広島高等裁判所岡山支部 平成28年(行ケ)1号 判決 2016年10月14日
当事者
別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
平成28年7月10日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の岡山県選挙区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1 本件は,平成28年7月10日に施行された参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,岡山県選挙区の選挙人である原告が,公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第2も含め,「定数配分規定」という。)は,人口比例に基づいて定数配分をしていない点で,憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区における選挙も無効である旨を主張して提起した選挙無効訴訟である。
2 前提事実(末尾に証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,本件選挙の岡山県選挙区の選挙人である。
(2) 本件選挙は,平成27年7月28日に成立した,平成27年法律第60号(以下「平成27年改正法」という。)による改正後の公職選挙法の定める定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)に基づき行われたものである。
(3) 上記改正がされる前の公職選挙法は,参議院議員の選挙を,全都道府県の区域を通じて選出される比例代表選挙と,選挙区から選出される選挙区選挙とに分け,後者については,都道府県を選挙区の単位とし,それぞれに偶数の定数を配分していた。もっとも,人口の都市集中等に伴い,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の「最大較差」というときは,この人口の最大較差をいう。)は,次第に拡大し,平成4年7月26日に施行された参議院議員通常選挙(以下,単に「通常選挙」といい,この通常選挙を「平成4年選挙」という。)当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各選挙当時の「最大較差」というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)に達していた。その後の公職選挙法の改正により最大較差は減少したが,平成25年7月21日に実施された,前回の通常選挙(以下「平成25年選挙」という。)の当日においても,なお最大較差は4.77倍であった(以上について,乙2,4)。
(4) 平成27年改正法は,参議院議員の選挙区選出議員の選挙区及び定数に関し,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県について,それぞれ2つの県を合わせた選挙区を創設し(以下「合区」という。),定数2人ずつの選挙区とし,定数4の県のうち,議員1人当たりの人口の少ない3県(宮城県,新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員するともに,議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(北海道,東京都,愛知県,兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものである。本件選挙当日における選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,選出される議員1人当たりの選挙人数が最少の福井県選挙区を1とした場合,最大の埼玉県選挙区は3.08であった(以上について,乙1,4,7)。
3 当事者の主張
(1) 原告の主張
ア 憲法は,主権者である国民が,国会議員を通じて,多数決により両院の議事を決する旨を定めている(前文第1文,1条,56条2項)。すなわち,多数の国民から選ばれた多数の国会議員が,国会での多数決により国政を決することが国民主権の本質であり,少数の国民から選ばれた多数の国会議員が国政を決することは,国民主権ではない。そうすると,民意を反映する選挙制度は,国民の多数が国会議員の多数を選ぶ選挙制度であり,それは人口に比例したものでなければならない。
平成27年改正法の下で行われた本件選挙は,2つの合区を除いては都道府県を選挙区の単位として行われ,かつ,最大較差は3.08倍に達しており,福井県選挙区における1票に比して,埼玉県選挙区における1票の価値は0.33票にすぎず,憲法が要求する投票価値の平等の要求に明らかに反しているから,違憲である。
イ 仮に,違憲状態なる観念を認め,本来正当性を欠くはずの国会議員により構成される国会に,当該違憲状態を是正するための裁量があるとしても,平成22年7月11日に実施された参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」という。)についてなされた最高裁平成24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)から本件選挙まで既に約3年9か月が経過しており,国会に与えられた是正のための合理的期間(最長でも1年)は既に経過しているから,やはり違憲であり,本件選挙は無効である。
ウ 本件選挙が無効とされても,参議院は比例代表選出の議員により構成されており,憲法上の機能を全て行使し得るのであり,社会的混乱等が生じる不都合もないから,裁判所は直ちに本件選挙を無効とすべきであって,いわゆる事情判決をすべきではない。
(2) 被告の主張
ア 平成27年改正法は,都道府県単位の選挙制度が果たしてきた役割の重要性等を踏まえつつ,憲法が求める投票価値の平等の要請に応えるため,一部の選挙区について合区を行ったものであり,これにより,平成25年選挙時に4.77倍であった最大較差は,平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差において2.97倍に縮小され,本件選挙当日の最大較差においても3.08倍と3倍をわずかに超えるにとどまり,その余の較差はいずれも3倍未満となるなど,平成24年大法廷判決等の趣旨に沿って大幅に縮小された。
