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広島高等裁判所岡山支部 平成9年(ネ)43号 判決 1999年2月25日

控訴人

全国化学内山工業労働組合

右代表者中央執行委員長

向井進

右訴訟代理人弁護士

奥津亘

被控訴人

内山工業株式会社

右代表者代表取締役

内山幸三

右訴訟代理人弁護士

山崎武徳

近藤弦之介

香山忠志

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載一の建物を明け渡せ。

2  控訴人は、被控訴人に対し、原判決添付別紙物件目録記載二の建物を収去し、同目録記載三の土地を明け渡せ。

3  控訴人は、被控訴人に対し、金三六二七万円を支払え。

4  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを一〇分し、その八を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決の第一項1ないし3は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

(なお、被控訴人は、後記のとおり、当審において損害賠償請求を減縮した。)

第二  当事者の主張

以下のとおり付加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決七頁六行目「、現在、」を削り、同行「第八倉庫」を「八号倉庫」に改める。

2  同一〇頁一〇行目から一四頁一行目までを以下のとおり改める。

「5 控訴人は、本件解除後も本件土地建物を不法に占有使用した。このため、被控訴人は、サントリー社から注文を受けた洋酒瓶用の圧搾コルク栓を製造するため、平成元年一〇月、第一工場内の修養館を改造して同所にガラス栓コルク組立機二台、プラスチック栓コルク組立機一台及び賃借した受電設備(賃料月額六万円)を設置し、旧ハードガスケット材料置場にガラス栓コルク組立機一台、プラスチック栓コルク組立機二台を設置し、八号倉庫にインジェクションマシン三台を設置して、同年一二月、暫定的に生産を開始した。

被控訴人は、修養館及び旧ハードガスケット材料置場で生産した製品を第一工場内のシートハウス等に保管していたところ、平成二年九月、製品に異臭が付着したため、サントリー社から苦情があった。このため、被控訴人は、平成三年四月、寿倉庫株式会社から倉庫一棟(以下「旧寿倉庫」という)を賃料月額四九万円で賃借し、平成五年九月までこれを製品置場として使用した。また、被控訴人は、旧寿倉庫を賃借した際に、機械の配置を変更し、修養館のプラスチック栓コルク組立機一台及び旧ハードガスケット材料置場のプラスチック栓コルク組立機二台を八号倉庫に移設し、生産の効率化を図った。

さらに、被控訴人は、サントリー社の増産要求に応ずるため、平成五年一〇月、寿倉庫株式会社から新たに倉庫一棟(以下「新寿倉庫」という)を賃料月額一〇六万七〇八〇円で賃借し、同所に旧ハードガスケット材料置場からガラス栓コルク組立機二台(稼働中の一台のほか、もう一台が稼働しないまま保管されていた)及び八号倉庫からプラスチック栓コルク組立機三台を移設して増産を行い、かつ、同倉庫を旧寿倉庫に代わる製品置場としても使用した。

平成九年二月二四日、控訴人が本件土地建物を仮に明け渡したので、被控訴人は、本件予定地における新工場(以下「本件工場」という)の建設に着手し、同年一〇月二八日にこれを完成し、前記各組立機等を移設して同年一二月一日から本件工場での生産を開始した。

以上のとおり、控訴人が本件解除後も右仮明渡しまでの間、土地建物を不法に占有使用したので、被控訴人は、その間本件予定地に本件工場を建設することができず、このため、修養館の改造、旧寿倉庫及び新寿倉庫の各賃借などの暫定措置を取らざるをえず、不必要な支出をさせられた。これらの支出のうち左記のものは、控訴人の前記不法占有との間で相当因果関係を有する損害である。

(一)  受電設備賃借料三〇〇万円

修養館に設置された受電設備の賃料(月額六万円)のうち、本件工場につき建築確認を受けた平成二年七月の翌月である同年八月分から平成六年九月分までの分(五〇月分)

