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広島高等裁判所岡山支部 平成27年(ネ)54号 判決 2015年7月16日

岡山県<以下省略>

控訴人兼被控訴人(1審原告)

X(以下「1審原告」という。)

同訴訟代理人弁護士

大本崇

栢野万里恵

東京都中央区<以下省略>

被控訴人兼控訴人(1審被告)

SMBCフレンド証券株式会社(以下「1審被告」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

白石康広

主文

1(1)  1審原告及び1審被告の本件各控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告は,1審原告に対し,818万7771円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  1審原告のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを2分し,その1を1審原告の負担とし,その余を1審被告の負担とする。

3  この判決は,第1(2)項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  1審被告は,1審原告に対し,1647万2542円及びこれに対する平成22年3月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  1審被告

(1)  原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  同取消しに係る1審原告の請求を棄却する。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,1審被告との間で金融商品の取引(以下「本件取引」という。)を行っていた1審原告が,1審被告に対し,取引を担当した1審被告の従業員の勧誘行為に適合性原則違反,説明義務違反,過当取引及び実質一任売買の違法があるとして主位的に不法行為(使用者責任)に基づき,予備的に1審被告に受託者としての善管注意義務違反があったとして債務不履行に基づき,損害賠償金1699万9983円(損失額相当の1545万4983円と弁護士費用154万5000円の合計)及びこれに対する取引終了日である平成22年3月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案の控訴審である。

原判決は,1審原告の請求につき,571万0216円及びこれに対する平成22年3月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。これを不服として,1審原告及び1審被告がそれぞれ本件各控訴をし,1審原告が前記第1の1(2)のとおり請求を減縮した。

なお,書証については,特に断らない限り,枝番号を含む。

2  前提事実(当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

次のとおり改めるほかは,原判決2頁6行目から同3頁5行目までと原判決添付別紙「原告被告間の入出金及び各外貨勘定の入出金の状況」,同「取引一覧表(国内株式)」,同「取引一覧表(国内投資信託)」,同「国内投資信託」(ただし,No.6の商品名の「BRIC」を「BRICs」と改める。以下同じ。),同「外国債券・株式等取引一覧表【訂正】」,同「外国債(訂正)」,同「外国投資信託(訂正)」(ただし,No.1及びNo.5の「投資対象」欄の「日経平均連動債社」をいずれも「日経平均連動社債」と改める。以下同じ。),同「外国仕組債(訂正)」及び同「外国株式銘柄一覧表」(原判決46頁から同58頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁1行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「イ 国内投資信託とは,国内で日本の法律に基づいて設定される投資信託のことであり,外国投資信託とは,外国の法律に基づき外国の投資運用会社によって設定・運用される投資信託のことである。

外国債券とは,通貨,発行場所,発行者のいずれかが外国である債券のことである。

仕組債とは,有価証券店頭デリバティブ(金融派生商品)を組み入れた債券である。」

(2)  原判決3頁2行目の「イ」を「ウ」と改める。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

次のとおり改めるほかは,原判決3頁7行目から同16頁18行目までと原判決添付別紙「取引経過一覧表」(原判決59頁から同133頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁12行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引を勧誘してこれを行わせたときは,当該行為は,不法行為上も違法となる。そして,顧客の適合性を判断するに当たっては,単に取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある(最高裁平成15年(受)第1284号同17年7月14日第一小法廷判決(民集59巻6号1323頁参照。以下「最高裁平成17年7月14日判決」という。)。」

(2)  原判決6頁7行目の「投資信託としてのリスクの程度も中程度であって」を「株式会社格付投資情報センター(以下「格付投資情報センター」という。)によれば,RC3,すなわち価格変動リスクが5%超15%以下,基準価額の変動が中程度のファンドとされており(甲18,23)」と改める。

(3)  原判決6頁13行目の「国内株式」から同頁17行目の「困難であった。」までを次のとおり改める。

「1審原告が勧誘を受けた国内投資信託は,いずれも外国の債券や株式に投資するものであり,しかも,格付投資情報センターの評価ではいずれもリスククラス3以上となっており安全なものは一つもないから,投資についての知識・経験のない1審原告にとって,その投資リスクの内容や程度を判断することはできないものであった。また,外国投資信託は,いずれも10年物の投資であるところ,当時60歳を超えていた1審原告には10年も保有し続けなければならない投資信託に投資する意向はなかった。しかも,外貨建日経平均連動社債に投資する投資信託であるから,為替変動リスク等の様々なリスクがある上,参照日に当初日経平均株価以下である場合には収益分配がなされないから,日経平均株価の推移についての見通しが必要であるが,1審原告は,このような各種リスクを判断する知識や能力はなく,日経平均株価の推移についての相場観も見通しもなかった。外国債券についても,1審原告にはそのリスクを判断することはできなかった。特に外国仕組債にいたっては,これらの仕組債が,利息の利率,償還時期,償還額のそれぞれが日経平均株価により変動するものであり,クーポン判定価格,トリガー価格,ノックイン価格というそれぞれ別個の3種類の基準によって定められることから,その仕組み自体が複雑であり,容易に理解できないから,投資経験や証券取引の知識のない1審原告に外国仕組債を勧誘することは著しく適合性原則に反する。また,国内株式については,1審原告は極めて多岐にわたる業種の株式の投資に勧誘されているから,広範囲に及ぶ業種のそれぞれの会社の業績に関する情報を収集,分析して投資するか否かを判断する必要があるが,1審原告にはそのような知識や能力がないにもかかわらず,3年程度の間に27銘柄の株式を次々と売買させられている。外国株式については,国内株式と比べて,為替変動リスクを考慮しなければならない上,価格変動の要因等についての情報収集が困難であるから,高い適合性が要求されるところ,1審原告には勧誘された外国株式の情報を収集する手段もなかった。にもかかわらず,Cは,平成21年4月から同年10月までの約半年間に14社の一般には知られていない外国の会社の株式を勧誘し,平成21年10月には1200万円を超える買付総額に至っている。」

(4)  原判決7頁23行目の「平成17年10月」を「平成17年9月」と改める。

(5)  原判決8頁17行目末尾に次のとおり加える。

「外国仕組債についても,その条件は販売用資料(乙28等)から容易に理解できるものであり,その条件からすれば当該仕組債のリスクも容易に理解できる。それ以上に発行体がどのようにして利息を支払うのかなどの仕組みを理解できなければ投資判断ができないということはない。1審原告が買付した外国投資信託及び外国仕組債は,日経平均株価に連動する点で外国債券よりはリスクは高いものの,単一銘柄の株式取引と比較すればリスクは低い取引である。投資の本質は,将来の不確実な事象に資金を投じることであるところ,10年間にわたる日経平均株価の動向等は誰にも予測できるものではなく,これが困難であるからといってリスクが高い取引であるとはいえない。」

