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広島高等裁判所岡山支部 平成25年(行ケ)1号 判決 2013年11月28日

主文

1  平成25年7月21日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の岡山県選挙区における選挙を無効とする。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は,平成25年7月21日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,岡山県選挙区の選挙人である原告が,被告に対し,平成24年法律第94号による改正(以下「本件改正」という。)後の公職選挙法14条1項,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」といい,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2を含め,「参議院議員定数配分規定」という。)は,人口比例に基づかず,憲法14条等に違反し無効であるから,同規定に基づき施行された本件選挙の岡山県選挙区における選挙を無効とすることを求めた事案である。

なお,書証については,特に断らない限り,枝番号を含む。

2  前提事実(証拠により認定した事実は,各項末尾に認定に供した証拠を掲記する。)

(1)  原告は,本件選挙の岡山県選挙区の選挙人である。

(2)  本件選挙は,本件定数配分規定に従って施行された。

(3)  本件選挙当時の参議院議員の選挙制度は,参議院議員の定数を242人とし,そのうち96人を比例代表選出議員,146人を選挙区選出議員としており(公職選挙法4条2項),選挙区選挙については,全国に都道府県を単位とする47の選挙区を設け,各選挙区において2人ないし10人の偶数の議員数を配分し,比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全都道府県の区域を通じて所定の人数の議員を選出するものとし(以上,同法12条,14条,別表第3),選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票としている(同法36条)。

(4)  本件選挙当時の選挙区ごとの有権者数,議員定数,議員1人当たりの有権者数及び較差については別紙(乙1)のとおりであり,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,選挙人数が最も少ない鳥取県選挙区を1とした場合,最大の北海道選挙区は4.77(以下,較差に関する数値は全て概数である。)であり,原告の属する岡山県選挙区は3.27であった(乙1)。

(5)  参議院議員の選挙制度の変遷等については,次のとおりである(甲1,2,21ないし23,36,42,乙2,3,5,7,9ないし18)。

ア 昭和22年に制定された参議院議員選挙法は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記議員定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,従来の個人本位の選挙制度から政党本位の選挙制度に改める趣旨で,参議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。

イ 選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法制定当時は1対2.62であったが,その後,次第に拡大した。昭和52年7月に施行された参議院議員通常選挙における選挙区間の投票価値の較差は最大1対5.26に拡大し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁は,いまだ違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとするには足りない旨判示したが,平成4年7月に施行された参議院議員通常選挙における選挙区間の投票価値の較差が最大1対6.59に拡大するに及んで,最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁は,結論において同選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものといわざるを得ない旨判示した。

平成6年改正は,上記のように1対6.59にまで拡大していた選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われ,前記のような参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,かつ,有権者数の少ない選挙区により多い議員定数が配分されるという,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で定数を8増8減したものであり,上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。

その後,平成6年改正後の参議院議員定数配分規定の下において平成7年7月及び同10年7月に施行された参議院議員通常選挙当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.97及び1対4.98であったところ,こうした国会における較差の縮小に向けた措置を踏まえ,最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁及び最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁は,上記の較差が示す選挙区間における投票価値の不平等は,投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することができないと認められる程度に達しているとはいえず,上記改正をもって立法裁量権の限界を超えるものとはいえないとして,当該各選挙当時における上記議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨判示した。

ウ 平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされた。定数削減に当たっては,選挙区選出議員の定数を6人削減して146人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。平成12年改正の結果,いわゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,上記改正前と変わらなかった。

エ 平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であったところ,最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と同様の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名による補足意見が付された。

また,上記議員定数配分規定の下で平成16年7月に施行された参議院議員通常選挙当時において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.13であったところ,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁(以下「平成18年大法廷判決」という。)も,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされた。

平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,平成16年7月に施行される参議院議員通常選挙までの間に較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙後に協議を再開する旨の申合せをした。これを受けて,同選挙後の同年12月1日,参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において各種の是正案が検討されたが,当面の是正策としては,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案が有力な意見であるとされ,同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成18年6月1日に成立した。同改正(以下「平成18年改正」という。)の結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。

なお,上記の専門委員会が平成17年10月に参議院改革協議会に提出した報告書に示された意見によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当の困難があるとされている。また,同報告書においては,平成19年選挙に向けての較差の是正の後も,参議院の在り方にふさわしい選挙制度の議論を進めていく過程で,較差の継続的な検証等を行う場を設け,調査を進めていく必要があるとされた。