平成27年改正法は,参議院の選挙区選出議員について,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持しているが,これは,両議院の選挙制度が同質的なものとなっている中で,参議院の選挙区選出議員の選出基盤について衆議院議員のそれとは異なる要素を付加し,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするものであるから,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものである。我が国には,人口の集中する都市部に居住する者がいる一方,山間部などのいわゆる過疎地域を含む県に居住する者もいるのであり,このような少数者の意見や声も国政に届くような定数配分規定を定めることも,国会において正当に考慮することのできる目的ないし理由となる。平成27年改正法は,合区の対象を鳥取県等の4県としているが,これは,これらの県については互いに隣接する人口の少ない県同士での組合せが可能であった一方で,これ以上に合区をするとなると,合区の対象となる県とそれ以外の県との間で不公平さを生じさせることとなるためであり,合理的な根拠を有する。
これらの事情に,憲法が定める半数改選等の技術的制約等を考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,投票価値の平等の重要性に照らしても看過し得ない程度に達しているとはいえないし,仮に達しているとしてもこれを正当化すべき理由があるから,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。
イ 平成27年改正法は,最高裁大法廷判決の趣旨を踏まえて都道府県を各選挙の単位とする仕組みを改め,投票価値の較差を大幅に縮小させたものであり,本件選挙は,平成27年改正法により新たに定められた本件定数配分規定に基づく初めての選挙である。本件選挙までの間に,裁判所において本件定数配分規定に基づく選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の判断が示されたことはなく,また,本件定数配分規定における最大較差は,これまでの累次の最高裁判決の事案において合憲とされた最大較差を大幅に下回るものであったことからすれば,国会において,本件選挙までの間に上記状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。
そうすると,仮に,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったとは認められないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。
第3当裁判所の判断
当裁判所は,(1)平成27年改正法に基づく本件定数配分規定の下での本件選挙における選挙区間の投票価値の不均衡(最大較差3.08倍)は,投票価値の平等の重要性に照らし,なお看過し得ない程度に達したままであり,これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態は残存していたというべきであるが,(2)国会が平成24年大法廷判決を受けた較差の是正措置として平成27年改正法による改正を行うにとどめ,上記の著しい不平等状態を解消するに至らなかったことが,国会の裁量権の限界を超えるものということはできないから,本件定数配分規定は憲法に違反するものではなく,本件選挙は有効である旨判断する。その理由は,次のとおりである。
1 認定事実
前記前提事実に証拠(各掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実を認めることができる。
(1) 参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし,選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,各選挙区の人口に比例する形で,2人ないし8人の偶数の議員定数を配分した。
同法の法案審議の中で,内務大臣は,参議院の地方選出議員は,府県代表という意味での地域代表ではなく地域代表的性質を指すものであって,地方の事情に詳しい人に出てきてもらう意味である旨の答弁をした(以上について,乙2,3)。
(2) 昭和25年,それまで各別の法律により規定されていた衆議院議員,参議院議員等の選挙に関する規定を統合,整備する形で,公職選挙法が制定されたが,同法における定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定を修正することなく引き継いだものであり,昭和45年に沖縄県選挙区の議員定数2人を付加する旨の法改正が行われたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正(以下「昭和57年改正」という。)により,参議院議員の選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることとなったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものであった。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされ,比例代表選出議員が96人,選挙区選出議員が146人とされた(以上について,乙2,3)。