(6)  原判決9頁17行目の「説明する義務を負う。」を「説明する信義則上の義務を負う。」と改める。

(7)  原判決11頁18行目を次のとおり改める。

「 また,平成19年の春から夏以降,サブプライム・ローン問題の影響が欧州を含めた国際金融市場全体に広がっており(甲171),証券取引の専門家である1審被告としては,このような情報を容易に収集し予測できたと考えられるから,誠実公正義務を負う1審被告は,1審原告に対し,この点についても情報提供し,その危険について説明する義務があったといえるが,1審原告に何ら説明することなく,この時期に国内株式や国内投資信託の買付を勧誘したため,サブプライム・ローン問題やリーマン・ショックによる損失が生じている。

(1審被告の主張)

投資信託が信託財産をどのような金融商品で運用するかによってその特色が形作られることからすれば,投資信託の買付を提案する際の説明義務の内容としては,当該投資信託の主な投資対象及び当該投資信託の主な投資対象に起因する主なリスクである。なお,格付投資情報センターが公表しているリスク分類は,投資信託の過去の基準価額の変動を基準とするものであり,平成19年7月下旬頃から発生したサブプライム・ローン問題やリーマン・ショック等世界的に債券相場,為替相場及び株価が暴落した時期における基準価額の変動を基準にしたリスク分類は,当該投資信託の正確なリスクを反映したものとはいえない。また,債券の買付を提案する際の説明義務の内容としては,当該債券の条件(満期,利率,償還条件等)及びその条件による主なリスクである。国内株式の買付を提案する際の説明義務の内容としては,株式取引に価格変動リスクと信用リスクがあることは周知の事実であり,一般投資者が国内株式の投資情報を入手することは極めて容易であるから,個々の銘柄の買付を提案する際にその都度これらを説明する必要はなく,新興市場の銘柄の場合にその市場の特性についての説明が必要になる程度である。外国株式についても,インターネット接続環境があれば,投資情報を入手することが可能であるから,外国株式取引開始当初に為替リスクについて説明する義務はあるが,個別の銘柄の買付の提案の際,その都度為替リスクについて説明する必要はない。」

(8)  原判決12頁11行目の「年次売買回転率」を「年次売買回転率(米国の判例では6回を超えると過当取引とみなされる。)」と改める。

(9)  原判決14頁10行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 年次売買回転率は,株式の長期保有が主流であった米国において昭和60年代に主張されていたものであり,長期保有によって株式が無価値になる事態も生じ,また,経済成長が鈍化した現在の社会経済情勢下では株式の短期売買が主流であるから,これによって勧誘の違法性を基礎付けることはできない。」

(10)  原判決16頁4行目から同頁14行目までを次のとおり改める。

「(2) 1審被告の不法行為責任又は債務不履行責任の成否(争点2)

(1審原告の主張)

本件取引は,取引の経過から明らかなように,Bの勧誘により購入したグローバル・ソブリン・オープン(毎月分配型)の売却金が,Cの勧誘によって次々とリスクの高い商品に乗換売買をさせられて,その過程で損失が生じていったものであるから,取引行為全体を不可分一体のものとしてみるべきであり,全体として社会的相当性を逸脱しているから,1審被告は不法行為責任(使用者責任)を負う。

また,1審被告の行為は,受託者としての善管注意義務に違反したものであるから,1審原告に対して債務不履行責任を負う。

(1審被告の主張)

前記の1審被告の主張のとおり,1審被告の担当者による違法な勧誘行為がなされた事実はなく,本件取引全体について不法行為が成立するほどの強度の違法性があるとはいえない。

債務不履行責任については,1審被告は,国内株式については売買の委託を受けているが,それ以外については,相対取引であって売買の委託を受けていないから,売買の委託を前提とした1審原告の主張は,失当である。また,契約の一方当事者が契約の締結に先立ち説明義務に違反したとしても,債務不履行責任は成立しない(最高裁平成20年(受)第1940号同23年4月22日第二小法廷判決・民集65巻3号1405頁参照。)。

(3) 1審原告の損害額(争点3)

(1審原告の主張)

ア 本件取引による損害 1497万5542円

本件取引において1審原告が1審被告に預託した金員の総額は,2272万5160円であり,1審被告から返金を受けた総額は704万5917円である。また,1審原告は,平成26年7月29日に本件取引終了時点で保有していたダイキン工業株100株を70万3701円で売却した。

したがって,本件取引による1審原告の損害額は,1497万5542円(2272万5160円-704万5917円-70万3701円)である。

なお,仮にBによる勧誘行為については不法行為が成立しないとしても,Bの担当期間中に入金された200万円は,その後,Cの勧誘によってリスクの高い金融商品に乗換売買させられて(甲170),返金されなかったから,上記損害額から200万円を控除すべきではない。

イ 弁護士費用 149万7000円

ウ 合計 1647万2542円

なお,遅延損害金の始期は,損失額が確定した日の翌日である平成26年8月2日ではなく,最終不法行為日である本件取引終了日の平成22年3月4日である。」

(11)  原判決16頁17行目から同頁18行目までを次のとおり改める。

「 なお,遅延損害金の始期は,損失額が確定した日の翌日の平成26年8月2日である。」

(12)  原判決16頁18行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「(4) 過失相殺の成否(争点4)

(1審被告の主張)

仮に1審被告に何らかの責任が認められたとしても,本件で顕れた一切の事情からすれば大幅な過失相殺をすべきである。

(1審原告の主張)

本件取引は,適合性に反するものであり,そもそも1審原告に自己責任を問える前提を欠くため,過失相殺をすることは理論的ではない。また,本件取引における勧誘行為の違法性の高さや相対取引による1審原告の損失が1審被告の利益となっていることからすれば,過失相殺をすることは許されない。貯蓄から投資へという政策スローガンのもと社会経済が変化している中で,損失を生じるおそれがある投資取引を行うこと自体を過失相殺の事情として考慮することは酷であるし,利益を期待することは,人間として普通の素直な心情であり,特に1審原告の置かれた状況(60代の寡婦であり,資産が十分でなく老後の生活に不安がある。)からすれば,少しでも財産が増えてくれればと期待することは無理からぬものである。

以上によれば,本件において過失相殺をすべきではない。」

第3当裁判所の判断

1  事実経過等

次のとおり改めるほかは,原判決16頁21行目から同36頁26行目までと原判決添付別紙「取引一覧表(国内株式)」,同「取引一覧表(国内投資信託)」,同「国内投資信託」,同「外国債券・株式等取引一覧表【訂正】」,同「外国債(訂正)」,同「外国投資信託(訂正)」,同「外国仕組債(訂正)」及び同「外国株式銘柄一覧表」(原判決48頁から同58頁まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決16頁21行目から同頁24行目までを次のとおり改める。

「 前提事実,証拠(甲1,30ないし39,41ないし52,107,108,117,121,153,161ないし168,170,乙1ないし99,101,103,107ないし110,証人C,1審原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。」

(2)  原判決19頁3行目末尾に次のとおり加える。

「なお,「グローバル・ソブリン・オープン(毎月分配型)」の売却金は,「短期豪ドル債オープン(毎月分配型)」の買付資金194万8465円にあてられた(甲1,170)。」

