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広島高等裁判所岡山支部 昭和29年(ラ)16号 決定 1954年12月24日

抗告人 荒尾志郎 法定代理人親権者母 荒尾多喜

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代理人 山村利宰平

主文

原決定を取消す。

本件破産申立を棄却する。

本件申立に関する費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の要旨は、原決定が本件破産申立人赤木栄吉の抗告人に対する債権額を十万一千百九円と判断したことならびに昭和二十九年一月二十一日抗告人がその所有にかかる商品全部をその店舗にある営業器具一切と共に本件破産申立人等を含む全債権者に提供して自己の債務の弁済に充てかつその余の債務の免除を受け結局本件破産申立人等に対し何等の債務を負担していない事実を看過したことは誤判である、というに帰する。

よつて案ずるに抗告人の右主張事実を認めるに足る疏明資料は存しない。従つて、原決定がなされた当時には抗告人に破産原因があつたのである。しかし、当審に現われた疏明書類たる昭和二十九年十一月十九日附本件破産申立人等外二名代理人弁護士笹田英男作成の証明願、同年十二月一日附右同人作成の証明書、同年十一月三十日附および同年十二月十六日附抗告人法定代理人親権者荒尾多喜作成の各証明願に当裁判所が職権で調査した結果を綜合すると、本件破産事件については本件破産申立人等ほか七名から債権の届出があり、債権調査期日における調査の結果是等の債権が昭和二十九年十月十八日いずれも異議なく確定したことならびに本件破産申立人ほか二名の大口債権は同年十一月十日第三者からの一部辨済とその余の債権の放棄により消滅しその他の債権者も一部辨済を受け残余については期限の猶予をなしかつこれ等全債権者の債権につき同年十二月十五日その債権届出の取下書が原審に提出され、他に債権の届出のないこと、がそれぞれ疏明されるので、抗告人は信用を回復して支払不能の状態を脱し、破産原因は消滅したものと断ぜざるを得ない。

もつとも破産者に対する債権の届出は破産手続終結に至るまでこれを取下げ得るか否は争のあるところであるが、その取下は本件の様に破産債権確定後においてもこれをなし得るものと解するを相当とする。蓋し破産債権届出の取下は訴の取下と異なり破産財団から将来辨済を受くべき権利の放棄を意味するにすぎないから、その取下は破産者にとつても他の破産債権者にとつても少しも不利益とならないのみならず、破産手続は確定債権を基にして更に配当手続に発展するものであることを考えると、破産法第二百四十二条第二百八十七条に確定債権については債権表の記載は確定判決と同一の効力を有する旨規定してあるのは、破産債権者や破産者において、もはやこれを争い得ない効力および破産者に対し執行力を生ずる趣旨であつて、いはば破産的確定力ともいうべく、判決確定後には訴の取下ができないことと同様に断じ得ないからである。

かような次第で原決定は宣告当時は相当であつたとしても、本件が当審に係属中に生じた前記事由により破産原因は消滅したのであるから原決定は取消を免れず、本件破産申立も棄却せざるを得ない。

よつて破産法第百八条、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十六条に則り原判決を取消し、本件破産申立を棄却し、申立手続費用の負担に関しては如上の事情にかんがみ民事訴訟法第九十六条、第九十条を適用し第一、二審共抗告人の負担とすることとして主文のとおり決定する。

(裁判長判事 三宅芳郎 判事 高橋雄一 判事 林歓一)

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