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広島高等裁判所岡山支部 平成21年(ネ)203号 判決 2010年3月26日

控訴人(第1審第1事件及び第2事件原告)

有限会社クリード

同代表者取締役

被控訴人(第1審第1事件及び第2事件被告)

株式会社中国銀行

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

西田秀史

西田三千代

岡田孝文

三好英宏

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は、控訴人に対し、30万円及びこれに対する平成19年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  控訴人のその余の第1事件請求及び第2事件請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを3分し、その2を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

5  この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、95万円及び内50万円に対する平成19年7月9日から、内45万円に対する平成19年12月10日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  控訴人は、被控訴人又は被控訴人の従業員が、平成19年7月9日、控訴人及びその連帯保証人らが被控訴人に有する預金口座を違法に凍結し、これにより控訴人は信用を毀損され、業務停止を余儀なくされたとして、不法行為(民法709条又は715条)に基づき、慰謝料50万円及び不法行為日である同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し(第1事件)、上記凍結が解除された後、同年12月10日、再度、控訴人及びその連帯保証人らが被控訴人に有する預金口座を凍結したのも違法であるとして、前同様の慰謝料45万円及び不法行為日である同日から支払済みまで前同様の遅延損害金の支払を請求した(第2事件)。

原審は、平成19年7月9日の控訴人の預金口座凍結では、同口座の残高が存在せず、凍結期間も短期間で、控訴人に財産的損害は生じていないから、被控訴人に慰謝料の支払義務を生じさせる不法行為は成立せず、同年12月10日の控訴人の預金口座凍結は、控訴人が期限の利益を喪失しており、その後被控訴人が行った相殺の準備目的を含んでいたから、控訴人に財産的損害が生じたとみることはできず、仮に同凍結が違法であったとしても、被控訴人に慰謝料の支払義務を生じさせる不法行為は成立せず、また、いずれの預金口座凍結においても、連帯保証人らの預金口座凍結については、仮に、それらが違法であったとしても、直接損害を受けるのは連帯保証人らであり、控訴人が相当因果関係のある損害を受けたとは認められないなどとして、控訴人の請求をいずれも棄却したので、これを不服として控訴人が控訴した。

2  前提事実(挙示した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

次のとおり付加、訂正するほかは、原判決2頁14行目ないし5頁6行目に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁9行目ないし15行目を次のとおり改める。

「(7) 被控訴人は、平成19年7月9日、控訴人、控訴人代表者(A)、C、D及びEが被控訴人に有する預金口座を凍結した(以下、これらの平成19年7月9日に開始された口座凍結を「第1回目の口座凍結」という。)。第1回目の口座凍結において凍結された預金口座は次のとおりである。

口座名義人 預金種別 預金残高

控訴人 普通預金 0円

A 普通預金 682円

C 普通預金 -14万0482円

同 定期預金 2万円

同 定期預金 3万円

同 定期預金 11万1976円

D 普通預金 21万1259円

同 貯蓄預金 10万1573円

E 普通預金 -22万7653円

被控訴人は、第1回目の口座凍結の際、上記各被凍結口座の名義人らに対し、本件協会から代位弁済を受けるために預金口座を凍結した旨を通知した。

第1回目の口座凍結は同月10日から20日までの間に解除された。」

(2)  同頁19行目ないし23行目を次のとおり改める。

「(9) 控訴人は、本件貸付1については平成19年5月31日支払分以降、本件貸付2については同年4月2日支払分以降、本件貸付3については同年5月1日支払分以降、いずれも分割返済金の支払をしなかった。そのため、被控訴人は、控訴人に対し、同年11月27日付け書面3通により、同年12月10日までに各遅滞元利金を支払うよう催告し、同日までに支払がない場合は、同日の経過により期限の利益を喪失する旨を通知し、同書面はいずれも同年11月28日に控訴人に到達したが、控訴人は、同年12月10日までに支払をせず、同日の経過により、本件各貸付についていずれも期限の利益を喪失した(乙7、8、16及び17の各1・2、弁論の全趣旨)。」

(3)  同頁24行目ないし5頁6行目を次のとおり改める。

「(10) 被控訴人は、平成19年12月10日、控訴人、控訴人代表者(A)、C、D及びEが被控訴人に有する預金口座を凍結した(以下、これらの平成19年12月10日に開始された口座凍結を「第2回目の口座凍結」という。)。

第2回目の口座凍結において凍結された預金口座は次のとおりである(乙10の2)。

口座名義人 預金種別 預金残高

① 控訴人 普通預金 294円

② A 普通預金 682円

③ C 普通預金 -14万5935円

④ 同 定期預金 2万円

⑤ 同 定期預金 3万円

⑥ 同 定期預金 11万1976円

⑦ D 普通預金 31万0261円

⑧ 同 貯蓄預金 10万1684円

⑨ E 普通預金 -17万6660円」

(4)  同5頁6行目末尾に改行して次のとおり付加する。

「(11) 被控訴人は、第2回目の口座凍結において凍結した上記各預金口座の預金のうち、上記(10)①ないし③、⑦及び⑧の各預金(同⑦の預金については凍結時点の預金残高を限度とし、その余の預金は凍結後の入金による預金を含む。なお、同④ないし⑥の預金は総合口座貸越・カードローン貸越と相殺されて本件各貸付とは相殺されず、同⑨の預金口座は相殺対象預金がないため平成19年12月17日に凍結解除となった。)について、平成20年2月25日付け書面により、各口座名義人に対して相殺の意思表示を行い、同書面はいずれもそのころ同各名義人に到達し、被控訴人は本件各貸付の残元金額に応じて按分充当した(乙10の1ないし3、12ないし15の各1・2)。」

