式で下水道普及率を決定・公表していたことは、少なくとも平成三年岡山市議会一二月定例会以降は、岡山市長の責任と権限で行われていたから、これを下水道担当助役や下水道局長の権限で容易に変更できるものではなかった。そのような実情からすれば、下水道担当助役や下水道局長について、上記下水道普及率が各種報告等に用いられている状況について悉皆的な調査を行うまでの法的義務は認められない。

カ 一審被告Y2は、岡山市の下水道事業を担当しておらず、岡山市の下水道普及率の算定方法を認識しておらず、公共施設状況調査の報告に関与していなかった。

一審被告Y4は、下水道局担当助役であったのは平成一〇年四月一日から平成一一年三月三一日までであり、岡山市が旧建設省の定義と異なる下水道普及率の算定方法を行っていたことを認識しておらず、公共施設状況調査の報告に関与していなかった。

一審被告Y5は、岡山市が旧建設省の定義と異なる下水道普及率の算定方法を用いて旧建設省に報告していたことを認識しておらず、公共施設状況調査について、その存在自体知らなかった。

一審被告Y6は、下水道局長であった時も、下水道の基本計画、事業計画等に関与せず、下水道局長就任の一年位後に岡山市が下水道普及率について、旧建設省の定義と異なる算定をしていることを知ったが、下水道普及率の算定等にも関与していなかった。公共施設状況調査について、その存在自体知らなかった。

一審被告Y7は、下水道局長就任後、平成二年一〇月から一二月ころ、岡山市の下水道普及率が昼間人口を加味した算定方法をとっていることを知ったが、下水道局長就任前から採用されている数値であり、自らの判断で変更することなど不可能であったし、下水道の整備を進める中で旧建設省の算定方法との乖離を解消していくことも一つの選択肢であると考えたのであり、注意義務違反があるとはいえない。また、公共施設状況調査について、その存在自体知らず、下水道普及率算定基礎となる人口の数値が、普通地方交付税の算出に影響するなど考え及ばなかった。

一審被告Y8は、平成六年五月ないし六月、岡山市の下水道普及率が旧建設省の定義と異なる算定方式で算定し、公表されていることを知ったが、それは岡山市長の政策決定であるから、下水道局長単独で変更できないとの説明を受けた上、一審被告Y15から、この件はY7局長時代に解決済みであると言われた。また、公共施設状況調査について、その存在自体知らず、下水道普及率算定基礎となる人口の数値が、普通地方交付税の算出に影響するなど考え及ばなかった。

一審被告Y9は、平成九年五月ころ、岡山市の下水道普及率が旧建設省の定義と異なる方法で算定し、公表していることを知ったが、長年使用されており、岡山市議会にも説明がなされ承認されていると聞いたので、下水道局長就任直後に変更する行動に出ることはできなかった。また、公共施設状況調査について、その存在自体知らず、下水道普及率算定基礎となる人口の数値が、普通地方交付税の算出に影響するなど考え及ばなかった。

なお、一審被告Y4については、平成一〇年度交付の地方交付税算定の基礎となった平成八年度公共施設状況調査は、平成九年七月ころに行われ、下水道普及率の決定も同年四月ころに行われたから、平成一〇年四月一日に下水道局担当助役に就任した同一審被告が上記年度の地方交付税加算金について不法行為責任に問われる根拠はない。

一審被告Y9について、平成九年度交付の地方交付税算定の基礎となった平成七年度公共施設状況調査は、平成八年六月下旬ころに行われ、下水道普及率の決定も同年四月ころに行われたから、平成九年四月一日に下水道局長に就任した同一審被告が上記年度の地方交付税加算金について不法行為責任に問われる根拠はない。

同様に、一審被告Y6は、昭和六一年度に交付された地方交付税の加算金について、一審被告Y7は、平成二年度に交付された地方交付税の加算金について、一審被告Y8は、平成六年度に交付された地方交付税の加算金について、いずれも不法行為責任を問われる理由はない。

(6) 財政局関係一審被告ら(別紙当事者目録五、七、一五ないし一九。以下同様に呼称する。)の主張

ア 本件訴訟の基本構造は、公務員に故意、過失があって第三者に損害を与えた国家賠償法一条と変わらない。そうであれば、同条二項が、公務員に故意又は重大な過失がある場合に限って求償ができると規定しているのと同様に、また、地方自治法二四三条の二第一項で出納職員等の賠償責任が、故意又は重大な過失があった場合に限定されていることからも、関与した岡山市職員が岡山市に対して責任を負うのも、故意又は重過失があった場合に限られると解するべきである。

イ 地方交付税法一九条四項の、作為を加え、又は虚偽の記載をすることというのは、意図的な行為、すなわち行為者の故意を問題とする。したがって、一審被告らについても、少なくともその提出にかかる交付税の算定資料、すなわち公共施設状況調査表の現在排水人口の数値に作為を加え又は虚偽の記載をすることの認識と、その結果地方交付税が過大に交付されることの認識が問題とされるべきである。しかし、交付税の算定に用いる資料に、故意に虚偽の数値を記入した事実はない。

ウ 普通地方交付税の交付金額の算定の基礎となる数値につき、財政課とすれば、基本的には担当部局からの報告を信頼すれば足り、財政局担当助役及び財政局長もそれ以上に全て財政局で調査して把握するような義務はない。

下水道事業についての処理区域内定住人口の報告といったものは、ルーティンの仕事として財政局担当助役や財政局長といった財政局の幹部職員が関与することなく処理される。財政局関係一審被告らは公共施設状況調査というものがあることは知っていたが、下水道事業について処理区域内定住人口を報告していることの認識などなかった。そのような報告がいつなされているかすら知らない同一審被告らにとって、その報告に注意を払い、報告される数値を正確に把握する義務などは、不可能を強いるに近いものである。

平成三、四年の岡山市議会での指摘について、原判決三〇頁一六行目から二五行目までの主張のほか、財政局関係者としては、指摘内容から、これが自己の担当部局の議論ではなく、しかも地方交付税と関係することの認識もなかった以上、そのような問題意識の持ちようがなかった。したがって、その後に就任した財政局長らに引継ぎもなされなかった。

交付された地方交付税は、国庫補助金とは異なり、どのような使途に充てるかは、その地方団体の自由に任されている。地方交付税は、一般会計に一般財源として入ってくるものである。

下水道普及率のみの議論から地方交付税に思いを至らせることは現実にはきわめて無理なことである。したがって、通常は排水人口が基準財政需要額の下水道費の算定基礎となり普通交付税と関連することの認識をそもそも持ち得ない。

したがって、財政局関係一審被告らのうちに、岡山市方式による下水道普及率の話を聞いた者がいたとしても、これにより問題が発生することについて予見可能性はなく、重過失はもちろん過失すら認められない。

エ 各年度の地方交付税の算定の基礎とされた公共施設状況調査は前年の七月ころに提出される。

一審被告Y14について、平成一〇年度に交付された地方交付税の算定の基礎とされた公共施設状況調査は、平成九年七月に提出されたものであり、一審被告Y14は平成一〇年四月一日に財政局長に就任したのであるから、上記調査の提出について責任を負う根拠はない。

同様に、一審被告Y10は、昭和五六年度分について、一審被告Y11は昭和六〇年度分について、一審被告Y12は平成二年度分について、一審被告Y13は平成八年度分について、それぞれ責任を負う立場になかった。

なお、普通交付税算出資料における現在排水人口の数値については、前年度の公共施設状況調査の回答の数値を機械的に流用して記載することが求められており、財政局関係一審被告らの判断で変更できる余地はなく、同一審被告らの目に触れることなく財政課職員によって処理されていた。

(二) 岡山市の加算金支払による損害

(1) 岡山市の加算金支払による損害発生とその金額

ア 一審原告らの主張

岡山市は、二一億円あまりの加算金を一時に支払わなければならなかったのであり、これを支払わずに済んだ場合と比較して、歳入の欠損により本来上げることができたはずの財政支出効果を上げることができなかったものであるから、加算金額が損害に当たることは明らかである。

各義務違背と因果関係ある損害は、次のとおりである。

(ア) 一審被告Y15について

平成三年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六七三〇万二〇〇〇円相当額

平成四年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七一九三万円相当額

平成五年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七三七九万四〇〇〇円相当額

平成六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六九一五万二〇〇〇円相当額

平成七年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六三六八万五〇〇〇円相当額

平成八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金五二五七万四〇〇〇円相当額

平成九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金三五一一万五〇〇〇円相当額

平成一〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一七三五万二〇〇〇円相当額

(イ) 一審被告Y2について

昭和五六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億二六六六万五〇〇〇円相当額

昭和五七年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四〇三五万円相当額

昭和五八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四三二一万九〇〇〇円相当額

(ウ) 一審被告Y3について

昭和五九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三六七六万九〇〇〇円相当額

昭和六〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三〇六四万二〇〇〇円相当額

昭和六一年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億一六五〇万二〇〇〇円相当額

昭和六二年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億〇七〇〇万円相当額

(エ) 一審被告Y16について

平成四年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七一九三万円相当額

平成五年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七三七九万四〇〇〇円相当額

平成六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六九一五万二〇〇〇円相当額

(オ) 一審被告Y4について

平成一〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一七三五万二〇〇〇円相当額

(カ) 一審被告Y5について

昭和五六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億二六六六万五〇〇〇円相当額

昭和五七年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四〇三五万円相当額

昭和五八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四三二一万九〇〇〇円相当額

昭和五九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三六七六万九〇〇〇円相当額

昭和六〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三〇六四万二〇〇〇円相当額

(キ) 一審被告Y6について

昭和六一年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億一六五〇万二〇〇〇円相当額

昭和六二年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億〇七〇〇万円相当額

昭和六三年度の普通交付税過大交付額に対する加算金九四一二万四〇〇〇円相当額

平成元年度の普通交付税過大交付額に対する加算金八七一六万五〇〇〇円相当額

(ク) 一審被告Y7について

平成二年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七五〇〇万五〇〇〇円相当額

平成三年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六七三〇万二〇〇〇円相当額

平成四年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七一九三万円相当額

(ケ) 一審被告Y8について

平成六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六九一五万二〇〇〇円相当額

平成七年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六三六八万五〇〇〇円相当額

平成八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金五二五七万四〇〇〇円相当額

(コ) 一審被告Y9について

平成九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金三五一一万五〇〇〇円相当額

平成一〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一七三五万二〇〇〇円相当額

(サ) 一審被告Y10について

昭和五六年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億二六六六万五〇〇〇円相当額

昭和五七年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四〇三五万円相当額

昭和五八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億四三二一万九〇〇〇円相当額

昭和五九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三六七六万九〇〇〇円相当額

(シ) 一審被告Y11について

昭和六〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億三〇六四万二〇〇〇円相当額

昭和六一年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億一六五〇万二〇〇〇円相当額

昭和六二年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一億〇七〇〇万円相当額

昭和六三年度の普通交付税過大交付額に対する加算金九四一二万四〇〇〇円相当額

平成元年度の普通交付税過大交付額に対する加算金八七一六万五〇〇〇円相当額

(ス) 一審被告Y12について

平成二年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七五〇〇万五〇〇〇円相当額

平成三年度の普通交付税過大交付額に対する加算金六七三〇万二〇〇〇円相当額

平成四年度の普通交付税過大交付額に対する加算金七一九三万円相当額

(セ) 一審被告Y13について

平成八年度の普通交付税過大交付額に対する加算金五二五七万四〇〇〇円相当額

平成九年度の普通交付税過大交付額に対する加算金三五一一万五〇〇〇円相当額

(ソ) 一審被告Y14について

平成一〇年度の普通交付税過大交付額に対する加算金一七三五万二〇〇〇円相当額

イ 一審被告Y15の主張

(ア) 本件加算金は極めてあいまいな数値に基づいて計算され、正しいものとはいえない。

(イ) 岡山市は、地方交付税を本来受け取るべき額を超えて過大に収受し超過額を先取りしたが、これを個人的に費消したり不正使用したわけではなく、この超過額全額を、毎年度の岡山市の歳入歳出予算に計上して執行した結果、市政の発展と市民福祉向上のための事務事業に要する経費、市政のあらゆる部門の経常的経費及び投資的経費に充当され、これにより加算金相当額以上の財政支出効果を上げている。すなわち、支出された額と同額の支出効果を直接発生させるだけではなく、経済社会の仕組みを通じてさらに次の経済波及効果を発生させており、平成七年岡山県産業連関表によれば、公的支出の誘発効果は、一単位の財政支出に対して一・二七一三一四倍の生産誘発額を発生させている。岡山市の場合には、県都であり行政機能、経済機能、社会機能等が県内で最も集中、集積していることを考慮すると、岡山市の生産誘発係数は、全県平均値である一・二七一三一四を相当上回る。

さらに、現在の支出に充てられた金銭の価値は、将来価値と比較すると、利息相当分だけ大きな金銭的価値を持っている。

したがって、岡山市は、先取りした地方交付税の超過額分を財政支出に充てたことに伴って、多くの財政支出効果を上げており、その増加割合は、加算金についての年率一〇・九五パーセントを相殺できるほどであるから、金銭的な損害をなんら被っていない。

(2) 一審被告職員らの行為と岡山市の加算金の支払による損害との相当因果関係

ア 一審原告らの主張

地方交付税法一九条四項の「作為を加え、又は虚偽の記載をすること」とは、不当に交付税を受けることの目的までは必要でなく、単なる認識で十分であり、一審被告岡山市長及び同Y17を除く一審被告らは、いずれも当時上記認識内容を有していた。また、岡山市が公共施設状況調査で虚偽の過大な数値を報告したのは、意図的統一的に岡山市方式の数値を用いるよう意思統一がなされていたためである。したがって、上記過大報告は、善意の過失ではなく、作為を加え、又は虚偽の記載をしたことに該当する。

イ 一審被告Y15の主張

岡山県、旧建設省及び旧自治省は、岡山市が旧建設省方式ではなく岡山市方式の数値によって報告していること、それが地方交付税制度の根幹を揺るがすような数値であることを容易に知ることができたのに、管理監督責任を果たさなかった。また、岡山市が市長以下組織的に交付税を多く交付してもらうために下水道人口を多く報告してきたことはなく、作為又は虚偽報告はなかった。

また、市町村公共施設状況調査は、交付税の算定以外の目的のために作成、提出され、しかも市町村長が国の機関委任事務として作成するものであるから、地方交付税法一九条四項にいう「地方団体の提出に係る交付税の算定に用いる資料」には該当しない。

それにもかかわらず、岡山市が市町村公共施設状況調査における下水道の現在排出人口の報告を一方的に欺いてなしたから重い加算金を納付すべきであるというのは、地方交付税法一九条四、五項の適用を誤ったものであり、違法性がある。

したがって、岡山市としては、加算金を支払う必要はなかった。

しかし、一審被告Y17は、下水道普及率算定方式の変更の発表並びに国による加算金賦課及びその納付の際、これまでの関係者からの事情聴取等の調査をほとんど行わず、国や県に対しての事前報告も事後の謝罪や釈明、弁明も何ら行わず、作為ではなく錯誤と認定されたい旨の説明書や要望書も一枚も提出することなく、国の加算金賦課決定金額が多額であり、現在排水人口の定義は時期により変遷していて、下水道供用開始区域内の住民基本台帳記載の人口を正確に算出することは不可能であり統計的な手法を用いて推計するにとどまっているなどその算定根拠には多大の疑問があるにもかかわらず、虚偽の事実を自認して唯々諾々として加算金を支払い、下水道局幹部職員や助役等の行政処分を行った。

したがって、岡山市が加算金を賦課されたのは、一審被告Y17の過失により、岡山市の地方交付税の過大収受が「作為を加え、虚偽の記載があった」と自治大臣に認定されたためであり、一審被告らの過失によるものではないから、岡山市による加算金の支払という損害と一審被告らの行為との間に相当因果関係は存在しない。

ウ 下水道局関係一審被告らの主張

地方交付税の算定の基礎となる公共施設状況調査において、積極的な虚偽の意思をもってその作成に関与した岡山市の職員は皆無であり、したがって、地方交付税法一九条四、五項の作為を加え又は虚偽の記載がなされた場合には該当しない。

よって、岡山市は、加算金の支払を行う必要がないのに、同法の解釈を誤って加算金の支払を行ったものであり、下水道局関係一審被告らの行為と加算金の支払との間に相当因果関係がない。

なお、公共施設状況調査の報告が行われる年度の翌年度に、その報告数値を元に算定された地方交付税が地方公共団体に交付されるため、一審被告らの行為と損害の発生年度は一年ずれる。

エ 財政局関係一審被告らの主張

岡山市に生じた損害は加算金の支払であり、地方交付税法一九条四項の作為行為に該当することが要件であるが、一審被告らの誰一人として、普通交付税を過大に受領することを認識していた者はいない。それにもかかわらず、作為又は虚偽という積極的な意思をもった行為に該当するとして加算金の支払を命じたのは誤った処分であり、加算金の支払は相当因果関係の範囲にない。

