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広島高等裁判所岡山支部 昭和42年(行コ)2号 判決 1973年10月29日

岡山市旭本町一番三八号

控訴人

萬歳酒造 株式会社

右代表者代表取締役

藤沢海太郎

右訴訟代理人弁護士

松岡一章

右訴訟復代理人弁護士

服部忠文

岡山市天神町三番二三号

被控訴人

岡山税務署長

久保亮

右指定代理人

清水利夫

田野昭二

門坂宗遠

広津義夫

水平栄一

貞弘公彦

右当事者間の頭書事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和三〇年七月三〇日付でした

(1)  控訴人の昭和二七事業年度(同年一〇月一日から翌二八年九月三〇日まで)における法人税課税標準の所得金額を五一〇万七一〇〇円とした再更正処分の内四六三万七一五二円をこえる部分を取消す。

(2)  控訴人の昭和二八事業年度(同年一〇月一日から翌二九年九月三〇日まで)における法人税課税標準の所得金額を七四一万六二〇〇円とした更正処分の内七四一万三三二一円をこえる部分をいずれも取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の各負担とする。

事実

第一、申立

一、控訴人

原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和三〇年七月三〇日付でした控訴人の昭和二七事業年度における法人税の課税標準額についての再更正処分および控訴人の昭和二八事業年度における右課税標準額についての更正処分をいずれも取消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第二、主張および証拠

当事者双方の主張および証拠は、次のとおり付加する外、原判決の事実欄記載のとおりである(ただし、原判決三枚目裏九行にある「同年五月二九日」を「昭和三二年五月二九日」と、同末行の「再更生」を「再更正」と、同五枚目表七行にある「後述」を「後記」と、同一〇行にある括弧内を「同(ロ)(1)aないしc」と、同六枚目表二行にある「同(ニ)」を「同(二)」と、同七枚目表三行にある「協和醗酵株式会社」を「協和醗酵工業株式会社」と、同九枚目表九行にある「同法三一条の二」を「同法三一条の三」と、同一四枚目裏二行にある「九、七八四、五五八」を「九、七八四、五五九」と、同一五枚目表一〇行にある括弧内を「前記1の(ハ)」と、同末行から同裏一行にある「前記」を「前期」と、同一八枚目表一二行と末行にある「予定」と「予定額」を「不足」と「不足額」と、別表(一)(昭和二七年度分)の原告主張額(A)欄中(8)、(9)および所得額の数字を順次「一〇、五五三、五三八・六六」「一七、七八三、六一八・二七」および「二、一一〇、三七〇・二三」と、別表(二)の(1)(売上原価明細)の科目欄中(2)の「前期未棚卸否認額」を「前期末棚卸否認額」と各訂正する)から、これを引用する。

一、控訴人の主張

(1)  自家用酒は、酒税法六条の三により、酒類製造業者が、業務用に供するものとして、所轄税務署から種類、数量を定めて許可されているもので、これについては、酒税だけが賦課され、所得税、法人税は課せられないものである。

控訴会社の株主らが自家用酒を自ら飲用し、あるいは親族への贈答用に供したものがあるとしても、売上に計上すべきものではない。

(2)  アルコール仕入の歩戻り金については、協和醗酵工業株式会社と宝酒造株式会社関係分は岡山酒造組合に対し支払われ、その組合経費等に充当されたものであり、三楽酒造株式会社関係分につきアルコール代金の値引があつたとしてもリベートとすることはできない。

(3)  控訴会社にある空びんの大多数は終戦前に安価で買入されたもので、その棚卸評価額は原価と時価との内低額分によることが慣習であり、控訴会社の評価が正当である。

なお、酒類製造業者は、倉内の桶にある原酒につき税務署の検査を受けた後、びん詰場で割水するもので、びん詰場にはびんの外桶やかめにも酒が入れてあり、びん詰場所在の酒の数量をただちにびんの数量に換算することは相当でなく、また清酒はびん代を含めて売却し、びんを引取るものであるから、びんを中味と別に評価すべきものではない。

(4)  控訴会社では使用人は臨時に雇入れるだけで取締役藤沢保昌、同藤沢忠雄、監査役藤沢喜久弥は使用人としての職務も担当しているから、同人らの給与は給料と報酬を含むもので、前者は株主総会の決議を要せず、その額も高額ではない。