(二)  旧寿倉庫賃借料

一四七〇万円

平成三年四月分から平成五年九月分まで月額四九万円の割合による旧寿倉庫の賃借料(三〇月分)

(三)  新寿倉庫賃借料

二二六八万三二〇〇円

平成五年一〇月分から平成九年一月(本件土地建物の仮の明渡しがあった月の前月)分まで月額一〇六万七〇八〇円の割合による新寿倉庫の賃借料(四〇月分)を要したところ、そのうち右月額賃料から五〇万円を控除した月額五六万七〇八〇円の割合による右期間の金員

(四)  設備費用

六六〇万八四二三円

新寿倉庫に機械を移転・増設し、稼働させるために要した次の費用

(1) 動力電源配線工事費用

二四一万三三〇〇円

(2) 高圧受電工事費用

九四万五〇〇〇円

(3) 屋内配線工事費用

一五五万八〇〇四円

(4) 配管工事費用一六万〇一九四円

(5) 移設費用 九六万八八八五円

(6) 受電設備賃借料

五六万三〇四〇円

平成五年一〇月から平成六年九月まで月額四万六九二〇円の割合による受電設備の賃借料(一二月分)

(五)  以上合計

四六九九万一六二三円

よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件貸借契約終了または本件土地建物所有権に基づき、本件建物の明渡し、本件車庫の収去及び本件土地の明渡しを求め、かつ、債務不履行または不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記損害金四六九九万一六二三円の支払を求める。」

3  同一四頁五行目「同3は認める。」を「同3の事実は認めるが、本件解除の効力は争う。後記のとおり本件解除に正当な事由はなく、本件解除は無効である。」に改める。

4  同一四頁六行目「同4(一)(1)は認める」の前に「本件解除に正当事由があることは否認する。」を加える。

5  同一四頁七行目から八行目にかけて「本件代替事務所の改修工事を行ったこと」の次に「及び駐車場を確保したこと」を加える。

6  同二〇頁八行目「労働組合法七条一項、三項」を「労働組合法七条一号、三号」に改める。

7  同二〇頁一〇行目から二一頁三行目までを以下のとおり改める。

「5 同5の事実のうち、控訴人が本件解除後も本件土地建物を占有使用したこと、被控訴人が修養館を改造し、旧寿倉庫及び新寿倉庫を賃借して生産を行ったこと、控訴人から本件土地建物の仮の明渡しを受けた後、被控訴人が本件予定地内に本件工場を建設して生産を行っていることは認めるが、被控訴人が行った工事内容及び支出金額は知らない。

前記のとおり、本件解除は無効であり、控訴人は本件賃借に基づき本件土地建物を占有使用した。本件土地建物の仮の明渡しは、控訴人が原判決に基づく仮執行を受けるのを回避するため、本件土地建物に対する占有権原を留保したうえ、暫定的に行ったものである。

被控訴人主張の損害は争う。仮に本件解除が有効であるとしても、控訴人の本件土地建物の明渡し遅滞に基づき通常生ずべき損害は、本件土地建物の賃料相当損害金に限られる。被控訴人主張の損害は、不必要または不相当な支出であったり、本件解除当時に控訴人に予見可能性のないものであるから、いずれも控訴人の明渡し遅滞との間に相当因果関係を有しない。

すなわち、被控訴人が修養館を改造して生産をするにしても、被控訴人主張の受電設備賃借料は、八号倉庫に受電設備があることに徴すると不必要であり、また、受電設備を購入した場合の価格に比較して不相当に高額である。旧寿倉庫の賃借は、製品に異臭が付着する事故が発生したためであるから、本件解除当時には予見可能性がなかった。新寿倉庫の賃借はサントリー社の増産要求に応ずるためであるから、本件解除当時には予見可能性がなく、また、その賃借料額は、不相当に高額である。設備費用の支出は被控訴人がサントリー社の増産要求に応じて設備を新寿倉庫に移設するためのものであるから、本件解除当時控訴人に予見可能性がなく、また、これらの設備のうちには本件工場建設に伴い再利用されたものがある。」