(3)  原判決19頁12行目の「平成18年1月13日」から同頁16行目末尾までを次のとおり改める。

「平成18年1月13日,ライブドア500株を1株697円,手数料等を含めて35万3256円,GSユアサ1000株を1株389円,手数料等を含めて39万4309円で買い付けた(乙3,4)。

ところが,ライブドアの株価が下落し始め,1審原告は,Eから早く売らなければ紙切れになるなどと言われたため,同年2月6日,ライブドア500株を1株102円で売却し,手数料等を含めて30万6456円の損失を受けた(甲107,117,乙3,4)。」

(4)  原判決22頁19行目から同23頁13行目までを次のとおり改める。

「 上記販売用資料には,同ファンドが,世界各国の株式を実質的な主要投資対象とし,安定的な配当収入の確保を追求するとともに,中長期的な値上がり益の獲得を目指すものであること,原則として,毎月収益分配を行うこと,原則として為替ヘッジは行わないこと,ファミリーファンドの形式で運用を行うことが比較的大きな文字で記載され,最終頁に比較的小さな文字で「ファンドのリスクについて」として,当ファンドは,マザーファンド受益証券への投資を通じて,株式などの値動きのある証券(また,外貨建資産に投資する場合には,このほかに為替変動リスクもある。)に投資するため,基準価額が変動する。したがって元本が保証されるものではない。当ファンドの基準価額は,①株価変動リスク(実質的に組み入れている株式の値動きにより基準価額が変動する。),②為替リスク(外貨建資産に投資する場合,為替変動の影響を受ける。),③信用リスク(組入有価証券等の発行企業の経営不安,倒産,債務不履行等により基準価額が下落することがある。)により変動する旨記載されていた。目論見書は,証券情報及びファンド情報として39頁にわたって記載され,投資リスクについても記載されていた。Cは,販売用資料に従って当該商品の概要やリスクの要点を説明し,安定的な配当収入の確保が期待できると述べて買付を勧誘した。」

(5)  原判決25頁7行目の「同月26」を「同月26日」と改める。

(6)  原判決27頁2行目から同頁18行目までを次のとおり改める。

「 Cは,1審原告に対し,上記外国投資信託の販売用資料(乙22)及び投資信託説明書(目論見書)(乙23)を交付した。上記販売用資料(乙22)には,ファンドの仕組みとして,豪ドル投資元本をファンドが豪ドル建日経平均連動社債により運用し,豪ドル建てによる収益分配金や投資元本の償還を行うという図が記載され,ファンドの特徴として,豪ドル投資元本に対する収益分配金の支払合計がターゲット水準以上になった場合,早期償還され豪ドル投資元本を早期に確保すること,3か月毎の参照日における日経平均終値が当初日経平均を上回っている場合,その上昇率が収益分配金として支払われること,ただし,当初の日経平均以下の場合は収益分配金は支払われないこと,早期償還日及び満期償還日における豪ドル投資元本の確保をすることが記載され,収益分配金の計算と早期償還の例や収益分配金の計算と満期償還について例と各イメージ図が記載され,満期償還日が2016年12月20日であること,クローズド期間が2006年11月29日から2007年10月31日までであること,クローズド期間中は原則換金(買戻)ができないことなどが比較的小さな文字で記載され,最終頁に「ファンドの主な投資リスクについて」という表題で,比較的小さな文字で,毎月1回の換金が可能であるが,クローズド期間には換金ができないこと,ファンドが豪ドル建てであるので,収益分配金や償還金を円に換算するときには為替変動リスクがあること,ファンドの純資産価格は,ファンドに組み入れられている有価証券(日経平均連動社債)の値動き,元本確保提供会社を務めるBNPパリバ銀行の信用リスク・経営破綻,金利の変動等によって上下するので,1口当たりの純資産価格は投資元本を下回ることがあるなどと記載されている。そして,目論見書(乙23)は,全体で39頁にわたり,17頁から投資リスクについて記載されており,「ファンドへの投資は大きなリスクを伴うものである。」,「投資者は,ファンドへの投資の全部または大部分を喪失する可能性がある。」などと記載されている。

Cは,1審原告に対して,当該商品の概要とリスクの要点を説明する(ただし,目論見書の上記投資リスクに関する箇所を読み上げることはしていない。)とともに,通貨の安定性を考えればニュージーランドドルよりも豪ドルで運用してはどうか,現在の日経平均の水準が安いと思われるので,今後日経平均が上昇すれば,毎月分配金が得られるなどと言って買付を勧誘した。

1審原告は,上記外国投資信託の内容やリスクについて十分に理解することはできず,また,販売用資料や目論見書の上記の投資リスク欄を読むことなく,Cに勧められるままに,上記外国債券を売って,上記外国投資信託を買うことにした。」

(7)  原判決27頁24行目の「同日」を「平成18年11月9日」と改める。

(8)  原判決28頁5行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 上記販売用資料(乙25)には,ファンドの仕組みとして,豪ドル投資元本をファンドが豪ドル建日経平均連動社債により運用し,豪ドル建てによる収益分配金や投資元本の償還を行うという図が記載され,ファンドの特徴として,3か月毎の参照日における日経平均終値が当初日経平均を上回っている場合,当初日経平均に対する上昇率の125%(ギアリング係数)が収益分配金として支払われること,ただし,当初の日経平均以下の場合は収益分配金は支払われないこと,豪ドル投資元本に対する収益分配金の支払合計がターゲット水準以上になった場合,早期償還され豪ドル投資元本を早期に確保すること,早期償還日及び満期償還日における豪ドル投資元本の確保をすることが記載され,収益分配金の計算と早期償還の例や収益分配金の計算と満期償還について例と各イメージ図が記載され,満期償還日が2017年1月24日であること,クローズド期間が2006年12月28日から2007年11月30日までであることが記載され,最終頁に「ファンドの主な投資リスクについて」という表題で,比較的小さな文字で「プロテクトⅡ06-11」と同様のリスクが記載されている。また,目論見書(乙26)は,全体で37頁にわたり,16頁からリスクが記載され,「プロテクトⅡ06-11」と同様の記載がされている。」

(9)  原判決28頁14行目から同29頁18行目までを次のとおり改める。

「 その後,1審原告は,平成20年1月22日,Cの勧誘によって,後記エの「SMBCフレンドBNPパリバ豪ドル建早期償還・収益分配金確保条項付償還時元本確保型デリバティブファンド08-01(日経平均連動分配型)愛称シェルパ08-01(豪ドル建分配型)」の買付資金に充てるため,上記利付国債を99万0936円で売却した。

ウ 外国仕組債の取引開始

Cは,平成19年1月19日,1審原告に対し,外国仕組債である「ビー・エヌ・ピー・パリバ2017年1月26日満期ユーロ米ドル建期限前償還条項付日経平均株価連動デジタルクーポン社債」のリーフレット(乙28)と目論見書(乙29)を交付して,その買付を勧誘した。