(3) 参議院議員選挙法の制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は2.62倍であったが,人口の変動により次第に拡大を続け,平成4年に施行された参議院議員通常選挙(以下「平成4年選挙」という。)当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく最大較差は4.81倍に縮小し,いわゆる逆転現象(人口又は選挙人数において少ない選挙区が多い選挙区よりも多くの議員定数を配分されている状態をいう。)は消滅した。その後,平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置により,平成6年改正後に再び生じたいわゆる逆転現象は消滅し,また,この措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下「平成18年改正」という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成13年から平成19年までに施行された各通常選挙当時の最大較差は5倍前後で推移した(以上について,乙2,4)。
(4) この間,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)において基本的な判断枠組みを示した後,最大較差が6.59倍に達した平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示したが(最高裁平成8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁),平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,昭和58年大法廷判決において昭和52年に施行された通常選挙(以下「昭和52年選挙」という。)について判示したところと同様に,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。
その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定の下で平成19年に施行された通常選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。ただし,上掲最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,上掲最高裁平成21年9月30日大法廷判決(以下「平成21年大法廷判決」という。)においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされた。
(5) 上掲最高裁平成16年1月14日大法廷判決を受けて同年12月1日に参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に設けられた選挙制度に係る専門委員会が,各種の是正案を検討した上で平成17年10月に同協議会に提出した報告書では,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を4倍以内に抑えることは相当の困難がある旨の意見が示された。また,平成18年改正により同報告書の提案に係る前記4増4減の措置が採られた後,平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に設置された専門委員会においては,平成22年5月までの協議を経て,平成25年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の見直しの検討を開始することとされ,平成23年中の公職選挙法の改正法案の提出を目途とする旨の工程表が示されたものの,具体的な較差の是正が見送られた結果,平成22年7月11日,最大較差が5.00倍に拡大した状況において,平成18年改正後の定数配分規定の下での2回目の通常選挙である平成22年選挙が施行された。
平成22年選挙後,平成21年大法廷判決の指摘を踏まえた選挙制度の仕組みの見直しを含む制度改革に向けた検討のため,参議院に選挙制度の改革に関する検討会(以下「検討会」という。)が発足し,その会議において,当時の参議院議長から上記改革の検討の基礎となる案(全国9ブロックの非拘束名簿式比例代表制又は大選挙区制等を内容とするもの)が提案され,平成23年以降,各政党からも様々な改正案が発表されるなどしたが,上記改革の方向性に係る各会派の意見は区々に分かれて集約されない状況が続き,同年12月以降の検討会及びその下に設置された選挙制度協議会(以下「協議会」という。)における検討を経て,平成24年8月に当面の較差の拡大を抑える措置として公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出された。その内容は,平成25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,平成28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた(上記4増4減の改正が行われたとしても,平成22年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく最大較差は,4.75倍であった。以上について,乙2,4)。
このような状況の下で,平成22年選挙につき,平成24年大法廷判決は,結論において同選挙当時における定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っていることなどに照らし,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。
(6) 平成24年大法廷判決の言渡し後,同年11月16日に上記の公職選挙法の一部を改正する法律案が平成24年法律第94号(以下「平成24年改正法」という。)として成立し,同月26日に施行された。そして,平成25年7月21日,平成24年改正法による定数配分規定の下での初めての通常選挙である平成25年選挙が施行された。平成25年選挙当日における最大較差は,4.77倍であった(以上について,乙2ないし4)。
(7) 当時の参議院議長は,平成25年9月12日に開催された参議院各会派代表者懇談会において,平成24年改正法の附則として設けられた検討条項等を踏まえ,較差の問題について抜本的に取り組むことが必要である旨を述べ,改めて検討会を設けることを提案し,了承された。そして,同日に開催された検討会において,検討会の下に協議会を設置することが決定され,協議会は同月27日から平成26年11月21日までの間,合計29回にわたり開催された。
