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広島高等裁判所岡山支部 昭和49年(う)35号 判決 1974年9月24日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役八月に処する。

理由

本件控訴の趣意は、記録編綴の弁護人浦部信児名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する検察官の答弁は、記録編綴の検察官井阪米造名義の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

論旨は、要するに、原判決の量刑不当を主張するものである。

論旨に対する判断に先立ち職権をもつて原判決の法令の適用につき調査するに、原判決は、被告人の原判示第一の所為中、酒に酔つて正常な運転をすることが困難な状態で普通乗用自動車を運転した点と、運転技術未熟、かつ、右酒酔い状態のまま右自動車の運転を開始した重大な過失により上野山文男ほか二名に傷害を負わせた点とは、一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるとして、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として最も重い上野山文男に対する重過失傷害罪の刑で処断することとし、更に、原判示第一の罪及びこれと同一機会に犯した原判示第二の無免許運転の罪とは、同法四五条前段の併合罪であるとして、同法四七条本文、一〇条、四七条但書を各適用していること、原判決書に徴し明らかである。しかし、刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価しうる場合をいうものと解すべきところ、これを本件についてみてみるに、自動車を運転する行為は、その形態が通常、時間的継続と場所的移動とを伴うものであるのに対し、その運転行為中において人身事故を発生させる行為は、その間における一時点一場所における事象であつて、前記自然的観察からすれば、両者は、酒に酔つた状態で運転したことが事故を惹起した過失の内容をなすものかどうかにかかわりなく、社会的見解上別個のものと評価すべきである。しからば本件酒酔い運転の罪とその運転中に惹起された重過失傷害の罪とは刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものと解するのが相当であり、原判決のこの点に関する法令の適用には誤りがあるというべきである。また、被告人が本件自動車を運転するに際し、無免許で、かつ、酒に酔つた状態にあつたことは、いずれも車両運転者の属性にすぎないから、被告人が無免許で、かつ、酒に酔つた状態で自動車を運転したことは、前同様の見地に立つてみた場合、一個の行為であつて、それが道路交通法一一八条一項一号、六四条及び同法一一七条の二第一号、六五条一項の各罪の同時に該当するものであるから、右両罪は刑法五四条一項前段の観念的競合の関係にあるものと解するのが相当であり、原判決は、右両罪を右のような関係にあるものとして処理していない点においても法令の適用を誤つている。そして、以上の誤りは判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、この点において原判決は破棄を免れない。

よつて、弁護人の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において直ちに次のとおり判決する。

原判決認定の事実に法令を適用するに、被告人の原判示第一の各所為中、上野山文男ほか二名に対する各重過失傷害の所為はいずれも刑法二一一条後段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、酒酔い運転の所為は道路交通法一一七条の二第一号、六五条一項に、原判示第二の所為は同法一一八条一項一号、六四条に該当するところ、右各重過失傷害の所為は一個の行為で三個の罪名に触れる場合であり、酒酔い運転の所為と無免許運転の所為は一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、それぞれ刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として前者については犯情最も重いと認める上野山文男に対する重過失傷害罪の刑で、後者については刑の重い酒酔い運転の罪の刑で各処断することとし、右各罪については、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、原判示の累犯前科があるので同法五六条一項、五七条により右各罪の刑に再犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により刑の重い右重過失傷害罪の刑に同法四七条但書の制限に従い法定の加重をした刑期範囲内で後記量刑事情を考慮して被告人を懲役八月に処し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項但書を適用していずれも被告人に負担させないこととする。

(量刑事情)

本件は無免許、かつ、酒に酔つて普通乗用自動車を運転し、三名の者に加療約二ヶ月ないし六ヶ月の重傷を負わせた極めて悪質な事案であることに加え、被告人には原判決掲記の累犯前科を含む前科三犯があること、その他被告人の年齢、経歴、性行、境遇等に照らすと、本件被害者らはいわゆる好意同乗者であること、被害者らとの間においていずれも示談が成立し、特に上野山文男に対し支払うべき示談金七〇万円については契約どおり毎月分割支払いがなされていること等被告人に有利と思われる一切の事情を考慮しても原判決程度の量刑はやむをえないものと認められ、当審の事実調の結果によつても右結論を変更すべきほどの事情は見当らない。

よつて、主文のとおり判決する。

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