上記リーフレット(乙28)には,満期償還日が2017年1月26日であること,当初価格が2007年1月26日における日経平均株価終値であること,利率が当初3か月は年8%であり,その後は各利払期日の10取引所営業日前の日経平均株価終値がクーポン判定価格(当初価格×80%)以上の場合は年率8%,クーポン判定価格未満の場合は年率0.1%であること,期限前償還として,各利払期日の10取引営業日前の日経平均株価終値がトリガー価額(当初価格×103%)以上の場合,当該利払期日前に額面金額100%で期限前償還されること,満期償還として,ノックイン事由(日経平均株価が全ての取引時間帯で一度でもノックイン価格(当初価格×58%)が発生しなかった場合は額面金額100%で償還されるが,ノックイン事由が発生した場合には,額面金額×最終評価価格÷当初価格の算定に従い償還されると記載され,利率イメージ図と償還イメージ図が記載され,「ご投資に当たっての留意事項」という表題で,価格変動リスク,為替変動リスク,利率変動リスク,期限前償還による再運用リスク,信用リスク,流動性リスクがあるなどと記載されていた。目論見書(乙29)は,全体で65頁以上にわたり,最初に概要としてリーフレットと同様のリスクの記載がされ,2頁目から3頁目にかけて「本社債の投資のリターンは,日本国の株式市場および日本円/米ドルの為替相場の動向により影響を受ける。かかるリスクに耐え,かつ,リスクを評価しうる経験豊富な投資家のみが,本社債の投資に適している。」と記載されている。

Cは,当該商品の概要とリスクの要点を説明する(ただし,目論見書の上記リスクに関する箇所を読み上げることはしていない。)とともに,米ドルの資産を増やしてはどうか,今後日経平均は上昇しそうであるから年8%の利息を確保できるのではないかなどと述べて買付を勧誘した。

1審原告は,当該外国仕組債の内容についてほとんど理解できなかったが,Cの勧誘に応じて買い付けることにした。Cは,1審原告に対し,仕組債に係る重要事項説明書(甲37)及び確認書(乙30)を交付し,1審原告は,「仕組債」投資の重要事項の説明を受け,その商品性,取引の仕組み及び投資リスクについて確認し,十分に理解した,また,受領した「目論見書」及び「商品概要のご案内」も読み内容を確認したなどと不動文字で記載された確認書に署名捺印した上,重要事項説明書と割印して切り離し,確認書をCに差し入れた。

平成19年1月19日,同社債額面2万5000米ドルの買付がなされた。」

(10)  原判決29頁25行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 これらの商品の概要は,別紙「外国債(訂正)」のNo.3,同「外国投資信託(訂正)」のNo.3ないしNo.5,同「外国仕組債(訂正)」のNo.1及びNo.2のとおりであり,「愛称マックスターン07-06(豪ドル建分配型)」の目論見書(乙32)及び「愛称シェルパ08-01(豪ドル建分配型)」の目論見書(乙51)には,投資リスクとして,「ファンドへの投資は大きなリスクを伴うものである。」,「投資者は,ファンドへの投資の全部または大部分を喪失する可能性がある。」などと記載され,「デリバティブファンド07-09(日経平均連動分配型)」の目論見書(乙43)には,投資リスクとして「ファンドに対する投資は高度のリスクを伴い,投資家の投資の全額を失うことに対する保証はない。」などと記載されていたが,1審原告が買付前にこれらの記載を読むことはなく,Cからもこのような説明はされなかった。」

(11)  原判決30頁9行目の「勧めたものであり,」を次のとおり改める。

「勧めたものであり(もっとも,平成19年1月25日の三井造船株の買付の勧誘については,1審原告が,知人から勧められたという話をしたものの,その後,国内株式の取引で70万円程度損失が出ているから,当分,買付はしないと断っているのに対し,Cが,「まあそれ(損失)取り返せますよ。うん。でも全体ではもちろんプラスですよ。」と取引全体では損失は生じていないと述べ,「三井造船間違いないと思います。ええ,もう三井造船間違いない。もうこれ,もうこれ以外にない。」,「だって安いもん。」などと述べて積極的に買付を勧誘している(乙108)。),」

(12)  原判決31頁1行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 これらの商品の概要は,別紙「国内投資信託」のNo.2ないしNo.5のとおりであり,ドイチェ・ロシア東欧株式ファンドは,ロシア及び東欧諸国(トルコ,ポーランド,ハンガリー,チェコ等)のいずれかで上場又は取引されている株式を主要投資対象とし,信託財産の中長期的な成長を目指して運用を行う投資信託であり,株価変動リスク,為替変動リスク,カントリーリスク,信用リスク,流動性リスク,大量解約によるファンドの資金流出に伴う基準価額変動リスクがあり(乙37,38),「シュローダーBRICs株式ファンド」は,BRICs(ブラジル,ロシア,インド,中国)の株式を主要投資対象とする投資信託であり,組入株式の価格変動リスク,信用リスクのほか,為替変動リスク,カントリーリスク等がある(乙46,47)。」

(13)  原判決32頁8行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 もっとも,「シュローダーBRICs株式ファンド」は,ブラジル,ロシア,インド及び中国といった比較的値動きが大きい新興国の上場株式を投資対象とする投資信託であり,上記投資信託の基準価額が,平成19年10月19日に買い付けたときには1万3160円であったのが,平成20年2月12日に買い付けたときには9997円,同月13日に買い付けたときには1万0242円と平成19年10月19日時点よりも下落しており,これら200口を平成20年9月2日に売り付けた際には,合計60万8296円の損失となった。」

