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広島高等裁判所岡山支部 昭和33年(ネ)12号 判決 1958年12月26日

控訴人 参加人 清水義夫

訴訟代理人 河原太郎

被控訴人 被告 備前護謨株式会社 代表者取締役 高林勝寿

原告 荒木里支 代理人 吉岡栄八

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は一審参加人の負担とする。

事実

一審参加人代理人は「原判決中参加共同訴訟人敗訴の部分を取り消す、一審被告会社が昭和三十一年六月二十四日岡山市巌井二千九十一番地同会社本店において開催した臨時株主総会においてなした清水義夫、高林勝寿、平田譲四郎、嶋村克己を各取締役に、高原清を監査役に選任するとの決議の取消を求める一審原告の請求を棄却する、訴訟費用は一、二審とも一審原告の負担とする」との判決を求め、一審原告代理人は主文と同旨の判決を求めた。

各当事者の主張と立証は、一審参加人において「原判決は株主総会決議取消訴訟の被告となり得る者は当該会社以外にないと宣言するか、商法第二四七条、第二四九条、第二五三条等総会の決議取消の訴に関する規定中被告を当該会社に限定した趣旨の窺われるものは存しない。会社を被告の一人とすべきことは、決議が会社のものであることから当然の如く思われる。しかし、決議取消の効果は原告たる株主又は取締役と被告たる会社との間だけでなく、対世的効力があることから考えると、決議の対象となつた者が被告たり得ないと解することはその者の権利を害すること甚だしい。本件の如きは、原告と被告会社とはいわゆる馴合訴訟を行つている。このような馴合訴訟によつて決議の対象となつた者はその権利を不当に害せられることとなり、かかる不当な結果は許さるべきではない。右のように考えると、取締役、監査役選任決議取消訴訟は、会社と選任の対象となつた役員との間の必要的共同訴訟と解するのが正当であつて、本件の如きは理論的に民事訴訟法第七一条の場合というよりも、同法第七五条による参加を認むべき場合である。これを要するに、決議取消の訴の被告たり得べき者が会社に限定せられるという条文上の根拠がない以上、右主張のように解するのが合理的である」と附陳したほか、原判決事実摘示(但し、原判決主文第二項に関する部分を除く-この点については控訴がなく確定した)と同じであるから、これをここに引用する。

なお、一審原告斎藤定一は昭和三十一年十二月十六日死亡せることが記録上明らかであつて、同人の本訴株主総会決議取消権は株主としての株主総会たる会社機関の地位において有する共益権であつて、いわゆる一身専属的性質を有し、相続によるこれが権利の移転をなし得ないものと解するのを相当とするから、その相続人においても訴訟承継をするに由なく、他に訴訟承継を許容すべき事由も存しないので、一審原告斎藤定一との関係では本件訴訟が右死亡と共に当然終了したものである。

理由

先ず、本件株主総会決議取消訴訟の判決はいわゆる対世的効力を有し、その既判力が一審参加人を含む第三者にも及ぶことは商法第二四七条第二項第一〇九条第一項に徴し明白であるから、右訴訟の目的たる決議の取消は、一審原被告らと一審参加人との間に合一にのみ確定せられるべき性質のものであることはいうまでもない。しかしながら、一審参加人主張の如く、その故をもつて直ちに民事訴訟法第七五条により一審参加人が一審被告会社の側に共同参加することができるものと解することはできない。即ち、同条の趣旨とするところは、他人間の判決の効力を受ける第三者が自ら別訴を提起する代わりに、自己の請求をこれと併合して共同訴訟人となることを許す趣旨に出たものであるから、第三者たる参加人において相手方に対し本訴の請求又はそれに対する反対申立と同内容の主張ができる適格を具備することを要するものと解するのが相当である。しかるところ、本件株主総会の決議はいうまでもなく一審被告会社そのものの意思決定であるから、この決議について処分権を有するのは一審被告会社の外にはなく、従つてこれが決議取消訴訟において被告としての適格を有するのは一審被告会社に限られるものと解すべき筋合にある。さすれば、一審参加人が被告たり得る適格を欠くことは明らかであるから、本件決議取消訴訟の一審被告会社の側に共同参加することは許されないものと断ずるの外はない。一審参加人のこの点に関する主張は独自の見解というべく、到底賛同すべくもない。

さらにまた、一審参加人は本件決議取消請求の対象たる株主総会において選任された取締役としての資格において参加せんことを主張する。しかし、取締役たる資格を現に有するものに限つて決議の取消を訴求できる旨を定めた商法第二四七条第一項の法意に鑑みるときは、たとえ取消の対象たる決議によつて取締役に選任され、これが取消に直接利害関係を有するものであつても、参加当時その取締役たる資格を失つているものは、この訴訟に民事訴訟法第七五条の共同参加は勿論、同法第七一条の当事者参加をする資格がないものと解するのを相当とする。これを本件についてみるのに、一審参加人が本件取消請求の対象たる決議によつて取締役に選任されたものであることは、当該決議自体に徴し明らかであるが、他面一審参加人はその後の昭和三十一年七月二十九日にその取締役の地位を辞任したることを自ら認めるところである。もつとも、この辞任によつて直ちにその取締役たる地位を失つたものとすることはできない。即ち、一審参加人の右辞任と同時に他の三名の取締役も全員辞任し、取締役を欠くに至つたことが成立に争いのない甲第一号証に徴して明らかである上に、同日開催された臨時株主総会の決議により新に所定員数の取締役が選任されたものの、右選任決議の取消訴訟か本件決議取消訴訟と併合審理され、右選任決議の取消を認容したその一審判決が確定したことが本件記録上明らかであるから、右選任決議は当初に遡つて取消されることとなり、従つて一審参加人は前記の如くその取締役の地位を辞任したのに拘らず、商法第二五八条第一項によりその後新に選任された取締役の就職するまで依然取締役たる権利義務を有することとなるからである。けれども、成立に争いのない甲第一号証によれば、更にその後の昭和三十一年九月十四日新に所定員数の取締役が就職したことを認め得るので、右就職と同時に一審参加人はその取締役たるの権利義務を失つたことになると共に、その後において取締役の地位を取得したとする証拠はない。そして、一審参加人が本件参加申立をしたのは同年十二月五日であることが記録上明らかであるから、その当時既に一審参加人は取締役たる地位を有しなかつたことが明らかである。従つて、株主としての資格で参加するとの主張を殊更撤回し、且つ株主たることの立証もない本件においては、もはや一審参加人は共同参加は勿論のこと、当事者参加をもする資格がないものという外はない。一審参加人のこの点に関する主張も亦独自の見解というべく、到底採用すべくもない。

以上の次第により、一審参加人の本件参加申立は前叙何れの観点からしてもこれを許容する余地がなく、不適法としてこれか却下を免れない。そして、一審原告主張の請求原因事実については、すべて一審被告会社の認めるところであつて、該事実に基く一審原告の本訴請求は正当であるから、これを認容すべきものとする。

よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のように判決する。

(裁判長裁判官 高橋英明 裁判官 高橋雄一 裁判官 小川宜夫)

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