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広島高等裁判所岡山支部 昭和44年(ネ)116号 判決 1974年9月18日

控訴人・附帯控訴人

三真興業株式会社

右訴訟代理人

河原太郎

外二名

被控訴人・附帯控訴人

大野清延

右訴訟代理人

井藤勝義

外一名

主文

一、控訴人の本件控訴を棄却する。

二、控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金三九四万四、〇八四円に対する昭和四八年八月二一日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三、当審における訴訟費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

四、この判決第二項は、仮りに執行することができる。

事実

<前略>

三、控訴人の抗弁

1  仮に被控訴人の本件賃料増額の意思表示が有効であるとしても、被控訴人がした賃料支払の催告は過大催告であり、かつ請求額全部の提供がない限り被控訴人はこれを受領しないことが明らかな特段の事情があつたものであるから、右催告は無効である。

前記のように本件賃料は毎年六月末と一二月末の二回払いであるから、昭和三九年一〇月になされた前記催告には未だ弁済期の到来しない同年七、八、九月分の賃料が含まれており、また被控訴人の請求額は当時の適正賃料を大幅に上廻るものであつた。そして被控訴人は当時控訴人所有家屋の管理人であつた渡辺熊雄に対し本件賃料増額につき坪二〇〇円以下では話し合いの余地はない旨言明し、前記増額賃料を固執する態度を示していたところからすれば、その半額にも足りない適正賃料(原審の認定によれば坪八三円)を控訴人が提供したとしても被控訴人はその受領を拒絶することは明らかであつたというべきである。

<後略>

理由

一原判決添付目録(一)記載の土地(以下は本件土地という)は被控訴人の所有で、これを古くから控訴人に賃貸し控訴人は同地上に同目録(二)記載の建物を所有し、本件土地を占有していること、その賃料は昭和三九年三月当時坪当り月額二一円であつたこと、被控訴人が昭和三九年四月一日到達の内容証明郵便で控訴人に対し本件賃料を月額七万〇、六一〇円(坪当り月額二〇〇円)に増額する旨通知し、次いで同年一〇月二一日到達の書面を以て賃料の支払い催告をなしたのち、催告期間内にその支払がなかつたので同月二七日付翌二八日到達の書面で本件賃貸借契約を解除する旨意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

二本件賃料の支払期、その方法につき、被控訴人は毎月未払いで持参支払いの約であると主張するのに対し、控訴人は原審でのその旨の自白を撤回し、年二回の後払いで且つ取立債務の約であると抗弁するので、先ずこの点について判断する。

<中略=結局、控訴人の右自白の撤回は許されないとする>

三次に被控訴人の為した本件賃料増額請求を認容すべきこと並びにその適正賃料の程度、範囲については、当裁判所も原判決の示すところの理由と同様に考えるので、ここに右理由記載部分(原判決五枚目表九行目から六枚目裏一〇行目迄)を引用する。

従つて被控訴人の右増額請求の意思表示が控訴人に到達した翌日の昭和三九年四月二日以降本件土地の賃料は坪当り八三円(月支払額二万九、三〇三円)に値上げされたものというべきである。

四そこで次に契約解除の効力について検討する。

1  控訴人は被控訴人のなした本件催告は、適正賃料を上廻わる過大催告であつて、且つ請求額全部の提供がない以上本件賃料を受領しないことが明らかな特段の事情があるから催告は無効であるという。そして、当審における渡辺熊雄の供述中に、控訴人の指摘する趣旨の供述部分のあることが認められるが、他方被控訴人は当審本人尋問において「金が欲しい時期でもあり、それより安い賃料を持つてきても内金として受取るつもりであつた。」と述べており、未だ右証言のみをもつて直ちに控訴人が主張するように請求額全額の提供がない以上催告にかかる賃料を受領しないことが明らかであつたと断定するに足らず、他に右特段の事情あることを認めるに足る的確な証拠はない。

そして本件催告が適正賃料の約二、四倍程度であつた点を勘案すれば、その程度の過大催告の故を以つてその効力を全部否定すべきでなく、本来の適正賃料の範囲では有効なものと解するのが相当で、控訴人の右主張は採用することができない。

2  控訴人は前記乙第八号証の回答書をもつて本件賃料を口頭により提供したから遅滞の責を負わないと主張する。しかし同書面は控訴人は被控訴人の一方的な賃料の値上には応じられないから協議のため来社せられたいとの趣旨を述べた上その末尾に「常識ある地代ならいつでも支払う。」旨記載したものであり、支払金額も確定されていないのであるから支払の準備をなしたことを通知したものとはいえず、これをもつて口頭の提供をしたものとみることは困難である。のみならず、前述のとおり本件賃料は取立債務でもなく、また被控訴人において予め本件賃料の受領を拒絶をした場合にも当らないのであるから、いずれにしても控訴人の右主張は採用できない。

その他本件賃料が毎年六月と一二月の後払いによる取立債務であることを前提とする控訴人の主張はいずれも理由がないことは前に認定したところより明らかであるから、これを採用しない。<以下、省略>

(渡辺忠之 山下進 篠森真之)

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