(14)  原判決32頁17行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

「 これらの商品の概要は,別紙「国内投資信託」のNo.6及びNo.7,同「外国債(訂正)」のNo.4ないしNo.6,同「外国投資信託(訂正)」のNo.6,同「外国仕組債(訂正)」のNo.3のとおりである。国内投資信託である「HSBC・BRICsオープン」は,BRICs各国の上場株式を投資対象とする投資信託であり,販売用資料(乙54)には,新興国市場の有価証券は一般的に値動きが大きいため,基準価額の下落により,投資元本を割り込むことがあると記載されており,「SMBCフレンド・HSBCブラジル債券ファンド(毎月決算型)」は,主にブラジルの政府,政府機関若しくは企業等の発行する現地通貨建債券に投資する投資信託であり,投資対象にはデリバティブ取引による権利も含まれている(乙81)。外国債券である「南アフリカランド建世界銀行債」は,世界銀行(国際復興開発銀行」を発行体とし,受取利金及び償還金額がいずれも南アフリカ共和国の法定通貨であるため,為替相場の変動により円貨で受け取る際に当初の投資元本を大きく割り込む可能性がある債券である(乙67,68,73,74,77,78)。外国仕組債である「ロイヤルバンク・オブ・スコットランド・ピーエルシー2018年9月25日満期ユーロ豪ドル建期限前償還条項付日経平均株価連動デジタルクーポン社債は,発行会社をロイヤルバンク・オブ・スコットランド・ピーエルシーとする日経平均株価に連動した仕組債であり,①満期償還日が2018年9月25日,②当初価格が2008年9月26日における日経平均株価終値,③利率が当初3か月は年10%,その後は各利払期日(年4回)の10取引所営業日前の日経平均株価終値がクーポン判定価格(当初価格×80%)以上の場合は年率10%,クーポン判定価格未満の場合は年率0.1%,④各利払日の10取引営業日前の日経平均株価終値がトリガー価額(当初価格×103%)以上の場合,当該利払日前に額面金額100%で期限前償還される,⑤ノックイン事由(日経平均株価が全ての取引時間帯で一度でもノックイン価格(当初価格×56%)以下になること)が発生しなかった場合は額面金額100%で償還されるが,ノックイン事由が発生した場合には,額面金額×(最終評価価格÷当初価格)により計算される償還金額で償還されるものであり(乙62),目論見書(乙64)には,「本社債が全ての投資家に適する投資であるとは限らない」として,本社債に投資するには以下の条件を備えているべきであるとして,「本社債,本社債に対する投資の利点及びリスク,並びに本書中の情報の有意義な評価を行うのに十分な知識及び経験を有すること」,「本社債に対する投資及びかかる投資が自らの投資ポートフォリオ全体に及ぼす影響を自身の財務状況に照らして評価するため,適切な分析ツールを利用することができ,かつかかるツールについての知識を有すること」,「本社債に対する投資リスク全額を負担するのに十分な資力及び流動性を有していること」,「本社債の条件を完全に理解し,関連金融市場の動向に熟知していること」並びに「(単独であるいは金融アドバイザーの助力を得て),経済,金利その他自らの投資及び自らの関連リスク負担能力に影響を及ぼしうる要因について起こりえるシナリオを評価することができること」と記載されている。Cは,上記目論見書の上記外国仕組債の投資条件に1審原告が適合するか否かを検討することなく1審原告に上記外国仕組債を勧誘し,1審原告は,これらの販売用資料や目論見書を読むことなく,上記外国仕組債の内容やリスクについてほとんど理解できなかったが,Cの勧誘に応じて買い付けた。」

(15)  原判決33頁19行目の「ところが,ヒューリック株は」を「ところが,日経平均株価は,平成20年10月下旬頃でも不安定であり,同月28日には7621円92銭と最安値をつけ,その後も,一進一退の状態であり(甲167),ヒューリック株も」

(16)  原判決35頁6行目の「得た。」を「得たが,売却代金は,後記ウの外国株式の買付資金に充てられた。」と改める。

(17)  原判決36頁16行目から同頁26行目までを次のとおり改める。

「 そして,同日,1審原告が当時保有していた外国株式「Sun Hung Kai Properties Ltd」及び外国投資信託「SMBCフレンドBNPパリバ豪ドル建早期償還・収益分配金確保条項付償還時元本確保型デリバティブファンド08-06(日経平均連動分配型)愛称:シェルパ-08-06(豪ドル建分配型)」が売り付けられ,同年3月4日,ダイキン工業株100株が野村證券倉敷支店の1審原告名義の取引口座へ移管され,1審原告に対し,本件口座に残っていた517万1566円が返金され,本件取引は終了した(甲1,乙3,4)。

ウ 1審原告は,平成26年7月29日,野村證券倉敷支店において,ダイキン工業株100株を1株7130円で売却し,同年8月1日に手数料及び消費税を控除した70万3701円が受け渡された(甲153)。」

2  事実認定の補足説明

次のとおり改めるほかは,原判決37頁2行目から同40頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決37頁9行目の「原告の陳述書(甲117)にはこれに沿う部分がある。」を「1審原告の供述(甲117の陳述記載を含む。以下同じ。)には同主張に沿う部分がある。」と改める。

(2)  原判決37頁10行目の「乙91,92,98,99」を「乙91,98,99,108ないし110」と改める。

(3)  原判決37頁21行目の「あったこと」から同頁23行目の「認められる」までを「あったこと(もっとも,1審原告は,Cに対して,モーニングサテライトは,つけていたが,内容は何も覚えていないと述べたり(乙109),知人からCが勧誘する短期売買の手法は問題であると指摘されたなどとして買付を拒んだりしているが,Cが煽動するような表現で積極的に勧誘をしている(乙98,99,108ないし110)。)が認められる」と改める。

(4)  原判決38頁10行目の「避けられること」を次のとおり改める。

「避けられること(なお,1審原告は,平成21年10月6日,野村證券において野村ホールディングスの株式を56万8000円で買い付けているが,その買付資金は60万円の振込入金によるものである(乙3,4)のに対し,上記東芝の買付資金は手数料込みで144万6875円であるから,1審原告が野村證券において野村ホールディングスの株式を買い付けたことは,上記認定を左右しない。)」

(5)  原判決38頁16・17行目の「証拠(甲117,原告)中にはこれに沿う部分がある。」を「1審原告の供述にはこれに沿う部分がある。」と改める。

(6)  原判決39頁11行目の「しかし」から同頁13行目末尾までを次のとおり改める。

「しかし,前記認定のとおり,1審原告がCの勧誘を断ることもあったのであるから,Cが1審原告に無断で商品の売買の注文を行うということは考え難く,また,証拠(甲62,63,66,67,159,160)によれば,注文伝票は手書きで記載されるのに対し,折衝記録カードはコンピューターに入力する形式になっていることが認められ,折衝記録カードに入力するのが遅くなったためというCの証言が虚偽であるとまでは認められないこと,1審被告は,外国投資信託(甲62)には受注の受付制限時間がないが,国内投資信託(甲63)には受注の受付制限時間があるため,同じ機会に国内投資信託であるドイチェグローバル好配当ファンドの売付と外国投資信託である愛称マックスターン07-06(豪ドル建分配型)の買付がなされても,ドイチェグローバル好配当ファンドの売付が翌日の注文扱いになったにとどまる,折衝記録カード(甲159)の「約定/注文日」欄は,注文伝票(甲160)の受注日時欄記載の時刻に受注した外国証券の約定が成立した日であるなどと主張していることに照らすと,1審原告が主張する折衝記録カードや注文伝票の記載によってCが無断売買をしていたと認めるには足りない。」

(7)  原判決39頁14行目の「Cの陳述書(乙92)には」を「Cの証言(乙92の陳述記載を含む。)及び折衝記録カード(甲66,67,119,128,151,152,159)には」と改める。

3  争点1(1審被告担当者の勧誘行為の違法性又は1審被告の善管注意義務違反の有無)について

(1)  Bの勧誘行為について

証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した証券取引を勧誘してこれを行わせたときは,当該行為は,不法行為上も違法となる。そして,顧客の適合性を判断するに当たっては,単に取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある(最高裁平成17年7月14日判決参照)。