協議会においては,合計13人の参考人から意見を聴取するなどした上で(この意見の中には,人口比例を徹底し又は原則としなければならない旨の意見が多数述べられる一方で,投票価値の平等を絶対視すべきではない旨の意見も複数述べられ,とりわけ,知事である参考人からは,都道府県単位の選挙区を堅持すべきである旨の意見が述べられた。),選挙制度の枠組み(比例代表選挙を維持するか否か等),平成24年大法廷判決にのっとり許容される較差(2倍を超える較差は許容されるか,許容されるとしてその程度等),選挙区の設定の在り方(ブロック選挙区制(府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設するもの)や2県合区制等の当否)等について議論が行われ,平成26年4月25日に開かれた第19回の協議会において,当時の座長から,選挙区選出議員と比例代表選出議員との枠組みを維持しつつ,現行の定数を前提とした上で,標準人口(平成22年度国勢調査に基づく総人口を改選定数で除した数をいう。)に基づき,22府県を対象として11合区を設け,これにより較差を2倍以内に抑えること等を内容とする座長案が示された(最大較差1.83倍)。その後,この座長案は,都道府県単位の選挙区の意義を強調する会派が存在した状況等を踏まえ,合区の数を削減する方向で修正された後,同年9月11日に開かれた第26回協議会において,当時の座長から合区の数を10県5合区にすること等を内容とする調整案が示され(最大較差2.48倍),各会派の検討に委ねられることとなった。
その後,前座長の辞任に伴い新たに指名された座長の下で,上記調整案に対する各会派の意見聴取が行われるなどしたが,同年11月21日の第29回協議会の時点に至っても,都道府県を単位とする選挙区を極力尊重するとの見解に立脚し,自派の改革案として,選挙区6増6減や若干の合区等を内容とする3案を提出する会派があったなど,各会派の見解は,どの程度の較差であれば憲法上許容されると解すべきかという点はもとより,選挙区設定の在り方についても,都道府県を単位とする選挙区を堅持すべきか否か,緩和又は廃止するとして具体的な選挙区の設定方法等について,会派間の見解の相違がなお解消されるに至らない状況にあった(以上について,乙10)。
(8) 最高裁平成26年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)は,平成25年選挙につき,結論において同選挙当時における定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っており,上記の仕組み自体の見直しが必要であることを改めて確認した上で,平成24年改正法による4増4減の措置も,上記の仕組みを維持して一部の選挙区の定数を増減するにとどまり,最大較差については上記改正の前後を通じてなお5倍前後の水準が続いていたから,平成24年大法廷判決が指摘した,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態はなお解消するには足りないものであった旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなどの具体的な改正案の検討と集約が着実に進められ,できるだけ速やかに,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置によって違憲の問題が生ずる上記の不平等状態が解消される必要がある旨を指摘した。
協議会においては,平成26年大法廷判決を踏まえ,意見集約に向けた協議が行われたものの,憲法上許容される最大較差の程度や,合区の数等を巡って会派間の意見を集約することができず,最終的に,各会派から改革案として示された案を併記する形で報告書が取りまとめられた(乙10)。
(9) その後,検討会において,協議会から提出された報告書等を踏まえ,平成27年2月25日から同年5月29日にかけて協議が行われたものの,なお各会派が一致する結論を得ることができなかったことから,同日,検討会での協議に一区切りを付け,今後は委員会及び本会議で結論を出すこととされた。その後,各会派内及び各会派間における検討が進められた結果,次第に,選挙区選出議員の選挙区に合区を導入する方向に議論が収斂したが,なお,対象となる県等について,①4県2合区を含む10増10減とする改正案と,②20県10合区による12増12減とする改正案の2案が出される状況にあった。そして,当該改正案について合意をした各会派から,それぞれ,当該改正案を法案化した公職選挙法の一部を改正する法律案が提出された。なお,平成22年国勢調査人口に基づき,それぞれの改正案による最大較差を見ると,①が2.97倍であり,②が1.95倍であった(以上について,乙7,8)。
(10) これらの法律案は,同年7月24日に開かれた参議院本会議において,委員会審査省略要求を付して発議され,同日,①の改正案を法案化した法律案が多数をもって可決された。上記参議院本会議において,この法律案の発議者は,①その趣旨について,都道府県単位の選挙制度が地方の意見を国政に反映させる重要な役割を果たしてきたことを十分に踏まえつつ,憲法が求める投票価値の平等の要請に応えるため,参議院議員の選挙制度の抜本的な改革の第一歩として,合区等による較差の是正を行うこととした旨を,②合区の対象を鳥取県等の4県に絞った理由等について,人口の少ない県はこれらの4県であり,互いに隣接する人口の少ない県同士での組合せが可能であるために合区することとしたものであり,その次に人口の少ない県(福井県)については,隣接する府県のいずれも人口がそれほど少ないわけではなく,これらの府県と福井県とを合区することとした場合には,これらの府県と人口のより少ない県との間で不公平さを生じさせることになる旨を,それぞれ答弁した。
上記法律案は,同月28日,衆議院においても多数をもって可決成立し,同年8月5日,公布された(平成27年改正法)。
