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広島高等裁判所岡山支部 平成19年(ネ)237号 判決 2008年3月14日

岡山市

控訴人

●●●

京都市中京区烏丸御池下ル虎屋町566-1

被控訴人

株式会社レタスカード

同代表者代表取締役

●●●

同代理人支配人

●●●

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は,控訴人に対し,231万2756円及び内217万8693円に対する平成19年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

3  この判決は,上記1(1)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は,控訴人に対し,231万2756円及び内217万8693円に対する平成19年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は,控訴人に対し,30万円及びこれに対する平成19年5月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  控訴人は,(1)貸金業者である被控訴人から金銭を借り入れたが,利息制限法1条1項所定の制限利率(以下,単に「制限利率」という。)により計算した金額を超えて利息として支払われた弁済金を元本に充当すると過払金が発生しており,かつ,被控訴人は上記過払金の受領が法律上の原因を欠くものであることを知っていたとして,被控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,①過払金217万8693円,②最終取引日の後である平成19年4月27日までの民法所定の年5分の割合による同法704条前段所定の法定利息(以下,単に「法定利息」という。)13万4063円,③上記過払金に対する同月28日から支払済みまで前同様の割合による法定利息の支払を求めると共に,(2)被控訴人が取引履歴の開示に応じないとして,不法行為に基づき,損害賠償金30万円及びこれに対する不法行為後の訴状送達の日の翌日である平成19年5月11日から支払済みまで同法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,上記(1)の請求につき,①過払金113万9683円,②平成19年4月27日までの年5分の割合による法定利息6万7309円,③上記過払金に対する同月28日から支払済みまで前同様の割合による法定利息の支払を求める限度で認容し,その余を棄却し,上記(2)の請求を棄却したので,控訴人がその敗訴部分を不服として控訴した。

2  前提事実(末尾に証拠を掲げたほかは争いがない。)

(1)  被控訴人は,貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)3条所定の登録を受けて貸金業を営む会社である。

(2)  控訴人は,被控訴人との間で,原判決添付計算書①及び②の各「取引日」,「借入額」及び「返済額」の各欄記載のとおり,繰り返し金銭の借入と返済(以下,それぞれ「本件取引①」「本件取引②」という。)を行ってきた(本件取引①につき甲2)。

(3)  被控訴人は,控訴人の再三の請求にもかかわらず,平成3年1月9日から平成6年6月30日までの取引履歴を開示しなかった(甲17)。

3  争点

(1)  過払金の充当・相殺関係

本件取引①の過払金を本件取引②の貸付に係る債務に充当し,又はこれと相殺することができるか。

(2)  消滅時効の成否

本件取引①の過払金についての不当利得返還請求権は,時効により消滅したか。また,被控訴人による消滅時効の援用は,信義則に違反し,権利の濫用であって許されないか。

(3)  不法行為の成否

被控訴人が上記のとおり取引履歴を開示しなかったことは,不法行為となるか。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(過払金の充当・相殺関係)について

(1)  上記前提事実のほか,証拠(甲3ないし10の各A・B・C,11のB・D,18ないし22)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。

ア 本件取引①及び②の内容は,次のとおりである。なお,その約定利率は,制限利率を超過している。

① 控訴人は,借入限度額の範囲内で繰り返し被控訴人から金銭を借り入れることができる。

② 融資有効期間は契約日から2年1か月とし,契約満了までに当事者から何らの申し出がない場合は,更に契約を2年1か月間自動継続することができるものとし,以後もその例による。

③ 元利均等返済とし,毎月一定の支払日までに,元利金を被控訴人の営業所に持参し,又は被控訴人の銀行口座に振り込むものとする。

イ 被控訴人は,控訴人との間で,本件取引①及び②を行い,実際に金銭の貸付と弁済を繰り返し,これを同一の会員番号(カードローン基本契約書の番号)「24●●●」で管理してきた。

(2)  同一の貸主と借主との間で,基本契約に基づき継続的に貸付が繰り返される金銭消費貸借取引において,借主がそのうちの一つの借入金債務につき利息制限法所定の制限を超える利息を任意に支払い,この制限超過部分を元本に充当してもなお過払金が存する場合,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなど特段の事情のない限り,弁済当時存在する他の借入金債務に充当されるのに対し,過払金が生じた後に発生した新たな借入金債務については,当然に充当されるものとはいえないが,少なくとも,当事者間に上記過払金を新たな借入金債務に充当する旨の合意が存在するときは,その合意に従った充当がされるというべきである。