(三) 過失相殺

一審被告Y15の主張

下水道普及率算定方式の変更の発表並びに国による加算金賦課及びその納付のそれぞれの前後における一審被告Y17の対応には、上記(二)(2)イに記載したとおりの重大な過失が存在する。

当時、一審被告Y17は、岡山市の代表者である市長であり、その行為は、個人的なものではなく岡山市長としての立場で行ったものであるから、一審被告Y17の過失は岡山市の過失である。

したがって、仮に一審被告Y15の過失が認定され、相当因果関係も肯定されて岡山市に対する損害賠償が命じられる場合には、過失相殺が行われるべきであり、上記一審被告Y17の対応を考慮すると、岡山市の過失割合は、九五パーセントを下らない。

(四) 一審被告Y17の不法行為責任

(1) 一審原告らの主張

ア 昭和五五年度の下水道にかかる基準財政需要額の算定基礎数値については、昭和五四年六、七月ころに公共施設状況調査の報告がなされているが、昭和五五年度の普通交付税の算定資料の検収は同年七月一七日に行われているので、この検収終了までは、数値を訂正する機会があった。

したがって、同年度の普通地方交付税に関して、岡山市幹部職員の不法行為の終期は同日ころであり、これについて二〇年の除斥期間が経過したのは早くとも平成一二年七月一七日であった。

イ 岡山市は、平成一一年九月一六日に、昭和四五年度から平成一〇年度までの地方交付税について、自治大臣から普通交付税に用いる資料に作為を加え、虚偽の記載があったとして、過大交付額一九億八四八一万七〇〇〇円及び加算金二一億二二四八万七〇〇〇円の返還命令を受けた。

ウ 一審被告Y17は、平成一一年四月、岡山市が長期間にわたって下水道処理(排水)人口を過大報告し、これが普通交付税の算定に影響することなどを知った。

aオンブズマンは、岡山市長Y17に対し、平成一一年九月二七日、責任者への賠償請求を適切に行うよう申し入れ、同年一一月四日、重ねて責任者に対して損害賠償の措置を講ずべきこと、昭和五五年度分加算金について、除斥期間の徒過によって損害賠償請求が不可能となることのないよう緊急の措置を講ずべきことなどを申し入れ、平成一二年五月一九日、質問書を提出して、再度注意を喚起し、根拠を挙げて、下水道利用人口の水増し報告は市長以下の関係者全員が承知の上で行われたものである旨指摘し、昭和五五年度分について除斥期間の経過が迫っていることを警告するなどした。

エ 一審被告Y17が、当時下水道局等の職員から事情聴取を行うなどの悉皆的な調査を行っていたならば、事実関係の解明と責任者の特定には一か月もあれば十分であった。そして、昭和五五年以前についても、当時の市長、助役、下水道局長らの関係幹部は過大報告の事実を認識しており、少なくとも当時の下水道局長一審被告Y5、助役であった一審被告Y2については昭和五五年度分の加算金について損害賠償請求をすることが可能であることが判明していたはずである。

オ しかるに、一審被告Y17は、上記ウの申し入れを黙殺し、加算金の支払を命じられたことについて、責任の所在を調査せず、賠償請求も行わなかった。

カ したがって、一審被告Y17は、不法行為に該当する怠慢によって、昭和五五年度分にかかる加算金についての損害賠償請求権を除斥期間の経過によって行使することができなくしたものである。

キ それにより岡山市が被った損害は、昭和五五年度分の加算金と同額の一億一四三五万一〇〇〇円である。

(2) 一審被告Y17の主張

ア 岡山市に対して地方交付税が過大に交付されたことを、個々の職員の責任に帰することはできず、岡山市は一審被告Y5及び同Y2に対して損害賠償請求権を有していないから、一審被告Y17が同人らに対し損害賠償を請求しなかったことは違法ではない。

イ 仮にそうでないとしても、事実経過と個々の職員の責任を確定し追求することも事実上不可能又は著しく困難であった。

また、一審被告Y17は、岡山市の報告した数値の誤りは、作為ではなく、錯誤によることを確信し、岡山県や旧自治省等に理解を求めたが、容れられなかった。

したがって、一審被告Y17が損害賠償請求をしなかったことに重過失はもちろん、軽過失もない。

ウ 一審原告ら主張の損害額は根拠がない。当該債権の評価がその主張のような高額の券面額相当であると推定する合理的理由はない。

第三当裁判所の判断

一  争点1(一)及び(二)について

次に補正するほかは、原判決「第三 当裁判所の判断」の「一 争点(1)について」及び「二 争点(2)について」(原判決三五頁一四行目から同三八頁一八行目まで)に記載したとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三五頁一九行目「被るおそれのある損害を回復し」を「被った損害の回復がはかられないおそれがある場合にその損害を回復し」と改める。

2  同三六頁一七行目「理由はないから、」を「理由はない。なお、損害賠償請求権の原因行為が機関委任事務以外の地方公共団体の公共事務ないし固有事務あるいは団体事務に限られるとの一審被告Y15の主張は、前述のところに照らしても理由がない。そして、上記損害賠償請求権の行使を違法に行わないことすなわち怠る事実は、それ自体財務会計行為に当たるものといえる。したがって、」と改める。

3  同三七頁一〇行目「のであるから、」を「のである。そして、前提となる事実のとおり、上記現在排水人口の数値を過大に記載し、報告されてから、これにより岡山市が国に対し、普通交付税の加算金の支払を命じられ、平成一一年九月二八日これを支払い、岡山市に損害が発生したと考えられるにもかかわらず、岡山市長は、一審原告らが監査請求をした平成一二年七月七日まで上記損害賠償請求権を行使していないから、岡山市長に怠る事実があることは明らかである。事実関係を解明するのに一年半であっても十分でないとか、損害賠償請求権を行使しないことに合理的な理由があるとの一審被告Y15の主張はその根拠を欠き、失当である。よって、」と改める。

4  同一六行目「事実」を「怠る事実」と改める。

二  争点2(一)についての事実認定

1  岡山市における独自の下水道普及率算定方法が採られた経緯及びその問題点が公表された経過

証拠<省略>によれば、以下の事実が認められる。

(一) 国(旧建設省)は、下水道普及率について、昭和三八年度から昭和四五年度の間は、排水面積を市街地面積で除した数値とし、昭和四六年度から昭和五〇年度までの間は、処理区域面積を市街地面積で除した数値とするというように、面積普及率をもって下水道普及率としていたが、昭和五一年度以降、住民基本台帳に登載された人口を基礎にして、処理区域内の常住人口を総人口で除した数値である人口普及率をもって下水道普及率とすることに変更した(以下「旧建設省方式」という。)。もっとも、昭和六一年度から平成二年度までは、旧建設省方式に加え、面積指標である雨水排水整備率を併記し、平成三年度から平成一四年度までは、これらに加え、汚水処理の指標に水処理の質を表現する高度処理人口を併記するようになった。

(二) 岡山市は、昭和三八年ころ以降昭和五〇年度までは旧建設省方式と同じ面積普及率に、処理区域内常住人口に将来同区域内で増加を見込む人口数を加味した処理区域内計画人口を認可計画人口で除した数値である人口進捗率を加味して算定した普及率を採用していたが、旧建設省が、昭和五一年度以降、下水道普及率の定義を面積普及率から人口普及率に変更したことに伴い、同年度から昭和五八年度まで、それまで用いていた面積普及率を廃するなどして、市内全地区で、処理区域内の常住人口に将来同区域内で増加が見込まれる人口数を加味した数値である処理区域内計画人口を総人口(住民基本台帳登載人口及び外国人登録人口)で除した数値を下水道普及率とする独自の算定方式を用いていた。

下水道普及率は、昭和五一年度末において上記岡山市独自の算定方式によれば一六万人で三〇・三パーセント、旧建設省方式による処理人口及び普及率の正確な数値は不明であるが、八万七〇〇〇人程度であったと推計される。しかし、昭和四〇年ころより続く、岡山市の中心市街地におけるドーナツ化現象のため、昭和五一年度前後にも、上記計画人口と常住人口との差が拡大していたところ、昭和五八年に住民基本台帳が電算化されて、処理区域内の常住人口数を明確に算出できるようになったことにより、岡山市の下水道処理区域の一つで、岡山駅を中心とする中心市街地を処理区域とし、岡山市内の下水道利用区域内常住人口のほとんどを占める旭西処理区の常住人口が、それまで用いていた計画人口の数値よりも実際には一〇万人近く少ない人数であることが判明した。そこで、昭和五九年度から平成九年度までの間、岡山市は、電算システムを用いると共に、旧建設省方式に改めると一挙に大幅に下水道普及率が低下する結果となることから、これまで用いていた計画人口の数値と同じ程度の数値を維持するために、旭西処理区域内の常住人口に昼間に同処理区域内で下水道を利用することが推定される人口(以下「昼間利用人口」という。)を加えた処理区域内利用人口を総人口(住民基本台帳登載人口)で除した数値、そのほかの処理区域については旧建設省方式と同一の方式による数値を下水道普及率とする岡山市独自の算定方法(以下昭和五一年度以降の岡山市独自の算定方式を併せて「岡山市方式」という。)によって下水道普及率を算定するようになった。

下水道処理人口及び普及率は、昭和五九年度末において岡山市方式によれば、一九万六一二〇人で三五・〇パーセント、旧建設省方式によれば九万六一二〇人で一七・一パーセントであった。

岡山市においては、この下水道普及率について、遅くとも昭和五四年以前から、毎年四月終わりころまでに、下水道局の計画課において算定して下水道局内で決定し、これを岡山市が用いる下水道普及率としては唯一の数字として使用するようになった。

(三) そして、岡山市は、同市議会に提供した下水道計画と現状に関する資料においても、遅くとも昭和五五年以降、毎年末の排水人口及び下水道普及率について、何らの説明なしに岡山市方式による数値を示しており、そのほかの岡山市の統計資料等にも多く用いていた。また、下水道局計画課では、毎年六月に「岡山市の下水道概要」を作成して公表し、下水道局各課に配布しているが、これは、他都市、各部署からの問い合わせに対して統一した数値の報告、及び下水道局職員が下水道の現状把握をするためのものである。これには、下水道整備の現況として、処理区別整備面積、整備人口、人口普及率(普及率計算方法を含む。)等が記載されていた。

(四) 岡山市は、旧建設省から岡山県を通じ、遅くとも一審被告Y6が下水道局長に就任した昭和六〇年度以前から、毎年度、各年度ごとの「下水道事業実施計画書」(以下「実施計画書」という。)の提出を求められていた。その提出に先立って、毎年四、五月ころ、岡山県土木部都市局下水道課から、各市町村の下水道事業担当部局担当課長宛の「下水道整備状況等調べ」について、調書を提出するよう求められていた。上記実施計画書は、国において各自治体の下水道の整備状況を把握して、国庫補助金が下水道整備に効率よく、かつ適切に使われているかを確認し、全国集計のデータベースに用いるためなどの目的があった。

同調書には、前年度末の下水道普及率について記載することとなっており、その記載要領には、遅くとも平成六年度以降、「処理人口は住民基本台帳人口を基に供用開始の公示がされている区域の人口を入力してください。」とあり、普及率の記載欄には、「処理人口(供用開始公示済区域人口)」「○年度末普及率」欄の他に、「各自治体発表○年度末普及率(建設省の定義と異なる場合記入)」と記載された欄が別に設けられていたが、岡山市下水道局建設部計画課は、その指示に従わず、「処理人口(供用開始公示済区域人口)」及び「○年度末普及率」欄に旧建設省の定義と異なる岡山市方式によって算定した人口及び普及率の数値を記載する一方、上記「各自治体発表○年度末普及率(建設省の定義と異なる場合記入)」欄に何らの記載をしなかった。上記下水道整備状況等調べに係る調書は、下水道局計画課長が最終決裁して岡山県に提出された。

また、旧建設省から提出を求められた実施計画書については、毎年四月ないし六月、岡山県から岡山市下水道局に事務連絡があり、岡山市はこれに応じて「○年度下水道事業調書」又は「○年度下水道事業実施計画調書」等の表題で、当該年度の下水道事業整備方針を記載し、旧建設省の様式に、公共下水道実施状況、処理人口、整備状況等の具体的内容を記入して岡山県に提出し、よって旧建設省に報告していた。同調書中には報告事項として、前年度末の下水道普及率があるところ、遅くとも平成六年度以降、様式F処理人口の「○年度末供用開始公示済区域人口(処理人口)」及び「○末普及率」欄に、公共下水道の処理人口及び普及率として、岡山市方式による昼間利用人口を含む人口及び普及率の数値を記載し、特に平成七年度ないし平成一〇年度調書では、様式B公共下水道実施状況の各前年度末の処理人口欄に岡山市方式による人口を記載した上、「処理人口普及率(建設省方式)」と記載され、旧建設省方式で算定した下水道普及率を記載する旨を明示された欄に、その指示に従わず、岡山市方式で算定した下水道普及率の数値を記載する一方、すぐ下に「各市町村公表普及率 %」と記載された欄には何ら数値を記載しなかったり、同数値を記載した上、様式F住民基本台帳人口及び各自治体発表○年度末普及率の「処理人口(供用開始公示済区域人口)」欄及び「○年度末普及率」欄に岡山市方式による人口及び普及率の数値を記載する一方、「各自治体発表○年度末普及率(建設省の定義と異なる場合記入)」欄には何らの記載をしなかった。この調書の作成は、総務課長等の決裁を経て下水道局長の最終決裁によってなされ、岡山県に提出されていた。上記実施計画書の数値の記入がこのようになされたのは、岡山市の普及率の数値は唯一であり、過去の実施計画書においても同様に記載されていたことによる数値の継続性を重視するという考えがあったからである。

さらに、岡山市は、旧建設省から、岡山県を通じて、毎年七月ころ、下水道に関する前年度実績について、調査を依頼されていた。その調査内容は、下水道施設等実態調査、受益者負担金制度実態調査、下水道使用料等実態調査、下水道事業執行体制実態調査であった。岡山市では、下水道局管理部総務課総務係が上記調査の上、回答書を作成し、下水道局長の最終決裁を得て、これを八月ころ岡山県に提出していた。同調査において、普及状況を記載する欄があり、その記載方法の指示は、処理区域内人口を記載し、これを行政人口(住民基本台帳登載人口及び外国人登録人口)後には行政区域人口(住民基本台帳登載人口)で除して人口普及率を算出するものであり、旧建設省方式又はこれと類似の方式を指示するものであるが、岡山市下水道局管理部総務課は、上記記載に当たっても、上記指示と大きく異なる岡山市方式ないしこれに準じる方式により、昼間人口を加えた処理区域内人口ないし排水区域人口を記載し、これを行政人口又は住民基本台帳登載人口で除して普及率を算定して記載していた。

(五) 岡山市では、昭和四七年一〇月に岡山市下水道事業全体計画が策定されていた。そして、下水道全体計画を具体的に実現するために、Q市長時代の平成元年三月に岡山市下水道整備基本計画(以下「基本計画」という。)が策定され、公表されたが、同計画では、おおむね平成三〇年までの三〇年間で岡山市内の市街化区域のほぼ全域の下水道を整備することを目標としており、より具体的には、基本計画書上には記載されていなかったが、岡山市内の市街化区域のほぼ全域に下水道が整備された際には、旧建設省方式によって算定した下水道普及率が約七〇パーセントになることを目標としていた。

下水道処理人口及び普及率は、平成二年度末において岡山市方式によれば二一万九三二一人で三七・三パーセント、旧建設省方式によれば一二万一七七一人で二〇・七パーセントであり、平成三年度末において岡山市方式によれば二二万八四七〇人で三八・七パーセント、旧建設省方式によれば一三万一二四五人で二二・二パーセントであった。

(六) 平成三年二月、目標達成期間を三〇年から一五年に半減し平成一七年度までに下水道普及率を七〇パーセントとすることを選挙公約に掲げた一審被告Y15が市長に当選し、その選挙公約に従って同年三月上記のとおり基本計画の見直しがなされた。これは下水道局内部で設定した上、岡山市全体の第三次総合計画の実施計画の中に反映させることで岡山市内部に周知させ、外部にも公表された。もっとも、岡山市の発行したパンフレットでは、平成三年度末人口普及率としては岡山市方式による三八・七パーセントが、人口の説明なく記載されていた。

平成四年二月の新聞記事においても、岡山市が公表した岡山市方式による下水道普及率の数値が何らの留保なく掲載され、旧建設省方式による全国平均の数値(ただし、岡山市の岡山市方式による数値も含んだ平均値)と対比されていた。