これをBの勧誘行為について検討すると,前記1認定のとおり,1審原告は,Dから同人が1審被告から購入した投資信託を勧められたため,Dから1審被告担当者を紹介してもらい,投資信託について話を聞くこととし,これに応じて,Bが1審原告に対し,国内投資信託である「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の買付を勧めたこと,その当時,1審原告は,月額約20万円の給与と月額約10万円の遺族年金の収入があり,自宅を所有するほかに約2700万円の金融資産を有しており,証券総合取引申込書の「主たるご投資の目的」欄に,「安定重視」ではなく「利回り追求及び値上り益追求」にチェックを入れていた(乙91)ことが認められる。

そして,証拠(乙5,6)によれば,Bが勧誘した「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は,原則としてムーディーズやスタンダード&プアーズ社による格付けがD以上の世界主要先進国のソブリン債券(各国政府や政府機関や国際機関が発行する債券の総称)に分散投資をするという投資信託であることが認められるから,投資リスクがそれほど高いとは認められず(なお,証拠(甲18,23)によれば,格付投資情報センターが上記投資信託をRC3と評価しているが,この評価は,Bが上記投資信託を勧誘した後に発生したサブプライム・ローン問題やリーマンショックにより国際的に債券相場や株価が下落した時期における基準価格の変動を基に分析した結果であることが認められるから,これによってBの勧誘時点における上記投資信託の投資リスクを評価することはできない。),また,勧誘の経緯からしても,Bが1審原告に対して積極的に勧誘したとは認められない。

以上によれば,Bが1審原告の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したとは認められず,Bの勧誘行為が適合性の原則に反する不法行為を構成するものとはいえない。

なお,1審原告は,そもそもDから1審被告を紹介される契機は,ペイオフ対策であるから,基準価額が投資元本を下回る可能性がある「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」を勧誘することは適合性に反すると主張するが,投資元本の保証を求めるという意向であれば,証券総合取引申込書の「主たるご投資の目的」欄の「安定重視」にチェックを入れれば足りると解されるから,1審原告の前記主張を採用することはできない。

また,1審原告は,Bから「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」の販売用資料(乙5)や目論見書(乙6)の交付を受けておらず,投資リスクの説明も受けていないと供述するが,前記1認定事実及び弁論の全趣旨によれば,1審原告は,Cから勧誘され「ニュージーランドドル建ドイツ農林金融公庫債(毎月23日利払い)5.82%」についても販売用資料(乙7)や目論見書(乙8)について見覚えはないと主張しながら,これらの交付を受けたことを前提とする重要事項説明書(甲30)と一体となった確認書(乙9)に署名押印をしていることが認められるから,1審原告の前記供述を採用することはできず,Bに説明義務違反があったと認めるに足りる証拠はない。

ほかに,Bの勧誘行為に何らかの違法性があるとは認められず,また,Bの勧誘により行われた取引に関して1審被告の債務不履行があるとも認められない。

(2)  Cの勧誘行為について

ア 適合性原則違反について

(ア) 1審原告の顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等について

前記1認定事実及び証拠(乙1ないし4,91)によれば,1審原告は,本件口座開設時における証券総合取引申込書には,主たる資金の性格として「余裕資金」,主たる投資目的につき,「安定重視」ではなく,「利回り追求及び値上り益追求」にチェックを入れているが,他方で,基本的な運用期間は,「短期(3カ月未満)」ではなく「中・長期」にチェックを入れていること,1審原告の平成18年3月までの投資経験は,国債やリスクがそれほど高いとはいえない国内投資信託である「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」,国内の上場株式(JFEホールディングス,トヨタ自動車,ライブドア,GSユアサ)の現物取引であり,1審原告は,1審被告との間では,平成17年6月1日と同年7月7日に「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」を買い付けた(合計約200万円)後,Cが担当するようになるまで何ら取引をしていないこと,野村證券倉敷支店での取引については,口座を開設した平成17年12月26日から本件取引が終了した平成22年3月4日までの約4年2か月間に,上記の株式以外に野村ホールディングス,富士通,西部電気,昭和シェル石油,ホンダ,HOYA,コマツの株式を買付け,ライブドア株については,平成18年1月13日には1株697円であったものが,1か月も経たないうちに1株102円に下落したために1か月未満で売却をしており,野村ホールディングスの株式については3か月未満で売却しているが,それ以外は中・長期の保有であることが認められる。

これらの事実によれば,1審原告の投資意向は,リスクがそれほど高くない金融商品を中・長期的に保有するものと認められる。

また,前記1,2認定事実によれば,1審原告は,高校卒業後,電話交換手やa社の検針と集金業務を行っていたというものであり,金融経済に関する知識や経験を得ることができる職務に従事していたわけではないこと,これまでの投資経験も,ライブドア株の暴落により約30万円の損失を受けたという経験はあったものの,Cが担当者となった平成18年3月当時,1審原告の投資経験は,平成元年以降の約18年間で,利付国債の買付2回,MMFの買付1回,国内投資信託1銘柄の買付2回,国内株式の買付4回と売付1回のみであり,投資総額も合計500万円未満であることなどからすれば,1審原告は,複雑な金融商品の内容を理解することや,企業の株価や日経平均株価,為替相場について,過去の価格変動を分析し,将来の価格変動を予測する能力はなかったと認めるのが相当である。

さらに,1審原告は,自宅のほかに約2700万円の金融資産を有し,平成18年3月時点では月額20万円程度の給与と月額10万円程度の遺族年金を得ていたが,年齢が60歳であり,Cも平成21年夏頃に1審原告がa社を退職したことを知っていた(乙92)ことからすれば,証券総合取引申込書の「主たるご資金の性格」欄に「余裕資金」と記載されているとしても,約2700万円の大部分を投資で失ってもかまわないという財産状態ではないことは,Cも認識できたといえる。

(イ) 商品特性等について

a 国内株式について

前記1認定事実によれば,1審原告が行っていた国内株式の取引は,上場株式の現物取引であるから,それほどリスクが高いものとはいえない。

しかしながら,前記1認定事実のとおり,Cが1審原告に勧誘した国内株式の取引手法は,中・長期間の保有ではなく,比較的短期間に売却することによって少額の利益を重ねていくものであり,同一銘柄を何度か買い増したり,一度売り付けた銘柄を再度買い付けたりしたこともあった。証拠(甲129,130)によれば,株式は,価格の短期の変動性が大きく,長期間保有することによって投資リスクを低下させることが認められるから,1審原告が行っていた短期間の売買は,投資リスクを高めるものといえる。

b 国内投資信託について

前記1認定事実によれば,Cが1審原告に勧誘した国内投資信託は,いずれも外国の債券や株式に投資をするという投資信託であるから,為替変動リスクやカントリーリスクがある上,「ドイチェ・ロシア東欧株式ファンド」,「シュローダーBRICs株式ファンド」,「HSBC・BRICsオープン」及び「SMBCフレンド・HSBCブラジル債券ファンド」は,比較的値動きの大きい新興国市場の株式や債券に投資するという投資信託であるから,基準価額が投資元本を大きく下回る危険性があったと認められる。

c 外国債券,外国投資信託,外国株式等について

前記1認定事実によれば,Cが1審原告に勧誘した外国債券及び外国投資信託には,デリバティブ(金融派生商品)に投資する商品や仕組債が含まれており,日経平均株価の値動きによって収益分配金や償還額が変動するものであって,これらの商品の目論見書の投資リスク欄の記載からしても,リスクが高く,相当高度な証券取引の知識と投資経験を有する者を対象とした商品であるといえる。しかも,Cが1審原告に勧誘した外国投資信託の商品名は「元本確保型」と一見すると投資元本が保証される安全な金融商品のように受け取れるが,元本が確保されるのは償還時点での豪ドルであって,円貨に換算される場合の元本ではない上,償還時まで売り付ける際には基準価額が投資元本を下回ることもあり得るから,投資者の誤解を招く危険性がある。

