大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和50年(ラ)16号 決定 1976年11月30日

抗告人 森武雄(仮名)

相手方 森常治(仮名) 外四名

主文

原審判を次のように変更する。

一  被相続人森佐一郎の遺産を次のとおり分割する。

(1)  別紙目録<省略>番号1の土地の三分の一の共有持分権、同2、7、9、10の各土地、同6の土地の二分の一の共有持分権、同18土地と同19建物の二分の一の共有持分権はいずれも相手方森喜美代の取得とする。

(2)  同1の土地の三分の一の共有持分権、同3、4、5の土地及び同11ないし17の各土地はいずれも抗告人の取得とする。

(3)  同1の土地の三分の一の共有持分権及び同6の土地の二分の一の共有持分権を相手方森常治の取得とする。

(4)  同8の土地を抗告人、相手方森喜美代、同森常治ら三名の持分権平等の共有とする。

二  本件手続費用中、原審鑑定人大村健一、当審鑑定人大塚秀治郎に支給した合計金四五万〇、〇〇〇円はこれを三分し、各その三分の一を抗告人、相手方森喜美代、同森常治各自の負担とする。

理由

(抗告人の抗告の趣旨及び理由)

抗告人の抗告の趣旨は「原審判を取消す。原審判添付の目録記載の不動産について適正な遺産分割の裁判を求める。」というにあり、その理由とするところの要旨は次のとおりである。

一  原審判がその基礎とした相続財産の鑑定評価は極めて不当である。即ち原審大村鑑定の不当はその全面にわたるが、その重要なもののみについてみるも

(1)  別紙目録<省略>番号1の土地(以下単に1土地と略称する)は県道岡山港線の○○交差点から岡山空港に至る県道××○○線に接した広大な長方形の土地でこれを坪当り一一万円と評価されたが、2、13の土地の各一二万円、又県道から離れた16、5、14の土地の各一一万円等に比べて不当に低廉である。

(2)  反面右5、16の土地の各一一万円は、前記1の土地の一一万円との均衡上明らかに高きに失する。

(3)  13、14の土地はそれぞれ一二万円、一一万円と評価されたが、実際にはL字型且つ狭小の使用価値の極めて乏しい土地であつて、不当に高価である。

(4)  8の土地は九万円と評価されたが、以前からその土地上に日蓮宗の石碑(檀家の所有物)が建立されていて使用できない。

(5)  3、4、15の各土地は現況は排水不能のザブ田で周囲から生活排水が流入して汚染され農耕に不適当である。

二  原審判の分割方法は不当である。

(1)  1の土地を抗告人・相手方ら三名の平等の持分割合とする共有取得としたが、しかし三、〇七二m2もの広大な土地でありその地積、地形からするも又三名共その取得を希望して共有を欲していないのであるから、単独取得とするか又は分割取得させるべきであり、これを反対にすべき特別事情がないのに、将来に紛争を残す共有の方法を採つたことは紛糾の抜本的解決を図るべき遺産分割の方法として失当である。

(2)  11の土地を相手方森常治、12の土地を抗告人の各取得としたが、右両地は元一筆の土地から分筆され、法務局備付の公図等にも両地の区分が全く明らかでなく、右両地は一人の特定相続人に取得させるか、又は区分を明確にした上でそれぞれに取得させるべきである。

(3)  13、14の両地は相手方森喜美代が管理してきたが、現在隣地の長谷川保との間に境界紛争を生じているので、その解決の適任者である同相手方にこれを取得させるべきである。

(4)  3、4、8、15の各土地は相手方喜美代の居住する18、19の家屋敷(森家の本家)にいずれも隣接しており、その管理耕作に便であるから(尤も抗告人は最近二年間のみ同相手方より依頼されてこれを耕作したに過ぎない)これらは全部同相手方に取得させるべきである。

(当裁判所の判断)

一  被相続人森佐一郎が死亡し遺産相続が開始したこと、相続人及び各自の法定相続分、相続開始時における遺産の範囲(原審判添付の第1目録)及びその価額、相手方森常治の特別受益額、相続人の一人であつた亡森耕三は相続分を抗告人と相手方森常治に譲渡し、耕三の相続人である森恵子、同智子、同順子らには相続分はないこと、以上をもとに算出した各人の具体的相続分並びに分割審判時の配分比率、各人の生活状態、分割に対する希望については、原審判理由第一ないし第六記載のとおりであるからいずれもこれを引用する(但し原審判五枚目表四行目の「第3の土地」を「第3の3の土地」と訂正する)。