(七) 一審被告Y9は、平成九年四月一日付けで岡山市下水道局長に任命された。一審被告Y9下水道局長は、着任して間もなくの同年五月ころ、下水道局調整課の担当者から、岡山市の下水道普及率の算定方法として、旧建設省の実施計画書の記載要領に示される住民基本台帳をベースにした算定方法と異なる、上記旧建設省方式に、昼間利用人口を上乗せするなどした独自の岡山市方式により普及率を算定し、その値を公表していると説明された。また、一審被告Y9は、上記実施計画書に、処理人口として、岡山市方式による数値に外国人登録人口を加えた数値を記載していることを承知しながら、これを決裁していた。

下水道処理人口及び普及率は、平成九年度末において岡山市方式によれば三〇万八八六三人で五〇・五パーセント、旧建設省方式によれば二二万一八三二人で三六・三パーセントであり、平成一〇年度末において岡山市方式による数値は算定されず、旧建設省方式によれば二三万五一四四人で三八・二パーセントであった。

平成一一年二月に市長が一審被告Y15から一審被告Y17に交代したことに伴い、同年四月ころ、岡山市の各局が抱える課題について新市長に説明する機会が設けられたことから、一審被告Y9下水道局長は、下水道事業が抱えている問題点として、岡山市では、下水道普及率について、旧建設省方式による算定方法を用いずに、旧建設省方式における処理人口である処理区域内の常住人口の数値に昼間利用人口の数値を加算したものを旧建設省方式での処理人口の数値と扱って下水道普及率を算定しており、かなりの差があることを一審被告Y17市長に説明した。

一審被告Y9下水道局長の上記説明を聞いた一審被告Y17市長は、一審被告Y9下水道局長に対し、先ず事実を捉えるように、また下水道普及率の算定方法を岡山市方式から旧建設省方式に改めた場合に、どのような事項にその影響が及ぶのかを下水道局において直ちに調査し、一審被告Y17市長に報告するよう指示した。

これを受けて、一審被告Y9は、当時下水道局建設部調整課計画係主任であったG(以下「G」という。)及び同課課長補佐であったHに対して、「普及率の訂正を公表することになりそうだ。訂正に伴う影響を調査してほしい。」と言って、下水道普及率の算定方法を訂正した場合にその影響が及ぶ事項を全部洗い出し調査するよう指示した。調査に当たったGは、①現状で公表されている下水道普及率の数値と旧建設省方式による下水道普及率の数値との差、②旧建設省において整備指標として普及率が用いられてきた経緯及び岡山市における普及率の変遷、③岡山市における普及率訂正による影響、④今後の対策方針についてそれぞれ調査することにし、そのうち、①及び②の調査については、Gは、平成三年度及び平成四年度に下水道局計画課に在職していたことから、下水道普及率が現実と大きく乖離していることについて認識しており、平成四年六月の建設委員会への報告の際に用いた資料が存在することを知っていたため、これを用いて平成四年度以降の不足分を補うことにした。そのため調査の中心となったのは、③の岡山市における普及率訂正が及ぼす影響の点であった。この点に関して、下水道普及率又は処理人口等の数値を記入している各調査書について綴った綴りを調べたところ、そのうち、各自治体からの照会等以外に、財政課からの公共施設状況調査についての書類が出てきたことから、Hが、財政課に行き、同課の下水道局担当で、予算査定等を行っていた当時の主任のFに対し、下水道普及率の数値が訂正された場合に公共施設状況調査に影響が出るかどうか相談した。Fは、過去五年分の普通交付税算出資料により、現在排水人口の欄が下水道普及率の訂正によって影響されることを確認し、その数値を入れ替えて計算してみたところ、交付税が過大に支給されており、その返還が必要になることが判明した。Fは、五年間遡って交付税の返還額を試算し、最悪の場合を想定して利息を付けると概算で一五億円程度になるとHに伝えた。

以上のような調査結果を踏まえて、GとHで、平成一一年四月二六日付け「下水道普及率について」という下水道局内部の意見等をまとめた資料を作成し、一審被告Y9下水道局長に報告した。その後、一審被告Y9下水道局長のほか、当時下水道局の幹部であった原審相被告I(管理部長)、原審相被告J(建設部長)、原審相被告K(下水道総務課長)、原審相被告L(調整課長)、H調整課課長補佐によって上記の調査結果が一審被告Y17市長に報告された。

下水道局の上記説明を聞いた一審被告Y17市長は、平成一〇年度末の下水道普及率の算定方法を旧建設省方式に改めることを決定し、さらに当時の財政局長であったMに対し、過大に交付された分の地方交付税を旧自治省に返還するよう指示して、平成一一年五月二四日、前記前提となる事実で引用した原判決第二の一(4)アのとおり、岡山市の普及率の問題点を公表した。

2  公共施設状況調査について

証拠<省略>によれば、以下の事実が認められる。

(一) 旧自治省は、各地方公共団体に対し、財政運営及び財政分析に当たって、財政支出によって住民の行政需要がどの程度満たされているかという財政支出の効果すなわち行政水準を把握するため、文教施設や福祉施設等の公共施設の整備状況を把握する目的で、昭和三七年度(調査時点昭和三八年三月三一日現在)以降、毎年、公共施設状況調査(旧自治省は、市町村を対象とするものは「市町村公共施設状況調査」と名付けていたが、本件で問題となるのはこれのみであるので、以下には単に「公共施設状況調査」という。)を実施している。これは、直接には、地方交付税の算定根拠とする目的をもって行われるのではないが、ほかの国勢調査等の調査と同様、調査結果の数値の一部は、毎年、地方交付税の算定根拠として使用されていた。同調査において、下水道の現在排水人口の数値は、遅くとも昭和四四年度調査(調査の対象となる年度のことであり、調査時点は昭和四五年三月三一日現在。以下同様)以降調査項目とされている。旧自治省の記載要領には、現在排水人口について、昭和四二年度調査では「排水人口については台帳の「計画排水人口」を記載するものである」とされ、昭和四三年度ないし昭和四五年度は何らの説明が付されておらず、昭和四六年度ないし昭和五一年度調査では、「○年三月三一日現在において、実際に下水道を使用している人口を記入」との説明があった。昭和五二年度、昭和五三年度調査では、「○年三月三一日現在において、排水の対象となっている常住人口(住民基本台帳登載人口)を記入」との説明があった。

岡山市の場合、事務分掌規則上、公共施設状況調査は財政局財政総務課の担当、地方交付税は同局財務部財政課の担当とされているが、旧自治省から岡山県を経由して岡山市の財政局財政課に、毎年五月ころ、公共施設状況調査の調査依頼がなされていた。この調査依頼が来ると、財政課では、財政課長名で、公共施設状況調査の総括担当者が、岡山市の各局を担当する財政課職員を通じて各局の主管課長(下水道局では下水道局総務課長、平成六年ないし平成九年は下水道局管理部下水道総務課)宛に、①公共施設状況調査用紙の写し、②前年度の数値が記載された公共施設状況調査書の写し、③記載する数値について、「現在排水人口」については、「○年三月三一日(公共施設状況調査を実施する年度の前年度で公共施設状況調査の対象となる年度の末日)現在において、排水の対象となっている常住人口(住民基本台帳登載人口)を記入すること」(昭和五四年度調査時)、或いは「供用を開始している排水区域(下水道法第二条第七号に定める区域)内の○年三月三一日(上記と同様)現在における常住人口(住民基本台帳登載人口)を記入すること」(昭和五五、五六年度調査時)、或いは「供用を開始している排水区域(下水道法第二条第七号に定める公共下水道により下水を排水することができる地域で、同法第九条第一項の規定により公示された区域)内の○年三月三一日(上記と同様)現在における住民基本台帳登載人口を記入すること」(昭和五七年度ないし昭和五九年度調査時)、或いは「供用を開始している排水区域(下水道法第二条第七号に定める公共下水道により下水を排水することができる地域で、同法第九条第一項の規定により公示された区域)内の○年三月三一日(上記と同様)現在における住民基本台帳登載人口及び外国人登録人口を記入すること」(昭和六〇年度ないし平成九年度調査時)と明記された記載要領の写し、④公共施設状況調査が「普通交付税の算定資料として使われるなど重要数値であり、他省庁への報告数値との突合も実施されますので、調査内容を十分理解のうえ記入してください。また、他省庁調査の写等の添付資料も二部併せて提出してください。」との記載がなされている調査依頼文書の合計四つの書面を併せて送付し、その回答をするよう依頼していた。

この依頼を受けた下水道局総務課(又は下水道総務課)では、総務係から財務係の係長に上記の文書を送り、財務係長が部下の担当者に調査を指示し、担当者が関係部署である下水道局計画課(調整課)に問い合わせをして、財務係で起案を行い最終決裁者である下水道総務課長の決裁を得た後、関係部署である下水道局計画課(調整課)と合議し計画課長(調整課長)の決裁を得た上で、財政課に回答していた。なお、下水道局総務課の財務係が起案する際には、財政課から来た公共施設状況調査表のコピーを取って、そのコピー(上記③の記載要領を含む。)を計画課(調整課)に持って行き、該当の数値を計画課(調整課)で記入してもらって、それを見ながら、財務係が財政課に提出する公共施設状況調査表に記載するというのが通常の手続であった。また、正式に財政課に回答する前になされる下水道総務課と下水道計画課(調整課)との最終合議の際の書面には、上記④の依頼文書が付いていた。

財政課では、各局から出された回答を受け取った後、公共施設状況調査表に各局の担当者が担当箇所を記載し、これを総括担当者がまとめて作成しており、財政課長も目を通していた。その際、財政課の担当者は、各局から出された回答が前年度の数値と比較して大きく異なる等の特別の事情がない限りは、各局から来る回答の内容を信頼して、集計、記載を行い、岡山県の市町村課に公共施設状況調査表を送り返していた。このようにして作成された、公共施設状況調査表の下水道欄公共下水道の現在排水人口の数値は、昭和五一年度以降、毎年、常住人口を上回る、旧建設省へ報告していたのと同じ、ただし昭和六〇年度以降はこれに外国人登録人口を加えた岡山市方式による数値が記入されていた。各年度の調査回答書提出は、毎年度六月下旬ないし七月中旬ころであった。

(二) 公共施設状況調査は、外部に報告する文書の通例として、財政課長の決裁で岡山県を通じて旧自治省に回答がなされており、財政局の部長や局長、助役、市長の決裁はなされなかった。また、財政課からの照会に回答する下水道局においても、計画課長(調整課長)の決裁で回答がなされ、上位者である下水道局の部長や局長の決裁はなされなかった。

ただ、公共施設状況調査が毎年行われること自体は、財務部長も知っていた。

3  普通交付税算定資料提出及び普通交付税の交付、超過額

証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 地方交付税の算定に当たっては、国が各県を通じて報告される市町村の基礎数値により、基準財政収入額と基準財政需要額を計算の上、交付する。

(二) 普通交付税算定資料である普通交付税算定用基礎数値チェック表の岡山県による作成、市町村への配付、検収は、毎年度普通交付税を交付する前提として当該年度に少なくとも二回行われたが、岡山市財政局の交付税担当者が、岡山県から説明を聞いた上、作成書類用紙を持ち帰り、各局の担当者が記入等した後、財政局の交付税担当者がまとめをして作成していた。このチェック表自体については、財政局においては、財政課長以上の管理職の決裁は行われなかった。同チェック表において、前年度の公共施設状況調査で数値が報告された項目その他公的な統計数値を利用する項目については、チェック不要とされ、下水道費の排水人口も、上記チェック表に添えられた基準財政需要額 基礎数値チェック要領において、一回目のチェックにおいてはチェック不要(○年度(前々年度)公共施設状況調査、○.3.31(前々年度末日)数値)と、二回目のチェックにおいては『済』と記載されていた。

(三) 上記検収が済むと、財政課担当者は、昭和四五年度から平成一〇年度まで、各年七月中旬ないし九月下旬の間(大抵は七月終わりころから九月初めころ)、上記検収を終了した旨と当該年度普通交付税の算定結果について、交付基準額及び交付決定額の明細を記載した普通交付税算出資料(以下「算出資料」という。)を添えて、基準財政需要額、基準財政収入額、差引いくら、前年度の相違点等を岡山市幹部に報告した。算出資料には、下水道費(経常)欄に公共下水道に係る排水人口の記入欄があり、これには岡山市方式を基にする数値が記入されていた。そして、その説明書には上記排水人口は「○年度公共施設状況調査による」と記載されていた。同報告については、昭和五一年ころまでは、財政局長、財政局担当助役及びその他の助役の決裁を経て市長による決裁もなされていたが、昭和五六年ころ以降は、財政局長が最終決裁を行っていた。

(四) 普通交付税の額は地方交付税全体の概ね九四パーセント、残りが特別交付税であり、普通交付税の交付は、原則として、毎年度四月、六月、九月及び一一月の四回に分けて行われ、概ね、四月及び六月は前年度の当該地方団体に対する普通交付税の額に当該年度の交付税の総額の前年度の交付税の総額に対する割合を乗じて得た額の四分の一、九月には当該年度において交付すべき当該地方団体に対する普通交付税の額から四月及び六月に交付した普通交付税の額を控除した残額の二分の一、一一月には上記の残額が支給される(なお、一二月及び三月には特別交付税が支給される。)が、そのほかに、当該年度の国の予算が成立しない場合、国の予算の追加又は修正により交付税の総額に変更があった場合、大規模な災害が起こった場合などに特例的に交付時期が変更又は追加される。岡山市に対する普通交付税の交付時期及び金額は、毎年、おおよそ四、五月及び六月、九月、一一月以降に四分割して支給されていたが、六月までの支給額と九月以降支給額とでは、前年度実績をも計算基礎とするか、当年度のみの計算基礎によるかの違いがあるから年度によってかなりの開きがあり、さらに年度によっては、一二月以降に追加支給されることもあった。

(五) 岡山県は、普通交付税の算定基礎となる排水人口等について、公共施設状況調査の結果と旧建設省の下水道普及率調査の結果などと対比したり、二年に一度の交付税検査を通じるなどして適切な数値を得られるよう努めてきた。

平成一一年五、六月の岡山県の特別検査の結果、岡山市から公共施設状況調査において、下水道に係る現在排水人口が同調査において指示された住民基本台帳登載人口ではなく、これを上回る岡山市方式により算定した人口、すなわち計画人口ないし住民基本台帳登載人口に昼間人口を加えた人口であるものと報告され、これに基づき交付税の基準財政需要額の算定が行われていた結果、これが毎年度本来の基準財政需要額を上回っており、過大な普通交付税の算定、交付に至ったことが判明した。そして、同特別調査等を通じ、検査対象とした昭和四五年度から平成一〇年度までの各年度について、岡山市の供用を開始していた排水区域に係る下水道排水人口を該当区域の住民基本台帳登載人口を基本として捉え、これをその時々の資料である、①昭和六〇年度から平成一〇年度までは、電算システム上の下水道処理区域別等に集計したデータないし電算処理総括表と地区別住民基本台帳月報、②昭和五九年度以前の電算システムのない期間については、区域毎の住民基本台帳上の人口を基礎として、地区の一部のみが排水区域である場合には、電算システムがある年度の数値に各年度の住民基本台帳の人口を掛け合わせることによる推計、或いは人口密度の割合により排水人口を計算し、さらに③昭和五四年度以前の区域別の住民基本台帳登載人口の資料がない期間については、住民基本台帳登載人口の資料がある年度から遡って年度間の新規供用開始した区域の人口を差し引く方法で計算した結果、公共施設状況調査において用いられるべきであったと考えられる下水道の排水人口を算出し、これにより、基準財政需要額、さらに普通交付税額を算定したところ、岡山市に交付された普通交付税の超過額は、昭和四五年度から平成一〇年度までの合計一九億八四八一万七〇〇〇円であり、うち昭和五五年度以降の各年度の数値は前記前提となる事実(4)エに付加したとおりである。

4  職員らの認識状況について

証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。

(一) 昭和五一年に旧建設省の下水道普及率の算定方式が変更された際、岡山市が下水道普及率の算定に上記の計画人口を用いたのは、処理区域内の常住人口を正確に把握するためには個々の住民票に当たらねばならず困難でかつ非常に労力がいるということが理由であったが、昭和五八年に住民基本台帳が電算化され、旭西処理区の常住人口が計画人口より一〇万人近く少ないことが判明したため、当時の下水道局建設部計画課企画係長の地位にいた原審相被告N(以下「N」という。)は、岡山市の下水道普及率の算定方法も、処理区域内の常住人口を総人口で除して下水道普及率を算定する旧建設省の算定方法に是正すべきであると、当時の上司であったY13下水道局建設部長に上申した。しかしながら、Nは、その後、同年中に、同部長から、旧建設省方式で算定すれば一気に一五パーセント程度の大幅な下水道普及率の低下を招くため、統計の継続性からすればこれまでの計画人口の数値を維持するのが望ましいため、旧建設省の算定方式には変更しない旨が決まったと聞かされた。また、昭和五九年初めころ、Nは同部長から、今後の算定方法として常住人口に昼間人口を加えて処理人口及び普及率を算定することに決められていると聞かされた。