そして,平成18年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成19年7月に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成19年選挙」という。)当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86であったところ,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁(以下「平成21年大法廷判決」という。)は,その結論において,同選挙当時,上記議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示したが,同判決は,上記のような較差は投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,上記の専門委員会の報告書に表れた意見にもあるとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行うためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨指摘し,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われるよう要請した。

オ 平成18年改正後の平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に専門委員会が設置され,同委員会において同年12月から平成22年5月までの約1年半の間に6回にわたる協議が行われたが,平成22年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)に向けた較差の是正は見送られる一方,平成25年に施行される参議院議員通常選挙(本件選挙)に向けて選挙制度の見直しを行うこととされた。なお,参議院改革協議会座長が平成22年5月21日付けで参議院議長に提出した報告書(甲22)によれば,平成22年5月14日に行われた上記第6回専門委員会において,「今後の大まかな工程表(案)」が了承され,平成22年選挙後,平成25年の通常選挙(本件選挙)に向けて,選挙制度の抜本的見直しの検討を直ちに開始し,平成23年中に公職選挙法の改正案を提出することになっている。

平成22年7月11日に上記の定数配分規定の下での2回目の参議院議員通常選挙として施行された選挙(平成22年選挙)当時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対5.00に拡大していたところ,最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)は,その結論において,平成22年選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過できない程度に達しており,違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態に至っていたが,平成22年選挙までの間に参議院議員定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないと判示した。また,平成24年大法廷判決において,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い,都道府県を参議院議員の選挙区の単位とすべき憲法上の要請はなく,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるとして,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある旨の指摘がされた。

カ 平成22年選挙以降,参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,同年12月22日には,参議院議長から,「参議院選挙制度の見直しについて(たたき台)」の提案があり,平成23年4月15日には,参議院議長から,上記たたき台の改訂案(甲36)が提案された。この改訂案は,現行の比例代表選出議員選挙及び都道府県単位の選挙区選出議員の選挙を廃し,全国9つのブロック単位の選挙区に人口比例により定数242人を配分するという内容であり,これによると,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対1.066になる。また,各政党からも,有権者数の少ない選挙区の合区など様々な改正案(甲23)が発表されるなどし,上記検討会及びその下に設置された選挙制度協議会において,平成25年7月に施行される本件選挙に向けて選挙制度の見直しを行うため,協議が重ねられたが,全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかった。

そこで,本件選挙に向けて,選挙区間の議員1人当たりの人口較差を是正するため,選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減することを内容とする公職選挙法の一部を改正する法律案が平成24年8月に国会に提出され,同法律案は,平成24年大法廷判決の言渡し後に可決されて成立し,同年11月26日に公布,施行された。本件改正の結果,平成22年実施の国勢調査の結果に基づく最大較差は1対4.75となり,いわゆる逆転現象もなくなった。

本件改正の附則には,平成28年に行われる参議院議員の通常選挙(以下「平成28年選挙」という。)に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれている。

もっとも,本件改正は,1票の価値の高い都道府県の定数を減らしたというのではなく,平成18年改正の際に減員区となった群馬県と栃木県の人口が200万人台であったところ,平成22年実施の国勢調査によれば,福島県と岐阜県の人口が200万人台で平成18年改正の際の減員区とほぼ同じという理由で,福島県と岐阜県の定数をそれぞれ2減したものであって,本件改正の結果,福島県と岐阜県の最大較差が1.7倍程度で特段較差が大きくなかったのが,両県の定数を減員した結果,両県の較差が3.4倍程度に拡大することになった。

キ 平成24年大法廷判決後も,選挙制度協議会における協議が継続され,平成25年3月5日に開催された選挙制度協議会(第13回)において,同協議会の座長から,各会派の意見やそれまでの協議の内容等を踏まえて論点を整理した「選挙制度協議会において検討すべき論点・座長メモ」(乙10。以下「座長メモ」という。)が示され,同年6月19日に開催された選挙制度の改革に関する検討会(第7回)において,座長から,座長メモの内容や選挙制度協議会において行われてきた協議の状況等が報告された上,平成28年参議院議員通常選挙に向けての選挙制度改革の今後の予定を記載した「今後の大まかな工程表(私案)」(乙11の2)が示された。