なお,平成27年改正法附則には,「平成31年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする。」との規定が置かれている(7条。以上について,乙7,11の1ないし3)。
(11) 平成27年改正法は,参議院議員の選挙区選出議員の選挙区及び定数について,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県をそれぞれ合区し,定数2人ずつの選挙区とし,定数4の県のうち,議員1人当たりの人口の少ない3県(宮城県,新潟県及び長野県)の定数を2人ずつ減員するともに,議員1人当たりの人口の多い1都1道3県(北海道,東京都,愛知県,兵庫県及び福岡県)の定数を2人ずつ増員すること等を内容とするものであり,これにより,平成25年選挙時に4.77倍であった最大較差は,平成22年国勢調査の結果に基づく最大較差において2.97倍に縮小され,本件選挙当日においても,最大較差は3.08倍に縮小されることとなった(乙1,4,7)。
(12) 平成24年大法廷判決後における報道等を見ると,較差問題は現在の選挙制度を維持する限り解決困難であり,選挙区の抜本的見直しに踏み込まざるを得ない,地域ブロックを選挙区とすることも一案であるとするものがみられる(乙12の7)一方,本格的な人口減少時代を迎える中で,とりわけ地方における人口の減少幅が大きいこと等にかんがみれば,地方の声を国政に反映させることも重要であり,人口比例以外の視点も重要であるとの指摘もみられた(乙12の1ないし3)。
また,全国知事会及び全国町村会は,平成27年7月,参議院は,都道府県の代表が参加することにより地方の声を国政に届ける役割を果たしてきた等として,それぞれ,合区に対する懸念等を表明し(乙13の9,10),合区の対象とされた県の知事等も,同月,民主主義において都道府県が果たす役割を尊重すべきである旨の提言等を公表した(乙13の6ないし8,11)。平成27年改正法の成立後も,全国知事会は,平成28年7月29日付けで,参議院は一貫して都道府県単位で代表を選出し,地方の声を国政に届ける役割を果たしてきたとして,平成27年改正法による合区の解消等を求める決議をした(ただし,その一部に反対し又は慎重な意見もあった。乙15)。
2 検討
(1) 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするのかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。この点に関する原告の主張は,採用することができない。
(2) そして,憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議員に特色ある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)とに分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものであるところ,昭和22年の参議院議員選挙法及び昭和25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至ると解すべきである(平成24年大法廷判決,平成26年大法廷判決)。
そこで,上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。
(3)ア 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年の長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めており(46条等),その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすること等によって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。もっとも,参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきており,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえる。加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと,参議院についても,二院制にかかる上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請についても十分に配慮することが求められているというべきである。
イ しかるところ,参議院においては,この間の人口変動により,都道府県の人口較差が著しく拡大したため,半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,平成6年以降の数次の改正による定数の調整によって若干の較差の縮小が図られたが,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。
こうした大きな較差が生じるに至った要因としては,憲法が予定する半数改選に伴って,偶数定数を配分するための端数処理といったやむを得ない技術的理由に基づくものがあることは否定し難いものの,参議院議員選挙の選挙制度が,参議院議員選挙法の制定当時から,一貫して,全都道府県の区域を通じて参議院議員を選挙するという仕組みと,都道府県の区域を通じて参議院議員を選挙するという仕組みを採用してきたことが大きいといわざるを得ない。