(5)  昭和二八事業年度に三重酒類販売株式会社へ清酒二四石を売却し、これを同年度に計上していないことは認めるが、右は昭和二九年度分として記帳しているうえ、昭和二八年度において資産勘定の在庫品に計上し、酒税を納付しているので、昭和二八事業年度の脱ろう額は、右販売による利益金(五万円未満)で、いずれにしても、記帳上の手落ちにすぎない。

二、被控訴人の主張

(1)  昭和二八事業年度の雑収入二万四〇〇〇円(原判決一四枚目裏から一五枚目表にわたる(ロ)部分)の主張は撤回する(したがつて、雑収入は二万八六二二円三三銭であることが争いなくなり、原判決別表(ニ)(昭和二八事業年度)につき被告主張額は(4)雑収入欄の「五二、六二二・三三」が「二八、六二二・三三」となり、差額の「二四、〇〇〇」は抹消し、(5)計の「三二、五六六、七二六・二一」が「三二、五四二、七二六・二一」と、所得額の「七、五三七、三一三・二七」が「七、五一三、三一三・二七」となる)。

(2)  酒税法上の自家用酒は同法(昭和二五年法律二五二号による改正のもの)三四条の二第一号、同法施行規則二一条の二第三項により、税務署長の承認を受けた数量内で、自家用として消費することを認められた酒類で、業務外に使用してもいいが、消費した際は販売したと同様収入に計上すべきものである。

(3)  控訴人が保有する空びんは終戦前から保有のものではなく、販売先から引取の際時価で購入したものである。

控訴会社のびん詰場には四七・八五三石のびん詰酒があつたので、使用可能のびんが四七八五本はあり、その外にも相当数量の空びんがあつたことは考えられるところであるから、期末に四九〇〇本は存在していたものといえる。

(4)  法人税法において使用人としての職務を有する役員とは、法人の役員で部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、常時使用人としての職務に従事するもので、社長、副社長、代表取締役、専務取締役等のその法人を代表するものおよび監査役、同族会社の役員のうち同族会社と判定する基礎となる株主等は除かれることになつている(法人税法施行規則一〇条の三第六項)。

したがつて、藤沢保昌ら三名がこれに該当しないことはいうまでもない。

(5)  控訴人主張(5)の内販売清酒が在庫品として計上してあることは否認する。

三、証拠

控訴人は甲第七ないし第一四号証を提出し、当審における証人高見壬寅、同山崎正隆、同藤沢保昌、同藤沢仲一、同藤沢喜久弥の各証言および控訴会社代表者藤沢海太郎本人尋問の結果を援用し、後記乙号証中第九九号証については原本の存在および成立を認めるが、その余は不知、と述べ、被控訴人は乙第九三号証の五、六、第九九、一〇〇号証を提出し、当審証人浦上一一、同中島清次の各証言を援用し、前記甲号証中第七号証の成立は認めるが、その余はすべて不知、と述べた。

理由

一、被控訴人の本案前の抗弁について、

被控訴人は本件昭和二七事業年度の所得金額の再更正処分中三九六万七八〇〇円の範囲については出訴期間経過により訴が不適法である旨主張し、昭和二九年三月三一日に更正処分が、同年四月二九日再調査請求(審査請求とみなされた)が、昭和三〇年一一月二五日棄却決定が各なされたことは当事者間に争いがなく、本訴が昭和三二年八月一六日提起されたことは本件記録により明らかであるから、行政事件訴訟特例法五条第三項本文、第四項による一年の出訴期間を経過していることとなる。

しかし、本件においては前記棄却決定前の昭和三〇年七月三〇日に本件再更正処分がなされているというのであるから、これにより更正処分は消滅に帰したものと解すべきであり(最高裁判所昭和三二年九月一九日第一小法廷判決参照)、その後の更正処分に対する審査請求の棄却決定は効力がないものであるから、これが有効なことを前提とする被控訴人の抗弁は理由がない。

二、控訴人が青色申告の承認を受けている酒造業会社であること、昭和二七事業年度および昭和二八事業年度に関する法人税の確定申告、更正、再更正の経緯については控訴人主張のとおり当事者間に争いがない。

三、控訴人は右再更正、更正の通知書に理由の記載がなかつたから違法であるというが、青色申告書提出承認取消事由の有無の部分を除き、この点に関する当裁判所の判断は原審と同一であるから、これ(原判決二〇枚目裏三行から同二一枚目表七行まで。ただし二〇枚目裏三行にある「法人税法」の次に「(昭和二二年法律第二八号の旧法で、当時の条項による。以下特記しない限りは同様である)」を加える)を引用する。