ク 本件選挙後,平成25年9月12日,参議院各会派代表者による懇談会が開催され,「選挙制度の改革に関する検討会」を設置することが合意され,同日,上記検討会の第1回会合で,実務的な協議を行うため,検討会の下に選挙制度協議会を設置することとされ,同月19日,上記検討会の第2回会合において,選挙制度協議会の設置に関する要綱(乙12の3)が定められ,選挙制度協議会の座長が指名され,参議院議長から「今後の大まかな工程表(案)」(乙18の2)が示された。同月27日に第1回の選挙制度協議会が開催され,今後,週1回の頻度で会合を開き,有識者からの意見聴取などを実施することが予定されている。同年10月4日に開催された第2回の選挙制度協議会では,参議院事務局から参議院選挙制度改革のこれまでの経緯について説明を受け,協議がなされた。しかし,いまだ,参議院議員の選挙制度の抜本的な見直しに向けて具体的・本質的な協議が行われているとはいえず,平成25年から平成26年にかけての選挙制度協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成26年中に見直し案を取りまとめ,平成27年中に見直し法案を提出し,平成28年選挙に向け抜本的な見直しをするという予定を確認するにとどまっている。

3  原告の主張

(1)  憲法は,「主権は国民に存する」,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」と定めている。この「行動」とは,主権者たる国民が,正当に選挙された国会における代表者を通じて,国会での議事を多数決で決定して国家権力(立法権・行政権・司法権)を行使する行為を意味する。すなわち,国民主権とは,主権者たる国民の多数意見によって国家権力を行使することを意味するから,国会議員の多数意見は,国民の多数意見と等価でなければならない。そして,国会議員の多数意見が国民の多数意見と等価にするために,人口比例選挙,すなわち,各選挙区に人口比例によって定数を配分することが必要になる。

したがって,憲法は,人口比例選挙を要請している。

(2)  本件定数配分規定に基づいて実施された本件選挙において,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.77であるから,明らかに人口比例選挙から乖離した状態である。

このように参議院議員定数配分規定が,人口比例選挙から乖離がある場合,そのような乖離を生ぜしめた立法裁量権の行使に合理性があることの立証責任は,被告にある。

ところで,最高裁は,参議院議員定数配分規定が,人口比例選挙から乖離した違憲状態であったとしても,国会がそれを是正する措置を講じるための合理的期間が経過しない限り,違憲にはならないとの論理を採用している。

しかしながら,現在の国会は,平成21年8月30日に施行された衆議院議員総選挙の無効が争われた最高裁平成22年(行ツ)第129号同23年3月23日大法廷判決(集民236巻249頁)及び平成22年選挙の無効が争われた平成24年大法廷判決によって「違憲状態」と判断された選挙によって選出された立法等を行う資格のない者で構成されているから,立法裁量権を行使できる余地はない。

したがって,国会に裁量権があることを前提とする,違憲状態の参議院議員定数配分規定を是正するために合理的な期間が経過することが必要であるという論理を採用することはできない。

仮に合理的な期間が経過することが必要であるとの論理を採用できたとしても,その合理的な期間の起算日は,参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘した平成21年大法廷判決の言渡日である平成21年9月30日である。平成22年5月には,参議院の選挙制度改革のために設置された専門委員会は,参議院議長に対して,平成25年に行われる選挙(本件選挙)に向けて,平成23年度中に選挙制度の見直しをする法案を提出することを合意した旨の報告書を提出している。にもかかわらず,国会は,本件選挙までに選挙制度の抜本的な見直しを怠ったのであるから,違憲状態を是正するための合理的期間は徒過している。

以上によれば,本件定数配分規定は違憲であり,それに基づいて施行された本件選挙も,違憲である。

(3)  裁判官は,憲法99条により,選挙が憲法に違反すると判断した場合は,憲法98条1項の明文に従って,当該選挙を無効と判決する義務があるから,事情判決の法理を用いること自体が違憲である。

また,本件選挙については,47選挙区全ての選挙について違憲無効訴訟が提起されており,仮に47選挙区の全ての選挙について違憲無効判決がなされたとしても,参議院は,96人の比例代表選出議員と平成22年選挙によって選出された73人の選挙区選出議員の合計169人で構成され,参議院の総議員数を242人としても,定足数である3分の1を超えるので,参議院としての活動に支障はなく,国会が混乱に陥ることはない。

