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広島高等裁判所岡山支部 昭和40年(ラ)14号 決定 1965年9月08日

抗告人(申請人)

三木いさ

ほか一名

代理人

辻武夫

相手方

岡藤商事株式会社

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一、抗告の趣旨および理由

相手方は昭和三七年二月一二日、抗告人らを亡三木長五郎の相続人であるとして、別紙目録記載の土地・建物につき競売の申立てをした(岡山地裁同年(ケ)八号)が抗告人伊佐は同年五月三〇日、同恵美は翌六月一六日、いずれも適法に相続放棄の申述をしたから、抗告人らは亡長五郎の相続人としての資格を失い、当初から相続しなかつたものとみなされ、本件競売手続における当事者適格を欠くこととなつた。

よつて、抗告人らは競売開始決定に対して異議の申立てをし(同庁昭和四〇年(ヲ)八七号)、異議の裁判あるまで競売手続の一時的停止を求めた(同庁同年(モ)一九七号)が、却下されたので、原決定を取り消し、無保証または相当の保証を条件として、右異議の裁判あるに至るまで前記競売手続を停止する旨の裁判を求める。

二、当裁判所の判断

抗告人らは、結局、相続の放棄により相手方の亡長五郎に対する債務を相続せず、また抵当権の目的となつた別紙目録記載の土地・建物も相続していないから、抗告人らを債務者兼所有者としてなされた競売手続開始決定は現在としては違法となつた旨を主張し、これを根拠として異議申立て、異議の裁判あるまでの仮の処分、その申請却下に対する本件抗告に及んだことが明らかである。

しかし、抵当権はがんらい、設定の際その目的とされた不動産を支配する権能を有するにすぎず、しかも抗告人らの主張するところによれば、相手方の抵当権の目的となつた本件土地・建物は抗告人らの所有でない、というのである。はたして抗告人ら主張のとおりであるとすれば、抗告人らは右競売の続行により一物も失うところはない。抗告人ら以外の「真実の相続人」が競売手続に不服の申立てをすることは格別、抗告人らが自ら競売手続開始決定に異議の申立てをするのは、相続放棄を理由とするかぎり、主張じたい失当たるを免れない。この理は、抗告人らにおいて、本件土地・建物が他の「真実の相続人」の所有に属することを理由として競落許可決定に不服の申立をすることが許されないこと(競売法三二条、民訴六七三条、六八一条二項)によつても、明らかである。

よつて、異議の裁判あるまでの仮の処分の申請を却下した原決定は相当であるから、本件抗告は失当として棄却すべきものとし、抗告費用は敗訴者の共同負担として、主文のとおり決定する。(林歓一・可部恒雄・八木下巽)

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