なお、昭和六三年四月ころ、当時下水道局総務課の課長補佐をしていた原審相被告O(以下「O」という。)は、下水道局計画課の課長補佐をしていたNから、岡山市の下水道普及率の算定では、昼間利用人口が含まれていて、他の自治体とは異なる算定方法を採っているという話を聞いたことがあった。同月、計画課の課長補佐に就いた原審相被告P(以下「P」という。)は、引継ぎにより、岡山市が旧建設省に提出していた下水道実施計画書の下水道普及率の数値が記載要領と異なる方法で計算されていることを知った。

(二) 平成元年三月に策定、公表された基本計画では、市域内人口約六〇万人のうち下水道計画区域内人口五七万人で、約三〇年間に旧建設省方式による下水道普及率が七〇パーセントとなることが目標とされていた。

この基本計画の原案を作成したのは、当時、下水道局計画課の課長補佐であったNであり、当時の下水道局の幹部が、一審被告Y3助役の決裁を得た上、当時のQ市長に基本計画の説明を行ってその決裁を得ていた。

上記基本計画において、岡山市も、他都市は旧建設省方式で算定しているので正確な下水道普及率の比較が困難であることなどから、少しずつ旧建設省方式で算定した下水道普及率に近づけることを予定しており、平成三〇年度には、岡山市方式で下水道普及率を算定する際に処理区域内常住人口に加算されていた昼間利用人口の数値が○人となるように、少しずつ昼間利用人口の数値を減少させていくことになっていた。具体的には、例えば、当該年度の整備による処理区域内常住人口の増加分が実数として二万人あったという場合であれば、当該年度の下水道普及率の算定上は一万五〇〇〇人の処理区域内常住人口の増加とみなして、残りの五〇〇〇人については、その同数だけ昼間利用人口の数値を減じるというように数値操作を行おうということになっていた。実際に公表された数値は、処理区域内利用人口のうち常住人口を超過する昼間利用人口について、旭西処理区域において、昭和五九年度から昭和六二年度までは一〇万人に固定され、昭和六三年に九万五〇〇〇人に減らされたが、平成元年、平成二年にはむしろ数百人ずつ増やされ、平成三年以降一〇〇人ないし六〇〇〇人ずつ減らされていったが、平成元年以降流通団地処理区域で昼間利用人口のみの二〇〇〇人前後の利用人口が計上され、児島湖流域関連処理区域では平成六年以降に数千人の昼間利用人口を計上するようになったため、岡山市全体の常住人口を超える利用人口計上数は、平成七年まではほとんど減少せず、その後ようやく平成八、九年度に年間五〇〇〇人前後減少したにすぎなかった。

下水道局では、下水道局長、建設部長、計画課長(調整課長)、計画課課長補佐(調整課課長補佐)、計画係主任の打合せによって、当該年度の整備量に見合うような下水道普及率の数値案を毎年四月上旬に作成し、下水道局長の承認によって当該年度の岡山市方式による下水道普及率、岡山市方式での処理区域内常住人口数、昼間利用人口数等の数値を決定しており、このようにして決定した下水道普及率等の数値は、下水道総務課を含めた下水道局内及び関係部局に下水道統計資料として配付された。

また、上記下水道局長の承認をもって決定された岡山市方式での処理区域内常住人口の数値、旧建設省方式での処理区域内常住人口の数値、前者と後者の差である昼間利用人口の数値等は、下水道局長から市長に対しても報告されたことがあり、平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで下水道局計画課長を、平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日まで下水道局調整課長をしていたPは、上記いずれかの期間のうち一度、当時市長であった一審被告Y15に対して下水道局長が下水道普及率に関する上記数値を報告する際に下水道局長に随行したことがあった。

(Nは、原審における本人尋問で、昼間人口の上乗せ分は聞いていない、上乗せした数値は上司に報告していない、担当者が課長に相談せずに下水道普及率を決めていた等供述するが、下水道普及率は、一審被告Y15市長の選挙公約にもなっており、昼間人口をどれだけ削減して下水道普及率をどれだけ伸ばすかという重要な政策的判断を伴う事項を、担当者が課長に相談することなく決めていたとは考えられず、自身の損害賠償責任を回避することが目的でなされた供述と考えられ、採用できない。)

(三) 平成三年二月、一審被告Y15が市長に就任した直後の同年三月、同被告の公約をふまえ、一五年後に下水道普及率七〇パーセント(旧建設省方式による。)を目標とする旨基本計画が変更されたが、その際、下水道局では、将来の三次にわたる五箇年計画についてのシミュレーションを行い、その結果計画は可能であると判断し、一審被告Y3助役決裁の上、岡山県へ計画を提出した。変更された基本計画は、下水道の長期計画として、各種の調査、その他の計画等の基本となるものであり、その後、下水道局計画課において、実績に伴い各年の整備見通しの修正を行っていた。

岡山市下水道局計画課ないし調整課では、岡山市方式で算定した下水道普及率の数値のほか、旧建設省方式で算定した下水道普及率の数値についても把握しており、毎年度、基本計画によって、両者の数値がどの程度近づいたかという検証を行っていた。しかし、基本計画に基づく整備の実施に応じて昼間利用人口の数値を減少させていこうとする前記数値操作も、旭西処理区域内の人口空洞化によって整備済み区域の処理人口が減少したことや、下水道整備量が思うように上がらなかったことなどから、計画どおりに昼間利用人口数を減少させることが困難になっていった。

(四) 平成三年一二月一一日に行われた定例岡山市議会本会議において、D議員(以下「D議員」という。)から、し尿処理手数料の値上げ議案に関して、岡山市の人口から下水道の処理人口及び浄化槽の処理人口を引いて算出したし尿処理人口の数値について、昭和六二年と平成二年とを比較すると、平成二年のし尿処理人口の数値は昭和六二年より減少しているにもかかわらず、平成二年のし尿収集実績は逆に昭和六二年より増加しているという事実が指摘され、それに関する質問がなされた。これに対して、当時の財政局担当助役であった一審被告Y16が答弁したものの、十分な説明ができないまま、市議会は打ち切り、延会となった。同本会議の直後ころ、一審被告Y7は、取下前一審被告B(下水道担当助役)及び一審被告Y16(し尿処理担当助役)に対し、岡山市の下水道普及率の計算には昼間人口が含まれていること、今後下水道整備を進める中で旧建設省方式に漸近させるとの方針を有していることを伝えた。

そして、同月一九日に開かれた岡山市議会建設委員会において、D議員から、平成元年末岡山市の処理区域人口二一万九一六五人の中に昼間利用人口九万五〇〇〇人が含まれていること、下水道の利用率が三七・二パーセントというなら分かるが、これをもって下水道の人口普及率が三七・二パーセントということにはならない、岡山市の実際の下水道の人口普及率を計算してみると、推計に推計を重ねてであるが一九・四七パーセントになる、こういう紛らわしいことはやめて実態をはっきりさせなくてはならないなどの指摘がなされた。これに対し、当時の下水道局長であった一審被告Y7は、極めて重要な指摘であり、この扱いについては内部で検討し、改めて報告する旨答弁した。

同月二四日に行われた定例岡山市議会本会議において、同会議に上程された岡山市廃棄物の処理及び清掃に関する条例の一部を改正する条例の制定について、質疑応答が終了し討論の段階になってE議員(以下「E議員」という。)は、反対討論の中で、同月一一日に行われた岡山市議会でD議員が取り上げた、年次的にし尿収集人口が減っているのにくみ取り総量が増加しているとの前述の問題点に触れ、下水道処理人口の中に、旭西処理区については昭和五五年の国勢調査に基づいて推計された昼間人口約九万七〇〇〇人が含まれていたこと及び岡山市の下水道普及率の数値には一〇万人近い昼間人口が含まれていたもので、在住人口ベースで算出すると普及率は二〇パーセントしかないことも明らかになったと指摘した上で、一審被告Y15市長の公約であった一五年で七〇パーセントの普及率という話は一体どうなるのかと述べた。同本会議には、一審被告Y15市長、同Y16助役、取下前一審被告B助役、一審被告Y7下水道局長、同Y12財政局長が出席していた。一審被告Y16は、岡山市の公表している公共下水道の処理人口に昼間人口が含まれているとの指摘を聞いて、おそらく事実はそのとおりだと考えた。

なお、平成三年一二月の議会で上記のような指摘があったことについて、当時建設局都市計画部都市計画課主幹で宇野線高架事業推進室長事務取扱であった原審相被告Nは、同月末、当時の下水道局計画課長であったRから聞いたことがあり、さらにNは平成四年三月末ころ、上記Rから、計画課長の後任として、旭西処理区における昼間人口を漸減していき、平成一七年には旧建設省の普及率算出方法に合致させる予定であるとの引き継ぎを受けた。

平成四年六月一二日に行われた岡山市議会建設委員会において、D議員が、下水道普及率について昼間利用人口を入れて算定した場合と住民基本台帳に基づく常住人口を使った場合とで一〇パーセントほど誤差があり、岡山市は一五年で旧建設省方式によって算定した下水道普及率が七〇パーセントとなるようにきちんと整合性が図られると説明しているがそれは間違いないのかと質したのに対し、当時の下水道局長であった一審被告Y7は、市街地の下水道整備を進める中で、従前、昼間人口も含めた施設能力表現をしていたが、段階的にこれを住民基本台帳に基づく常住人口によって算定した下水道普及率の数値に漸近させるという方針を取っている旨答弁した。

一審被告Y15は市議会本会議には出席しているが、建設委員会等の委員会には、出席しておらず、建設委員会に一審被告で出席していたのは一審被告Y7のみである。一審被告Y15は、上記市議会での発言に関し、担当の下水道局幹部等に対し、普及率の数値についての疑問を質したりしたことはない。

平成五年四月に下水道局計画課の主幹になったPは、その着任の際に、下水道局としては、上記平成三年の議会質問を契機として、昼間利用人口を入れて算定した岡山市方式による下水道普及率の数値と昼間利用人口を入れない旧建設省方式による下水道普及率の数値との差が縮まるように下水道の整備をして、平成一七年には旧建設省方式によって算定した下水道普及率が七〇パーセントになることを目指しているという話を聞いたことがあった。

(五) 一審被告Y8は下水道局長に着任した平成六年四月一日の後、同年度の実施計画書作成前である同年五月ころに、下水道局建設部長及び計画課長から、岡山市の下水道普及率算定方式について説明を受けた。同一審被告は、同説明により、岡山市では、旧建設省方式と異なる常住人口に昼間人口を加えて処理人口とする岡山市方式により下水道処理人口、普及率の算定、決定、公表を行っており、実施計画書の記載要領に示される旧建設省方式と異なる岡山市方式による普及率の数値を記入していること、平成一七年度末までに下水道普及率を七〇パーセントとして、それまでに旧建設省方式に整合させる方針であることを知った。同一審被告は非常に驚き、局長の判断で旧建設省方式に変更すべきかどうか、変更できるかどうか検討した。

しかし、部下から事情聴取すると、旧建設省の下水道に関する国庫補助金事業には影響がなく、長年岡山市方式で発表してきており、変更すると数値の継続性の問題がある、平成三年に市議会との間で平成一七年度まで岡山市方式で下水道普及率を公表するとの約束をしており、しかもこれは政策決定であり、市長の考えが変わらない限り、下水道局長の一存で旧建設省方式に変更することはできない旨告げられた。一審被告Y8は、その場は方針を保留として、前任の取下前一審被告Aに電話相談したところ、同様の事実経過と意見を告げられた。

もっとも、一審被告Y15は、その後、下水道普及率を一五年間すなわち平成一七年までに七〇パーセントとするとの公約について、財源的に無理だとの理由で五年間延長した。

一審被告Y8は、下水道料金改定と一審被告Y15の市長再選の機会を捉えて、下水道普及率を旧建設省方式に変えようと考え、取下前一審被告B助役に相談したところ一審被告Y15市長の判断を仰ぐよう指示され、平成七年四月ころ、一審被告Y15市長に対し、旧建設省方式と岡山市方式とでは下水道普及率に差があることを告げて旧建設省方式に変更することを相談したが、一審被告Y15は、一審被告Y7下水道局長の時代に解決済みであるとの回答であった。

一審被告Y8の下水道局長在職中、下水道局は、例年下水道普及率を記者発表しており、このため、担当課長以上で、事前に市長及び担当助役に説明していた。そのほか、下水道普及率を平成一七年度末までに七〇パーセントにするという一審被告Y15市長の公約があるため、議会からもこれに関する質問がよくあり、その答弁に当たり、下水道局は、市長及び担当助役に説明をしていた。

(六) Pは、平成五年四月に計画課主幹に就任した時、下水道局として岡山市方式と旧建設省方式との普及率の差を平成一七年までに徐々に直していくのが岡山市及び下水道局の方針である旨聞いていたところ、平成八年四月から平成一〇年三月までの間、計画課長ないし調整課長であったが、下水道利用人口及び普及率についての市長、市議会への報告や岡山市内外からの問い合わせ用等の各種報告について、岡山市方式によるものであるが、前年度よりは旧建設省方式に多少近づけた案を計画課職員が作成したもので、岡山市方式による数値、旧建設省方式による数値、プラスする数値も記載された資料を、上司の建設部長、下水道局長に見せて報告し、決裁を得ていた。なお、Pは、公共施設状況調査について、一連の調査物つまり各種団体からの照会、建設省からの調査等への報告と同様に考えていた。上記計画課長又は調整課長であった間、Pは、一度、下水道局長に随行して市長のもとに上記資料を持参し、これを見せて報告した。

(七) さらに一審被告Y9は、平成九年四月に下水道局長に就任した際、担当者から、岡山市方式で算定した下水道利用人口及び普及率の数値、旧建設省方式で算定した下水道処理人口及び普及率の数値並びに上記両数値の差などが記載された過去一〇年分くらいの岡山市の下水道普及率の推移が分かる表を資料として提示され、岡山市がかなり以前から旧建設省方式と異なる独自の方法で普及率を算定していることを知らされた。

下水道普及率が岡山市方式という独自の算定方法によって算定されていることを知った一審被告Y9は、大変驚き、国できっちりと基準を決めて各市町村に示している数値と異なる数値を説明なしに用いることについて非常に重大なことであり、岡山市方式のように、旧建設省方式と異なる独自の算定方法を用いると、他都市との下水道普及率の比較をする場合等に問題があると思い、部下職員らに旧建設省方式との違いを早く解消する方法はないかと度々持ち掛けたものの、岡山市が長年にわたり独自の方式によって算定した下水道普及率に基づいて下水道の整備を行い、その数値を公表してきたこと、また、当時の市長であった一審被告Y15の重点政策として下水道普及率の向上が掲げられていたこと、既にその数字で諸々の物事が動いていたこと、さらに、担当者から、平成三年一二月の議会等においても岡山市方式の下水道普及率について議会に説明がなされていると説明されたことなどから、一審被告Y9は、非常に悶々とした気持ちを抱きつつも、これまで長年にわたって行われてきた岡山市方式という下水道普及率の算定方法を自分の代で変更するというまでの勇気が持てなかったため、平成八年度末及び平成九年度末の下水道普及率については従来どおり岡山市方式によって算定した下水道普及率を当時の市長であった一審被告Y15に報告するとともに、対外的にも公表した。

一審被告Y9は、平成一一年四月、一審被告Y17に従来の岡山市方式による下水道普及率等の扱いについて報告し、調査、再検討を命じられた後、下水道局の職員らの調査結果を受けて、下水道局としては、岡山市方式の扱いは種々の問題があり、交付税の返還の問題もあるものの、現行の考え方を踏襲し、普及率アップを図るとの意見をとりまとめ、これを一審被告Y17に報告しようとしたが、結論的な意見を述べるに至る前に、一審被告Y17から、交付税を返還してでも訂正すべきだと意見を言われ、この方向で検討し、公表することとなった。

平成一一年五月二四日に下水道普及率についての従来の扱いについて公表した一審被告Y17は、同公表にかかる岡山市長談話の中で、下水道局幹部から、長年懸案であった下水道普及率の数値をこの際、市民の前に明らかにしたいとの申し出があり、今回の訂正となった旨言及している。同日の記者説明で、一審被告Y9下水道局長は、市民に長年うそをついてきたと言うことかと訊かれ、積極的に説明をしなかったということでそう言われてもやむを得ないかもしれないと答え、普及率の訂正により、自治省の交付金に変わりがないか尋ねられ、下水道局所管ではないのでわかりませんと答えている。