したがって,本件に事情判決の法理を適用すべきでない。

4  被告の主張

(1)  平成24年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みを維持することが,投票価値の不平等という違憲の問題を生じさせることを初めて明記したという点で,これまでの大法廷判決とは大きく異なる判断を示したといえる。

しかし,都道府県を単位として各選挙区の定数を定める現行の選挙制度の仕組みは,制度創設以来60年余り不変であって,国民の間に深く浸透し,近年まで合理的なものとして定着してきたのであるから,このような制度の見直しには,国民的な議論を踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要する。現に,国政に地方の声を反映する機能が損なわれることに反対する意見や,民意の反映という観点から人口比例のみに偏った選挙制度に疑問を呈する意見など様々な意見がある。平成24年大法廷判決も,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,全体の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと判示している。

本件選挙は,平成24年大法廷判決の言渡しから9か月余り後に施行されたものであり,上記のような国民各自,各層に激しい利害・意見の対立がある中,専門的・多角的検討を踏まえてこれらを調整し,平成24年大法廷判決を踏まえた上記のような抜本的改革を内容とする立法的措置を講じる期間として余りに短いといわざるを得ない。

(2)  平成22年選挙以降,参議院では,正副議長及び各会派の代表により構成される「選挙制度の改革に関する検討会」及びその検討会の下に選挙制度協議会が設置され,平成25年7月に施行される本件選挙に向けて選挙制度の見直しを行うため,平成24年7月までの間に計11回にわたり協議が重ねられたが,全会派の合意に基づく成案を得るには至らなかった。

平成24年大法廷判決後,4選挙区で定数を4増4減することを内容とする本件改正が行われた結果,本件選挙時の最大較差は,前回の平成22年選挙時の1対5.00と比べて1対4.77に縮小し,いわゆる逆転現象もなくなった。そして,本件改正の附則に,平成28年に施行される参議院議員通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得る旨定められた。

前記(1)のとおり,平成24年大法廷判決が都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組み自体を見直すことを初めて明示するまでは,都道府県単位の仕組みを維持した上で,これまでの最高裁によって違憲状態ではないとされてきた最大較差5.85ないし4.86を下回る較差とする方向で改正を検討することは,投票価値の平等を可及的に実現するための過渡的な対応として,国会に許された合理的裁量の範囲内であったといえる。この意味で,本件改正によって最大較差が1対4.77にまで縮小したことは,正当に評価されるべきである。

平成24年大法廷判決も,本件選挙が,4選挙区で定数を4増4減するものにとどまるが,本件改正の附則において平成28年選挙に向けて選挙制度の抜本的見直しを行うことを定めた改正公職選挙法の下で実施されることを予想していたところであり,本件選挙が,昭和40年施行の参議院議員通常選挙時以来の低い最大較差に縮小されて施行されたことが,国会の裁量権の限界を超えると判断されることは予定していない。

(3)  本件改正の附則を踏まえて,平成24年大法廷判決後から本件選挙までの間に,選挙制度協議会において計3回にわたり協議を重ねており,平成25年3月5日に開催された選挙制度協議会の第13回会合において,同協議会の座長から,各会派に対し,各会派の意見やそれまでの協議の内容等を踏まえて論点を整理した座長メモが示され,同年6月19日に開催された選挙制度の改革に関する検討会の第7回会合において,平成25年から平成26年にかけての選挙制度協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成26年中に選挙制度協議会の報告書を取りまとめ,平成27年中に見直し法案を提出し,平成28年選挙から新制度が適用されるという「今後の大まかな工程表(私案)」が示された。

このように,国会は,本件選挙までに,選挙制度の改革に真摯に取り組んでいたということができ,このような取組みは,正当に評価されるべきである。

(4)  本件選挙後も,前提事実(5)クのとおり,参議院の選挙制度の改革に関する検討会及び選挙制度協議会において,参議院議員の選挙制度の抜本的な改革に向けた議論が重ねられてきており,今後は,参議院議長から示された工程表(乙18の2)に従って議論が加速していくことが十分期待される状況にある。