ところで,上記(1)で認定した事実によると,控訴人と被控訴人との間では1個の基本契約に基づいて継続的に本件取引①及び②(以下,両者を併せて単に「本件取引」という。)が行われてきたものであり,その各貸付に係る債務の弁済は,貸付ごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,各貸付の全体に対して行われるものと解されるので,充当の対象となるのはこのような全体としての借入金債務であると解することができる。そうすると,本件取引に係る基本契約は,各貸付に係る債務に対する各弁済金のうち利息制限法所定の制限超過部分を元本に充当した結果,過払金が発生した場合には,その過払金を,弁済当時存在する他の借入金債務に充当することはもとより,弁済当時他の借入金債務が存在しないときでもその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意を含んでいるものと解するのが相当である。

したがって,本件取引につき,先の貸付に係る債務についての過払金は,その後に発生した新たな貸付に係る債務に充当されるというべきである。これにより,本件取引について,制限超過部分を元本に充当されたものとして計算すると,別紙「債権債務調査票」記載のとおり,平成19年4月27日の時点において過払金217万8693円及び法定利息13万4063円がそれぞれ発生していたことになる。

2  争点(2)(消滅時効の成否)について

被控訴人は,過払金についての控訴人の不当利得返還請求権は,弁済の都度発生すると共に消滅時効が進行するので,各弁済時から10年が経過することで消滅時効が完成すると主張し,平成19年7月12日の原審弁論準備手続期日において,上記時効を援用するとの意思表示をした。

しかし,上記1で判断したとおり,本件取引において,一時的に過払金が生じたとしても,その過払金は後に発生する新たな貸付に係る債務に充当される可能性があるので,弁済によって過払金が発生する度に別個の不当利得返還請求権が発生すると解すべきではなく,本件取引が継続する限り,不当利得返還請求権は1個であり,弁済や新たな貸付によって不当利得返還請求権の元本が増減するに過ぎないと解するのが相当である。そうすると,過払金は,本件取引が継続している限り,新たな貸付に係る債務への充当の対象となり,その充当の結果,減少又は消滅するものであるから,過払金が発生した時点で直ちに不当利得返還請求権の行使が可能であるということはできず,過払金に係る不当利得返還請求権は,本件取引が終了し,もはや新たな貸付に係る債務への充当の対象でなくなった時点で初めて,債権額が確定し,現実に返還請求が可能な1個の債権として認識できるものというべきである。したがって,控訴人の不当利得返還請求権は,最後の取引が行われた平成18年9月11日以前には,債権額が確定して現実に返還請求が可能であったということはできず,消滅時効が進行すると考えることができない。

よって,被控訴人の消滅時効の主張は理由がないというべきである。

3  争点(3)(不法行為の成否)について

控訴人は,被控訴人が控訴人からの再三の開示請求にもかかわらず,平成3年1月9日から平成6年6月30日までの取引履歴を開示しなかったことが不法行為に当たる旨主張しており,確かに,被控訴人は,控訴人から取引履歴の開示を求められた場合,原則として保存している業務帳簿に基づいて取引履歴を開示すべき義務を負うというべきであるが,これは業務帳簿が存在することを前提とするものである。

そこで,被控訴人が業務帳簿を保存しているかどうかを検討すると,業務帳簿の保存期間については,平成19年11月7日内閣府令第79号による改正前の貸金業の規制等に関する法律施行規則17条では貸付契約に定められた最終の返済期日から3年間とされ,商法19条3項(平成17年法律第87号による改正前の商法36条1項)では帳簿閉鎖の時から10年間とされているが,被控訴人が開示しなかった取引履歴は,上記のとおり平成3年1月9日から平成6年6月30日までの取引に関するものであり,控訴人の主張によっても,控訴人が開示請求をしたのは平成18年10月3日以後であるから,その間に12年以上の隔たりがあり,法律上,開示請求時には保存期間が既に経過していたことが明らかである。更に,被控訴人の主張によると,本件取引①は,本件取引②と別個の取引であり,既に平成6年9月26日に取引が終了したというのであるから,被控訴人が同年6月30日より前の取引履歴に関する帳簿を既に廃棄し,開示請求時には保存していなかったとしても不自然ではないし,廃棄することが許されないということもできない。

したがって,被控訴人が控訴人から上記のとおり開示請求を受けた取引履歴に関する帳簿を保存していると認めることができないので,これを被控訴人が開示しなかったことが不法行為に該当するということはできない。

第4結論

以上の次第で,被控訴人の請求は,(1)過払金217万8693円,(2)平成19年4月27日までの年5分の割合による法定利息13万4063円,(3)上記過払金に対する同月28日から支払済みまで前同様の割合による法定利息の支払を求める限度で理由があるので認容し,その余は理由がないので棄却すべきであり,これと結論を一部異にする原判決は相当でないので,上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正明 裁判官 河田充規 裁判官 西川篤志)

<以下省略>

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