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広島高等裁判所岡山支部 昭和29年(く)9号 決定 1954年10月19日

本籍並住居 鳥取県○○郡○○村大字○○○○番地

少年名 中学生上田一夫(仮名)

昭和十四年十一月二十日生

抗告人 附添人弁護士

主文

原決定を取り消す。

本件を原裁判所に差し戻す。

理由

附添人は、抗告申立の趣旨として、昭和二十九年九月二十八日鳥取家庭裁判所がした少年を初等少年院に送致するとの決定を取り消す旨の裁判を求め、その理由の要旨を要約すれば、少年は未だ年少者であり、本件の非行は初犯にかかるものであつて、その被害額は弁償しており、殊に目下就学中の者にて将来の保護、監督に関しては、家庭は素より村有志、部落ともに協力して指導に当り善導すべく、非行後改俊の情顕著なる少年に対し之を少年院に送致することは却つて悪い結果をもたらすものであるから今一度家庭に戻して将来の更生を期すべく、該決定は著しく不当の処分であるので本件抗告申立に及ぶというにある。

しかし職権を以つて調査するに、少年に対する詐欺保護事件の記録によれば、原審の昭和二十九年九月二十八日の審判調書の少年の実兄○○○○が保護者として出席の上、保護者陳述の要旨として、「私は少年の実兄であります、……本日の審判期日には実父は中風で病床にあり又実母は気がすすまないといつており出席出来ませんので私が替りに出頭致しました」の記載に徴すれば、原審において右審判期日に或は父又は母たる保護者に対し呼出手続がなされたかのようにも窺われるが記録を精査するも保護者に対する呼出手続がなされた形跡を認めることができない、してみると原審は結局之が呼出手続をしなかつたものと認めなければならない。

いうまでもなく審判期日には少年、保護者及び附添人を呼び出さなければならない(少年審判規則第二五条)ものであり、この規定に定められた保護者とは親権者又は後見人、その他の者で少年を現に監護する者を指称するものと解すべきであつてたとえ審判期日に実兄が出席していてもこれでただちに保護者の出席と認められない。

従つて原審が昭和二十九年九月二十八日の審判期日に保護者の呼出手続をなさず、ために保護者に対し不服申立の機会を与えずして審判を終結し決定を言渡したことは明らかに審判手続の違反があり、この違反は決定に影響を及ぼすことはいうまでもなく原決定はこの点において取り消しを免れない。

よつて附添人の主張に対する判断を省略して少年法第三十三条第二項に則り原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 有地平三 判事 浅野猛人 判事 三好昇)

原審決定の主文及び理由

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

一、非行事実

少年は

(1) 昭和二十九年七月初旬頃友人○田○勝○より、腕時計一個証第二号を借用し保管中同月末頃鳥取市東品治町大丸百貨店附近において壇に、○山○弘に譲渡し以て横領し

(2) 同年七月中頃、○道○久より、カメラ一個を借用し保管中その頃壇に、鳥取市○○○○田○夫方にて同人に対し金九、六〇〇円位で売却し

(3) 同年七月頃友人○山○弘より腕時計一個証第一号を借用し、保管中、その頃壇に鳥取市○○○○町○番地○田○二方にて同人に対しズボン買受代金一、五〇〇円の代りに預け入れ以て横領し

(4) 同年七月中頃友人○村○一より腕時計一個を借用し保管中、その頃壇に鳥取市○○○○○番地○居○美○方にて菓子買掛金約五三〇円の支払いに当てる為同女の母に渡し、以て横領し

たものである。

二、罰条

(1)、(2)、(3)、(4)の各事実共刑法第二五二条第一項

三、主たる問題点

1、少年の家庭には適当なる指導監督者なく保護能力に欠け、放任的な状態におかれている。

2、少年の性的関心が異常であり交友関係は極めて不良である。

3、道徳的観念に乏しく、且意思薄弱で自律心を頗る欠いている。

四、前記非行事実並に少年調査記録、鳥取少年鑑別所鑑別結果通知書行動観察票、事件記録を併せ考えると少年の健全なる育成を期する為、その性格と環境の情況に照し、少年院における規律ある生活と嬌正教育を施すを相当と認めるので少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、第三六条、少年院法第二条第二項を適用し主文のとおり決定する。(昭和二十九年九月二十八日鳥取家庭裁判所)

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