(5)  以上の事情を総合考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが,国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。

第3当裁判所の判断

1  憲法は,「主権が国民に存する」,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」とし,国民主権及びこれに基づく代表民主制の原理を定めている。そして,国民主権に基づく代表民主制においては,国民は,その代表者である国会の両議院の議員を通じてその有する主権を行使し,国政に参加するものであるところ,国民主権を実質的に保障するためには,国民の多数意見と国会の多数意見が可能な限り一致することが望まれる。

また,法の下の平等を定めた憲法14条1項は,選挙権に関しては,国民は全て政治的価値において平等であるべきであるとする徹底した平等化を志向するものであり,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち,投票価値の平等を要求しているものと解される。

このように,国政選挙における投票価値の平等は,国民主権・代表民主制の原理及び法の下の平等の原則から導かれる憲法の要請である。

2  憲法は,両議院の議員の定数,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(43条2項,47条),両議院の議員の各選挙制度をどのような仕組みにするかについて国会に裁量権があることを認めている。

ところで,憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条,67条,69条),その反面,参議院議員の任期を6年の長期とし,解散(54条)もなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)と定めている。その趣旨は,参議院に多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。そして,いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,二院制の下における参議院の上記の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にどのように反映させていくかということは,国会の合理的な裁量に委ねられている。

しかしながら,前記1のような国民主権・代表民主制の原理の趣旨や法の下の平等の原則にかんがみれば,投票価値の平等は,最も基本的な要請とされるべきであるから,国会は,選挙に関する事項を法律で定めるに当たり,選挙区制を採用する際は,投票価値の平等を実現するように十分に配慮しなければならない。また,参議院は,憲法上,衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由はない。

したがって,投票価値の平等に反する選挙に関する定めは,合理的な理由がない限り,憲法に違反し無効というべきである。

3  前提事実及び証拠(乙1)をもとに,上記のような見地から,本件定数配分規定の合憲性について検討・判断する。

(1)  本件改正前の参議院議員定数配分規定に基づいて施行された平成22年選挙に係る選挙無効請求訴訟において,平成24年大法廷判決は,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対5.00であったことについて,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨判断した。

平成22年選挙後,4つの選挙区において議員定数を4増4減するという内容の本件改正がなされたが,それでも,本件選挙当日の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.77と5倍に匹敵する程度の較差であり,較差が4倍を超える選挙区が6選挙区あり,較差が3倍を超える選挙区が岡山県を含めて11選挙区(本件改正によって定数が減員された福島県と岐阜県も含まれている。)に及んでおり,投票価値の不平等状態は依然として継続している。

また,選挙区選挙の定数中の過半数を選出するのに必要な選挙区数とその選挙人数を計算すると,47選挙区中最も議員1人当たりの有権者数が少ない鳥取県選挙区から,議員1人当たりの選挙人数が順次増加する府県の選挙区の議員定数を合算していくと,31番目の熊本県選挙区までで選挙区選出議員の過半数を超える74名になるが,その選挙人数の合計は3611万8687人であって,全有権者数の約35%にとどまる。すなわち,全有権者数の3分の1強の投票で,選挙区選出議員の過半数を選出することができるのであって,このような観点からしても,本件定数配分規定の投票価値の不平等さは甚だ顕著であるといえる。

したがって,本件定数配分規定は,本件選挙当時,憲法の投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しており,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていると認められる。

(2)  もっとも,憲法は,両議院の議員の選挙に関する事項は,法律でこれを定めると規定しており(47条),どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているから,投票価値の著しい不平等状態が生じているということをもって,直ちに憲法に違反するということはできず,投票価値の著しい不平等状態が相当期間継続しているにもかかわらず,これを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

前提事実(5)エのとおり,平成17年10月に専門委員会が参議院改革協議会に提出した報告書によれば,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑えることは相当困難があるとされており,平成21年大法廷判決は,平成19年選挙における選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,投票価値の平等という観点から,なお大きな不平等が存する状態であるとした上で,前記の専門委員会の報告書を踏まえて,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図るために,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要になると指摘した上で,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて適切な検討が行われることが望まれると判示している。したがって,国会は,遅くとも,平成21年大法廷判決が言い渡された平成21年9月30日から,単に各選挙区の定数を振り替えるといった改正にとどまるのではなく,参議院議員の選挙制度の抜本的改革を内容とする立法的措置を講じなければならない責務があったといえる。