四、次に被控訴人の青色申告承認取消処分につき、その理由の有無を判断することとなるが、控訴人の昭和二七事業年度における帳簿に清酒売上高および旅費として一八五三万四四一〇円五〇銭および一〇二万七九〇〇円(原判決別表(一)の(1)欄と別表(一)の(2)の(10)欄控訴人主張額)の記載があり、雑収入はないことになつている(同別表(一)の(5)欄の控訴人主張部分)ことは当事者間に明らかに争いがなく、被控訴人の主張するように右売上高に訴外江井ケ島酒造株式会社に対する売上分一一三万九三三二円訴外協和醗酵工業株式会社、同宝酒造株式会社、同三楽酒造株式会社から仕入れたアルコールに対する歩戻り金一二万七〇〇〇円が各脱ろうし、旅費中四三万九〇〇〇円が架空であるかがこれに関する問題点である。

(1)  江井ケ島酒造に関する分

成立に争いない甲第一、二号証によれば、控訴人は江井ケ島酒造に本年度の間売渡した未納税清酒の代金額を四七四万〇八二三円としていることが認められるが、原審および当審証人高見壬寅の証言とこれにより成立の認められる乙第七号証の一ないし九によれば、右売買に際し、江井ケ島酒造は代金合計五八八万〇一五六円を支払い、その差額一一三万九三三二円(円未満の計算により数額が一円異る)はプレミアムの趣旨であり、領収書はプレミアムを除いた金額を記載し、プレミアム分についてはメモ程度の受領書を授受して、昭和二八事業年度に及んでいたことが認められる。

(2)  アルコール歩戻り金

原審証人藤井統の証言(一部)およびこれにより成立の認められる乙第一四号証の一、二(一は成立に争いがない)、原審証人田原広の証言およびこれにより成立の認められる乙第一五、一六号証、当審証人山崎正隆の証言によれば、控訴人は岡山酒造組合に属し、当時その組合員である他の酒造業者とともに、右組合を通じて、協和醗酵(広島営業所)から計二七石のアルコールを、宝酒造(防府と鞆工場)から計四五石のアルコールを買入れたこと、これらに対する歩戻し金として協和醗酵は昭和二七年六月三〇日に一四万五〇〇〇円(石当り五〇〇円、二九石分)、同年九月一五日から一一月三〇日までに追加金一四万五〇〇〇円を、宝酒造は昭和二八年七月二三日に九万八五〇〇円(石当り五〇〇円、一九七石分)を、右組合にまとめて支払つたこと、右組合はこれを組合事務所の建築費に充当し、控訴人ら組合員には配付しなかつたことが認められ、前掲藤井証言中右認定と相違する部分は信用できない。

被控訴人は宝酒造も歩戻し金として一石当一〇〇〇円を支払つている旨主張し、前掲乙第一五、一六号証によれば宝酒造が前記酒造組合に昭和二八年一二月二八日七万六五〇〇円(一五二石分、一石当五〇三円)を支払い、昭和三一年三月三一日一二万三七五〇円をアルコール四五石分のリベートとして組合員に対する清酒売掛金と相殺していることが、認められるが、同時に右七万六五〇〇円は薄謝(販売増進費)として処理せられており、かように処理せられたものとして別に昭和二八年一一月六日の支払金二万五五〇〇円があることが認められるので、右石数の計は一九七石となり、前段の支払分の石数と一致するが、処理方法、支払時期等からみて、昭和二七事業年度に、これを含む歩戻し金債権の発生があつたとまでみることはできない。

第一段認定の経過では、控訴人ら組合員が右歩戻し金を組合から受領していないけれども、この間の組合の措置を承認していたことが推認されるものであり、協和醗酵からの買受分二七石については石当り一〇〇〇円(被控訴人主張額)、宝酒造からの買受分四五石については石当り五〇〇円の計四万九五〇〇円は同年度の控訴人の収入とすべきものである。

前掲田原証人の証言により成立の認められる乙第一七号証の一、三およびこれにより成立の認められる同号証の二、四によれば、控訴人は三楽酒造(八代工場)から右年度中計五五石のアルコールを代金合計一三七万五〇〇〇円で買入れたが、一二六万五〇〇〇円だけ支払い、残金についてはリベート額が未決定であつたため不払のまゝ経過し、この事務を八代工場から引継いだ同会社福岡事務所で昭和三二酒造年度までの売掛金残を合した九〇万円について昭和三三年一二月三一日値引処理したこと、その間の控訴人と三楽酒造間の取引額計が約九五〇石であり、単価には相当の変動があることが認められる。