三  争点2(一)についての判断

1  普通交付税の過大交付に至った原因と関係職員の行為、責任について

(一) 一審被告岡山市長を除く一審被告らの責任要件について

(1) 法二四三条の二第一項所定の職員が物品の保管等の一定の職務を遂行するに当たって、地方公共団体に損害を与えた場合においては、民法の規定は適用されず、同条の手続に従ってのみ責任が追及され、当該職員に故意又は重大な過失(現金については故意又は過失)がある場合にのみ責任が追及されることとなる。

同項の趣旨とするところは、同項所定の職員の職務の特殊性に鑑みて、同項所定の行為に起因する当該地方公共団体の損害に対する上記職員の職務遂行に係る賠償責任に関しては、民法上の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任よりも責任発生の要件及び責任の範囲を限定して、これら職員がその職務を行うに当たり畏縮し消極的となることなく、積極的に職務を遂行することができるよう配慮するとともに、上記職員の行為により地方公共団体が損害を被った場合には、簡便、かつ、迅速にその損害の補てんが図られるように、当該地方公共団体を統轄する長に対し、賠償命令の権限を付与したものであると解せられる(最高裁昭和六一年二月二七日第一小法廷判決・民集四〇巻一号八八頁参照)。

また、地方公共団体の長の賠償責任も法二四三条の二第一項によることになるかについては、長の職責に鑑みると、他の職員と異なる扱いをされることもやむを得ず、長は同項所定の職員には含まれず、長の賠償責任については民法の規定によるものと解するのが相当である(上記最高裁判決参照)。

(2) 昭和二二年に法が制定された際には、旧法制に存した吏員の地方団体に対する公法上の賠償責任に関する制度は採用されなかったが、これは、地方公共団体の職員の賠償責任の性格を公法上の賠償責任から私法上の賠償責任という考えに統一し、公法上の特別責任を定めた規定を全て削除して、全て民法の規定により処理することにしたものである。

しかし、その後、公金亡失の事例が増加し、民法の規定による責任追及では煩瑣でもう少し簡易な方式で責任追及ができる仕組みを作りたいという要請から、昭和二五年旧法二四四条の二が設けられ、出納職員の賠償責任を特別の手続で簡易に責任を追及し賠償を確保しようとした。二四三条の二は、昭和三八年法律第九九号により旧法二四四条の二の出納職員等の賠償責任の規定を改正して設けられたものである。

(3) 以上のような法二四三条の二の趣旨と沿革に照らせば、同条一項所定の職員以外の職員が、違法行為等により地方公共団体に損害を被らせた場合には、当該職員には同条一項所定の職員のごとき職務の特殊性は認められない以上、当該職員の賠償責任については、民法の規定によるべきことになり、民間の従業員の雇主に対する責任と対比しても、その責任発生の要件を限定すべき理由は存しない。

(4) また、国家賠償法一条二項は、国又は公共団体の公務員への求償権行使の要件を故意又は重大な過失がある場合に限っているが、これは、公務員の第三者に対する加害行為について、国又は公共団体が損害を賠償した場合に限っての民法の特則であるから、公務員が直接国又は公共団体に賠償責任を負う場合に類推すべき理由はない。

(5) したがって、公務員の公共団体に対する賠償責任が認められるためには重過失であることを要せず、単に過失があれば足りると解するのが相当である。

(二) 上記二で認定した事実及び証拠によれば、普通交付税の算定資料となるのは、直接には、チェック表及び算出資料であり、チェック表では、現在排水人口については、公共施設状況調査において記入された数値がそのまま使用されるため、チェック不要とされており、公共施設状況調査の記入数値が普通交付税算定の資料に使われることは調査に際し明示されているのであるから、公共施設状況調査における公共下水道の現在排水人口の数値について、真実でない数値を記入することは普通交付税の算定を誤らせることに直結するものである。ところが、岡山市の担当職員は、公共施設状況調査において、現在排水人口として、記載要領明示の数値である、処理区域内の住民基本台帳人口に外国人登録人口を加算した数値を記入するのではなく、計画人口または常住人口に昼間人口を加算した数値を記入した。この記入を行ったのは、直接には財政課の職員であるが、その数値を報告したのは下水道局の総務課(下水道総務課)及び計画課(調整課)職員であるところ、少なくとも、下水道局の総務課(下水道総務課)の担当職員は、財政課から公共施設状況調査の記載要領を交付されてその内容を了知し、他方、記入された公共下水道の現在排水人口の数値は、上記記載要領の指示に従うものではなく、岡山市方式を基とする数値であることを、それまでの下水道局の下水道普及率の決定又は公表に関与しあるいはその事情を知って(一審被告Y9本人(二一頁)、原審相被告K本人(七頁)は、総務課において事情を知っていたことを否定する供述をするが、下水道局の対内対外的な事務全般に関与する総務課において下水道局の基本方針を知らないとは考え難く、Oは、下水道局において総務課に勤務していた当時、上記事情を聞かされていた。)、承知していたと認められ、及び同計画課(調整課)においても、公共施設状況調査に記入すべき数値について、上記記載要領を見て、あるいは現在排水人口とのことば自体及び旧建設省方式の存在等からしても、記入すべき数値につき上記記載要領におけるような指示によるべきものと了知した一方、記入された公共下水道の現在排水人口の数値は、上記記載要領の指示に従うものではなく、岡山市方式を基とする数値であることを十分承知の上で記載したものと認められるから、これら職員は、上記現在排水人口の記入及び報告を虚偽の数値をもってなしたものであり、しかも、虚偽の数値をもって行うことを認識していたものと認められる。また、その決裁に当たった下水道局総務課長(下水道総務課長)及び同局計画課長(調整課長)についても同様に認められる。

そして、上記報告に基づき、チェック表の作成を経て普通交付税の過大交付に至ったものである。

(三) 下水道普及率は、下水道行政を推進する上で極めて重要な数値であり、この下水道普及率の基礎となる現在排水人口について、計画人口ないし常住人口に昼間利用人口を加えた数値を基礎にした岡山市方式の算出値を、国への報告において、本来報告すべき数値と認識していたとは考えられず、公共施設状況調査への公共下水道の現在排水人口について、上記のとおり明らかに記載要領と異なる虚偽の岡山市方式を基とした数値が記入されたのは、通常考え難いことである。そのようになった原因は、前記二認定事実及び証拠<省略>によると、岡山市において、下水道の処理人口及び普及率について、従前旧建設省方式と異なる岡山市方式による算定及び公表が行われ、下水道局のみならず、時期によっては市長までの関係幹部によりこれが岡山市における唯一の数値として取り扱われて対内外の報告を、旧建設省に対するものを含め、統一的に行われていたことが影響しているものと認められる。そして、このような統一的な取扱いがいつからなされたかについては、前記二認定事実及び原審相被告N本人によれば、岡山市下水道局の担当者において、遅くとも昭和五一年度の旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道普及率の算定を行うようになった時点では、下水道普及率の内部的な指標及び対外的な説明に、岡山市方式(当初は計画人口による)を用いるようになったことは認められるが、その算定方法が当初は計画人口によるというあいまいなものであり、電算システムによるなどして明確な数値の把握がなされていたと認められないこと、及び一審被告Y5本人の供述も併せると、当初計画人口によっていた時点では、すべての対内対外的な報告を通じて統一的に岡山市方式によることを、下水道局長以上市長までの関係幹部を含めて意思統一されたとまで認められない。そして、岡山市の下水道局長以上の関係幹部の間で、意思統一が図られたのがいつかについては、平成元年三月の基本計画においては、平成三〇年度までに旧建設省方式による下水道普及率を七〇パーセントとする旨基本計画の策定がなされ、助役、市長の決裁も得ているから、これがあったと認められるが、それ以前については、昭和四七年の基本計画の内容は証拠上明らかではなく、証人G(八頁)に照らしても、上記のような計画があったとまで認められないこと、他方前記二認定のとおり、Nは昭和五八年中に、上司のY13建設部長から、旧建設省方式に変更しない旨、今後の算定方法として常住人口に昼間人口を加えて処理人口及び普及率を算定すると決められた旨聞かされたこと、昭和五九年から電算システムを利用し、常住人口に昼間人口を加えて利用人口及び下水道普及率を算定するようになったことを併せると、昭和五九年度以降の下水道処理人口及び普及率の算定について、少なくとも下水道局長を含めた関係幹部の間で、岡山市方式による算定、公表、対内対外的な報告という統一的な取扱が意思統一されたものと認められる。そして、証拠<省略>も考慮すると、このことが、対外的な報告である旧建設省への実施計画報告のみならず旧自治省への公共施設状況調査報告への記入に当たっても、岡山市の担当職員は、記載要領等における指示にかかわらず、真実とは異なっても岡山市方式を基にした数値を記入せざるを得ないと判断することに繋がり、虚偽記入に影響したことは明らかに認められる。

一審被告岡山市長を除く一審被告らは、上記公共施設状況調査への記入や普通交付税算定用基礎数値チェック表及び算出資料の作成を自ら行った者ではないと考えられる(ただし、普通交付税算出資料の決裁者は財政局長である。)が、その指揮監督等における過失を考えるに当たっては、上記下水道普及に係る岡山市方式の存在及びこれに対する認識を踏まえて判断すべきである。

2  一審被告財政局長の責任について

(一) 証拠<省略>によると、下水道事業は、市民生活にとって極めて重要な事業であり、多額な資金を必要とするので、岡山市の財政計画上も極めて大きな影響を及ぼすことになるものであり、その意味で財政局職員も関心が高く、下水道の予算案調整の段階で、将来計画や普及率、処理人口等の数値に言及されて、下水道局職員と財政局職員との折衝が行われていたことが認められる。そして、公共施設状況調査は、財政課が総括的に担当して行うものであり、その中に公共下水道の現在排水人口の数値記入欄があって、前記二に認定したとおり、財政局長はこれを決裁していないが、普通交付税交付のための直接の資料で財政局長の決裁を経たものと見られる普通交付税算出資料には、現在排水人口の数値が記載されており、これは岡山市方式によるものであった。したがって、岡山市において、下水道処理人口及び普及率が旧建設省方式や公共施設状況調査の記載要領と異なる岡山市方式で統一的に算定、公表、報告されていることを知っていたならば、上記現在排水人口の数値がこれによるもので、記載要領と異なるものではないかと疑い、これを点検して是正すべきであったものと考えられる。

(二) しかし、前記二認定に加え、証拠<省略>によっても、岡山市方式は、下水道局内部において採用され、これに基づいて下水道の処理人口及び普及率が決定されており、遅くとも昭和五九年初め以降は下水道局長がこれに関わり、平成元年三月の基本計画策定以降は、下水道局を担当する助役や市長にはこれが旧建設省方式と異なることやこれを対内対外的な報告においても統一的に扱うことも報告され、了承されていたものと見られるが、それ以外の岡山市の部局、職員らにまで上記扱いを知らされ、了承していたと見るべき相応の根拠はなく、証拠<省略>に照らしても、上記予算折衝の事実から、下水道局から下水道処理人口及び普及率について言及された場合、これが旧建設省方式とは異なる岡山市方式による数値であることを認識したはずであるとか、そのように知り得た事情があったとは認められない。また、証拠<省略>には、公共施設状況調査において、財政課長以下の財政局担当者間で、公共下水道の現在排水人口が問題とされたことはない旨の供述があることや、前記二3認定事実及び証拠<省略>に照らすと、予算折衝時及び普通交付税算出資料作成時等に、財政課長やその上司である財政局長において、上記数値が岡山市方式によるものであり、旧建設省方式と異なり、ひいては公共施設状況調査の記載要領と異なる数値であることまで、上記算出資料の記載等をもって知り得たとは認められない。

もっとも、証拠<省略>によっても、財政課内でも、岡山市の算定方式がほかとは違っていたことを知っていた者がいたことは認められる。しかし、上記知識を有する者が財政局内にいたとしても、財政局長においてこれを知らされていたとまで認められない。

(三) そうすると、後記一審被告Y12の場合を除いては、財政局長において、下水道局が、旧建設省方式と異なる岡山市方式により下水道の処理人口、普及率に関する算定、公表及び国等に対する報告を行っていたことを知っていたものと認めることはできない。

よって、一審被告Y12を除く財政局長であった一審被告Y10、同Y11、同Y13、同Y14について、下水道の処理人口、普及率に関し、公共施設状況調査及びこれを受ける普通交付税算出資料に、記載すべき数値と異なる虚偽の記載がなされ、報告されるおそれがあるとの前提で、これを防ぎ、是正すべく財政局職員そのほかの者を指揮監督するべき義務、あるいは自ら上記行為をなすべき義務があったということはできない。

(四) もっとも、上記二認定のとおり、平成三年一二月の市議会において、先ず同月一一日の本会議では、し尿処理手数料の値上げ議案に関して、し尿処理人口が減少しているのにし尿収集実績が増加しているという指摘がなされたにすぎないから、財政局の所管する事項についての質問ではなく、財政局長の関心を引くことがなかったとしてもやむを得ないが、同月二四日の定例本会議においては、旭西処理区における下水道普及率の算定に昼間人口約九万七〇〇〇人が含まれていて、常住人口をもとに下水道普及率を算定すると二〇パーセントしかないという指摘がなされており、同本会議には一審被告Y12も出席していたものであり、同一審被告は、これにより、下水道の処理人口及び普及率が常住人口によらない独自の岡山市方式によりなされていることを知り得たものと認められる。

そして、財政局長が決裁する普通交付税算出資料の排水人口は公共施設状況調査の数値によることとされていること、一審被告Y12本人によっても、同一審被告は、公共施設状況調査が毎年行われていること、関係省庁に報告された数値が公共施設状況調査にも使われる可能性が高いことを認識していたこと、普通交付税について、算出資料を財政課の担当者が必要な数値を把握し算定していたことを認識していたことが認められ、同一審被告も財政局長として算出資料の決裁を行っていたから、財政局長である一審被告Y12としては、岡山市方式による下水道処理人口の数値が、公共施設状況調査等において報告されるべき現在排水人口と異なるものであること、さらに、これが普通交付税の基準財政需要額算定の基礎となることを知り得たものと考えられる。そうすると、同一審被告には、下水道の普及に関する処理人口の数値が、公共施設状況調査及び普通交付税算出資料において過大に誤って記載され、これが普通交付税の算定基礎に影響を及ぼし、誤った数値による普通交付税の過大交付がなされるおそれが現実にあったから、これを防ぐため、公共施設状況調査及び普通交付税算出資料の作成を担当する財政局の職員に対し、同調査及び資料の作成、提出に際し、同各文書中における現在排水人口ないし排水人口の数値の点検及び是正をするよう指揮監督し、普通交付税算出資料については自らも点検、是正をし、普通交付税の算定を誤らせないようにするべき義務があったというべきである。

しかし、証拠<省略>によれば、平成三年度の普通交付税は、同年一二月二〇日までに全額交付されており、一審被告Y12としては、同月二四日の本会議での指摘により、旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定、公表が行われていることを知ったとしても、同年度の普通交付税の過大交付を防ぐことはできなかったものである。また、同年に行われた公共施設状況調査も既に終了しているから、同調査に係る責任を問うことはできない。さらに、同一審被告は、平成四年三月三一日に財政局長を退任しており、それより後の公共施設状況調査、普通交付税算出資料等に関与しないから、これらの作成、点検に係る責任を問うこともできない。

(五) よって、一審被告Y10、同Y11、同Y12、同Y13、同Y14に係る請求には理由がない。

3  一審被告下水道局長の責任について

(一) 一審被告Y5について

(1) 証拠<省略>によれば、同一審被告は、岡山市に昭和四六年四月採用され、以来下水道局の前身である建設局下水道部次長、同年八月以降同局下水道部長、昭和五一年四月から昭和六一年三月まで下水道局長を務めていずれの時期も下水道事業全般にわたる仕事に従事していたことが認められる。

同一審被告は、上記経歴からすると、下水道局長在職時には、岡山市の下水道整備の状況に限らず下水道業務全般に通じていたものと考えられる。そして、同一審被告は、岡山市は、計画下水量に対する処理可能下水量をもって普及率計算の基礎としてきたものと認識していると供述しており、その認識は、旧建設省方式とは異なるものであり、岡山市方式に通じるものとも考えられる。また、証拠<省略>によると、同一審被告は下水道局長当時、下水道普及率について、幾通りも方法があり、人口普及率でいくと、ドーナツ化現象である程度普及率が伸びない時期があるという事情について話したことがあり、昭和五七年度の普及率三五・九パーセント、昭和五五年度の普及率三六・二パーセントとの数値にも言及し、しかもこれを水洗化普及率であるとして解説していること、昭和五一年九月の岡山市議会においても、昭和五〇年度末の人口普及率が二八パーセントであると答弁しており、上記各数値はいずれも岡山市方式による数値であることが認められる。さらに、前記二認定のとおり、昭和五一年度には、旧建設省が下水道普及率について、それまでの面積普及率から人口普及率に変え、岡山市もそれまでの面積普及率から計画人口を用いる人口普及率である岡山市方式を採るようになったのであり、これにも関与して認識していたとも考えられる。