8  同二一頁三行目の次に行を改め、以下のとおり加える。

「三 抗弁

1  損益相殺的主張

被控訴人の主張する損害は、被控訴人がこれを支出して生産活動を行って利益を得ることによって回収されるものである。すなわち、これらの支出は、生産活動に必要な費用とみるべきであって、損害とはいえない。

また、被控訴人は、これらの支出により、本件工場建設にあたってこれらの相当する支出を免れている。すなわち、被控訴人の旧・新寿倉庫の賃借料の支払は、新たな工場の建設費に代わるものである。

2  過失相殺の準用

被控訴人が明渡しを遅滞している土地の面積は、多く見積もっても約四二五平方メートル余であり、本件予定地の約四分の一にすぎない。したがって、被控訴人主張の損害が発生したとしても、控訴人の関与ないし寄与の割合はその四分の一以下である。

また、被控訴人は、労使紛争を通じて対立関係にあった控訴人の事務所の存在する本件土地を本件工場の立地として、選択したうえ、控訴人に対し本件土地建物の明渡しを求めるにあたり、控訴人の要求を無視する頑なな交渉態度で臨んだため、控訴人の明渡し拒絶を自ら招いたものである。この点において被控訴人には損害の発生ないし拡大についての過失があったから、被控訴人主張の損害額の二分の一以上は過失相殺すべきである。

四 抗弁に対する認否

いずれも争う。」

9 同添付別紙物件目録裏九行目「N、」の次に「O、」を加える。

理由

一 被控訴人の請求原因1ないし3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 当裁判所も、本件解除には合理的理由があり、かつ、被控訴人が控訴人に対して本件土地建物の明渡しを求めることは不当労働行為ないし権利の濫用には当たらないと判断する。その理由は、以下のとおり付加訂正するほか、原判決の理由説示二項のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決二一頁一〇行目から二二頁三行目までを以下のとおり改める。

「1 請求原因4のうち、(一)の(1)の事実、(二)の(1)、(2)の各事実、(4)の事実のうち被控訴人が本件代替事務所の改修工事を行い、駐車場を確保したことは、いずれも当事者間に争いがない。右争いのない事実、前記一の争いのない事実、証拠(甲一ないし一三三、一三四の1・2、一三五、一三六、一三七の1ないし6、一三八ないし二三七、二三八の1・2、二三九、二四〇の1ないし4、二四一ないし三〇〇、三四二ないし三九二、乙一ないし一九、二〇・二一の各1・2、二二ないし二五、二六の1ないし3、二七、二八の1ないし6、二九、三〇、三一の1・2、三二ないし五〇、五一の1ないし19、五二ないし八九、九〇の1ないし3、九一、九二、九三・九四の各1・2、九五ないし九九、一〇〇の1ないし3、一〇一、証人小川晃一、同井上剛、同片山公三、同太田一志、同小野秀夫、控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。」

2  同二三頁八行目「本社協議」を「経営協議」に改める。

3  同二三頁九行目「昭和二一年に」の前に「控訴人は、」を加える。

4  同二四頁二行目から三行目にかけて「組合員数は、本件申入れのあった」を「控訴人の組合員数は、本件建物の賃借開始の昭和四九年三月時点で五四五名、本件解除のあった」に改める。