もとより,都道府県は,歴史的にも,政治的,経済的,社会的にも,独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉えられるものであり,こうした都道府県の意義については,昭和58年大法廷判決においても,都道府県を各選挙区の単位とすることによりこれを構成する住民の意思を集約的に反映させ得る旨,衆議院議員選挙とは異なる選挙制度を設ける理由として一定の位置づけを与えられてきたところである。しかし,さらにその後の人口の都市部への集中や,選挙制度の変化を受けて,参議院議員選挙における投票価値の平等について,最高裁判所による実質的に厳格な審査が行われる中で,平成21年大法廷判決以降,都道府県を参議院議員の各選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を各選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して上記のように投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では,都道府県の意義や実体等をもって上記の選挙制度の仕組みの合理性を基礎付けるには足りないとして,長期にわたり投票価値の大きな較差を生じさせる原因となってきた都道府県を各選挙区の単位とする仕組み自体を見直すことによって,上記の状態を解消することが求められる旨の指摘がされてきたところである。
これと並行して,国会においても,平成24年改正法の附則において,平成28年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨が定められているに至っている。
そうすると,上記に説示したとおり,極めて長期にわたる著しい投票価値の不平等の原因は都道府県を各選挙区の単位とする仕組み自体にあり,こうした仕組みの大幅な是正なくして,憲法が定める二院制の趣旨を踏まえつつも投票価値の平等に十分配慮することは極めて困難なのであるから,国会としては,上記附則の定めにおいて自ら宣明したとおり,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを抜本的に改めることによって,長期にわたり継続してきた著しい投票価値の不平等を大幅に是正する取組みが求められていたというべきである。
ウ そこで,平成27年改正法に至る経緯等を見るに,前記認定事実(7),(8)のとおり,参議院においては,平成25年9月以降,検討会の下に設けられた協議会において選挙区設定の在り方等について協議が開始されたところ,こうした協議の中で各会派から示された検討結果等の中には,ブロック選挙区又はブロック選挙区と比例選挙の並立を主張するものもあったものの,都道府県を選挙区の単位とする仕組みを極力尊重し,選挙区を単位とする増減に止めるという意見や,仮に合区を導入するとしてもその対象府県を最小限に止める意見が有力に主張されており,平成26年大法廷判決が出された後である同年12月の段階に至っても,各会派間はもとより,会派によっては会派内部において意見を集約するに至らず,選挙制度協議会報告書は,各会派から示された改革案を併記する形で取りまとめられ,参議院議長に提出されることとなったのであり,上記平成25年9月から約1年3か月を要してもなお意見集約に至らなかった。そして,上記報告書の提出後も,各会派が一致する結論が得られないまま,2つの改正案が提出され,このうち,「4県2合区を含む10増10減」の改正案が可決多数により成立し(平成27年改正法),これによっても,議員1人当たりの人口が最も少ない福井県と最も多い埼玉県との間で,3倍を超える較差が生ずることとなったものである。
以上の経過からすると,平成27年改正法においても,3倍を超える最大較差を残すこととなったのは,結局のところは,会派間等において,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを堅持するか否かという点に係る意見の対立について調整に至らなかったことに原因があったことが明らかである。
しかし,前記認定事実(5)のとおり,平成24年大法廷判決は,長年にわたる制度及び社会状況の変化(具体的には,前者については,衆議院議員の選挙と参議院議員の選挙の選挙制度が同質なものとなってきたことによる,議員の長い任期を背景にした国政の運営上の参議院の役割の増大など,後者については,人口の都市部への集中の一層の進展など)を踏まえ,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応じていくことはもはや著しく困難な状況に至っていることなどに照らし,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたとした上,参議院議員選挙の選挙制度に係る現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,上記の不平等状態を解消する必要がある旨を説示していたものであって,その趣旨からすると,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを極力維持するという考え方を基礎とし,最小限度の合区等によって最大較差の是正を図ったために,3倍を超える最大較差を残した平成27年改正法は,平成24年大法廷判決のいう著しい不平等状態を解消するには足りないものであったといわざるを得ない。
このような事情に照らすと,平成27年改正法に基づく本件定数配分規定の下での前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らし,なお看過し得ない程度に達したままというべきであり,これを正当化すべき特別の理由も見出せない以上,遅くとも平成22年選挙において存在した違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態は,なお残存していたというべきである。
エ これに対し,被告は,①合区の創設等を内容とする平成27年改正法により較差が大幅に縮小された,②平成27年改正法が参議院の選挙区選出議員の選出基盤について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を原則として維持していることは,地方の民意を含む多角的な民意の反映を可能とするもので,憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものである等として,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡が,投票価値の平等の重要性に照らしても看過し得ない程度に達しているとはいえないし,仮に達しているとしてもこれを正当化すべき理由がある旨を主張する。
