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広島高等裁判所松江支部 平成12年(ネ)19号 判決 2001年11月28日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  控訴人は,被控訴人らそれぞれに対し,各金395万6250円及びこれに対する昭和62年9月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを10分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分をいずれも取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  争点1(亡Aの死因〔急性心不全の原因はSEPか〕)について

当裁判所も,亡Aの死因は,SEP(硬化性被嚢性腹膜炎)が進行した結果,全身状態が悪化して,最終的には急性心不全により死亡したものと判断するが,その理由は,原判決中37頁10行目から47頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

2  争点2(本件腹膜炎のSEPに対する影響の有無)について

次のとおり加除訂正するほかは,原判決中49頁9行目から52頁10行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決中50頁10行目から11行目にかけての「発症又はその」及び同頁11行目の「(なお、」から51頁3行目の「ない。)」までをいずれも削除する。

(2)  原判決中51頁10行目から11行目にかけて「考えられる以上、」とあるを「考えられるうえ,」と改め,同11行目の「SEPの発症時期」から52頁2行目の「いえないこと、」までを削除する。

(3)  原判決中52頁6行目から10行目までを次のとおり改める。

「本件において,亡AにSEPが発症した時期を確定することは極めて困難ではあるが,前記認定の亡Aの症状経過及びSEPの症状からすると,本件腹膜炎がSEP発症の原因であるとまで認めることはできず,また,本件腹膜炎発症以前に亡AにSEPが発症していたことを否定することはできないから,本件腹膜炎はSEPの進行に影響を与えたことを認定しうるに止まる。」

3  争点3(本件腹膜炎の原因)について

当裁判所も,本件腹膜炎は,緑膿菌が,B医師の本件カテーテル処置の際に生じたカテーテル損傷部からカテーテル内腔に侵入し,さらに右処置直後の注入されたCAPD(持続的外来式腹膜透析)の透析液を介して亡Aの身体に侵入したことにより生じたものと判断するが,その理由は,原判決中53頁1行目から66頁6行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

4  争点4(本件カテーテル処置に関する過失の有無)について

当裁判所も,本件カテーテル処置において,B医師がカテーテルを損傷したことを過失であると判断するが,その理由は,原判決中66頁8行目から68頁3行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

5  争点5(本件腹膜炎の治療に関する過失の有無)について

当裁判所も,本件腹膜炎の治療に関し,昭和62年1月14日に至ってカテーテル抜去がなされたことは,それまでの症状経過からして,CAPD患者においてカテーテルを抜去するとその後CAPDを施行することが困難になることを考慮しても,なお遅きに過ぎたものといえ,この点においてB医師に過失が存すると判断するが,その理由は,原判決中68頁5行目から74頁2行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

6  争点6(本件カテーテル感染症の治療に関する過失の有無)について

原判決中77頁6行目の「(なお、」から10行目の「いえない。)」までを削除するほかは,原判決中74頁4行目から77頁10行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

7  争点7(争点4ないし6のいずれかの過失が認められる場合,その過失と亡Aの入院〔昭和61年11月20日以降〕及び死亡との因果関係の有無)について

次のとおり加除訂正するほかは,原判決中78頁2行目から79頁8行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決中78頁4行目に「本件過失と」とあるを「本件過失により発症し,遷延した本件腹膜炎が亡AのSEPの進行に影響を与えた限りにおいて,本件過失と」と改める。

(2)  原判決中79頁6行目に「発症又は進行の原因となったこと」とあるを「進行に影響を与えたこと」と改める。

(3)  原判決中79頁7行目の「算定に当たって」の次に「,亡Aの素因として」を加える。

8  争点8(控訴人の負担すべき損害の額)について

(1)  前記のとおりB医師は中央病院の勤務医であるから,同病院を設置して管理する控訴人は,B医師の使用者として,民法715条に基づく損害賠償責任がある。

(2)  損害額

ア 休業損害 150万円

証拠(被控訴人千里)及び弁論の全趣旨によれば,亡A(昭和32年5月17日生)は,本件腹膜炎のために入院する当時は,家業の電器商を被控訴人ら両親や2人の兄とともに営んでいたことが認められるが,その収入額を認めるに足りる的確な証拠はなく,亡Aの当時の症状経過等を考慮すると,その収入額は月額15万円と認めるのが相当であり,入院期間10か月間の休業損害は,150万円となる。

イ 死亡による逸失利益 1856万2500円

亡Aは,死亡当時30歳の男子であり,その収入額は前記認定のとおり月額15万円とするのが相当であるから(亡Aが,賃金センサスによる平均月収を取得し得た蓋然性を認めるに足りる証拠はない。),67歳までの37年間就労可能(新ホフマン係数20.625)とし,生活費控除率を50%として逸失利益の現価を算定すると,次の計算式のとおり1856万2500円となる。

15万円×12か月×(1-0.5)×20.625=1856万2500円

なお,亡Aの症状経過からして,就労可能年数は制限されるべきであるとの控訴人の主張には一応の合理性が認められるが,人の余命については軽々に判断し得ないものがあるのであり,前記の点は,後記の素因減額において考慮するのが相当である。

ウ 墳墓・葬祭費用 100万円

墳墓・葬祭費用は,100万円と認めるのが相当である。

エ 慰謝料 1500万円

本件に現れた諸般の事情を考慮すると,亡Aの死亡による慰謝料は合計1500万円と認めるのが相当である。

オ 以上を合計すると,3606万2500円となる。

(4)  素因減額(8割) 721万2500円

前記認定の亡Aの症状経過からすると,亡Aの死亡については,亡Aの素因が大きく関与しているものといわざるを得ないから,民法722条の類推により前記損害額からその8割を素因減額するのが,損害の公平分担という損害賠償制度の理念に適うものといえる(本件過失は,前記認定判断のとおり,本件腹膜炎の発症及び遷延の原因ではあるが,死因であるSEPについては,その進行に影響を与えたものと認定しうるにとどまる。)。

そこで,前記損害額3606万2500円からその8割を控除すると,721万2500円となる。

よって,被控訴人らが請求しうる損害額は,それぞれ360万6250円となる。

(3)  弁護士費用 各35万円

本件過失と相当因果関係の認められる弁護士費用は,本件訴訟の経緯等を考慮すると,被控訴人らそれぞれにつき35万円と認めるのが相当である。

9  よって,被控訴人らの請求は,各395万6250円及びこれに対する亡A死亡の日である昭和62年9月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なる原判決を,前記のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮本定雄 裁判官 吉波佳希 裁判官 植屋伸一)

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