広島高等裁判所岡山支部 平成3年(う)41号 判決
所論は,要するに,「原判決は,判示第二の恐喝未遂の事実を認定するに当たり,警察官に対する各自白調書の任意性を否定しながら,検察官に対する供述調書については警察段階での違法性が遮断されているとして,任意性を認めた上,証拠として挙示しているが,被告人は,検察官の取調べに対し,警察での自白を撤回すれば警察で再度執拗な取調べを受けることになるのが耐えきれず,検察官に対しても,自白を維持したことがうかがわれるのであって,むしろ警察での違法捜査の効果に支配され,そのため自白を維持したと認められるから,検察官に対する自白も任意性がなく,検察官に対する右供述調書の証拠能力は否定されるべきである。」というのである。
そこで,記録を調査して検討するに,原判決が警察官に対する自白調書の任意性を否定する根拠は,被告人を取り調べた警察官が「本件恐喝未遂を自白すれば,上司に言って余罪は不問に付す。」旨示唆して被告人の心理を巧妙に利用した一種の偽計により得た自白であるとする点にある。しかし,被告人の原審公判廷における供述などによれば,担当検察官は,被告人に対し,初めは否認していた被告人が右の罪を自白するに至った動機について詳細な取調べをして,自白の真意を執拗なまでに確認することに努めていること,これに対し被告人は,警察官に自白した以上,早く取調べを終わらせたいとの気持ちから,むしろ被告人の方から自白が本当のことであることや否認しても通らないと思ったという自白の動機を積極的に説明したことが認められ,担当検察官は,自ら自白の任意性を確保する手段を講じており,所論のように,被告人が検察官の面前においても,警察官による違法捜査の効果に支配されて任意性のない自白をしたとは認められない。しかも,被告人は,右の検察官に対する供述調書が作成された翌々日の平成2年8月22日には,別の警察官によって,不問に付すとした判示第一の傷害事件について取調べを受けて自白し,同年9月12日には検察官に対しても自白し,「裁判になっている事件と一緒に審理してもらいたい。」とまで供述している。もし,検察官の両前での原判示第二の事件についての前記自白が警察官の前記約束に基づくものであれば,とりわけ検察官による判示第一の事件についての取調べの際に約束違反の点について被告人から苦情を言ってよいと思われるのに,被告人の原審公判廷における供述によれば,被告人はそのような発言をしていないことが認められ,このことは前記の任意性についての判断を裏付けるものである。原判決には所論の訴訟手続の法令違反はなく,論旨は理由がない。