しかしながら,なるほど,前記認定事実等(第2の2(3)(4),第3の1(5))によれば,平成27年改正法は,平成22年選挙時における5.00倍,平成25年選挙時における4.77倍という最大較差を3.08倍に縮小させるものであって,こうした減少の幅を見るならば,公職選挙法の制定後行われてきた累次の法改正の中で最大の縮小を実現したものと認められる。しかしながら,国政の運営において任期の長い議員で構成される参議院の役割の重要性が増していることや,衆議院については,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められ,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮が講じられるようになったことに照らすと,参議院についても,二院制にかかる憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請についても十分に配慮することが求められていることは上記に説示したとおりであって,こうした観点からすれば,平成27年改正法は,なお3倍を超える最大較差が残る点において,投票価値の平等の要請を満たすものと評価することは困難といわざるを得ない。
また,都道府県は地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であり,その限度では相応の合理性を有しているものであるが,都道府県を参議院議員の選挙区の単位としなければならない憲法上の要請はないことや,選挙区間の人口較差に起因する投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続しているのは,都道府県を選挙区の単位として固定してきた結果であり,都道府県を選挙区の単位とする仕組みはこうした状態の継続を正当化する理由として十分なものとはいえなくなっていることは,既に平成24年大法廷判決により指摘されていた事柄である。被告が指摘するいわゆる過疎地域を含む多様な住民の声を国政に反映させるという要素が,それ自体としては国会が正当に考慮することのできる要素であることは否定し難いものの,上記の点に照らすと,そのことによって上記のようななおも残存する投票価値の著しい不平等状態が正当化されるとはいい難いというべきである。
次に,合区の数について見るに,前記認定の事実によれば,発議者は,平成27年改正法の審議の中において,合区を4県2合区にとどめた理由として,都道府県の役割に対する原則的な尊重のほか,人口の少ないこれらの4県については,互いに隣接する人口の少ない県同士での組合せが可能であるのに対し,その次に人口の少ない福井県については,隣接する府県のいずれも人口がそれほど少ないわけではないため,これらの府県と福井県とを合区することとした場合には,これらの府県と人口のより少ない県との間で不公平さを生じさせることになる旨を説明しており,そのいわんとするところは,人口差のある2県を合区することによって生じる不公平を避けるため,福井県とそれよりも人口の多い県との合区を見送ったというにあると認められる。
しかしながら,そもそも,参議院については,制度発足当初から,参議院の地方区選出議員であっても,府県代表ではなく,地域代表的性質を指すと説明されていたのであり,この地域代表的性質にしても,その後の人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大や,選挙制度の変革により,投票価値の不平等を正当化すべき理由としての意味づけを失ってきたというべきであるから,5倍前後という投票価値の著しい不平等状態が長年にわたり続いてきたという状況に照らすと,合区の対象となる府県を上記に止めるという考え方が適切であるとはいい難い。そして,国会において,平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決の趣旨に沿う法改正として,都道府県を基礎とする合区という仕組みを採用する以上は,合区の対象となる府県とそうでない府県との間に一定の不公平を生じさせることは避け難いのであって,そのような不公平が生じるとしても,前記の投票価値の著しい不平等状態を正当化するものとはいえない。よって,発議者の上記説明を,較差を是正するための措置として合区を4県2合区にとどめたことの合理性等を十分基礎づけるものと評価することは困難というほかない。
以上を総合すれば,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不平等が看過し得ない程度に達していないとか,こうした不平等を正当化すべき理由があるということはできないから,被告の上記主張を採用することはできない。
(4) 次に,本件において,平成27年改正法によっても,本件選挙までに違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が解消されなかったことが,国会の裁量権の限界を超えるといえるか否かについて検討する。
ア 前記認定のとおり,参議院議員の選挙における選挙区間の投票価値の不均衡については,平成21年大法廷判決において,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っているとされたところ,平成24年大法廷判決は,改めて,選挙区間における投票価値の不均衡が上記の状態にあるとした上で,当該状態を解消するために,単に一部の選挙区の定数を増減するのみならず,都道府県を単位とする各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講ずることを求めたのであるから,国会においては,平成24年大法廷判決が言い渡された同年10月17日には,投票価値の不平等が違憲の問題を生じさせる程度のものであることを認識し得たというべきであり,また,同大法廷判決の趣旨に沿って,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消すべき責務を負っていたというべきである。