5  同二四頁五行目「原告の」の次に「従業員で構成される」を加える。

6  同二四頁八行目「大阪工場労組として結成、」を「大阪工場労組として結成され、平成四年四月、兵庫県内に工場が移転したことに伴い、名称を変更した。」に改める。

7  同二五頁八行目から九行目にかけて「合意に至らず、以後現在まで、原告被告間に労働協約は存在していない。」を「合意に至らなかった。」に改める。

8  同二八頁五行目から六行目にかけて「貸与を受けていた」の次に「(兵庫県内に工場移転後は、事務所の貸与を受けていない)」を加える。

9  同三〇頁九行目「月間二〇〇万個」の前に「ガラスコルク栓」を加える。

10  同三一頁三行目「初めころ」を「二月」に、同行「ウイスキー用ガラスコルク栓について」を「ガラスコルク栓について、ウイスキー用」に各改める。

11  同三一頁四行目「一二〇万個」を「一〇〇万個」に改める。

12  同三三頁一行目「(五)」を「(四)」に、同頁二行目「次の」を「次のとおり」に各改める。

13  同三三頁五行目「月間二〇〇万個を生産するためには六台」を「ガラスコルク栓月間二〇〇万個を生産するためにはガラス栓コルク組立機六台」に改める。

14  同三三頁六行目「設置要請があったもの、」を「設置要請があったのでこれに応じたい。」に改める。

15  同三三頁八行目「月間一二〇万個を生産するためには三台が必要となる、」を「プラスチックコルク栓月間一二〇万個を生産するためにはプラスチック栓コルク組立機三台が必要となる。」に改める。

16  同三三頁末行「必要な台数」の次に「三台」を加える。

17  同三五頁八行目「182.1坪(600.93m2)を「約一八三坪(約六〇五m2)」に改める。

18  同三九頁五行目「民家は北側に一件あるが」を「南隣に民家が一件あるが」に改める。

19  同四一頁三行目「意志」を「意思」に改める。

20  同四三頁九行目から一〇行目にかけて「ガラス栓コルク組立機二台」を「ガラス栓コルク組立機二台及びプラスチック栓コルク組立機一台」に改める。

21  同四三頁一〇行目「一台」を「ガラス栓コルク組立機一台及びプラスチック栓コルク組立機一台」に改める。

22  同四四頁一行目から二行目にかけて「インジェクションマシン二台」を「インジェクションマシン三台」に改める。

23  同四四頁三行目「同年五月」を「平成二年五月」に、同行「量産が」を「量産を」に各改める。

24  同四四頁六行目「旧八号倉庫」を「八号倉庫」に改める。

25  同四四頁九行目「そのころ」を「平成二年五月ころ」に改める。

26  同四六頁一行目「設置に至らなかった」を「稼働できずに、同所に保管した」に改める。

27  同四六頁七行目「ガラス栓コルク組立機六台」を「ガラス栓コルク組立機四台」に改める。

28  同四六頁八行目から九行目にかけて「ガラス栓コルク組立機二台」の前に「旧ハードガスケット材料置場から」を加える。

29  同四六頁九行目「プラスチック栓コルク組立機三台」の前に「八号倉庫から」を加える。

30  同四六頁一〇行目「現在の設備」を「新寿倉庫を利用した設備」に改める。

31  同四七頁一行目から七行目までを以下のとおり改める。

「(七) なお、後記四のとおり、控訴人は、平成九年二月二四日、被控訴人に対し、異議を留保して本件土地建物を仮に明け渡した。被控訴人は、本件予定地において、前記のとおり建築確認を受けた本件工場(鉄骨造スレート葺二階建て。床面積は、一階が917.60平方メートル、二階が100.60平方メートル)を建築し、同年一〇月二八日に完成した。被控訴人は、本件工場にガラス栓コルク組立機四台、プラスチック栓コルク組立機三台、インジェクションマシン六台(三台はサントリー社製品用、三台は他社製品用)を設置して、同年一二月一日から生産を開始した。なお、被控訴人は、本件工場内に製品置場を確保できなかったため、別途倉庫を賃借して製品置場として使用している。」