この点,被告は,平成24年大法廷判決が,初めて,都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みを維持することが,投票価値の不平等という点で違憲の問題を生じさせることを明示したものであって,これまでの大法廷判決と大きく異なる判断をしたとして,選挙制度の抜本的改革を内容とする立法的措置を講じなければならなくなったのは,平成24年大法廷判決の言渡しからである旨主張する。しかしながら,平成24年大法廷判決は,都道府県を選挙区の単位とした選挙制度の仕組みの見直しを明示したという点については,初めての判断であるといえるが,平成21年大法廷判決が,前記のとおり現行の選挙制度を前提にした較差是正の限界を指摘した専門委員会の報告書を踏まえて選挙制度の仕組み自体の見直しの必要性を指摘し,国会において速やかに適切な検討を行うよう要請しているのであるから,この選挙制度の仕組み自体の見直しの中には,当然,都道府県を選挙区の単位とする選挙制度の見直しも含まれていると解される。平成24年大法廷判決は,昭和52年選挙から5倍前後の最大較差が常態化する中で,平成16年大法廷判決において,複数の裁判官の補足意見により較差の状況を問題視する指摘がされ,平成18年大法廷判決において,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされ,平成21年大法廷判決において,投票価値の大きな不平等状態の是正のために選挙制度の仕組み自体の見直しが速やかに必要であると指摘されたにもかかわらず,国会が選挙制度の仕組みについての抜本的な見直しを講じることなく,平成22年選挙において5倍の最大較差を生じさせていたことを踏まえて,国会が講じるべき是正措置についてより明示的に指摘したのであって,これまでの大法廷判決と大きく異なる判断をしたものではない。

ところで,平成21年大法廷判決においても指摘されているとおり,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要するといえる。

しかしながら,平成21年大法廷判決から本件選挙までの間,約3年9か月の期間が存在し(顕著な事実),前提事実(5)オのとおり,平成22年5月21日には,参議院改革協議会座長から参議院議長に対して,平成22年選挙後,平成25年の通常選挙(本件選挙)に向け,選挙制度の抜本的な見直しの検討を直ちに開始し,平成23年中に公職選挙法改正案を提出する旨の報告がされたにもかかわらず,結局は,4選挙区において議員定数を4増4減するという本件改正にとどまり,本件選挙までに選挙制度の抜本的見直しを講じた具体案を国会に上程することすらしておらず,国会が選挙制度の改革に真摯に取り組んでいたというには大きく疑問が残る。

そして,本件改正の附則には,平成28年選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれているが,前記のとおり,平成22年5月の時点では,本件選挙までに参議院議員の選挙制度の抜本的見直しを行うとされながら,これを行わずに従前どおり,選挙区の定数の振り替えを内容とする本件改正に至ったこと,本件選挙後の選挙制度の改革に向けての検討状況を見ても,前提事実(5)キのとおり,平成25年から平成26年にかけての選挙制度協議会における協議や各会派における検討を経た上で,平成26年中に見直し案を取りまとめ,平成27年中に見直し法案を提出するという予定を確認するにとどまり,いまだ,選挙制度の抜本的な見直しに向けて具体的・本質的な協議が行われているとは認められない。以上に照らすと,本件改正の附則どおりに,平成28年選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しをした法案が成立するという見通しは,甚だ不透明であるといわざるを得ない。

被告は,平成24年大法廷判決は,4選挙区において議員定数を4増4減するにとどまるという本件改正のもとで本件選挙が施行されることを予想していたものであって,本件選挙が昭和40年施行の選挙時以来の低い最大較差において施行されることが,国会の裁量権の限界を超えると判断することを予定していない旨主張する。しかし,平成24年大法廷判決は,あくまでも平成22年選挙における投票価値の著しい不平等状態が,国会の裁量権の限界を超えるか否かを判断するに当たって,平成22年選挙までの国会の検討が現行の制度の仕組み自体の見直しに向けて行われていたものであったとの評価を基礎付ける一つの事情として,本件改正の附則を摘示したものと解され,当然のことであるが,本件選挙が違憲であるか否かを判断したものではない。また,平成24年大法廷判決は,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる不平等状態を解消する必要があると国会に要請しているのであって,「できるだけ速やかに」という文言が,平成24年大法廷判決の言渡しから約3年9か月先の平成28年選挙を指すとは考え難い。

