広島高等裁判所岡山支部 平成19年(く)17号 決定 2007年4月26日
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
本件即時抗告の趣旨及び理由は,弁護人A作成名義の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,これを引用する。論旨は,要するに,(1)被害者とされている女性の病状(本件傷害に関するもの以外に,被害者の精神,身体の全ての病気に関するもの,薬物濫用歴,入通院歴,事件当時服用していた薬物の種類及び量に関するもの)に関して作成された診断書,供述録取書,電話聴取書,照会回答書,捜査報告書等(既に開示されたものを除く。)(以下「本件1の証拠」という。)及び(2)被害者及びB(被害者の内縁の夫)の前科,前歴,職歴その他の行状に関する書面,すべての警察官調書,検察官調書,捜査報告書(既に開示されたものを除く。)(以下「本件2の証拠」という。)の各開示請求をいずれも棄却した原決定は,上記各証拠がいずれも刑訴法316条の20第1項の要件を満たさないとした点で違法であるから,その取消しと上記各証拠の開示命令を求める,というのである。
そこで,一件記録を調査して検討する。
本件に関する公訴事実の要旨は,被告人が,平成18年9月6日,事務所兼自宅前路上に駐車中の自動車内において,当時34歳の女性に対し,暴行脅迫を加えてその反抗を抑圧し,自己の陰茎を口淫させるなどした上強いて同女を姦淫し,引き続き,自宅2階寝室に連行した同女を,同様に口淫させるなどした上強いて姦淫し,その際,同女に傷害を負わせたというものである。
公判前整理手続において,検察官は,証明予定事実を明らかにし,弁護人らは,公訴事実について,被告人は強姦したのではなく被害者からの求めに応じて車内及び寝室において口淫してもらっただけであるなどと主張した。その上で,弁護人らは,被害者供述の信用性を争点とし,これを弾劾する証明予定事実として,①被害者が,精神的に病的な状態にあり,精神薬系の薬物を常用し,言動にも異常な点があったと主張し,これに関連するとして,本件1の証拠の開示を請求し,②被害者に「店外デート」を伴う仕事に従事していた経歴があり,被害者が覚せい剤の密売人と目される人物との交際があった可能性が窺われると主張し,これに関連するとして,本件2の証拠の開示を請求している。
まず①についてみると,本件1の証拠は,証明予定事実との関係で関連性がないといえないとしても,争点との関係で直接証拠及び間接証拠に比して関連性の程度が著しく低く,換言すれば,被害者供述の信用性に直接影響を与えるわけではなく,補助的な事実に関するものにすぎないと考えられるから,被告人の防御の準備のために本件1の証拠を開示することの必要性の程度は相当低いというべきである。一方,本件1の証拠を開示した場合,被害者の名誉・プライバシーを不当に侵害するおそれがある上,その弊害は決して小さくないと考えられる。したがって,本件1の証拠が刑訴法316条の20第1項の要件を満たさないとした原審の判断は相当である。
次に②についてみると,本件2の証拠は,本件1の証拠の場合と同様の理由により,被告人の防御のために本件2の証拠を開示することの必要性の程度が相当低い反面,これを開示した場合には,被害者の名誉・プライバシーを不当に侵害するおそれが決して小さくない。したがって,本件2の証拠が刑訴法316条の20第1項の要件を満たさないとした原審の判断も相当である。
以上のとおりであるから,当審検察官作成名義の意見書における,本件1及び2のいずれの証拠も検察官の手持ち証拠中に存在しないとの主張について判断するまでもなく,論旨は理由がない。
よって,刑訴法426条1項後段により本件即時抗告を棄却することとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小川正明 裁判官 河田充規 裁判官 西川篤志)