32  同四八頁三行目「認められる」の次に「(なお、被控訴人が右貸与を解消するには合理的理由を必要とすると解すべきである)」を加える。

33  同四八頁一〇行目から末行にかけて「比較によって」を「比較をも考慮して」に改める。

34  同四九頁四行目から五行目にかけて「約五五〇名」を「五四五名」に、五行目「平成三年七月には一二七名」を「平成七年三月には一一五名」に各改める。

35  同五〇頁四行目「認められ、」から六行目末尾までを次のとおり改める。

「認められる。以上のとおり、被控訴人においては、新工場建設のため本件予定地内にある本件土地建物につき控訴人から明渡しを受ける必要があり、控訴人に対して本件代替事務所を提供し、これが控訴人に対して著しい不利益を与えるものではないことに徴すると、被控訴人のなした本件貸借契約の解除には合理的理由があると認めることができる。」

36  同五〇頁八行目から九行目にかけて「現在、暫定措置として利用している各建物」を「被控訴人が暫定措置として利用してきた各建物」に、同頁末行「作業を行っている現状では」を「作業を行ってきたものであり」に各改める。

37  同五二頁一行目「平成元年」から五三頁四行目末尾までを以下のとおり改める。

「昭和六三年以降、被控訴人と控訴人との間の労使関係は険悪であったことが認められる。しかしながら、サントリー社の増産要求は被控訴人とサントリー社との間の取引関係に基づくものであって、被控訴人が右要求に応ずることは企業として当然の対応であるところ、右目的を達成するために被控訴人は岡山第一工場内の施設の利用状況、生産効率、物流、品質管理その他生産条件について検討した結果、本件予定地に本件工場を建設することが最適であるとの結論に至ったものである。

そうすると、被控訴人のした本件解除は、被控訴人の業務上の必要からされたものと認めるのが相当であり、本件解除の目的が控訴人の組合事務所の縮小移転を図ることにあったという控訴人の前記主張は採用できない。

また、本件解除の経緯・目的、控訴人の組合員数及び被控訴人が提供した本件代替事務所の位置・規模等に徴すると、被控訴人の本件土地建物の明渡請求が不当労働行為または権利の濫用にあたると認めることはできない。」

三  そうすると、被控訴人は、控訴人に対し、本件貸借の終了に基づき、本件建物の明渡し及び本件車庫収去・本件土地明渡しを各請求することができ、かつ、右明渡し遅滞に基づく損害の賠償を請求することができる。

四  請求原因5の事実のうち、控訴人が本件解除後も本件土地建物の占有を続け、平成九年二月二四日に被控訴人に対し本件土地建物を仮に明け渡したこと及び被控訴人が同年一〇月二八日に本件予定地に本件工場を建設して、同年一二月一日から本件工場において生産を開始したことは、いずれも当事者間に争いがない。右争いのない事実、前記二の認定事実、証拠(甲三〇一の1・2、三〇二の1・2の1ないし3、三〇三ないし三一四の各1・2、三一五、三一六、三一七の1・2の各1・2、三一八の1・2の1・2、三一九ないし三二五の各1・2、三二六の1・2の1・2、三二七、三二八ないし三三四の各1・2、三三五の1・2の1・2、三三六、三三七の1の1・2・2の1、三三八、三三九の1・2の1・2、三四〇、三四一の1・2、証人片山公三)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  被控訴人は、サントリー社のウイスキー・ブランデー用コルク栓(被控訴人が開発した圧搾コルク栓に、ガラス栓またはプラスチック栓をワッシャーシールまたは接着剤で結合したもの)を生産するため本件工場を建設することとし、平成元年六月二七日、控訴人に対し、本件土地建物の明渡しを請求し、同年九月一二日、本件工場につき建築確認申請をしたが、控訴人において明渡に応ぜず同月二七日には岡山県地方労働委員会に不当労働行為の救済申立てをし、建築確認も遅れる見込みとなった(なお、被控訴人は平成二年七月二七日付けで建築確認を受けた)。