右経過では、控訴人の三楽酒造に対するリベート債権が石当り一〇〇〇円であり、昭和二七事業年度に確定していたものとするには足りず、他にこれを認めるだけの証拠はない。

(3)  旅費

原審証人矢部忍の証言により成立の認められる乙第九一号証の四、五によれば、被控訴人の指摘する旅費の内昭和二八年一月ないし三月中の分は藤沢喜久弥、その余は藤沢海太郎、藤沢保昌に関するものであることが認められ、右矢部証言により成立の認められる乙第三五、三六号証によれば藤沢喜久弥は昭和三九年三月三日岡山税務署員の調べに対し東京出張の際は中野駅前の旅館宝来家に宿泊する旨述べたこと、岡山税務署では右旅館所轄の中野税務署に対しその点についての調査を依頼し、中野署係員が調査した結果、藤沢海太郎は同旅館に宿泊してはいるが、時期が全く相違する旨の回答を得たことが認められ、前記出張の内東京分を認めるに足る証拠はない。

しかし、被控訴人指摘の旅費の内出張先九州分についてはこれが架空であることを認めるに足る証拠はなく、前記(2)第四段のとおり、当時控訴人は九州所在の三楽酒造とアルコールの取引があり、リベートについて折衝もあつたことでもあるから、九州へ出張することもあり得るものと考えられる。

以上の次第でこの点に関する被控訴人の主張事実は一部認められ、原審および当審証人藤沢保昌、当審証人藤沢喜久弥の各証言、原審および当審における控訴会社代表者藤沢海太郎本人の供述中以上の認定と相違する部分は信用しがたい。

そうすると、控訴人の以上認定の行為は法人税法二五条第七項第三号に該当すると認められるので被控訴人が控訴人につき青色申告書提出承認を取消したことは正当である。

五、したがつて、被控訴人が本件再更正および更正処分の各通知書に理由を付記しなかつたことは、法人税法三二条後段の反対解釈から、違法ではない、というべきである。

六、次に昭和二七事業年度における控訴人の課税標準算出のため、その基そ事実(原判決別表(一)、(一)の(1)、(2))の内当事者間で主張の相違する部分を順次検討する。

(1)  清酒売上高(前記別表(一)の内(1)欄)

江井ケ島酒造に対するプレミアム収入のあつたことは前記四、(1)認定のとおりである。

原審証人矢部忍の証言によれば、控訴会社の法人税に関し岡山税務署員が調査した際、控訴会社の藤沢喜久弥(監査役であることは当事者間に争いがない)との間で自家用酒(旧酒税法〔昭和一五年法律第三五号で、以下当時の条項による〕三四条ノ二第一項第一号、同法施行規則二一条ノ二第三項による)として株主五人につき一人五升当の範囲内である二斗が売上として脱漏している旨の話合があつたことが認められるが、当審証人藤沢保昌、同藤沢喜久弥の各証言と対比するとき、前記話合の存在だけで右事実の証明があつたとするには足りない。

(2)  雑収入(前記別表(一)の内(5)欄)

アルコール歩戻り金については前記四、(2)認定のとおりである。

家賃収入に関しては、当裁判所の判断も原審と同様これを否定すべきものと認めるので、原判決中当該部分(二五枚目裏から二六枚目表にわたる(2)欄。ただし、二六枚目表八行にある「法人税法三〇条一項」を「法人税法三一条の三第一項」と改める)を引用する。

(3)  期末製品棚卸高(前記別表(一)の(1)の内(5)欄)

この欄における差額は、期末における空びん四九〇〇本の評価額の差であることは当事者間に争いないがそれは、控訴人が戦前に購入し、使用していない古びん四九〇〇本を対象とし、被控訴人が現に清酒を入れたびん四九〇〇本の存在を主張していることから生じたことが窺われる。

当審証人中島清次の証言、これにより成立の認められる乙第九三号証の六(酒類製成及び移出高等申告書写と計算書)によると、昭和二八年九月末日に控訴人のびん詰場には清酒四七・八五三石のあること、控訴人の昭和二七事業年度のびんによる月別清酒移出高は六・六四〇石ないし八七・三二三石であることが認められ、右によれば、昭和二七事業年度末には商品として流通しうる一升びんが四九〇〇本以上あつたと推認することができる。

