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広島高等裁判所岡山支部 平成2年(行コ)4号 判決 1991年12月05日

岡山県津山市林田一九〇二-九

控訴人

全国睦市民の会会長、リースキン第一津山代表こと 浅図政信

東京都千代田区霞が関一丁目一番一号

被控訴人

右代表者法務大臣

田原隆

東京都千代田区永田町一丁目六番一号

被控訴人

内閣総理大臣 宮澤喜一

右両名指定代理人

大西嘉彦

中原満幸

工藤真義

森脇基紀

被控訴人国指定代理人

原野秀美

戸田哲弘

米森英次

右当事者間の損害賠償等請求控訴事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、金一万一八〇八円を支払え。

3  被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、金二〇万円を支払え。

4  被控訴人らは消費税廃止の手続きをとれ。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

第三証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の各書証目録、原審記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当裁判所は、被控訴人内閣総理大臣に対する本件各訴え及び被控訴人国に対する請求のうち、消費税法廃止の訴えをいずれも不適法として却下すべきものと判断し、被控訴人国に対する各金銭支払請求部分は理由がないから、失当としてこれを棄却すべきものと判断する。

その理由は、次のとおり補足するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

なお、当審証拠をもってしても、原審の認定・判断を左右するに足りない。

1  控訴人は、本件消費税法は主権者である国民の意思に反するものであって、被控訴人内閣総理大臣や国会議員が国会においてこれを提案、可決したことは、憲法一五条二項、九九条に違反する旨主張する。

憲法前文及び一条は主権が国民にあることを明定するところ、立法について、同法四一条は「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」と規定するとともに、同法四三条一項は「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と規定して、いわゆる間接的民主制を採用しているから、本件消費税法が国民の意思に反する旨の政治的批判をすることはともかくとして、法律的には、本件消費税法が国会において可決された以上、それは国民の意思に基づくものと看做されるべきである。仮に、裁判所において本件消費税法が国民の意思に反するや否やにつき証拠調べができるとする考え方があるとすれば、それは間接的民主制を定めた憲法の前記規定を無視するものといわざるを得ない。

したがって、控訴人の右主張を採用することはできない。

2  控訴人は、控訴人のような零細な小売業者は、メーカーや問屋からは消費税分を取り立てられながら、消費者にこれを転嫁することができないから、本件消費税法は憲法一四条、二二条一項、二五条に違反する旨主張する。

ところで、零細な小売業者が消費者に消費税分を転嫁することができないおそれがあることが論者により指摘されていることは公知の事実である。しかしながら、原判決説示のとおり、本件消費税法は、徴税技術上の理由から、小売業者等を納税義務者とし、消費者に消費税分を転嫁させる間接消費税を採用したものであって、それは合理性をもった税制というべきである。

もっとも、零細な小売業者の場合、消費者に消費税分を転嫁することが容易でないことは十分推察されるところであるが、この問題は、本件消費税法の趣旨に則って、消費者に消費税分を転嫁するように努めて解決するのが本来の途であるから、右転嫁の困難性の故をもって直ちに本件消費税法が憲法の前記条項に違反するものということはできないものと解するのが相当である。

したがって、控訴人の右主張も採用することができない。

二  そうすると、原判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高山健三 裁判官 相良甲子彦 裁判官 渡邊雅文)

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