このため、被控訴人は、既存の建物(第一工場内の修養館、旧ハードガスケット材料置場、本件予定地内の八号倉庫)を改造し、暫定的に生産を開始することとした。

2  被控訴人は、平成元年一〇月、修養館(従業員の厚生施設であった)を改造して、同所に受電設備(賃料月額六万円で賃借した)、ガラス栓コルク組立機二台とプラスチック栓コルク組立機一台を設置し、旧ハードガスケット材料置場にガラス栓コルク組立機一台とプラスチック栓コルク組立機二台を設置し、八号倉庫にインジェクションマシン三台を設置した。

被控訴人は、これら設備を使用して、平成元年一二月にサントリー社用ガラスコルク栓の、平成二年五月に同社用プラスチックコルク栓の各生産を開始した。被控訴人は、生産したコルク栓を第一工場内のシートハウス等に保管した。

3  被控訴人は、平成二年九月、サントリー社からコルク栓に異臭が付着した旨の苦情を受けて原因を調査した結果、シートハウス等における製品の保管状態が悪いため工場内の異臭が付着したことが判明した。このため、被控訴人は、平成三年四月から旧寿倉庫を賃借(賃料月額四九万円)して、同所を製品保管場所として使用した。

4  被控訴人は、サントリー社から再三にわたる増産依頼に応ずるため、平成三年四月に旧寿倉庫を賃借した際、旧ハードガスケット材料置場のプラスチック栓コルク組立機二台と修養館のプラスチック栓コルク組立機一台を八号倉庫に移設し(その結果、八号倉庫には従前から設置されていたインジェクションマシン三台と移設されたプラスチック栓コルク組立機三台が設置され、修養館にはガラス栓コルク組立機二台が、旧ハードガスケット材料置場にはガラス栓コルク組立機一台がそれぞれ残された)、生産の効率化を図るとともに、旧ハードガスケット材料置場にガラス栓コルク組立機を一台新たに搬入した。

しかし、旧ハードガスケット材料置場はガラス栓コルク組立機二台を稼働させるには手狭であったため、新たに搬入したガラス栓コルク組立機一台を稼働させるに至らず、同所にこれを保管せざるをえなかった。

5  平成五年、サントリー社からさらに増産の依頼があった。被控訴人は、これに応ずるため、同年一〇月、新寿倉庫を賃借(賃料月額一〇六万七〇八〇円)して受電設備その他必要な設備を設置し、同所に旧ハードガスケット材料置場のガラス栓コルク組立機二台(1台は稼働中、もう一台は稼働できずに保管中)及び八号倉庫のプラスチック栓コルク組立機三台を移設し(修養館にはガラス栓コルク組立機二台が、八号倉庫にはインジェクションマシン三台が、それぞれ従前どおりに残された)、あわせて同倉庫を製品置場として使用した。その結果、新寿倉庫が圧搾コルク生産の拠点工場になった。

6  平成九年二月二四日、控訴人は、被控訴人に対し本件土地建物を仮に明け渡した。被控訴人は、同年一〇月二八日、本件予定地に本件工場(鉄骨造スレート葺二階建て。床面積は、一階が917.60平方メートル、二階が100.60平方メートル)を建築した。被控訴人は、本件工場にガラス栓コルク組立機五台(新寿倉庫に設置されていた二台及び修養館に設置されていた二台を移設したほか、一台を増設)、プラスチック栓コルク組立機三台(新寿倉庫に設置されていたもの)、インジェクションマシン六台(サントリー社製品用に八号倉庫に設置されていた三台のほか、他社製品用に三台を増設)を設置して、同年一二月一日から生産を開始した。なお、被控訴人は、本件工場内に製品置場を確保できなかったため、別途倉庫を賃借して製品置場として使用している。