たな卸資産の評価方法については、法人税法九条の七、同法施行規則二〇条、二〇条の二の定めがあり、特段の事情のないときは、最終仕入原価法によるべきものであり、本件において右特段の事情の主張、立証はない。

弁論の全趣旨から成立の認められる乙第九八号証に原審証人矢部忍、同藤沢保昌の各証言によれば当時の一升びんの価格は一本三〇円以上していたことが認められ、これも棚卸高に計上すべきものと解するので、被控訴人の計算が正当というべきである。

控訴人は、この点につき、右空びんは控訴人が大多数終戦前に安価で買入れ、これを計上したものである旨主張し、原審および当審証人藤沢保昌、当審証人藤沢仲一の各証言、当審における控訴会社代表者藤沢海太郎の供述にはこれにそう部分があり、控訴会社にある空びんの中には左様な古いびんもあろうと推認されるが、これだけで前認定をくつがえすには足りない。

(4)  給料(前記別表(一)の(2)の内(1)欄)

控訴人が被控訴人主張のとおり役員に給料の追給、支給をしたことは当事者間に争いがない。

株式会社においては役員の報酬は、定款にその額の定めがない場合は、株主総会の決議で定めなければならない(商法二六九条、二八〇条)ところ、本件においては定款に定めのないことはその経過から明白であり、前掲乙第三五号証によれば、本件追給については控訴会社株主総会の決議がなかつたことが認められ、当審における控訴会社代表者藤沢海太郎の供述中この点に関する部分(甲第八号証にも関連)は信用しがたい。

控訴人は、右追給は賃金の性質をも有する、と主張し、前記乙第三五号証に原審証人矢部忍、原審および当審証人藤沢保昌、当審証人中島清次の各証言によれば、藤沢保昌および藤沢喜久弥は常勤であり、後者は監査役ではあるが事実上の代表取締役の業務も担当していること、控訴会社においては、繁忙な酒造期間を除き、従業員が一名いただけで、他はすべて右両名が使用人としての事務にも従事していたことが認められる。

したがつて右追給金額については賃金の意味も含まれているものと解せられる。この点につき被控訴人は法人税法施行規則一〇条の三をあげて、右両名が使用人兼務役員に該当しない旨主張しているが、右条項は昭和三四年政令第八六号により新設されたものであり、これをもつて前記判断を動かすことはできない。

そこで、被控訴人の、右追給が報酬に当らず、賞与とすべきである、とする主張はただちには採用できない。したがつて高額給料の主張を追給分と支給分とにつき一括して検討する。

控訴会社の当時の株式金額、藤沢海太郎ら株主四名の有する株式金額、その身分関係については当事者間に争いがないので、控訴会社は法人税法七条の二所定の同族会社ということになる。

原審証人矢部忍の証言とこれにより成立の認められる乙第七五号証の一、四、八、九、一一、第七六号証の一、二、四、第七九号証の一、二、第八〇号証の一、二、第八一号証の一ないし四、六ないし八、第八二号証の一ないし五、七、八、第八三号証の一、三、第八四号証の一ないし四、六、第八五号証の一、二、第八八号証の一、二および当審証人山崎正隆の証言を綜合すると、控訴会社と同程度(年間売上一〇〇〇万円以上、移出清酒石数三〇〇石以上)の岡山県下における酒造業同族会社におけるその当時の役員の平均給与額は常勤取締役中最高給者が約二万七〇〇〇円、次順位者が約一万八〇〇〇円、非常勤取締役中最高給者が約七〇〇〇円であること、藤沢忠雄は控訴会社の非常勤取締役として、玉島市(当時)における事業にも従つていることから、毎年一月から三月までの酒造期間中だけ控訴会社に勤務していること、岡山県下の酒造業同族会社においては役員も従業員として勤務するのが一般であることが認められる。

そうすると、控訴人が定めた給与の内保昌については月額二万五〇〇〇円、喜久弥については同三万円、忠雄については勤務する三か月間につき月額一万円の給与が相当であり、被控訴人がこれを越える給与を、同族会社の行為で法人税の負担を不当に減少するものとして、否認することは正当であり、追給額についてはその内四二万二〇〇〇円が給料については内二九万四四〇〇円が否認されるべき額になる。

