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広島高等裁判所岡山支部 平成2年(行コ)2号 判決 1991年8月29日

控訴人

水江吉孝

右訴訟代理人弁護士

大石和昭

被控訴人

倉敷労働基準監督署長本郷貴久雄

右訴訟代理人弁護士

片山邦宏

右指定代理人

工藤真義

森脇基紀

石部弘子

佐藤清

松本清美

斎藤能彦

藤井軍二

右当事者間の療養補償不給付処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和五七年一月二二日付をもって控訴人に対してなした労働災害補償保険法による療養補償給付を支給しない旨の処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、控訴人において次のとおり述べ、被控訴人においてこれを争ったほか、原判決事実摘示のとおりであり(但し、原判決六枚目裏五行目「厚板で」(本誌本号(<以下同じ>)35頁3段21行目)を「厚板課で」と、七枚目表六行目「契機による(35頁4段9行目)を「本件災害時の作業に起因する」と各改める。」、証拠の関係は、本件記録中の第一、二審書証目録及び証人当目録記載のとおりであるから、これらを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件負傷の程度等について

控訴人は、受傷後全く身動きができなくなり、その場に二〇分程しゃがみ込んでしまい、約一時間現場にいた後、七〇〇メートル程離れた更衣室まで移動した。本件災害後、控訴人は、腰部の疼痛のため、靴下を履くことや洗面など、腰部を二〇度程度曲げての日常生活が不可能で介護を要した。また、少しは立って歩くことができたが、急に動いたりすることはできなかった。

二  本件災害後の措置等について

控訴人は、当日、上司の永吉稔に対し本件負傷の報告をしようとしたが、同人は、控訴人の症状をみてとるや、「みんな無災害にやっきになっているのにもってのほかだ」、「ちょっとしたことで腰が痛いなんて言うな」などと一方的に切り出したため災害報告ができなかった。また、控訴人が本件災害翌月の八月四日、災害の申出のため会社に出向き、永吉に会って診断書を手渡したところ、同人から労災申請の口止めをされ、上司の命令でもあるので途方にくれていたのであるが、同僚の上野孝雄の助言等により、ようやく、同年一〇月三〇日、労働基準監督署に労災の申立てをしたものである。控訴人所属の厚板課は、事故多発現場として特別監視を受けた職場になっており、会社の内規である「特別安全指導の指定及び活動面に関する必要事項」の適用を受け、災害が発生した場合は、調査、報告等の手続をすべきこととなっているのであるが、現場作業長の永吉は、右で定められた義務を果たさず、本件災害の確認等を怠ったものである。

理由

一  当裁判所も控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加及び削除するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏二行目から三行目の「原告」(35頁4段21行目)を「原審及び当審における控訴人」と改め、三行目「尋問の」(35頁4段22行目)の次に「各」を加える。

2  同八枚目表三行目「しかしながら、」(36頁1段12行目)を「ところで、本件は、控訴人の右供述以外に、本件災害の発生を裏付ける証拠が存在しないものである。水島協同病院整形外科医師安東温敏は、成立に争いのない(証拠略)及び原審における証言において、昭和五六年八月一日控訴人を診察した際、前、後屈運動制限著明等の症状に基づいて腰椎椎間内障と診断するとともに、右障害が外力によって発生したとみるのが自然である趣旨の供述をしているが、これは、控訴人の右供述どおりの事実関係があったことを前提としての症状説明であるから、これをもって、控訴人の右供述の信ぴょう性を積極的に根拠付けるほどのものではない。そこで、控訴人の右供述の信ぴょう性について検討するに、」と改め、同行の「乙第二号証の二、」(36頁1段12行目の(証拠略))の次に「第三号証、」を加え、五行目「第三、」(36頁1段12行目の(証拠略))を削る。

3  同八枚目裏二行目「これらの事実を照らすと、」(36頁1段17行目)から五行目「(四)の事実につき、」(36頁1段22行目)までを「控訴人は、前記甲第五号証、乙第二号証の二、第三、第七号証、原審及び当審における控訴人各本人尋問において、控訴人が」と、一一行目「旨供述するが、」(36頁2段1行目)から同九枚目表四行目末尾まで(36頁2段9行目)を「とか、永吉に本件災害を申告しないように口止めされたからである旨供述すると同時に、本件災害が発生したという当時、控訴人は腰痛症等がなかったが、永吉に強要されて、虚偽の診断書を作成してもらって作業制限を受けていた旨供述するが、右供述は、後記証拠に対比して信用することができない。かえって、(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によれば、本件災害が発生したという当時、訴外会社水島製鉄所においては二〇〇〇万時間無災害記録達成のために懸命の努力をしていたが、永吉らが控訴人に対して本件災害を申告しないように口止めなどしたことはなかったこと、控訴人は昭和五二年一月二〇日頃、ソフトボール中バットを空振りした際、右腰部捻挫をし、その後も腰部を損傷して、入・通院を繰り返し、その間、控訴人は、訴外会社において「要管理者」として軽作業に従事する等の就業制限を受け、本件災害が発生したという当時も、昭和五六年四月三〇日以降右就業制限を受けており、右当時、控訴人が班長に対し腰痛を理由に仕事上の不満を述べたことについて、控訴人は永吉らから厳しく注意されていたことが認められ、控訴人が平生から、腰痛がないのにあるなどとうそを言って、医師から虚偽の診断書を作成してもらって訴外会社より就業制限をうけていたとは到底認めることができない。これらの点を考えると、控訴人の右供述をもって本件災害の発生を肯定するには十分ではなく、他にこれを裏付けるに足りる証拠はない。」と各改める。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 相良甲子彦 裁判官廣田聰は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 高山健三)

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