五  前記四の認定事実によれば、以下のとおり認定、判断することができる。

1 被控訴人は、控訴人に対し、本件土地建物の明渡しを求める交渉において、サントリー社から依頼のあった圧搾コルク栓を生産するため、本件工場を建設する計画であることを説明した。しかるに、控訴人が本件土地建物の明渡しを遅滞したため、被控訴人は、計画どおり本件予定地に本件工場を建設することができず、既存の建物を改造したり倉庫を賃借するなどして生産を開始せざるをえなかった。そうすると、被控訴人が右暫定的な設備を設置するため支出した費用のうち右生産を行うために必要かつ相当であったものは、特別事情に基づく損害ではあるが、控訴人において予見可能性を有していたと認められるので、控訴人の明渡し遅滞と相当因果関係を有する損害というべきである。

2  被控訴人は、改造した修養館に設置した受電設備の賃借料三〇〇万円(平成二年八月から平成六年九月まで五〇月・月額六万円)を損害として主張する。

被控訴人が修養館を改造して暫定的に生産を開始することは、控訴人も予見可能性を有していたところ、修養館は従業員の厚生施設であって受電設備を備えていなかったのであるから、修養館において受電設備を賃借して設置することも予見可能性を有していたと認めるのを相当とする。

もっとも、被控訴人が本件工場につき建築確認を受けたのは平成二年七月二七日であり、その後直ちに本件工場の建設にかかったとしても、これを完成して生産を開始することができたのは平成三年五月一日以降であると考えられる(本件土地建物が平成九年二月二四日に仮に明け渡された後、本件工場が完成して生産が開始されたのは同年一二月一日からであり、その間約九か月を要した)。そうすると、平成三年四月末日までは控訴人の明渡し遅滞がなかったとしても本件工場が稼働できなかったのであるから、同日までに発生した費用は、控訴人の明渡し遅滞とは相当因果関係がないというべきである。

控訴人は、受電設備を長期間にわたり賃借する場合、これを購入した方が賃借するよりも安くなったはずであるから、右賃借費用合計額が右購入費用を上回る限度において不要かつ不当な支出であり、また、右賃料額が不相当に高額であると主張する。しかしながら、控訴人の明渡し遅滞が長期間にわたるかどうかを含めて不明であったこと及び右受電設備の賃料額に徴すると、右受電設備を賃借したことは必要かつ相当な措置であり、右賃料の支出は必要かつ相当と認めることができる。

したがって、受電設備賃借料に関する被控訴人の請求は、平成三年五月分から平成六年九月分まで(四一月)の月額六万円の割合による二四六万円の限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないので棄却すべきである。

3  被控訴人は、旧寿倉庫の賃借料一四七〇万円(平成三年四月分から平成五年九月分まで三〇月・月額四九万円)を損害として主張する。

被控訴人は、平成二年九月に発生した異臭問題を解決するため、平成三年四月から平成五年九月まで旧寿倉庫を賃借して製品置場として使用したところ、被控訴人の製品がサントリー社のウイスキー、ブランデー用瓶に使用されるコルク栓であることに鑑みれば、製品の保管について異臭の付着を避けるため細心の注意を払うべきであるから、その保管につき倉庫を賃借することも予見できたはずであり、このために旧寿倉庫を賃借したことは必要かつ相当な措置であり、右賃料の支出は必要かつ相当と認めることができる。

もっとも、前記のとおり、平成三年四月末日までに発生した費用は、控訴人の明渡し遅滞との間に相当因果関係がないというべきである。

したがって、旧寿倉庫賃借料に関する被控訴人の請求は、平成三年五月分から平成五年九月分まで(二九月)月額四九万円の割合による一四二一万円の限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。

4  被控訴人は、新寿倉庫の賃借料内金二二六八万三二〇〇円(平成五年一〇月分から平成九年一月分まで四〇月・賃料内金月額五六万七〇八〇円)を損害として主張する。

被控訴人は、平成五年にサントリー社の増産依頼に応じて新寿倉庫を賃借して設備を集約・増強し、平成五年一〇月以降新寿倉庫の賃料として月額五六万七〇八〇円を支出し、また、後記5の設備費用六六〇万八四二三円を支出したところ、本件工場が完成していたとすればこれらの費用の支出は不要であったと考えられるので、これらも控訴人の明渡し遅滞に基づく損害と考えられないでもない。