投票価値の著しい不平等状態の是正は,国民主権に直結する極めて重要な問題であることからすれば,他の懸案問題に優先して取り組むべきものであり,東日本大震災の対応や景気回復等国会が取り組まなければならない課題が山積していることを最大限考慮しても,平成17年の専門委員会の報告書において,現行の選挙制度の構造的問題が指摘され,平成21年大法廷判決において,選挙制度の仕組み自体の見直しの必要性を指摘した上で,国会において,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われることが望まれると要請され,平成24年大法廷判決も,「できるだけ速やかに」違憲の問題が生ずる不平等状態を解消する必要がある旨要請されていたにもかかわらず,本件選挙までの間に,投票価値の著しい不平等状態を是正する案を国会に上程すらできなかったことについて合理的理由があるとはいえない。

以上のような事情を考慮すれば,本件選挙までの間に,国会が,投票価値の著しい不平等状態を是正する措置を講じなかったことは,国会の裁量権の限界を超えるものといわざるを得ず,本件定数配分規定は,憲法に違反するに至っていたといえる。

(3)  なお,本件定数配分規定は,議員総数と関連させながら,複雑,微妙な考慮の下で決定され,一定の議員総数の各選挙区への配分として相互に有機的に関連するものであり,その意味で不可分一体をなすと考えられるから,全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解される(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁参照)。

4  本件選挙の効力について

前記のとおり,本件定数配分規定は,憲法に違反し,無効というべきであるから(憲法98条1項),憲法に違反する本件定数配分規定に基づいて施行された本件選挙のうち岡山県選挙区における選挙も無効とすべきである。

選挙を無効とする旨の判決の効果については,憲法に違反する法律は原則として当初から無効であり(憲法98条1項),これに基づいてなされた行為の効力も否定されるべきであるから,無効判決の対象となった選挙により選出された議員がすべて当初から議員としての資格を有しないと解する余地がある。しかし,このように解すると,既にこれらの議員によって組織された参議院の議決を経た上で成立した法律等の効力にも問題が生じるという憲法が所期しない著しく不都合な結果を招くことになるから,このような解釈は採用できない。本件選挙訴訟は,将来に向かって形成的に無効とする訴訟である公職選挙法204条に基づくものであることにかんがみれば,無効判決確定により,当該特定の選挙が将来に向かって失効するものと解すべきである。

なお,本件選挙において,無効判決が確定した一部の選挙区における選挙のみ無効とされ,他の選挙区における選挙はそのまま有効とされた場合には,本件定数配分規定の改正を含むその後の参議院の活動が,選挙を無効とされた選挙区から選出された議員を欠いた状態で行われることになる。また,原告の主張によれば,本件選挙について,47選挙区の全ての選挙において選挙無効訴訟が提起されているというのであるから,全ての選挙区選出議員を欠く状態になることも考えられる。このような状態は,憲法上望ましい姿ではない。

しかしながら,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であること,無効判決がなされても,無効判決が確定した選挙区における選挙の効力についてのみ,判決確定後将来にわたって失効するものと解されること,仮に本件選挙における47選挙区の全ての選挙が無効になったとしても,平成22年選挙によって選出された議員と本件選挙における比例代表選挙による選出議員は影響を受けず,これらの議員によって,本件定数配分規定を憲法に適合するように改正することを含めた参議院としての活動が可能であることなどを考慮すれば,長期にわたって投票価値の平等という憲法上の要請に著しく反する状態を容認することの弊害に比べ,本件選挙を無効と判断することによる弊害が大きいということはできない。

したがって,現在国会において選挙制度の仕組み自体の見直しを含む改革に向けての検討が行われていることを十分考慮しても,本件選挙を違憲としながら,選挙の効力については有効と扱うべきとのいわゆる事情判決の法理を適用することは相当ではない。

5  結論

以上によれば,本件定数配分規定は憲法に違反し無効であり,本件定数配分規定に基づいて施行された本件選挙のうち岡山県選挙区における選挙も無効であるといわざるを得ないから,原告の請求は理由がある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 濱谷由紀 裁判官 山本万起子)

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