しかし、同一審被告は、下水道普及率の算定、決定について、担当職員からの協議、報告もなく、その決定に関与したことはない旨、岡山市が旧建設省方式と異なる独自の普及率算定方式を用いていたことは知らなかった旨、昭和五一年四月に旧建設省の下水道普及率が変更されたこと、岡山市が旧建設省に提出していた公共下水道実施計画書の普及率の数値が記載要領と異なる算定方法で計算されていたことも知らなかった旨供述する。

そして、証拠<省略>によると、同一審被告の関心は、汚水普及率のみが取り上げられるのについて、雨水普及率も使うべきであるという点にあったことが窺えること、前記認定の同一審被告の解説及び答弁内容からすると、同一審被告は、昭和五一年度に旧建設省方式が人口普及率で行われるようになったこと、及び同年度以降岡山市方式による下水道普及率の報告を受けていたことが認められるが、上記解説、答弁内容などの認定事実によっても、直ちに同一審被告が旧建設省方式と岡山市方式とが異なるものであり、報告を受けていた岡山市方式の数値が旧建設省方式と異なることまで認識していたとは推認できず、同一審被告本人によっても、昭和五一年ころは、岡山市に下水道局が新たに設置されるなど事務上の変動が大きく、諸事多端であって、旧建設省方式との違いなどについて、下水道局長を含めた十分な検討が行われなかった可能性も窺えるので、上記同一審被告の供述を一途に退けることもできない。そして、旧建設省に提出する実施計画書については、同一審被告が毎年決裁していたと考えられるが、同一審被告が岡山市方式の独自性について知らなかったとすれば、実施計画書の記載をみても、旧建設省方式と異なる数値の記載があると直ちに知り得たとはいえない。

(2) しかし、前記二認定のとおり、昭和五八年から昭和五九年初めにかけて、NがY13下水道局建設部長に下水道普及率の算定方法を旧建設省の算定方法に是正すべきであると上申したところ、その後変更しない旨が決まったと聞かされ、さらに今後常住人口に昼間人口を加えて処理人口及び普及率を算定することに決められていると聞かされたのであり、これが、昭和五九年度から岡山市方式が、従来の計画人口から常住人口に昼間人口を加えた方式に変更されたこととも符合するところ、上記事実経過及びY13下水道局建設部長の発言内容からすると、Y13下水道局建設部長の独断で決めたのではなく、その上司、少なくとも当時下水道局長であった一審被告Y5も相談の上、これを決めたものと認められる。一審被告Y5本人は、上記の相談を受けたことはない旨供述するが、当時下水道局等を担当していた助役である一審被告Y3本人は上記相談を受けたことはない旨、同一審被告を通らないで直接下水道局と市長とが話し合う可能性はないと思う旨供述していることに照らすと、一審被告Y5下水道局長抜きで助役や市長が相談し決定した可能性はないと考えられるから、Y13下水道局建設部長の相談相手は一審被告Y5をおいてほかになく、同一審被告の上記供述は措信し難い。したがって、この時、一審被告Y5は、旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定、公表、報告が行われていることを知り、これを承認したものと認められる。

(3) そして、前記認定説示のとおり、岡山市方式は、岡山市における下水道処理人口、普及率の算定、公表、報告について、少なくとも下水道局関係者において、唯一の数字として統一的に用いられていた。

そうすると、岡山市の下水道処理人口、普及率の国等への報告について、ほかにも報告依頼主の国等の指示に反して虚偽の数値が報告されるおそれがあった。

次に、同一審被告は、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となることを知らなかった旨、また、公共施設状況調査で、公共下水道の現在排水人口の数値が岡山市方式で報告されていたことを知らなかった旨、地方交付税計算に排水人口が使われ、その排水人口に昼間人口が含まれないことを知らなかった旨供述する。

しかし、そもそも、下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値が地方交付税の算定基礎になることを知っているかどうかにかかわらず、国等への報告において、指示に反して虚偽の報告をするときは、相手方において何らかの判断過誤を招き、その施策に影響を与え、過大な出費をもたらすこともあり得る。また、同一審被告は、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額を計算の基礎として算定されること、下水道施設等の状況が基準財政需要額に影響を与えることは知っていたのであるから、下水道施設等の状況を表すべき下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値は、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。

したがって、同一審被告としては、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値について、公共施設状況調査等の国等への報告において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、下水道局長として、同局職員らをして、公共施設状況調査を含む国等への報告において、下水道の普及に関する処理人口等の数値について、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させるべき指揮監督上の義務があったというべきである。

一審被告Y5が、具体的に、地方交付税の算定基礎として公共下水道の現在排水人口の数値が使われているとか、これが公共施設状況調査においてなされることを知っていたかどうかは、上記判断を左右しない。

ところが、証拠<省略>によると、一審被告Y5は、何ら上記のような措置を取らずに放置し、その結果、昭和五九年に実施された公共施設状況調査において、相変わらず岡山市方式による現在排水人口の数値記入を放置して報告に至らせたものであって、これにより、昭和六〇年度普通交付税の過大交付を招いたものと認められる。したがって、同一審被告には上記の点、過失が認められ、これにより岡山市が昭和六〇年度に過大交付を受けたことに伴う加算金について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

しかし、昭和五八年以前に実施された公共施設状況調査については、一審被告Y5が、旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定、公表、報告が行われていることを知った時までには終了し、調査表の提出が終わっていたものと見られるから、これについて、点検、是正をするべく指揮監督する義務があったということはできない。

(二) 一審被告Y6について

(1) 証拠<省略>によれば、同一審被告は、昭和六一年四月一日下水道局長着任時、前任者から事業の実績、現状、特にここ数年は都市下水の建設に努力していたことや予算等の説明を受けたこと、在任中、下水道の建設整備等に努力したが、市民の市政に対する要望期待は、何時の場合も下水道の早期建設普及が第一位であり、特に当時のQ市長からその建設促進に期待を寄せられていたことが認められる。

同一審被告は、下水道局長とはいえ、平成元年八月ころまでは、計画課をその傘下から外して岡山市参与が市長の特命により担当していたから、計画課の事務に関与せず、計画課の主管の中のごく一部に過ぎない普及率の算定、決定等に全く関わっていなかった旨、また、下水道普及率について前任の一審被告Y5から引継ぎを受けたことはなく、その計算方法を知らなかった旨供述し、一審被告Y5本人も後任の一審被告Y6に下水道普及率について引き継がなかった旨供述していることに照らせば、同一審被告が、下水道局長就任直後から、下水道普及率について、岡山市方式により、旧建設省方式と異なる決定、公表、報告がなされていたことを知っていたとは認められない。もっとも、実施計画書について、一審被告Y6本人によっても、毎年決裁をしていたのであり、ここに岡山市方式による数値の記入がなされていたと考えられるが、同一審被告においてこれが旧建設省方式による数値と異なることを知っていたものと見るべき事情を認めることはできない。

(2) しかし、証拠<省略>によれば、同一審被告は、下水道局長着任約一年後すなわち昭和六二年四月ころに、上記参与から、岡山市が、昼間人口を加味する岡山市方式により下水道普及率を算定しており、これを旧建設省に報告する公共下水道実施計画書にも記載していること、これが旧建設省方式と異なることを聞かされたこと、基本計画についてもその内容を作成されたころ承知していたことが認められる。

(3) そして、前記認定説示のとおり、岡山市方式は、岡山市における下水道処理人口、普及率の算定、公表、報告について、少なくとも下水道局関係者において、唯一の数値として統一的に用いられていた。

そうすると、岡山市の下水道処理人口、普及率の国等への報告について、ほかにも指示に反して虚偽の数値が報告されるおそれがあった。

なお、一審被告Y6は、普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎としていること、下水道施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えることを知らなかった旨、下水道施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共施設状況調査の存在を知らず、公共施設状況調査表に記載される公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となることを知らなかった旨供述する。

しかし、証拠<省略>は、地方交付税について、岡山市に新入の時及びその後数年後等の研修の時に、岡山市の歳入、歳出等財政について研修を受けるので、その中で地方交付税の基準財政需要額及び基準財政収入額を含む知識を得ている旨供述していることによっても、普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎としていることは、地方公共団体の職員にとっては常識であったと認められる。

さらに、下水道処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の地方交付税への影響については、証拠<省略>によれば、本件の原審相被告ら及び一審被告らのうちでも、地方交付税を担当事務とする経歴を有していない者や下水道局勤務者の相当数を含む多数の者が、下水道の施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が、基準財政需要額に影響することを知っていた旨述べており、証拠<省略>によると、一審被告Y17は、岡山市議会における答弁において、下水道普及率と地方交付税が絡んでいることは周知の事実であると述べていることが認められ、一審被告Y16本人は、交付税の仕組みを知っているというのは、地方行政に携わる者として常識であり、その行政に係る費用がどのくらいかかるか、客観的に示される数値を用いる限りで知っていると供述している。これらに加え、前述のとおり、下水道事業は、市民生活にとって極めて重要な事業であり、下水道普及率は、下水道行政を推進する上で極めて重要な数値であること、下水道局長は、市の下水道行政の責任者であり、その要と言うべき地位にあることに照らし、一審被告Y6の上記供述は措信し難く、同一審被告は、下水道処理人口ないし公共下水道の現在排水人口が基準財政需要額ひいては地方交付税に影響することを知っていたものであり、仮にそうでないとしても、当然知り得べきであったと認められる。

そして、そもそも、下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値が地方交付税の算定基礎になることを知っているかどうかにかかわらず、国等への報告において、指示に反して虚偽の報告をするときは、相手方において何らかの判断過誤を招き、その施策に影響を与え、過大な出費をもたらすことがあり得る。また、上記のとおり、同一審被告は、下水道処理人口ないし公共下水道の現在排水人口が地方交付税に影響することを知っていたものであり、仮にそうでないとしても、当然知り得べきであったから、下水道施設等の状況を表すべき下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値は、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。

したがって、一審被告Y6としては、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値が、公共施設状況調査等の国等への報告において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、下水道局長として、同局職員らをして、公共施設状況調査を含む国等への報告において、下水道の普及に関する処理人口等の数値について、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させるべき指揮監督上の義務があったというべきである。

ところが、証拠<省略>によると、一審被告Y6は、何ら上記のような措置を取らずに放置し、その結果、昭和六二年及び昭和六三年に実施された公共施設状況調査において、相変わらず岡山市方式による現在排水人口の数値記入を放置して報告に至らせたものであって、これにより、昭和六三年度及び平成元年度普通交付税の過大交付を招いたものと認められる。したがって、同一審被告には上記の点、過失が認められ、これにより岡山市が昭和六三年度及び平成元年度に過大交付を受けたことに伴う加算金について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

しかし、昭和六一年以前に実施された公共施設状況調査については、一審被告Y6が、旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定、公表、報告が行われていることを知った時までには終了し、調査表の提出が終わっていたものと見られるから、これについて、点検、是正をさせるべき指揮監督上の義務があるということはできず、義務違反を認めることはできない。

(三) 一審被告Y7について

(1) 前記二認定事実及び証拠<省略>によると、同一審被告は、下水道局長着任の際、計画課の資料である普及率の現状や過去の経緯に関する書類を含め下水道局の業務に関する引継ぎを受けていること、毎年六月までには旧建設省に提出されている実施計画書について、下水道の前年度末の処理人口及び普及率が記入されるが、同一審被告は、担当職員から報告を受け、その数値を意識してこれを承認する意味で実施計画書の決裁をしていたことが認められること、及び証拠<省略>の記載をも総合すると、同一審被告は、下水道局長着任後の平成二年一〇月ころには、下水道処理人口及び普及率について、岡山市方式として常住人口に昼間人口を加えた数値を算定して公表し、これを旧建設省への実施計画書に記載要領と異なるのに記載するなどして対外的にも報告されていたこと、今後基本計画に基づいて、旧建設省方式に漸近させる方針であることを知ったものと認められる。同一審被告は、上記事情を知ったのが、平成二年又は平成三年である旨、或いは平成二年一〇月ないし一二月くらいである旨供述するが、時期に関して一部措信し難い。

(2) 同一審被告は、下水道施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共施設状況調査表の存在自体知らず、同表に現在排水人口の項目があること、同表に記載される公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となること、同数値が岡山市方式で報告されていたことをも知らなかった旨供述する。

しかし、そもそも、公共下水道の現在排水人口の数値が地方交付税の算定基礎になることを知っているかどうかにかかわらず、国等への報告において、指示に反して虚偽の報告をするときは、相手方において何らかの判断過誤を招き、過大な出費をもたらすことがあり得る。また、同一審被告は、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額を計算の基礎として算定されることは知っていたのであり、前記(二)で説示したのと同様、下水道施設等の状況ないし下水道を利用する人の数が、基準財政需要額ひいては地方交付税に影響を与えることも知り得たものというべきであるから、下水道施設等の状況を表すべき下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値は、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。

そうすると、同一審被告としては、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値が、公共施設状況調査等の国等への報告において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、下水道局長として、同局職員らをして、公共施設状況調査を含む国等への報告において、下水道の普及に関する処理人口等の数値について、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させるべき指揮監督上の義務があったというべきである。

しかし、証拠<省略>によると、岡山市方式を含めた下水道にかかる情報は、一市長がというより市役所が、市民に対してビジョンとして示しているもので、それを前提に仕事をする役割である、岡山市方式にも一応の合理性があるなどと考え、自分の心の中でこれを是認する事項とし、何ら上記指揮監督を行わず放置したものであり、その結果、平成三年に実施された公共施設状況調査において、相変わらず岡山市方式による現在排水人口の数値記入をさせて報告させたものであって、これにより、平成四年度普通交付税の過大交付を招いたものと認められる。したがって、同一審被告には上記の点、過失が認められ、これにより岡山市が平成四年度に過大交付を受けたことに伴う加算金について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

しかし、平成二年度及び平成三年度の普通交付税過大交付について、その算定基礎となった平成元年度、平成二年度に実施された公共施設状況調査は、一審被告Y7が旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定等が行われているのを知った時には、既に終わって財務課を通じて提出されており、数値の記入、訂正は、上記下水道局長の指揮監督権行使の範囲外と言わざるを得ず、これについて義務違反を認めることはできない。

(四) 一審被告Y8について

(1) 前記二認定のとおり、同一審被告は、平成六年四月一日下水道局長に着任後、実施計画書作成前である同年五月ころに、建設部長及び計画課長より岡山市の下水道普及率算定方式について説明を受けており、同説明により、岡山市では、旧建設省方式と異なる常住人口に昼間人口を加えて処理人口とする岡山市方式により下水道処理人口、普及率の算定、決定、公表を行っており、実施計画書の記載要領に示される旧建設省方式と異なる岡山市方式による普及率の数値を記入していること、平成一七年度末までに下水道普及率を七〇パーセントとして、それまでに旧建設省方式に整合させる方針であることを知った。

(2) そして、同一審被告は、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されることは知っていた。もっとも、同一審被告は、下水道施設等の状況が基準財政需要額に具体的にどのような形で影響を与えるかは知らず、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共施設状況調査の存在自体を知らず、同表に記載される公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となること、同数値が岡山市方式で報告されていたことをも知らなかった旨供述する。

しかし、そもそも、公共下水道の現在排水人口の数値が地方交付税の算定基礎になることを知っているかどうかにかかわらず、国等への報告において、指示に反して虚偽の報告をするときは、相手方において何らかの判断過誤を招き、過大な出費をもたらすことがあり得る。また、同一審被告は、少なくとも、普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されることは知っていた上、前記(二)に説示したのと同様、下水道施設等の状況ないし下水道を利用する人の数が、基準財政需要額ひいては地方交付税に影響を与えることも知り得たものというべきであるから、下水道施設等の状況を表すべき下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値は、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。特に同一審被告は、下水道局長就任以来毎年実施計画書を決裁していたが、これには、旧建設省方式による下水道処理人口、普及率を記載すべきであって、平成七年度等には、記載方法を極めて具体的に明示されていたのに、これと異なる岡山市方式による数値を記入していたのであり、このような文書に自ら決裁すれば、他の国等への報告書にも指示に反する岡山市方式による記載がなされるおそれが極めて大きくなることも容易に知り得たというべきである。

したがって、一審被告Y8としては、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値が、公共施設状況調査等の国等への報告において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、下水道局長として、同局職員らをして、公共施設状況調査を含む国等への報告において、下水道の普及に関する処理人口等の数値について、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させるべき指揮監督上の義務があったというべきである。

