広島高等裁判所岡山支部 昭和52年(う)96号 判決 1978年1月27日
被告会社本店の所在地
岡山県備前市西片上五一番地の六
被告会社の名称
高田窯業株式会社
右代表者の住居、氏名
岡山県備前市浦伊部九七三番地の二
高田稔
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五二年八月一六日岡山地方裁判所が言渡した判決に対し、原審弁護人井上健三から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は検察官杉本欽也出席のうえ審理をして、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、記録編綴の弁護人井上健三名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
論旨は、要するに、被告会社を罰金三〇〇万円に処した原判決の量刑は不当に重過ぎるから、破棄のうえ、減額されたい、というのである。
よって記録を精査し、当審の事実調の結果をも参酌して検討するに、本件は、被告会社の原判示事業年度における所得金額は、六、〇六〇万六、七一三円で、その法人税額は、二、一四八万二、二〇〇円であるにもかかわらず、右事業年度における所得金額は、一、八二二万八、一五四円で、その法人税額は、五九九万七、〇〇〇円である旨の虚偽の申告をなし、不正の行為により法人税一、五四八万五、二〇〇円を逋脱したという事犯であるところ、右に見られるとおり本件で申告された所得金額は、実所得金額の約三〇パーセント、同じく法人税額は、正規のそれの約二八パーセントに過ぎず、逋脱額、逋脱率は相当高額、高率であること、犯行の方法は被告会社代表者が会社幹部に指示して、いわゆる売上除外、架空仕入、架空経費の計上等をなさしめ、これによって得た裏資金を仮名の裏預金等にして所得の一部を秘匿したものであって、計画的、かつ、悪質であること、その他記録上認められる諸般の情状に照らすと、本件犯行の動機が被告会社の苦境時に備えての備蓄にあったこと、現在被告会社の経理の悪化が相当深刻化していること等所論指摘の点を含む被告会社に有利と思われる一切の事情(なお、所論は他の同種事業の判決例との比較を言うが、他の量刑資料となるべき諸要素をも考慮しないで、単に逋脱額のみから直ちにその各量刑の権衡を論ずるのは適当ではない。)を考慮に入れても、原判決の量刑が破棄しなければならないほど不当に重きに失するものとは言えず、当審の事実調の結果によっても右結論は左右されない。
なお、原判決書の証拠の標目欄に「‥‥‥五一・一一・二〇付各‥‥‥」とある(三丁表六、七行目)のは、「‥‥‥五一・一一・二〇付(二通)各‥‥‥」の、「‥‥‥五一・一二・一付‥‥‥」とある(同じく八行目)のは、「‥‥‥五一・一二・一付(二通)‥‥‥」のそれぞれ誤記と認められる。
よって、刑事訴訟法三九条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 久安弘一 裁判官 大野孝英 裁判官 山田真也)
○ 昭和五二年(う)第九六号
控訴趣意書
被告人 高田窯業株式会社
右の者に対する法人税法違反被告事件の控訴趣意は次のとおりである。
昭和五二年一一月七日
弁護人 井上健三
広島高等裁判所
岡山支部御中
記
第一、刑の量定が不当である。
(一) 被告会社の経理悪化が深刻化している。
被告会社は従来堅実な経営を維持してきたのであるが、不況が深刻な社会問題化してきた昭和五一年度決算においては、
決算調整により名目約五五〇万円の利益を計上したが、前期損益修正益を差引くと、実質損益は約三三〇万円の赤字となり、在庫品評価調整損、回収不能債権を含めると実質欠損は実に一、八五〇万円にのぼっている。
然も本年度上半期(昭和五二年三月~八月)の中間決算は、被告会社がいわゆる構造的不況業種に属するとはいえ、既に経常損益で実に一、三〇〇万円以上の欠損の計上を余儀なくされており、被告会社としては創業以来の苦境に陥ち入っている。
周知のように、被告会社の属する窯業界は鉄鋼業界の好不況の波を直接かぶる業種であり、世界に冠たる我国の鉄鋼業界が今やその生命ともいうべき高炉の火をひとつ、ふたつと消している状況の中で、零細業者の多い備前市の耐火レンガ業界の中で最も零細に属する被告会社がいかに経営合理化に努力したとしてみても、おのずから限界というべきものがあり、先行に明るさがみえない現在と将来において被告会社が生きのびて行くことだけでも容易ではない。
斯界大手メーカーである大阪窯業の倒産が全国紙に大きく報じられる環境の中で、被告会社がかかる事態に備えて本件脱税により備蓄を図ったことは第一審の審理で明らかにされているが、考えようによっては弱者の自己防衛のあらわれであり、誠に無理からぬ気持を伺い知ることができる。
ともあれ右に述べた状況下において被告会社に対する罰金額の多寡は、極言すれば被告会社の死活、被告会社において働く数十名の従業員の生活問題にも影響してくるという現在の事態を考える時、罰金三〇〇万円の第一審判決は不当に高すぎるという感を免れがたい。
(二) 同種事案との量刑のバランスを失している。
因みに岡山地方裁判所で昭和五〇年以降同種事案の判決例をみてみると、次の三例の記録がある。
1 昭和五〇年五月二日宣告(昭和四三年(わ)第四一三号)
逋脱税 一五、三三八、七一〇円
罰金 二〇〇万円
2 昭和五〇年七月三一日宣告(昭和四五年(わ)第三〇三号)
逋脱税 一二、七九三、四二〇円
罰金 二〇〇万円
3 昭和五一年四月一三日宣告(昭和四六年(わ)第六八〇号)
逋脱税 一〇、六〇〇、八〇〇円
罰金 二〇〇万円
右の判決例と対比してみるとき、右各事件における逋脱額は貨幣価値換算をなせば、本件被告会社逋脱額をいずれも上廻るものと評価できるが、そのいずれもが罰金二〇〇万円の量刑にとどめられているのである。
本件被告会社の犯行の動機、態様は第一審の審理で明らかにされているごとく決して悪質という言葉では表現できず、従って被告会社に対する罰金額は金二〇〇万円をこえる場合は量刑として相当とはいいがたく、右金額であればまたやむを得ないとしても、既述の情状により二〇〇万円から一〇万円でも二〇万円でも減額して頂きたいというのが被告会社の偽わざる気持であることを是非おくみとり頂くよう希望するものである。
以上