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広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(ネ)75号 判決 1957年3月18日

控訴人(原告) 橘健二

被控訴人(被告) 高松町選挙管理委員会

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。旧岡山県吉備郡高松町臨時選挙管理委員会が昭和三十年一月二十七日アメリカ合衆国総領事館に対してした、控訴人が一、昭和二十一年四月十日施行の衆議院議員選挙、二、昭和二十二年四月五日施行の岡山県知事選挙、三、同年同月二十日施行の参議院議員選挙、四、同年同月三十日施行の岡山県議会議員および加茂村議会議員選挙、五、昭和二十三年十月五日施行の岡山県教育委員会委員選挙、にそれぞれ投票した旨の証明を取り消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人委員会代表者は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張と立証は原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

本件は当時の吉備郡高松町臨時選挙管理委員会がアメリカ合衆国総領事館に対してした、控訴人が日本国で行われた各種の選挙に投票した旨の証明の取消を求める事案である。

右証明行為は、右委員会の管理した特定の選挙において控訴人が選挙権を行使した事実につき公の証拠力を与えたにすぎないもので、何ら法律上の効果を直接に生ぜしめるものではない。

したがつて右証明行為により控訴人は直ちにアメリカ合衆国の国籍を失うものではなく、ただそれが一の証拠資料となつて控訴人がわが国において政治選挙に投票した事実を認められ、同国の国籍喪失法第四〇一条によつてその国籍を喪失したものとされる結果となつても、それは右証明行為から生じた間接的な法律効果であつて直接的なものではないのである。かように国民の権利義務に直接の法律効果を生じないものは未だ行政処分があるものとはいえず、したがつて具体的な権利義務に関する争訟があるとは認められないから、裁判所法第三条の「法律上の争訟」ある場合にあたらないものといわねばならぬ。よつて右証明行為の取消を求める本訴は不適法として却下を免れないので、これと反対の見地に立ち、右取消訴訟は裁判の対象となるものとしてその本案について審判した原判決はこれを取り消すべきものとし、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅芳郎 有地平三 高橋雄一)

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