しかし、証拠<省略>によると、同一審被告は、いろいろな経緯があって岡山市方式での算定、公表がずっと行われている、市としての政策決定がされているからそれに従わなければいけないとの思いから、市長に変更を拒否されたとはいえ、何ら上記措置を取らず放置したものであり、その結果、平成六年及び平成七年に実施された公共施設状況調査において、相変わらず岡山市方式による現在排水人口の数値記入をさせて報告させたものであって、これにより、平成七年度及び平成八年度普通交付税の過大交付を招いたものと認められる。したがって、同一審被告には上記の点、過失が認められ、これにより岡山市が平成七年度及び平成八年度に過大交付を受けたことに伴う加算金について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

しかし、平成六年度の普通交付税過大交付について、その算定基礎となった平成五年に実施された公共施設状況調査は、一審被告Y8が旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定等が行われているのを知った時には、既に終わって財務課を通じて提出されており、数値の記入、訂正は、上記下水道局長の指揮監督権行使の範囲外と言わざるを得ず、これについて義務違反を認めることはできない。

(3) 一審被告Y8は、前記二認定のとおり、下水道局建設部長、計画課長等の職員から、岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定、公表等については、議会との約束であり、政策決定であるので変更できないと聞かされており、当時の同一審被告の立場では変更できるような状況下になかった旨供述する。しかし、前記二認定のとおり、下水道の処理人口、普及率の決定、公表は、そのような扱いが確立された過程において、市長一人でなしたものではなく、かえって下水道局の職員ら、昭和五九年以降は下水道局長が中心となり、その運用を実行し、推し進め、修正方法も案出していたものであって、そうである以上、これからの脱却も、市長以外の下水道局長等の幹部の決断と実行があれば行い得ないものとは認められない。また、実施計画書は下水道局長が決裁していたものであるが、これには明らかに虚偽の処理人口、普及率の記載があり、このようなことは、市長の方針いかんにかかわらず、改めるべきことであり、また改め得ないはずがない(一審被告Y8自身、実施計画書に旧建設省方式で計算した数字を書くべき指示、旧建設省の定義と異なる場合記入すべき指示のあることを知っておれば、現実に記載されたのとは違う記載をしたと思うと供述しており、市長を含む政策決定があろうと、十分虚偽報告を避ける判断が可能であったことを認めている。)。なお、議会との約束との点は、そもそも証拠<省略>に照らしても、そのような約束は存せず、単に質問議員に対し、建設委員会等において下水道局長等が答弁し、理解を求めただけであるものと認められ、一審被告Y8本人も、市の当局としての考え方が変われば、市議会に言えばいいと供述しているように、何ら根拠がなく、変更しない口実にすぎないものと見られる。したがって、上記一審被告Y8の供述にあるような見解は失当である。

(五) 一審被告Y9について

(1) 同一審被告は、前記二認定のとおり、平成九年四月に下水道局長に就任した際、担当者から、岡山市方式で算定した下水道利用人口及び普及率の数値、旧建設省方式で算定した下水道処理人口及び普及率の数値並びに上記両数値の差などが記載された過去一〇年分くらいの岡山市の下水道普及率の推移が分かる表を資料として提示され、岡山市がかなり以前から旧建設省方式と異なる独自の方法で普及率を算定していることを知らされ、大変驚き、国できっちりと基準を決めて各市町村に示している数値と異なる数値を説明なしに用いることについて非常に重大なことであり、岡山市方式のように、旧建設省方式と異なる独自の算定方法を用いると、他都市との下水道普及率の比較をする場合等に問題があると思った。

(2) そして、一審被告Y9は、普通交付税の額が、基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されていることは理解していたし、地方交付税の基準財政需要額が、何らかの調査が行われてそれを基にして決まるのだろう程度には知っていた。もっとも、同一審被告は、下水道施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共施設状況調査表に記載される公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となること、同数値が岡山市方式で報告されていたことは平成一一年四月より後まで知らなかった旨、現在排水人口を水増ししていることを認識して職務を行ったことはない旨、公共施設状況調査があることも知らなかった旨供述する。

しかし、そもそも、公共下水道の現在排水人口の数値が地方交付税の算定基礎になることを知っているかどうかにかかわらず、国等への報告において、指示に反して虚偽の報告をするときは、相手方において何らかの判断過誤を招き、過大な出費をもたらすことがあり得る。また、同一審被告は、前記(二)で説示したのと同様、下水道施設等の状況ないし下水道を利用する人の数が、基準財政需要額ひいては地方交付税に影響を与えることも知り得たものというべきであるから、下水道施設等の状況を表すべき下水道の処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の数値は、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。特に同一審被告は、下水道局長就任以来毎年実施計画書を決裁していたが、これには、旧建設省方式による下水道処理人口、普及率を記載すべきであって、平成九年度等には、記載方法を極めて具体的に明示されていたのに、これと異なる岡山市方式による数値を記入していたのであり、このような文書に自ら決裁すれば、他の国等への報告書にも指示に反する岡山市方式による記載がなされるおそれが極めて大きくなることも容易に知り得たというべきである。

したがって、一審被告Y9としては、下水道局長として、下水道局の事務を統轄し、所属する職員を指揮監督すべき職務を有しているから、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値が、公共施設状況調査等の国等への報告において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、下水道局長として、同局職員らをして、公共施設状況調査を含む国等への報告において、下水道の普及に関する処理人口等の数値について、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させるべき指揮監督上の義務があったというべきである。

しかし、前記二認定のとおり、一審被告Y9は、部下職員らに旧建設省方式との違いを早く解消する方法はないかと度々持ち掛けたものの、岡山市が長年にわたり独自の方式によって算定した下水道普及率に基づいて下水道の整備を行い、その数値を公表してきたこと、また、当時の市長であった一審被告Y15の重点政策として下水道普及率の向上が掲げられていたこと、既にその数字で諸々の物事が動いていたこと、さらに、担当者から、平成三年一二月の議会等においても岡山市方式の下水道普及率について議会に説明がなされていると説明されたことなどから、非常に悶々とした気持ちを抱きつつも、これまで長年にわたって行われてきた岡山市方式という下水道普及率の算定方法を自分の代で変更するというまでの勇気が持てなかったため、平成九年に実施された公共施設状況調査においては従来どおり岡山市方式によって算定した下水道普及率を当時の市長であった一審被告Y15に報告するとともに、対外的にも公表した有様であり、その誤りを防ぎ、是正するべき有効な指揮監督の措置を取らなかったものであって、これにより、平成一〇年度普通交付税の過大交付を招いたものと認められる。したがって、一審被告Y9には上記の点、過失が認められ、これにより岡山市が平成一〇年度に過大交付を受けたことに伴う加算金について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

しかし、平成九年度の普通交付税過大交付について、その算定基礎となった平成八年に実施された公共施設状況調査は、一審被告Y9が旧建設省方式と異なる岡山市方式による下水道処理人口、普及率の算定等が行われているのを知った時には、既に終わって財務課を通じて提出されており、数値の記入、訂正は、上記下水道局長の指揮監督権行使の範囲外と言わざるを得ず、これについて義務違反を認めることはできない。

(3) 同一審被告は、下水道普及率の訂正について、岡山市において下水道整備が市民要望の高い最重要課題であるので、その基本的な整備指標を訂正することは、市長の決断があってなし得たものであり、新任の出向局長が議会も含めて既に定着して用いられている岡山市の下水道普及率の訂正を主張できるような状況にはなかったと供述する。

しかし、前記(四)(3)で説示したのと同様、市長を含む政策決定があったとしても、一審被告Y9の下水道局長の立場で、国等への報告における下水道処理人口、排水人口の是正ができなかったとはいえず、上記同一審被告の供述にある見解は失当である。

4  一審被告助役の責任について

(一) 一審被告Y2について

証拠<省略>によれば、同一審被告は、昭和四五年四月から昭和四六年一一月まで岡山市建設局長の地位にあり、その後、昭和五〇年七月から昭和五八年四月まで下水道局担当助役であったことが認められる。

しかし、同一審被告は、建設局長の間、下水道関係の業務は市長が引き受けたので、自分は関わっておらず、下水道普及率という統計数値について知らなかった旨、助役に就任して以降も、同和問題の業務が中心であり、下水道関係は、市長が関与しており、自分が下水道関係の業務に関与することはなく、下水道普及率について、岡山市が独自の算出方法を採用していることは知らなかった、部下から相談や報告を受けたこともなかった旨供述する。

そして、昭和五一年四月から昭和六一年四月まで下水道局長であった一審被告Y5本人は、下水道担当助役に対し、計画面で協議することはほとんどなく、普及率という問題について何か協議したこともなかった旨供述する。

上記一審被告Y5の供述に照らすと、一審被告Y2の供述を一途に退けることはできず、同一審被告が、助役当時、岡山市が下水道の処理人口、普及率について旧建設省方式と異なる岡山市方式により算定、公表、報告していたことを知っていたとは認められない。

したがって、一審被告Y2について、下水道の処理人口、普及率に関し、公共施設状況調査等の報告に記載すべき数値と異なる虚偽の記載がなされ、報告されるおそれがあるとの前提で、これを防ぎ、是正すべく下水道局職員そのほかの者を指揮監督するべき義務があったということはできない。

よって、同一審被告に岡山市の普通交付税過大納付による加算金支払について、過失があったということはできず、同一審被告に係る請求は理由がない。

(二) 一審被告Y3について

(1) 証拠<省略>によれば、同一審被告は、昭和四一年八月一日から昭和四四年三月までの二年八か月間岡山市財務部次長及び総務局財務部長として勤務し、この間昭和四一年一一月一日から昭和四二年六月三〇日までは財務課長事務取扱を兼ね、その前の旧自治省での勤務歴もあって、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されることは知っており、基準財政需要額が客観的資料に基づいて算定されなければならないとの見識を有していたこと、昭和五八年七月一日から平成三年六月三〇日まで岡山市助役として勤務した際には、当初昭和五九年三月三一日までは一人助役で岡山市の事務全体が担当事務であり、同年四月一日以降はもう一名助役がいたことから事務分担をしたが、財政局及び下水道局そのほかの局室を担当していたこと、助役時に下水道局が報告する下水道普及率の数値自体は岡山市の概要を見たり、概況説明を受けて知っていたことが認められる。

しかし、同一審被告は、下水道普及率の岡山市方式について知らなかった、説明を受けたことはない、岡山市の旧建設省に提出していた公共下水道実施計画書の普及率の数値が岡山市方式で計算されていたことを知らなかった、下水道の普及率は国の示す方法で計算されていると思っていたと供述する。

そして、平成元年三月に基本計画が策定されるまでの間について、同一審被告が下水道局から、岡山市方式による下水道処理人口、普及率について知らされていたかどうかについて、同一審被告本人はこれを否定する供述をしている上、昭和五一年四月から昭和六一年四月まで下水道局長であった一審被告Y5は、下水道担当助役に対し、計画面で協議することはほとんどなく、普及率という問題について何か協議したこともなかった旨供述し、昭和六一年四月一日から平成二年三月三一日まで下水道局長であった一審被告Y6は、市長、助役に報告したり協議したことはない旨供述しているので、一審被告Y3の上記供述を一途に退けることはできず、同一審被告が下水道処理人口、普及率が旧建設省方式と異なる岡山市方式で算定等されていることを知らされていたと認めるに足りない。

(2) もっとも、同一審被告は、助役として下水道局を担当しており、助役は担当部局の業務について市長を補佐し、事務的な面も統括する、担当部局の文書で市長決裁又は助役専決のものを処理するほか、真に議論、検討が必要な事項については、案件毎に担当部局が市長及び担当助役に相談するものであるところ、少なくとも平成元年三月に策定された基本計画は、一審被告Y3も決裁したものであり、同人は説明を受けた記憶はなく、判子を押したものである旨供述するが、下水道局長等の同局幹部から市長にまで説明を行って決裁されており、その内容自体、岡山市の下水道事業の根幹をなす重要なものであり、岡山市方式の数値を維持しつつ、旧建設省方式による七〇パーセントの数値目標を持つ計画であったから、この決裁時には当然下水道局担当の同一審被告も説明を受けるなど実質的に関与し、岡山市方式が旧建設省方式と異なることも承知したものと推認される。これに反する一審被告Y3本人の供述は措信し難い。

(3) しかしながら、一審原告らの請求原因は、一審被告Y3の昭和六一年以前に実施された公共施設状況調査及び昭和六二年度以前の普通交付税の算定・交付に係る義務違反であり、同一審被告が、下水道の処理人口及び普及率について、旧建設省方式と異なる岡山市方式で算定等されていたことを知った時には、すでに上記公共施設状況調査が実施され、提出し終わっており、上記普通交付税の算定・交付も終わっていたから、上記調査等について、虚偽の数値の記入を防ぎ、是正すべく指揮監督するべき義務があったということはできず、上記公共施設状況調査に虚偽の数値が記載され、岡山市が普通交付税の過大交付を受け加算金支払に至ったことについて、過失があるとはいえず、一審原告らの同一審被告に係る請求は理由がない。

(三) 一審被告Y16について

(1) 証拠<省略>によれば、同一審被告は、岡山市助役として、財政やし尿処理を含む保健衛生そのほかの担当部局の業務について市長を補佐しており、各担当部局の市長決裁又は助役専決のものを処理していたところ、下水道局担当ではなかったが、岡山市の広報資料等で下水道普及率の数値には目を通していたことが認められる。もっとも、同一審被告は、下水道普及率について説明を受けたことはなく、公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となることを知らなかった、公共施設状況調査で、公共下水道の現在排水人口の数値が岡山市方式で報告されていたことを知らなかったと供述する。一審被告Y16の助役としての担当業務及び上記供述に照らし、後記平成三年一二月市議会における指摘まで、同一審被告が、下水道の処理人口、普及率について、岡山市方式による算定、公表がなされていたことを知っていたと認めることはできない。

(2) しかし、前記二認定のとおり、同一審被告は、平成三年一二月一一日の岡山市議会本会議の直後ころ、一審被告Y7から、岡山市の下水道普及率の計算には昼間人口が含まれていること、今後下水道整備を進める中で旧建設省方式に漸近させるとの方針を伝えられた上、同月二四日の岡山市議会本会議でE議員が、岡山市の公表している公共下水道の処理人口に昼間人口が含まれていると指摘するのを聞いて、おそらく事実はそのとおりだと考えている。

なお、一審被告Y16は上記一審被告Y7からの話を否定する供述をするが、これは、下水道局担当ではなかったことを理由とするものの、一審被告Y16は、し尿処理を担当しており、その関係で、D議員の質問に対して答弁を行ったが十分な説明ができず、延会になった経過があることに照らし、一審被告Y7が上記話をする動機はあるものであり、上記一審被告Y16の供述はにわかに採用し難い。

したがって、一審被告Y16は、平成三年一二月の時点で、下水道の処理人口及び普及率について、旧建設省方式と異なる岡山市方式による算定、公表、報告がなされていることを知ったものと認められる。

(3) そして、一審被告Y16は、公共施設状況調査が行われていること、それが公共施設の整備状況を客観的に示すのを目的にしていること、同調査の数値の一部が普通交付税算定の基礎数値となっていること、下水道の整備状況が普通交付税の算定に影響を与えることは知っていた。そうすると、一審被告Y16としては、公共下水道の現在排水人口ないし排水人口の数値が、基準財政需要額の算定基礎となるべきこと、しかもこれが下水道局及び財政局から国等へ報告されていることを想定できたものというべきである。そして、同一審被告が岡山市方式に関して前記のとおり認識していたことを合わせ考慮すれば、その報告数値に過大記載がなされ、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたというべきである。

したがって、一審被告Y16としては、普通交付税の算定基礎に影響を及ぼすべき下水道の処理人口等の数値が、公共施設状況調査及び交付税算出資料等の報告文書において、指示に反して岡山市方式による虚偽の報告がなされ、交付税の過大交付等をもたらさないよう、財政局担当助役として、財政局長、財政課長を含む財政局職員に対し、公共施設状況調査の現在排水人口等につき、指示に沿う正確な数値を記載させ、また、正確な数値であるかどうか点検し、誤った数値がある場合、これを是正させ、普通交付税算出資料についても、記載すべき数値と異なる数値の記載がないかどうか点検し、あればこれを是正して普通交付税の算定を誤らせないようにする指揮監督上の義務があったものというべきである。

ところが、証拠<省略>によると、同一審被告は、上記の市議会での指摘等を受けながら、昼間人口が入っているのは岡山市の特性上ありうる、関心事項だったし尿処理料金の計算とは結びつかない、下水道局が担当外であると考え、ほかの行政にそんなに影響を与えるという認識はなかったために、市長等岡山市幹部と協議、相談せず、対内対外的に報告する数値について調査させ、不適切な数値を改めさせるなどの何らの措置も取らなかったと認められるから、同一審被告は前記義務を懈怠したものであり、過失がある。

