広島高等裁判所岡山支部 昭和27年(う)373号 判決
検察官が当初本件を恐喝の訴因によつて起訴し原審において審理中新たに窃盗の訴因を択一的に追加し、原審もこれを容れ、追加された窃盗の訴因について、有罪の判決をしていること及び元来恐喝罪が相手方の意思に強制を加え賍物を交付させてこれを不法に領得することを特徴とするに対し、窃盗罪が全然相手方の意思に関係なく、その占有を侵して財物を領得することを特徴とすることは所論の通りである。しかし本件起訴状及び訴因罰条追加申請書の記載並びに原判決挙示の証拠その他記録に現れている各証拠を綜合すれば、本件恐喝の訴因も窃盗の訴因も共に被告人が昭和二十六年三月十一日頃勝田郡滝尾村堀坂において高山健五郎より、同人が所持していた金千七百円を不法に領得したという同一の基本的事実に立つものであつて、その事実の詳細は被告人が前記日時、場所において無燈火で自転車を押して通行中の被害者高山を発見し、警官を装つてこれを呼び止めて詰問し、駐在所に同行を求めるなど不法の勢威を示して同人を脅迫した上、所持金の呈示を求め、被害者がこれに応じて所持金千七百円を取り出した際突如これを奪い取つて逃走したというのである。しかして起訴状は右金銭の不法領得と、脅迫とを結び付けてこれを恐喝の訴因に構成し、訴因追加申請書はこの脅迫を不問に付し金銭の不法領得の点のみを捉えて、窃盗の訴因に構成したに過ぎないものであることが明らかである。
して見れば本件各訴因は全く同一の社会的事実を基礎とするものであつて公訴事実の同一性に聊かの変更もないものといわねばならない。原審が右訴因の択一的追加を許し、追加された訴因について有罪の判決をしたことに何等の法令違反もない。論旨は理由がない。