イ そうした場合,平成27年改正法の成立に至るまでの経緯は,前記1(7),(8)で認定し,2(3)ウで要約摘記したとおりであるところ,平成27年改正法は,平成24年大法廷判決の言渡日から約2年9か月を経過し,次回の通常選挙(本件選挙)まで約1年を残すのみという時点に至って成立したものであり,こうした期間を取り上げるならば,いかにも時間を要したものといわざるを得ない。また,その内容を見ても,平成27年改正法は,都道府県を選挙区の単位とする仕組みを極力維持するという考え方を基礎とし,最小限度の合区によって較差の是正を図るもので,これにより違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態を解消するに足りるものと評価することができないことは,前記認定説示のとおりである。
ウ しかしながら,国会が本件選挙までの期間内に上記の著しい不平等状態を解消するに足りる是正を行わなかったことがその裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,単に期間の長短のみならず,是正のために採るべき措置の内容,そのために検討を要する事項,実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮して,国会における是正の実現に向けた取組みが司法の判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものであったといえるか否かという観点に立って評価すべきものである(平成26年大法廷判決参照)。
この観点から見るに,まず,平成27年改正法は,都道府県単位の選挙区を改め,一部ではあるものの合区を設けたのであり,このことは,参議院創設後初めてのものであるということができる。もとより,憲法上,議員は全国民の代表として位置づけられており(43条1項),前記認定のとおり,戦後間もない参議院議員選挙法の制定当時における議論に照らしても,参議院議員は地域代表ではあるが,地域代表は直ちに都道府県の代表であることを意味しないという考え方が示されていたところであり,大都市のみならず,過疎地域を含む地方に居住する者も含め,多様な国民の声を国会に届け,それを適切な形で政策に反映させることは,本来,参議院議員が,それぞれ全国民の代表として行動する中で実現すべきものということができるが,現実には,参議院議員選挙法の制定から平成27年改正法の成立まで約68年に及ぶ参議院の歩みの中で,行政単位としての都道府県を選挙区の単位として位置づけ,そのような前提で参議院議員の地域代表としての性格を把握する考え方が次第に浸透し,選挙区選出の参議院議員と当該選挙区を構成する都道府県との強い結びつきが形成されてきたことは,前記認定にかかる協議会における知事の意見陳述の内容や,平成27年改正法の成立前後に示された各種の意見表明の内容等からも十分うかがうことができるというべきである。
選挙区の設定が,そもそも議員の身分の得喪に直接関わる事柄であることは否定し難い上,最高裁の2つの大法廷判決が国会に求めたのは,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態を解消するため,参議院議員の地域代表としての性格を都道府県という行政区画自体に求める考え方をしかるべき形で改めるというものであって,上記に説示した選挙区選出の参議院議員と当該都道府県との強い結びつきを考慮すれば,平成27年改正法の成立の前後を問わず,国会において司法から課せられたこうした責務を果たすため,高度に政治的な判断や,各選挙区の有権者等に対する説明や調整等という一定の政治的過程も含め,新たな選挙区の設定に伴う多くの課題の検討を要することは認めざるを得ないというべきである。のみならず,平成27年改正法が著しい不平等状態を解消するに至らないことは前記認定説示のとおりであるが,初めて都道府県単位の選挙区を改め,一部ではあるものの合区を設けたものであり,これによって最大較差も3倍をわずかに超える程度にまでは縮小されるに至ったことを考慮すると,こうした国会の取組みが,上記の2つの大法廷判決が示した判断の趣旨を踏まえ,それを実現していく過程における国会の裁量権の行使の在り方として相当性を欠いたものであったということはできない。
これらの事情に,平成27年改正法においては,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえ,較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて必ず結論を得る旨の附則が設けられており,国会が,引き続き,参議院の在り方を含め,較差の是正等を考慮した選挙制度にかかる取組みを行う旨を宣明していること等を併せ考慮すると,本件選挙は,平成25年選挙と同様,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態の下で施行されたものであるが,国会が平成27年改正法を制定するにとどめ,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態を解消しなかったことが,国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。
そうすると,本件定数配分規定が,本件選挙の時点で憲法に違反するに至っていたということはできない。
エ この点,原告は,平成24年大法廷判決が言い渡されてから既に約3年9か月が経過しており,国会において同大法廷判決の趣旨に沿った立法措置を講じるための合理的期間を既に経過しているから,本件選挙は無効とされるべきである旨を主張する。しかしながら,国会が本件選挙までの期間内に著しい不平等状態の是正を行わなかったことがその裁量権の限界を超えるといえるか否かを判断するに当たっては,期間の長短だけでなく,諸般の事情を総合考慮すべきものであって,こうした観点からすれば,平成27年改正法の成立に至るまでの国会の取組みが,最高裁大法廷判決の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当性を欠くとはいえないことは,上記ウで説示したとおりであるから,これと立場を異にする原告の主張を採用することはできない。
第4結論
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本清隆 裁判官 進藤壮一郎 裁判官 永野公規)