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広島高等裁判所岡山支部 昭和25年(う)459号 判決 1952年2月20日

控訴人 被告人 松本喜志夫 外二名

弁護人 竺原巍

検察官 津秋午郎関与

主文

原判決を破棄する。

被告人松本喜志夫を懲役五月及び罰金五万円に、同御船康夫、滝田守を懲役三月及び罰金二万円に処する。

被告人等が右罰金を完納することができないときは金四百円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

但し各被告人に対し、裁判確定の日から三年間右各懲役刑の執行を猶予する。

押収してある葉たばこ二百二十五瓩は被告人松本喜志夫より没収する。

理由

被告人等の弁護人竺原巍の控訴の趣意は、その提出に係る控訴趣意書記載の通りであるからこれを引用する。

第一点について

論旨は要するに、被告人御船康夫、滝田守は、その所持していた葉たばこを他に譲り渡した事実も消費した事実もないばかりでなく、同葉たばこはその所有者である相被告人松本喜志夫から没収することができるものであるにかかわらず、右両名よりその価格を追徴した原判決は、法令の適用を誤つていると主張するものである。よつて案ずるに、たばこ専売法第七十五条第二項は、同条第一項の規定を受けて、「前項の物件を他に譲り渡し、若しくは消費したとき又は他にその物件の所有者があつて没収することのできないときは、その価格を追徴する。」と規定しているのであつて、同項にいわゆる「前項の物件」とは、同法第七十一条、第七十二条第一項、第二項、第七十三条第四号ないし第七号の犯罪に係るたばこ、葉たばこ等の犯則物件を指称するものであり、「他に譲り渡したとき」とは、右犯罪の犯人がその犯則物件の所有権を他に移転したことを意味し、また「消費したとき」というのは、その犯人が当該犯則物件を自ら需要に供しその利益を享受し尽した場合を指すものと解せられる。従つて、単に他人のために他人所有の葉たばこ類を所持していたに過ぎない犯人が、その葉たばこ類を所有者に返還し、若しくはさらに他人にその所持を移した場合、又は依然として自らその所持を継続している場合の如きは、右にいわゆる「他に譲り渡し、若しくは消費したとき」のいずれにも該当しないものであつて、同法第七十五条第二項前段の文理上からは追徴の言渡をなし得ないものといわねばならない。又一般にたばこ、葉たばこ類は同法第六十六条の規定によつても明らかな如く、特に同法の規定によつて認められた場合又は正当な事由に基く場合の外何人と雖もこれを所有し所持することを禁止せられているのである。たばこ、葉たばこ類の所有所持が法の保護尊重を受けるがためには、その所有、所持が同専売法の規定に照して見ても許されている場合でなければならないのであつて、没収に対して保護尊重せらるべき犯人以外の第三者の所有権もまたこの要件を備えたものでなければならない。従つてたばこ専売法第七十五条第二項後段に「又は他にその物件の所有者があつて没収することのできないとき」というのも、正しくこの意味における合法的な所有者があつて、その所有権を無視して没収の処分をなし得ないような場合、例えば許可を受けたたばこ耕作者の同居の親族が、その耕作者の生産し所有している葉たばこを、収納前他に盗み出して所持していたことから、所持罪として起訴せられたが、その犯則物件たる葉たばこは、当該犯人以外の耕作者の合法的な所有に属するような場合を指しているものと解すべきである。これを要するに、たばこ専売法第七十五条第一項は原則として同法違反の犯則物件が何人の所有たるとを問はず没収する趣旨において、ことさら刑法第十九条第二項のような規定を設けなかつたものであり、ただ同条第二項は、若し当該犯人がその犯則物件を他に譲り渡し、若しくは消費して既に犯罪による不法の利益を享受している場合には、その不法の利益を犯人に保持せしめないために、当該犯人よりその価格を追徴すること、及び若しその犯則物件が第三者の合法的な所有に属する場合においては、特に第一項の例外として犯則物件そのものの没収を差し控え、当該犯人よりその価格を追徴する趣旨と解すべきものである。しかして、原判決の認定した事実は、被告人松本喜志夫は徳山俊明外一名と共謀の上、他人から不法に譲り受けた葉たばこ約六十貫(二百二十五瓩)を、うち二十貫は昭和二十五年二月一日頃より、残四十貫は、翌二日頃より、共に同月四日頃に至るまで自宅に保管所持し、被告人御船、滝田の両名は、相被告人松本の依頼によつて、両名共謀の上、松本所有の右葉たばこ六十貫を他に運搬のため同月四日頃所持していたというのであつて、右両名の所持していた右葉たばこが、両名の手中より直接押収せられ、同人等の手によつて譲渡、消費のなされていないことは本件記録上明らかなところである。従つて本件葉たばこは、違反所有者でありかつ違反所持者である被告人松本より没収するか、若しくは違反所持者である被告人御船、滝田の両名より没収すれば足り、そのいずれか一方より没収すれば、他の一方についてさらに追徴すべき筋合でないにもかかわらず、これと反する措置に出でた原判決には、法令の適用に誤があつて、しかもその誤が判決に影響及ぼすことが明らかであるから論旨は理由がある。

第二点について

論旨は被告人等に対する原判決の量刑は重きに失するというのであつて、本件記録を精査し所論の各情状を斟酌すれば、原審が本件につき被告人松本に対し懲役五月及び罰金十万円、被告人御船、滝田に対し懲役三月及び罰金五万円、を言渡したのは、その量刑重きに失するものと認められるので論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七条に従い原判決を破棄し、かつ本件は訴訟記録竝びに原審において取り調べた証拠によつて、直ちに判決することができるものと認められるので同法第四百条但書によつてつぎの通り判決する。

原審の認定した事実を法律に照すと、被告人等の所為は各刑法第六十条、たばこ専売法第六十六条第一項、第七十一条第一号に各該当し、情状懲役刑と罰金刑を併科するのを相当とするので同法第七十六条に従いこれを併科することとし、所定の刑期罰金額の範囲内において、各被告人を主文の如く量刑処断し、被告人等が罰金を完納することができないときは各刑法第十八条に従い金四百円を一日に換算した期間労役場に留置すべく情状を斟酌して同法第二十五条を適用し被告人等に対し各三年間右懲役刑の執行を猶予し、押収してある葉たばこ二百二十五瓩はたばこ専売法第七十五条第一項に則り被告人松本より没収すべきものとする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判長判事 植山日二 判事 林歓一 判事 幸田輝治)

弁護人竺原巍の控訴趣意

第一点原判決は主文に於て被告人御船同滝田より金壱万参千七百五十円を追徴する旨言渡したのであるが此の点は法令の適用を誤り追徴すべきものでないから破毀相成度し即ち原判決はたばこ専売法第七五条第二項により追徴したのであるが同条によれば前項の物件を他に譲り渡し若しくは消費したとき又は他に物件の所有者があつて没収することの出来ないときは其の価額を追徴する旨規定してある然るに判決理由第二の如く被告人等は本件葉たばこを譲り渡し又は消費したものではない且主文言渡しの如く本件葉たばこを所有する被告人松本より没収の言渡しがあつたのであるから他に其の物件の所有者があつて没収することの出来ないときに該当しないからたばこ専売法第七五条第二項に該当しないから右被告人等より前記の如く本件たばこの価格を追徴したのは違法であり此の点破毀の上追徴を除かれたく願上ます。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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