二  抗告人は原審の鑑定評価並びに分割の方法は不当であると主張するので検討するに、当審鑑定人大塚秀次郎の鑑定結果及び抗告人に対する審問の結果によれば、本件相続財産の範囲及び昭和五一年八月現在のその評価額は本決定末尾目録記載のとおりであると認められる(これに対し原審における大村鑑定は理論的な根拠、理由付けにやや劣り、殊に各土地毎の較差、性質、特殊性に着目した説明に欠け、大塚鑑定がその点について詳細且つ具体的説明を加え、更に宅地の鑑定方式に(イ)原価法、(ロ)収益還元法、(ハ)取引事例比較法の三方式あるうち、大塚鑑定は右最後の(ハ)方式を中心に、他の方式をも加味参酌していて合理性を有すること等より十分措信するに足り、これに反する限りにおいて前記大村鑑定結果は採用し得ない。)。

即ち

原審判添付第1目録中の番号6、11、12の各土地はその後仮換地指定を受け本決定目録のとおりの地積に変更され、又抗告人の審問結果によれば、同目録8の土地上には以前から日蓮上人供養碑が建立されて同講中の者によつて永年使用され、これがため所有権者の使用収益は事実上妨げられていること、13、14の土地は相手方森喜美代が管理して、これの一部を長谷川保に貸し、最近その返還を受けたが、長谷川との間に境界争を生じている上、同土地は農耕に不向きで誰も耕作しないまま放置されていること、従つて以上三筆については他の土地と比較してもなお割高に評価されているので、大塚鑑定より約三割程度を減じて別紙目録<省略>評価額欄記載の金額をもつて相当な価額と認定すべきである。抗告人のこの点に関する所論は一部理由がある。しかし、その余の土地の評価について抗告人の主張するところは、抗告人の審問結果のみから直ちにこれを肯認するには足らず採るを得ない。

三  以上によれば、審判時における遺産の総額は、三億四、四五一万五、〇一〇円となり、この額を前示具体的相続分を基礎とする配分比率によつて配分すれば、抗告人、相手方森喜美代については、各一億四、七六四万八、七九七円、相手方森常治が四、九二一万七、四一四円となる(円位未満切捨)。

そこで、原審判引用にかかる前記認定の遺産に属する物件の種類、性質、利用状況、住居との位置関係、その他諸般の事情並びに抗告人の主張、審問の結果をも斟酌すれば、次のとおり分割するのが相当である。

別紙目録<省略>1の土地の三分の一持分、同2、7、9、10の各土地6の土地の二分の一の持分、18、19の各土地建物の二分の一の持分はいずれも相手方森喜美代の取得(合計評価額一億四、二一〇万五、〇九三円)とし、同目録1の土地の三分の一持分、同3、4、5、11ないし17の各土地をいずれも抗告人の取得(合計評価額一億三、四四九万七、〇八三円)とし、同目録1の土地の三分の一の持分、同6の土地の二分の一の持分を相手方森常治の取得(合計評価額六、七九一万二、八三三円)とし、同目録8の土地はこれを抗告人、相手方森喜美代、同森常治三名の平等の持分権ある共有とする(抗告人の審問結果(当審)によれば8の土地は前記認定の如き事情があるので同人自身はいずれ日蓮宗の講に寄進する等して処分するほかないと考えており、他の相続人にとつてもこれに反する意思があるとは認められず、そうだとすれば現段階においてこれを或る特定人に単独取得させるよりも三名の共有としておく方がより相当といえる)。

ところで、厳密に各物件の評価額を対比するとき右相続人三名間で若干不均衡を生じ前記配分比率からすれば相手方森常治に幾分の取得超過(反面抗告人につき不足)を来たす結果となるけれども、原審における調査官の調査の結果によれば、抗告人は長男であるにも拘らず、被相続人たる亡父佐一郎と不仲になり昭和二二年に家を出て、女手のみで、人手不足に困つている生家(被相続人、その死後は相手方喜美代)に全然加勢援助しなかつたのみか、二度にわたり母や弟らを相手に訴訟を提起するなど抗争的態度をとつていたのにひきかえ、相手方常治は被相続人の信頼厚く終始その農耕作業を手伝い、もつて相続財産の維持増大に多大の寄与貢献をなしたことが認められること、更に抗告人は昭和二七年被相続人から農地九反余を有償取得したとされてはいるものの(その旨の確定判決がある)その支払つた代金は当時としてもいうに足りない程の極めて少額で、実質的に見ると後記常治の場合の生前贈与とさして差異はなく、その点相手方常治が分家の際被相続人から田二反五畝を贈与され、これが特別受益として三五六万円にも評価され固有の相続分なしと取扱われ、極端に不利益を蒙つたのと対比して、両者は余りにも公平を欠いていること、以上認定の事実及び事情を斟酌すれば本件においては、民法九〇六条にいう其の他一切の事情として、三者間において調整金ないし清算金の授受を命じないのを相当とする。

よつて相続人各自の取得を右のとおりとするのを相当とするので、これと異る原審判を変更して主文のとおり分割するものとし、手続費用の負担につき家事審判法七条、非訟事件手続法二七条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 加藤宏 判事 山下進 篠森眞之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例