しかしながら、これらの支出のうち右増産に関する部分は、被控訴人がこれに要する支出と相応する収入を計算してその責任と判断において行った投資であるから、これについてまで本件解除時に控訴人において予見可能性があったとは認めがたく、また、被控訴人において右投資による収入を得たにもかかわらず支出については控訴人に負担させるのは不公平というべきであるから、控訴人の明渡し遅滞との間に相当因果関係を認めることはできない。もっとも、新寿倉庫は旧寿倉庫の代わりに製品を保管する倉庫としても使用され、これにより旧寿倉庫の賃借が終了したのであるから、新寿倉庫の賃借料は、旧寿倉庫の賃借料(月額四九万円)の限度において、控訴人の明渡し遅滞との間に相当因果関係を認めることができる。

したがって、新寿倉庫の賃借料に関する被控訴人の請求は、右期間中月額四九万円の割合による金員合計一九六〇万円の限度で理由があるから右限度で認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきである。

5  被控訴人は、新寿倉庫における設備費用六六〇万八四二三円(内訳左記のとおり)を損害として主張する。

動力電源配線工事費用

二四一万三三〇〇円

高圧受電工事費用九四万五〇〇〇円

屋内配線工事費用

一五五万八〇〇四円

配管工事費用 一六万〇一九四円

移設費用 九六万八八八五円

受電設備費用 五六万三〇四〇円

しかしながら、右設備費用は、前記のとおり、被控訴人の責任と判断で行った投資であり、控訴人の明渡し遅滞との間で相当因果関係を認めることができない。

したがって、右設備費用に関する被控訴人の請求は、理由がないので棄却すべきである。

6  控訴人は、被控訴人はその主張の支出をして生産活動を行って利益を受けたのであるから、これを損害というとしても右利益により既に回収されたと主張し、また、被控訴人の旧・新寿倉庫の賃借料の支払は新たな工場の建設費に代わるものであるとして、被控訴人が右支出によって本件工場建設にあたってこれらに相当する支出を免れたと主張する(抗弁1)。しかしながら、控訴人が明渡しを遅滞なく履行していれば、本件工場を建設することにより右支出を要せずに利益を得ることができたのであるから、右支出自体が損害というべきである。したがって、控訴人の右主張は理由がない。

7  控訴人は、控訴人が明渡しを遅滞している土地の面積が本件予定地の約四分の一であるとして、被控訴人の損害の発生について控訴人の関与ないし寄与の割合は四分の一以下であると主張する(抗弁2前段)。しかしながら、前記認定によると、本件予定地のうち控訴人が明渡しを遅滞した土地を除いた部分のみでは本件工場の建設は不可能であったと認められるから、控訴人の右主張事由を理由として控訴人の責任を軽減することはできない。

また、控訴人は、被控訴人が控訴人に対して頑なな交渉態度を取ったことにより、自ら控訴人の明渡し遅滞を招いたというべきであるから、被控訴人の損害について過失相殺をすべきであると主張する(抗弁2後段)。しかしながら、前記認定事実に照らすと、控訴人の明渡し遅滞について被控訴人に過失があったと認めることはできない。したがって、控訴人の右主張は理由がない。

六  以上によれば、被控訴人の本訴請求のうち、本件貸借契約終了に基づく本件建物の明渡しを求める請求及び本件車庫の収去・本件土地の明渡しを求める請求はいずれも理由があるから認容すべきであり、かつ、明渡し遅滞に基づく損害賠償金四六九九万一六二三円の支払請求は、前記五で認定の損害額合計三六二七万円の支払を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。

よって、前記判断と一部異なる原判決は一部不相当であるからこれを変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 妹尾圭策 裁判官 上田昭典 裁判官 市川昇)

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