このため、同一審被告が財政局担当助役として勤務中の平成四年度ないし平成六年度の普通交付税については、平成四年及び平成五年に実施された公共施設状況調査及び平成四年ないし平成六年に作成された普通交付税算出資料等の下水道排水人口の記載の誤りを防ぐことも、是正もできず、虚偽の数値により岡山市への平成四年度ないし平成六年度の普通交付税の過大交付、加算金の支払を招いたものであり、同一審被告は上記加算金の支払について、不法行為に基づき損害を賠償する責任を負う。

(四) 一審被告Y4について

証拠<省略>によれば、同一審被告は、平成一〇年四月一日から平成一七年一〇月一八日まで岡山市助役として勤務し、この間平成一〇年四月一日から平成一一年三月三一日まで下水道局等に関する業務を担当し、同年四月一日以降財政局等に関する業務を担当し、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されることは知っていたことが認められる。

同一審被告は、前任の取下前一審被告Bから引継ぎを特に受けなかった、下水道普及率ということばは知っていたが、その内容及び算定方法を知らなかったし、下水道普及率を岡山市が独自の算定方式で算定していたことを知らず、岡山市が旧建設省に提出していた公共下水道実施計画書の普及率の数値が記載要領と異なる算定方法で計算されていたことも知らなかった、一審被告Y9下水道局長等から岡山市の下水道普及率の算定について報告を受けたことはなく、年度末の普及率の決定に関与したことはない、普及率が低いということについての説明はあったが、人口ベースで算定されているというような説明はなかった旨、勉強会等で普及率を上げていこうというのはあった旨、下水道の利用人口の水増しについて、最初に聞いたのは平成一一年五月の市長が発表する二、三日前である旨供述する。

そして、一審被告Y4が下水道局担当助役であった時の下水道局長であった一審被告Y9は、旧建設省方式とは異なる岡山市方式で下水道の処理人口を算出し、報告していることは、知っているのは担当の課長、部長、局長までであり、助役や市長に対し、これを話したことはない旨供述する。さらに、一審被告Y17本人は、一審被告Y9下水道局長から下水道普及率が違うという説明を聞いたとき、一審被告Y4はええっと言って知らなかったようすであった旨供述する。

一審被告Y4の下水道局担当助役であった期間は一年のみであること及び上記一審被告Y9、同Y17の各供述に照らすと、一審被告Y4の上記供述を一途に信用できないものとして退けることはできず、ほかに同一審被告が、平成一一年五月に至るまで、下水道の処理人口、普及率について、旧建設省方式と異なる岡山市方式で行われていたことを知っていたと認めるに足りる証拠はない。

そうすると、一審被告Y4に、下水道処理人口、普及率に関する疑問を持ち、これに関する国等への報告について点検、是正するよう下水道局職員らを指揮監督するなどの義務があったということはできないから、同一審被告に過失を認めることはできない。よって、同一審被告に係る請求は理由がない。

5  一審被告Y15の責任について

(一) 前記二認定のとおり、平成三年三月に一審被告Y15の公約を踏まえて基本計画を見直し、下水道普及率を平成一七年度までに旧建設省方式により七〇パーセントとする目標を立て、それ以降も、下水道普及率について、旧建設省方式によらずに岡山市が独自の方式で算定しつつ上記目標をにらみ合わせて普及率を決定していたこと、平成三年一二月岡山市議会で岡山市の公表している下水道処理人口に昼間人口が加算されていることを指摘されており、その時一審被告Y15も出席していたこと、その後、一審被告Y8が平成七年四月ころ、一審被告Y15に対し、旧建設省方式と岡山市方式とでは下水道普及率に差があることを告げて旧建設省方式に変更することを相談したが、一審被告Y15は、一審被告Y7下水道局長の時代に解決済みであるとの回答をしたこと、平成八年四月から平成一〇年三月までの間、下水道局計画課長ないし調整課長であったPは、一度、下水道局長に随行して市長のもとに岡山市方式による数値、旧建設省方式による数値、プラスする数値も記載された資料を持参し、これを見せて報告したことを総合すると、一審被告Y15は、基本計画を修正した平成三年三月当時、下水道の処理人口及び普及率の数値が旧建設省方式と異なる岡山市方式で算定、公表、報告されていたことを一審被告Y7下水道局長等同局幹部らから報告を受けて知り、これを了承していたものと推認できる。

一審被告Y15本人は、市長に就任して以降、下水道の現状や下水道普及率三〇年間で七〇パーセントの目標についての計算式などについて、下水道局長などから説明を受けたことはなく、よく理解していなかった、岡山市方式、旧建設省方式があることは、本件訴訟が提起された後まで認識していなかったと供述する。

しかし、前記二認定の根拠となる証拠<省略>に加え、一審被告Y15本人によれば、一審被告Y15は就任以来市内を回る中で、岡山市の下水道が中心市街地においても著しく普及が遅れるなど未整備の地域が多いことを肌で感じており、普及率はかなり低いなと感じていたこと、最初平成三年に見た資料では二〇パーセント台であったような記憶もあることが認められるところ、この事実は、一審被告Y15が岡山市における実際の下水道の普及率が旧建設省方式での算定値程度であることを把握していたことを示唆するから、これにも照らすと、上記一審被告Y15本人の供述は措信し難く、ほかに上記認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) そして、同一審被告は、少なくとも普通交付税の額が、各自治体の基準財政需要額と基準財政収入額とを計算の基礎として算定されることは昭和四〇年ころから知っており、下水道普及率が普通地方交付税の需要額算定の補正係数について問題になるだろうという見当はつくものであり、公共施設状況調査の存在自体についても知っていた。もっとも、同一審被告は、下水道施設等の状況、公共下水道を利用する人の数が基準財政需要額に影響を与えること、公共下水道の現在排水人口の数値が基準財政需要額の算定基礎となることを市長退任後知った、個々の下水道費とかの算定内容は全く承知していなかったと供述するが、前記3(二)に説示したところ及び上記一審被告Y15の知識、さらに一審被告Y15は、旧自治省に入省してから二五年間経って岡山市長に就任しており、旧自治省で地方行政に携わった経験もそのうちの約三分の一と長いことに照らすと、上記一審被告Y15の供述はにわかに措信し難く、同一審被告は、下水道処理人口ないし公共下水道の現在排水人口の基準財政需要額、ひいては地方交付税への影響についても知っていたものと推認でき、少なくとも当然知り得べきであった。

そうすると、一審被告Y15は、下水道処理人口、普及率に関し、岡山市方式のもとで、公共施設状況調査を含む国等への報告に、指示に反する虚偽の報告がなされていることを想定でき、これにより、交付税の過大交付をもたらすおそれがあることも認識できたものというべきであるから、市長として、これにより本件のような地方交付税が過大に収受される等の不都合が生じないか、財政局及び下水道局職員らに命じて調査させ、虚偽報告を防ぎ、又は是正させ、普通交付税の算定を誤らせないようにする指揮監督上の義務を負っていたものというべきである。

しかし、前記二認定事実、証拠<省略>によれば、同一審被告は、かかる義務を怠っていたものと認められ、過失がある。

そして、これにより、平成三年ないし平成九年に実施された公共施設状況調査において現在排水人口に岡山市方式の虚偽の数値の記入に至らせ、平成三年から平成一〇年作成の普通交付税算出資料等における下水道排水人口に同様に虚偽の数値が記入されているのを是正させることもできず、よって、平成三年度から平成一〇年度までの普通交付税の岡山市への過大交付、加算金支払をもたらしたものであり、同一審被告はこれによる岡山市の損害について、不法行為に基づき賠償義務がある。

四  争点2(二)について

1  各一審被告の不法行為に基づく岡山市の損害額は、次のとおりである。

(一) 一審被告Y5について

昭和六〇年度加算金相当額 一億三〇六四万二〇〇〇円

(二) 一審被告Y6について

昭和六三年度加算金相当額 九四一二万四〇〇〇円

平成元年度加算金相当額 八七一六万五〇〇〇円

合計 一億八一二八万九〇〇〇円

(三) 一審被告Y7について

平成四年度加算金相当額 七一九三万円

(四) 一審被告Y8について

平成七年度加算金相当額 六三六八万五〇〇〇円

平成八年度加算金相当額 五二五七万四〇〇〇円

合計 一億一六二五万九〇〇〇円

(五) 一審被告Y9について

平成一〇年度加算金相当額 一七三五万二〇〇〇円

(六) 一審被告Y16について

平成四年度加算金相当額 七一九三万円

平成五年度加算金相当額 七三七九万四〇〇〇円

平成六年度加算金相当額 六九一五万二〇〇〇円

合計 二億一四八七万六〇〇〇円

(七) 一審被告Y15について

平成三年度加算金相当額 六七三〇万二〇〇〇円

平成四年度加算金相当額 七一九三万円

平成五年度加算金相当額 七三七九万四〇〇〇円

平成六年度加算金相当額 六九一五万二〇〇〇円

平成七年度加算金相当額 六三六八万五〇〇〇円

平成八年度加算金相当額 五二五七万四〇〇〇円

平成九年度加算金相当額 三五一一万五〇〇〇円

平成一〇年度加算金相当額 一七三五万二〇〇〇円

合計 四億五〇九〇万四〇〇〇円

(八) なお、上記一審被告らの各年度の加算金支払をもたらした行為は共同不法行為であるから、平成四年度加算金相当額に対する一審被告Y7、同Y16、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務であり、平成五年度加算金相当額に対する一審被告Y16、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務であり、平成六年度加算金相当額に対する一審被告Y16、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務であり、平成七年度加算金相当額に対する一審被告Y8、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務であり、平成八年度加算金相当額に対する一審被告Y8、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務であり、平成一〇年度加算金に対する一審被告Y9、同Y15の各損害賠償債務は不真正連帯債務である。

2  加算金について 一審被告Y15は、過大収受した地方交付税額を予算に組み込んで支出したことにより生じた経済波及効果を考慮すると、岡山市が旧自治省に加算金を支払ったことをもって損害ということはできない旨主張し、本人尋問において同旨の供述をし、これを裏付けるべき証拠として乙エ九を提出する。

しかし、一審被告Y15主張の経済波及効果は、一般的統計的事象としていうに過ぎず、特定の財政支出から必ず一定の経済波及効果が得られるとの認定をすることはできない。のみならず、財政支出が必ず経済波及効果のあり得る支出に充てられるとは限らず、そうでなければ経済波及効果が全く生じないこともあり得る。さらに、経済波及効果があっても、これが直ちに岡山市の損害減額に結びつくものとはいえず、そのためには、経済波及効果による岡山市の税収の増加が認められなければならないところ、経済波及効果がもたらした岡山市の税収の増加額は明らかではない。

また、一審被告Y15は、普通交付税の交付超過金について、現在支出に充てられ、利息相当分だけ大きな価値を有する旨主張する。しかし、岡山市において、交付超過金に見合う借入金減額があったとか、支出が減額され貯蓄に回され利息収入を得たことを認めるに足りる証拠はなく、一般的に過大な収入があれば必ずこれに対する利息相当の収入ないし支出の減額があるということもできない。

したがって、一審被告Y15の上記に関する主張はいずれも失当である。

そして、適正な地方交付税交付金の支給を受けている自治体であれば何ら支払う必要のない、超過交付額に対する年一〇・九五パーセントもの高率の加算金を一時に支払わなければならなかったのであるから、加算金を支払ったことは、岡山市の損害であるといえる。

3  争点2(二)(2)について

一審被告Y15、下水道局関係一審被告ら、財政局関係一審被告らは、岡山市の加算金支払は、地方交付税法一九条四項の要件である作為を加え又は虚偽の記載がなされた場合には該当せず、支払う必要がないのに支払われたものであることなどから、上記一審被告らの行為と岡山市の損害との間に相当因果関係がないと主張する。

しかし、前記二、三1に認定説示したところによれば、公共施設状況調査における公共下水道の現在排水人口の記載は、下水道局総務課(下水道総務課)及び計画課職員、各課長において、指示に従わない虚偽の数値であることを認識しながら記載して提出し、しかも少なくとも下水道局総務課(下水道総務課)職員及び同課長においては、これが普通交付税の算出資料として使われることも認識していたものと認められるのであり、この認識により同調査表の下書きを行って財務課職員にその旨記載させ提出させたのであるから、上記公共施設状況調査の作成、提出行為は、地方交付税法一九条四項の「地方団体がその提出に係る交付税の算定に用いる資料につき作為を加え、又は虚偽の記載をする」行為に該当する。また、仮に、下水道局計画課、総務課(下水道総務課)職員等岡山市職員の個々に上記作為又は虚偽記載の認識がなかったとしても、下水道局及び財務課の担当職員を通じて見れば、地方団体が交付税の算定に用いる資料につき上記作為又は虚偽記載を行ったものと十分認定できる。

仮に、一審被告Y17市長に、加算金支払に至る過程で、上記地方交付税法一九条四項該当性に関する調査、検討が不十分な点が存したとしても、結論的に同該当性が認められる以上、同市長の行為が、上記一審被告らの行為と岡山市の損害との因果関係認定の障害になるものとはいえない。また、岡山県及び旧建設省、旧自治省において管理監督責任を果たさず、それが普通交付税の過大交付、加算金の支払に影響したことが仮にあるとしても、普通交付税の過大交付に、他人の故意行為が介在したわけではない。

したがって、上記一審被告らの行為と岡山市の普通交付税の過大交付、加算金支払との間には、相当因果関係の存在は認められる。

五  争点2(三)について

一審被告Y15は、一審被告Y17市長の対応にも過失があるから過失相殺すべきであると主張する。

しかし、前記四3において説示したとおり、公共施設状況調査に、下水道局計画課及び総務課(計画課)の職員が、記載要領に反して、旧建設省方式で現在排水人口を記載せずに独自の岡山市方式の数値を記入し、財政課職員を通じて同調査表を作成し提出した行為は、地方交付税法一九条四項の要件を満たすものである。他方、岡山市の特定の職員が、地方交付税を騙し取ろうとする意思を有することが同項の要件となっているわけではない。そして、同要件に該当すれば、同条五項による加算金が一律に課せられることになる。

そうすると、一審被告Y17の行為について、仮に一審被告Y15の指摘するような事実があったとしても、同行為が、岡山市の損害の発生及び金額に影響を与えたと認めることはできず、同一審被告の過失相殺の主張は理由がない。

六  争点2(四)について

一審原告らは、一審被告Y17が、市長在任中に昭和五五年度にかかる加算金相当額の損害賠償請求権を除斥期間の徒過によって消滅させたことによる損害賠償を請求するが、これまでの説示に照らし、昭和五五年度にかかる加算金に関し、一審被告Y5、同Y2そのほか市長、助役、下水道局長らの幹部のいずれについても、その責任を負う者がいるとは認められないから、岡山市は、昭和五五年度にかかる加算金相当の損害賠償債権を有しているとは認められない。

したがって、一審被告Y17の損害賠償請求権行使の懈怠をいう同一審被告に対する請求は、その前提を欠いており、理由がない。

第四結論

一  以上によれば、一審原告らが岡山市に代位して一審被告らに対して請求した損害賠償請求権のうち、前記第三の四1に記載した一審被告らに係る損害額及びこれに対する不法行為後の平成一一年九月二九日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金請求部分については理由があるから、その請求を認容すべきことになる。そして、これについて、一審被告岡山市長は上記一審被告らに各金員の支払を請求しないところ、これは違法であるから、その違法確認請求も理由がありこれを認容すべきこととなる。

しかし、原判決のうち一審被告ら敗訴部分について、一審原告らのその余の請求は理由がないから棄却するべきである。

二  よって、原判決は、一審被告Y17、同Y15、同Y16に係る請求以外の一審被告ら敗訴部分では、これと結論を異にするから、上記部分につき原判決を変更することとし、一審原告らの控訴及び一審被告Y15、同Y16の控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高田泰治 裁判官 渡邊雅道 金光秀明)

別紙 当事者目録<抄>

控訴人兼被控訴人ら(以下「一審原告」という。)

一 住所<省略> X1<他5名>

一審原告一を除く一審原告ら訴訟代理人弁護士 東隆司

一審原告三を除く一審原告ら訴訟代理人弁護士 光成卓明

一審原告ら訴訟代理人弁護士 則武透

控訴人ら(一、三ないし五、七ないし一一、一三ないし一九)及び被控訴人(二)(以下「一審被告」という。)

一 住所<省略> 岡山市長 Y1<他16名>

一審被告一訴訟代理人弁護士 森脇正

橋本勇

一審被告一指定代理人 宇那木正寛<他2名>

一審被告二訴訟代理人弁護士 板野次郎

一審被告三訴訟代理人弁護士 河原昭文

大深忠延

河田英正

一審被告四、八ないし一一、一三、一四訴訟代理人弁護士 加瀬野忠吉

佐々木浩史

一審被告五、七及び一五ないし一九訴訟代理人弁護士 鷹取司

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