広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(う)184号 判決
その(一)所論の要旨は公文書偽造罪に於ける公文書とは一切の文書を意味するものではなく、公務所又は公務員が作成権限にもとずいて作成する国又は公共団体の文書たる性質を有する意思表示的事項の証明文書である。然るに本件に於て被告人等が作成した書面は特に公務員が権限にもとずいて作成することを要せず、何人に於ても自由に作成し得る議決書の写であつて、写本自体では意思表示的効果を表わすものではないから、いわゆる公文書偽造罪の対象たる文書に該らないというのである。そこで所論について検討すると、被告人等が作成した書面は議決書写と題する書面であることはいうまでもない。もとより認証のない単なる書面の写は特に権限あるものによつて作成せられることは必要でなく、だれでも自由に作成することができるものであることは、所論のとおりである。しかし、写というからには必ず原本の存在することを前提とするものであつて、原本の存在しない写はあり得ない筈である。従つてたとえ書面に写との記載はあつたにしても、原本の初めから存在しない場合には、その実質は写ではなくしてそれは原本そのものであるといわねばならない。本件に於て被告人等が作成した議決書と題する書面には写たるの表示はあるが、実際に於ては同書面に記載してあるような村会の議決があつたものでもなく、従つてこのような議決書の原本が存在しないことは充分承知しながら敢えて作成したものであることは原審で取調べた証拠に照らして明かである。
その上同書面には公務員たる大井村長社寅男、同村会議長山下忠之の名義を冒用しておるのであるから、人をして同書面に記載してあるように真実同村会に於て岡山県国民健康保険団体連合会から五十万円借入れすることについて議決があつたものと信じさせるに足る文書であると認めるに十分である。
従つてたとえ議決書写と表示してあつても、同書面は刑法第百五十五条第三項所定の公文書に該当するから、之を偽造した被告人等の所為に対して同法条を適用して処断した原判決には所論のような誤りはない。
(裁判長判事 有地平三 判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人)