3  争点及び当事者の主張の要旨

次のとおり付加するほかは、原判決5頁8行目ないし6頁9行目に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決5頁14行目末尾に改行して次のとおり付加する。

「被控訴人は、第1回目の口座凍結の際、控訴人の連帯保証人らに対して、控訴人が特定調停を申し立てたから預金口座を凍結する旨を告げ、同凍結の解除の際には、その理由は何ら説明しなかった。第2回目の口座凍結の際は、事後的に通知したのみである。本件各貸付は、本件協会が保証しているから、被控訴人と本件協会との事前協議が行われるまでは預金口座の凍結が行われることはあり得ないはずなのに、被控訴人は、独自の判断により、第1回目及び第2回目の各口座凍結を行ったものである。」

(2)  同6頁5行目「なっている。」の後に改行して「本件では前記1(6)のとおり、被控訴人は、平成19年6月25日付け事故報告書を本件協会に提出して、第1回目の口座凍結を行った。その後、前記1(7)のとおり、同凍結を解除したが、同1(10)のとおり、第2回目の口座凍結を行った。」を付加する。

(3)  同頁8行目末尾に改行して「また、仮に、預金口座の凍結が違法であったとしても、その後に当該預金の払戻請求がなされ、銀行がこれを拒絶した場合にはじめて不法行為の成立する余地があるにすぎないところ、本件の場合、控訴人及びその連帯保証人らからは、凍結された預金口座に関して払戻請求はなく、不法行為は成立しない。」を付加する。

第3当裁判所の判断

1  第1回目の口座凍結の時点においては、いまだ控訴人が本件各貸付の期限の利益を失っていなかったことは被控訴人も自認するところであり、被控訴人は、被控訴人が本件協会に対して負う、事故発生後の債務者(連帯保証人を含む。)による預金払出しに際しての協議義務が、第1回目の口座凍結を正当化する旨を主張する。

しかしながら、被控訴人が本件協会に対して負っているのは協議義務に止まり、債務者及び連帯保証人の預金口座を凍結すべき義務まで負っているわけではないから、上記協議義務が第1回目の口座凍結を直ちに正当化するものとは認め難く、他にこれを正当化し得る事由を認めるに足りる証拠もないから、結局、第1回目の口座凍結は正当事由を欠くといわざるを得ない。

それにもかかわらず、被控訴人は、前記第2の2(7)のとおり、第1回目の口座凍結の際、被凍結口座の名義人らに対して、本件協会から代位弁済を受けるために預金口座を凍結した旨を通知しており、同通知内容は、銀行である被控訴人が、控訴人が経済的に破綻したと判断し、本件各貸付債権の回収措置を取る方針であることを意味するものであるから、いまだ控訴人が期限の利益を失っていない時点において、上記内容を控訴人の連帯保証人ら(但し、控訴人代表者を除く。)に対して告げることは、控訴人の信用を毀損するものといわざるを得ず、これを正当化する事由を認めるに足りる証拠は見当たらない。なお、このことは、第1回目の口座凍結の時点において、控訴人が本件各貸付の各分割返済金の支払を遅滞し(乙7)、被控訴人が請求すれば直ちに期限の利益を失う(本件各貸付契約書〔乙1の1ないし3〕5条2(1))状態にあったことによって左右されるものではない。したがって、第1回目の口座凍結及び被凍結口座の名義人ら(但し、控訴人及び控訴人代表者を除く。)に対する上記通知は、控訴人の信用を毀損する不法行為を構成するというべきである。

控訴人が上記のとおりその信用を毀損されたことに対する慰謝料は、前記認定にかかる経緯等に鑑み、30万円とするのが相当であると認められる。

2  これに対し、第2回目の口座凍結の時点では、控訴人は期限の利益を失い、被控訴人はいつでも相殺することができる相殺適状にあり(本件各貸付契約6条〔乙1の1ないし3〕)、また、その後、前記第2の2(11)のとおり相殺が行われた(その効力は相殺適状発生時に遡る〔民法506条2項〕。)ことからすれば、第2回目の口座凍結を違法なものということはできない(同口座凍結により凍結された預金口座のうち本件各貸付との相殺に供されなかった預金口座及び凍結解除となった預金口座についても同様である。)。

なお、控訴人は、本件各貸付は本件協会が保証しているから、被控訴人と本件協会との事前協議が行われるまでは預金口座の凍結が行われることはあり得ず、被控訴人は、独自の判断により、第2回目の口座凍結を行ったと主張するが、本件各貸付の債権者である被控訴人が、本件協会との事前協議を経ない限り、遅滞した本件各貸付債権の回収(第2回目の口座凍結もその一環である。)を行うことができないとする法律的根拠は見当たらないから、被控訴人が本件協会との事前協議を経ていなかったとしても、第2回目の口座凍結が違法となるものではない。

3  以上によれば、控訴人の第1事件請求は30万円の限度で理由があるからその限度で認容し、その余の第1事件請求及び第2事件請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと異なり、控訴人の第1事件請求及び第2事件請求をいずれも全部棄却した原判決は一部相当ではなく、本件控訴の一部は理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正明 裁判官 佐々木亘 石田寿一)

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