また,外国株式については,Cの証言によっても,1審原告が独自に当該外国株式の値動きやそれに関する情報を入手することは困難であったと認められる上,証拠(甲42ないし52)によれば,Cが勧誘した外国株式は値動きの激しいものであったことが認められる。

(ウ) 前記認定の1審原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等及び1審原告が勧誘を受けた商品特性等並びに前記1認定のCが担当していた期間の本件取引の経過や内容等を総合して検討する。

1審原告が行っていた国内株式の取引は,多岐にわたる業種の株式の投資であるから,広範囲に及ぶ業種のそれぞれの会社の業績に関する情報を収集,分析して投資するか否かを判断する必要があるが,1審原告のそれまでの投資経験等からすれば,1審原告にはそのような知識や能力はなかったと認められる。しかも,前記認定のとおり,国内株式の取引であっても,中・長期の保有ではなく短期間の売買の場合は,投資リスクが高くなる上,1審原告のCの勧誘を受ける前の取引が中・長期保有であり,かつ,野村證券における国内株式の取引が中・長期保有であること,前記1認定の平成19年1月25日のCの三井造船株の勧誘が,1審原告がしばらく買付はしないという意向を示したにもかかわらず,いわば煽動するような表現で勧誘していることや,同年7月5日のCと1審原告の会話内容(乙98,99)からしても,1審原告が,Cに短期間で国内株式を売買することによって損失を受けていることに不満を述べていることなどからすれば,国内株式を短期間に売買するという取引は,1審原告の本来の投資意向ではなく,Cの積極的勧誘によるものと認められる。

そうすると,Cによる国内株式の勧誘は,1審原告の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものと評価できる。

また,Cが1審原告に勧誘した国内投資信託は,いずれも外国の債券や株式に投資するものであるから,為替変動リスクやカントリーリスクがある上,比較的値動きの大きい新興国市場の株式や債券に投資するという投資信託であって,投資元本を大きく下回る危険性がある商品が複数含まれており,1審原告が勧誘された外国債券及び外国投資信託には,デリバティブ(金融派生商品)に投資する商品や仕組債が含まれているが,これらは,リスクが高く,相当高度な証券取引の知識と投資経験を有する者を対象とした商品である上,これらの国内投資信託,外国債券,外国投資信託は,いずれも,その性質上,中・長期の保有に適する商品であり,Cも,1審原告に対して,高い利率の分配金や利払金を受け取れるという趣旨のことを述べて勧誘しているにもかかわらず,比較的短期間で売却をして別の商品の買付(乗換売買)を勧誘していることからすれば,Cは,1審原告の意向や実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したと認められる。

さらに,外国株式は,国内株式と比べて,為替変動リスクやカントリーリスクを考慮しなければならない上,価格変動の要因等についての情報収集が困難であり,Cが1審原告に勧誘した外国株式が比較的値動きの大きい商品であって,後記認定のとおり,リーマン・ショック後の世界経済情勢が不安定な時期に短期間での乗換売買を勧誘していることなどを考慮すると,Cは,1審原告の意向や実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したと認められる。

しかも,Cは,国内株式の勧誘と同時並行して,国内投資信託や外国投資信託,外国債券の取引を勧誘して,短期間の売買や乗換売買を勧誘している。このように,国内株式と並行して国内投資信託,外国投資信託,外国債権の取引を行うと,取引全体の損益を自ら把握することが困難になる。前記1認定事実によっても,1審原告が,国内株式の損益については把握できても取引全体の損益についてCを頼りにしており,自律的なリスク管理を行っていないことが認められる。

また,前記のとおり,1審原告が勧誘された国内投資信託や外国債券,外国投資信託,外国株式は,個別に取引を行う場合であっても,株式相場や日経平均株価の動き,為替相場の動向,世界的な社会経済情勢等の情報を入手,分析して判断することが可能な程度の投資経験と証券取引の知識が必要であり,かつ,投資リスクに耐えられるだけの十分な余裕資産を有している必要があるところ,乗換売買を行う場合には,それ以上に,刻々と変化する国内及び世界的な社会経済情勢等の情報を入手,分析,判断する必要があるから,さらに高度な投資経験と証券取引の知識と十分な余裕資産が必要になるが,前記認定説示の1審原告の投資経験,証券取引の知識,投資意向及び財産状態等によれば,1審原告において,単に,分配金や利払金を得るためにいくつかの国内投資信託や外国債券を買って中・長期的に保有しておくことや国内株式の現物取引を単発的に行って中・長期的に運用することにとどまらず,多様な商品を並行して取引した上,短期間のうちにそれらの商品間で乗換売買を行うについて必要な投資経験や証券取引の知識や十分な余裕資産を具備していなかったと認められる。

にもかかわらず,前記1認定事実のとおり,Cは,1審原告に対してリスクの低い国債や外国債券を売却して,リスクの高い外国投資信託や外国仕組債の買付を勧誘している。さらに,前記1認定事実及び証拠(甲161ないし168,171)によれば,平成19年春から夏にはサブプライム・ローンの問題の影響が欧州を含めた国際金融市場全体に広がっており,平成20年9月15日にはリーマン・ショックが起こり,以後,日経平均株価だけでなく,世界的に経済情勢が不安定であったにもかかわらず,Cは,平成19年春頃以降も,1審原告に対して,国内株式だけでなく,外国の株式や債券に投資する国内投資信託や外国債券,外国投資信託の買付を勧誘し,リーマン・ショックにより国内株式等で大きな損失が生じた後,さらにリスクの高いSMBCフレンド・HSBCブラジル債券ファンドや外国株式の売買を勧誘している。

これらを総合考慮すれば,Cは,1審原告の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したという適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしたと認められるから,不法行為上も違法といえる。

イ 説明義務違反について

前記1認定事実によれば,Cにおいては,国内株式取引に関しては,当該銘柄の会社の概要及び株価の状況並びに自身の相場観を告げ,また,その余の商品の取引に関しては,新規買付の勧誘時に販売用資料やリーフレット,目論見書,重要事項説明書,外国証券内容説明書等を交付して,商品の概要とリスクの要点等を説明している。

しかしながら,前記ア認定説示のとおり,Cの勧誘行為は,適合性の原則から著しく逸脱した違法な勧誘行為であるから,上記のようなCの説明によって,1審原告が自己責任で取引が行える程度に理解することができたとは評価することはできない。