(5)  酒税(前記別表(一)の(2)の内(9)欄)

成立に争いない乙第三〇号証、当審証人藤沢保昌の証言とこれにより真正に成立したと認められる乙第二九号証によれば、当事者双方の主張差額一九万六〇四〇円は控訴人が返品を受けた清酒に関するもので、現実には納付されたものではなく、酒税還付金をもつて充当したことが認められる。

そうすると、右還付金を益金に計上した事実の認められない本件では、右金額は酒税額として計上すべきものではない。

(6)  旅費(前記別表(一)の(2)の内(10)欄)

この点については前記四(3)に認定のとおりである。

以上の次第で、控訴人の昭和二七事業年度の所得額は右認定額に当事者間に争いない数額を加減等して計算するとき、四六三万七一五二円二三銭になる(計算内容は別紙計算表のとおりである)。

原審および当審証人藤沢保昌、当審証人藤沢喜久弥の各証言ならびに原審および当審における控訴会社代表者藤沢海太郎の供述中以上の認定に反する部分は採用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

七、昭和二八事業年度における控訴人の課税標準算出のためその基そ事実(原判決別表(二)、(2)の(1)、(2))の内当事者間で主張が相違する部分を順次検討する。

(1)  清酒売上高(前記別表(二)の内(1)欄)

原審証人伊藤修二の証言およびこれにより成立の認められる乙第八号証の一、二、原審証人平野新市の証言およびこれにより成立の認められる乙第九号証の一、二、原審証人臼田愈の証言およびこれにより成立の認められる乙第一〇号証の一、二、原審証人高木茂、同日置善助、同原韶の各証言およびこれらにより成立の認められる乙第一一ないし第一三号証によれば、控訴人が昭和二八年一二月中平野醸造合資会社に清酒計九五・八三〇石を代金計二二五万五四〇九円で、合資会社平野本店に清酒計七〇・一〇八石を代金合計一六七万三九〇二円で各販売(未納税移出)したものにつき、それぞれ代金額を一八六万四六八一円および一三八万八〇四四円だけ記帳し、その差額(プレミアム)三九万〇七二八円および二八万五八五八円を計算していないことが認められる。

被控訴人は、プレミアム額が前者は三九万六一五三円、後者は二八万〇四三二円である、と主張し、乙第五号証(平野醸造らを管轄する郡上税務署長の、被控訴人の照会に対する回答書)にはその旨の記載があるが、数額の根拠が明白でないので、採用できない。

前掲甲第一号証、乙第七号証の一ないし九と成立に争いない甲第三号証ならびに原審および当審証人高見壬寅の証言によれば、控訴人は本年度の江井ケ島酒造株式会社に売渡した未納税清酒の代金額を九八六万四五五二円としているが、江井ケ島酒造は右売買に際し代金合計一一四八万七五六八円を支払い、その差額(プレミアム)一六二万三〇一六円が脱落していることが認められる。

控訴人が三重酒類販売株式会社(津支店)に二級酒二四石を八六万一六〇〇円で売却したが、当期の売上に計上していないことは当事者間に争いがない。

この点につき控訴人は右清酒を在庫品に計上しているというが、その確証はない。

(2)  前期末棚卸否認額、製造経費および減価償却費(前記別表(二)の(1)の内(2)欄および(5)欄と同(二)の(2)の内(4)欄)

前期末棚卸否認額については前年度に関して判断したこと(六(3))から当然結果するものであり、その他は控訴人の利益に帰するところを被控訴人が自認するものである。

以上の次第で、控訴人の昭和二八事業年度の所得額は右認定額に当事者間に争いない数額を加減等して計算するとき、七四三万三三二一円二七銭になる(計算内容は別紙計算表のとおりである)。

原審および当審証人藤沢保昌、当審証人藤沢喜久弥の各証言ならびに原審および当審における控訴会社代表者藤沢海太郎の供述中以上の認定に反する部分は信用しがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

八、そうすると被控訴人のした本件再更正は、控訴人の所得額を過大に認定していることとなるので、六に認定した額の範囲では正当であるが、これを越える部分は違法として取消を免れないことになり本件更正処分は七認定額以下であるから正当ということになる。

したがつて、控訴人の本訴請求は右範囲に限り認容し、その他は棄却すべきところ、原判決はこれと相違するので右趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 辻川利正 裁判官 永岡正毅 裁判官 熊谷絢子)

計算表

<省略>

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