したがって,本件においては,Cの勧誘に説明義務違反があるか否かについて別途判断する必要はない。

ウ 過当取引及び実質一任売買について

1審原告は,本件取引は過当取引であり,実質一任売買である旨主張する。

しかしながら,1審原告が主張する過当取引や実質一任売買であるという違法事由は,Cの主導で1審原告の意向と実情に反した取引が行われたか否かという判断と重なるから,前記アの適合性原則違反の判断において考慮しており,また,短期間の売買や乗換売買等についても,適合性原則違反の判断において,個々の商品特性のみではなく,短期間の売買や多様な商品の取引を同時並行して行うことや乗換売買により投資リスクが増加しているという観点から考慮しているから,本件において,別途,過当取引や実質一任売買の違法性の有無について判断する必要はないと解される。

4  争点2(1審被告の不法行為責任又は債務不履行責任の成否)について

前記1認定事実によれば,本件取引のうちCが担当した期間の取引においても,国債,NZドル建ドイツ農林金融公庫債,NZドル建世界銀行債,豪ドル建世界銀行債等比較的リスクの高くない商品や1審原告が知人等からの情報によって銘柄を選択した国内株式があるが,Cの勧誘によって国債を売却してリスクの高いデリバティブファンドである「愛称シェルパ08-01(豪ドル建分配型)」の買付資金としたり,1審原告が銘柄を選択した東芝株を売却して外国株式の買付資金としたりするなど,そのほとんどがCの勧誘によってリスクの高い商品に乗換売買をしていること,これらリスクの高い外国投資信託や外国仕組債,外国株式の取引によって1000万円超の損失を生じたこと(甲173)が認められるから,Cが担当した取引全体を不可分一体のものとみるべきである。

そして,Cが担当した取引全体について,前記のとおり適合性原則から著しく逸脱した違法な勧誘がなされたと認められるから,1審被告は,不法行為責任(使用者責任)を負う。

そのため,本件取引のうちCが担当した取引に関する1審被告の債務不履行の成否については,判断する必要がない。

5  争点3(1審原告の損害額)について

前記4認定説示のとおり,本件取引のうちCが担当した取引を不可分一体のものとみて,その全体について不法行為の成立を認めたことや,個々の委託契約や売買契約それ自体が私法上は有効であることからすれば,Cの不法行為による損害については,個々の買付代金支出ではなく,取引が終了して損失が確定した時点での取引全体における売買差損と解するのが相当である。

そして,原判決添付別紙「原告被告間の入出金及び各外貨勘定の入出金の状況」によれば,1審原告が本件口座に入金した金額は合計2272万5160円,1審被告から受けた返金の総額は704万5917円であり,かつ,1審原告が本件取引の終了時に保有していたダイキン工業株100株は,平成26年7月29日の約定,同年8月1日の受渡により70万3701円で売却されているから,本件取引全体における売買差損は1497万5542円となる。

なお,Bの勧誘行為には何らの違法性はないが,前記1認定事実によれば,Bが担当していた期間に1審原告が200万円を入金して買い付けた「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は,Cの勧誘によって,売り付けられて,それが「短期豪ドル債オープン」の買付資金として費消され,その後も次々と国内投資信託,外国債券,外国株式と買い換えされて,1審原告に返金されなかった(甲170)から,Bが担当していた期間に1審原告が入金した200万円を上記差損額から控除すべきではなく,1497万5542円をもって,本件取引による1審原告の損害と認めるのが相当である。

6  争点4(過失相殺の可否)について

前記1認定事実によれば,1審原告は,Cが担当する前に,ライブドア株が1か月以内に暴落して投資元本のほとんどを失うという経験をしたことがあるから,国内の上場株式の現物取引であってもリスクがあることを経験的に理解していたといえる。また,1審原告は,平成19年7月時点でも,知人から株式の短期売買をすることによってかえって損失を受けている旨指摘されている。にもかかわらず,1審原告は,その後も,Cの勧誘に応じて国内株式の短期売買を継続し,損失の拡大を招いている。

また,1審原告は,国内の上場株式の現物取引であってもリスクを伴うことを経験的に理解していたのであるから,国内投資信託,外国債券,外国仕組債,ましてや外国株式については,相応のリスクがあることを認識したはずである。にもかかわらず,Cの説明について理解できない部分があったにもかかわらず,それをCに告げることや更なる説明を求めることなく,当該商品の商品性,取引の仕組み及び投資リスクについて確認し十分理解した旨が記載された確認書に署名押印して差し入れている。また,1審原告は,Cから最初に勧誘されたドイツ農林金融公庫債の重要事項説明書(甲30)について,Cから読んでおいてくださいと言われたが,読まなかったと供述している。証拠(甲30)によれば,この重要事項説明書には,「価格変動リスク」,「信用リスク」,「外国債券(外貨建て)に投資する際の為替リスク」,「流動性リスク」,「カントリーリスク」,「その他留意すべき事項」とカギ括弧書で記載され,各リスクの内容が簡潔に記載されていることが認められるから,1審原告がCの言うとおりに重要事項説明書を読んでいれば,外国債券や外貨建ての投資信託には国内株式の取引とは異なるリスクがあることを認識できたはずである。

これらの諸事情によれば,1審原告にも本件取引による損害の発生及び拡大について過失があると認められる。

そして,Cの勧誘の違法性の程度,内容や1審原告の過失の内容,程度等を総合考慮すると,1審原告の損害賠償額を定めるに当たって考慮すべき1審原告の過失割合を5割と認めるのが相当である。

7  損害額

(1)  過失相殺後の損害 748万7771円

(2)  弁護士費用 70万円

本件事案の内容,認容額等本件に顕れた諸事情を総合考慮すると,Cの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用を,70万円と認めるのが相当である。

(3)  合計 818万7771円

(4)  遅延損害金の始期

前記1認定のとおり,本件取引の終了時は平成22年3月4日であるが,本件取引において買い付けたダイキン工業株を売却したのは,平成26年7月29日であり,その決済がされたのは同年8月1日である。

不法行為による損害賠償請求権の遅延損害金の始期については不法行為時であるが,前記5認定説示のとおり,Cの不法行為による損害については,個々の商品の買付資金の支出をもって損害と捉え,その時点から遅延損害金が発生し,後で当該商品を売却した場合には,その時点で遅延損害金の発生が止まり,売買代金について損益相殺をするというのではなく,損益が確定した時点の取引全体の売買差損として捉えるのが相当であるから,遅延損害金の始期についても,損失が確定した時点である平成26年8月1日と解するのが相当である。

8  結論

以上によれば,1審原告の請求は,1審被告に対し,不法行為(使用者責任)による損害賠償として818万7771円及びこれに対する平成26年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるところ,これと異なる原判決は相当でないから,1審原告及び1審被告の本件各控訴は,いずれも一部理由がある。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 片野悟好 裁判官 山本万起子 裁判官 進藤壮一郎)

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